第1話帰り道
荷台を引っ張る馬が草原の広がる道を走っている。
馬を操る眼鏡をかけた細い体つきの男。その隣に赤髪ショートヘアの少女が座っている。
少し不安げな表情で彼女は話し始めた。
「これで今月の商品は足りるかな?」
彼女らは外で商品を調達して売る、商人なのだからこういう心配はよくあることだ。
「足りなかったらまた取りに行けばいいよ」
気さくに笑いながら言いのける男に少女はまだ何かいいたげに口を開くが、やめた。代わりにそういう問題じゃないよ。と溢す。
「何か、いったか?」
「ううん。・・・それより、お父さん」
話を変えて、小さくため息を吐き、少女は後ろへと目をやる。
荷台で揺られ、運ばれていく食用品に紛れるように、ちぎれた布を羽織ったボサボサ頭の男はいる方に。
「お父さん、あの人本当に連れて帰るの」
日光避けのために被せられたカバーの先にいるであろう男の方に依然として目を向けつつ少女は馬の手綱を引く男に聞いた。
「そうだよ、リアナ」
「…そっか」
少女は、あの男の様子が気になると馬車を一度止めて、荷物と男がいる場所に移動した。
あの男は、隅のほうに小さくなって動く気配がない。少女は不気味に思うが、食用品の隙間に足をいれながら男へと近いて顔を覗いてみる。
情けなくよだれを垂らしている寝顔に警戒している自分が馬鹿らしく思えたのか、小さく笑いちょうど向かい合うように空いたスペースに座り込む。
「お父さんはお人好し過ぎるよ」
さっきは言えなかった気持ちをボツりと呟いた。
※ ※ ※ ※
忘却勇者 本田 陸 @Rikuhon
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