第6話 「戦闘、そして」

 危険なダンジョンに挑む冒険者は、総じてチームを組んでいることが多い。それは生存率と冒険の効率を上げる為であり、互いに補い合うという利点があるからです。


 一概には言えませんが、ほとんどの冒険者はチームを組んでそれぞれのチーム名を名乗って活動しています。仲間を見つけることが出来なかった人見知りの新米冒険者や、特別な理由があって一人で活動している冒険者を除いて、チームを組むのは冒険者の暗黙の了解のようなものです。


 あ、勿論ハーディは前者ですよ? 彼はコミュ障がたたってこのダンジョンに単身挑んだ哀れなぼっちです。


 黒須くんとハーディの前に現れた、本格派冒険者チームは四人。フォーマンセルの基本的な構成です。


「こやつらどこか異常じゃ! 警戒を怠るな、トリー、デューカ!」


 ボーゼと呼ばれた野太い声を発した男は、背は低く太くて小さいがっしりとした体躯をしており、その体に合うように作られた軽装の鎧と、小型の盾と大きめの片手斧を備えています。


 チームでの役割は司令塔のようで、他の三人に素早く指示を出しています。


「アンデッドに似てる……でも全然雰囲気が違うな」


 トリーと呼ばれたのは若い青年の戦士。両手剣を構え、鉄と革を組み合わせた鎧に身を包んでいます。剣だけでなく、幾つかの種類の武器を持っていることから、彼の役割は遊撃でしょうか。


「初めて見るタイプのモンスターね、新種かしら……?」


 デューカはハスキーな声を持つ女性。黒いローブを纏い、目深にフードを被って、身の丈ほどの長杖を持った、典型的な魔術師の格好をしています。

 恐らく彼女が後方支援にあたる遠距離特化の冒険者なのでしょう。


 そして三人とは打って変わって異彩を放っている、この場に置いて圧倒的な存在感を出している人物。


「……何が相手でも関係ない、やることは一つ」


 その威容はまさに《紅蓮》、暗い洞窟内でも煌々と輝く深紅の鎧。燃えるように赤いそれを頭からつま先まで隙間なく纏いながらも、動きに何ら重さを感じさせるところがない。


 武器もまた深紅に染まっており、攻撃的な形状をした槍です。


「殲滅だ」

 

 狙いを定めるように突き出されたそれは、全てを貫きそうな威圧感を二人に与えてきます。


 統率の取れた動きで、何も言わずともそれぞれが役割に応じた適切な位置取りをし、黒須くん達との距離を保ちます。

 決して先手を取ろうとせず、戦況を見定めることの出来る冷静さ。


 それだけで、このチームの結束力と経験の豊富さが伝わってきました。


「やばいよやばいよ、これはすごく不味い空気だ。この人達完全に殺る気じゃないか……!」


「は、話し合えば解決できるよね! ね!? ハーディ!」


 一方即席ゾンビチームの二人は、初めて出会う本格的な戦闘力を持つ敵に、完全に浮足立っていました。


 それも仕方がありません。ハーディは地力があるとはいえ、実戦経験皆無の素人冒険者。黒須くんに至ってはそもそも、冒険者ですらないですから。


「それは……不可能だと思うかな。だって、ボクたちは、モンスターだからね、現状」


 彼等はこの時になってようやく理解しました。モンスターという『枠組み』であるということは、すなわち冒険者、ひいては人類の敵であるということを。


「ほう、仲間で会話ができるのか。知能は高いようじゃな。それに、なんとも不可思議な魔力も感じる……。ふん、しかし所詮はルートに現れる野良モンスターじゃ。まずは小手調べといこうかの! 仕掛けろ、トリー! デューカは攻撃魔法を!」


「「く、来るな――――!」」


 戦闘開始です。


 ボーゼの采配通り、両手剣を持つ戦士が二人との距離を一気に縮めてきます。

 彼が剣を振り上げると同時に、前に出た魔術師が詠唱を唱え終えました。


「――《灰輪かいりん》!」


「はあああっ!!」


「は、はやっ!?」


「ちょっと待ってって――!」


 魔術師の放った黒い光の輪がハーディを狙い、鋭い斬撃が黒須目がけて振り下ろされます。


「「うわぁぁぁああ゛あ゛あ゛!?」」


その時でした。


「!?」


「え?」


 攻撃を放った側であるはずの二人は、目を見開きました。

 二人に命令したボーゼも同様に。紅蓮の騎士も、甲冑の下で動揺した気配を見せます。


 それもそのはず。攻撃された黒須くんとハーディもまた、驚いていましたから。


「「ん゛?゛」」


 戦士の振り下ろしたロングソードは深々と、黒須くんの肩に食い込み、魔術師の放った魔法は、ハーディの右半身を一瞬で黒コゲにしました。


 そして、黒須くんは振り下ろされた剣を持つ左腕を、根本の肩から喰いちぎり、ハーディは半身から煙を上げたまま、魔術師に飛びかかり、そのローブを切り裂いて首筋に噛みついていました。


「ぐぅっ!?」


「ひっ、ぎゃあぁ!」


薄暗い洞窟内に二つの絶叫が迸り、そして響き渡りました。

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