第四話 オレ、中二病は卒業しちまったんだけど……?

「なんとかしてくださいよー! 世界救ってださいよー!」


 奇跡的に獲得した休日。

 始発で家に帰り、ようやく床に就いたオレをたたき起こしたのは、ニートのやかましい声だった。

 オレ、つらい。

 とてもつらい。

 大声を出す元気もなく、枕に顔をうずめることで聞き流そうとするオレに、ニートは追撃のボイススマッシャーを放つ。


「お願いなのですよ、カミサマ! エンガーデンが無事じゃないと、ニートは怒られてしまうのです!」


 知ったことではない。

 勝手に怒られればいい。


「そうなったら、ニートはずっとここにいなくてはなりません!」


 ……あ?


「カミサマの世界は美味しいものも多いですし、てれび?も楽しいですから、あたし的には長居してもいいのですが、あ、かぷめん食べたいです! カミサマ、かぷめん作ってください!」

「……え、おまえ、オレが異世界なおさないと帰らないの?」

「え?」

「え?」

「帰らないというか……ずっと言っているとおり帰り方がわからないので……」

「まじか……」

「はい。でも、カミサマがエンガーデンを救ってくだされば、たぶん帰れます!」


 たぶんとか、根拠のないことを言い出すニート。

 とはいえ、いつまでもこいつにいられても困るわけで。

 仕方なく、オレは起きてニートの話を聞くことにした。


「で、具体的にはどーすればエンガーデンは救われるんだよ?」

「そもそも、どーしてカミサマはエンガーデンに災害を起こすんです?」

「起こしたくて起こしてるわけじゃないのだが」


 オレは眠ると異世界になる。

 そして、その日一日の間に体験したこと──例えば怪我や、体調不良が、異世界に反映されるのだ。

 で、あるならば、だ。


「体調を万全に保てば、少なくとも異世界が災害に見舞われることはない」

「おお!」

「だから、寝る。お休みー」

「ちょー!? カミサマー!!!」

「……なんだよ」


 ベッドに倒れ込んだところを、無理やりニートに引き起こされる。

 どう考えてもこれが最適解だろ。

 これ以上の正解があるものか。


「もっと、もっと他にあるはずです! あるってなもんです! 考えましょう、カミサマ一緒に!」

「えー」

「えーじゃなく!」


 どうもこのニート、一度言い出したら聞かないらしい。

 オレはため息をつき、今度こそ起床した。

 わずか数十秒の睡眠だった。


「楽しいことしましょ。きっとそれで、カミサマの荒ぶる魂が沈められるはずです」

「沈めてどうする……楽しいことなぁ……なにがある?」

「あれ、あたし、あれがやりたいです!」


 そう言って、ピョンピョン飛び跳ねながらニートが示すのは、テレビ。

 そして、黒い据え置きゲーム機。


「あたし、この前見ました。カミサマがこの、げーむ?とやらでぱずる?とか言う楽し気なものを遊んでいるのを!」

「ニート」

「はい!」


 元気よく返事をする、ロリエルフ。

 オレは、言った。


「つまり、おまえは遊びたいんだな?」

「はい!」


 無言でその頭をひっぱたいたのは言うまでもない。


 その後、オレたちは落ちもの系のゲームで遊ぶことになった。

 ぷ〇ぷ〇とかテ〇リスとか、そーゆーのだ。

 意外と呑み込みがいいニートは、順調に連鎖を繰り返していく。

 対してオレの画面には、次々にブロックがたまっていく。

 やがてニートは、調子に乗って高笑いを始めた。


「ふふ、ふは、あははははははは! 勝ちましたよ、あたしの勝ちです! これまでさんざんカミサマには冷遇されましたが、いまこそ必殺の、蛇王滅殺大連鎖で、カミサマに引導を渡すのです……!」

「なんだその中二病丸出しなネーミングは」


 ちなみにこのゲーム、技名などない。

 オレはクールぶりたい高二病タイプなので、その技名がないところが気に入ってこのゲームを購入したのだが、実はけっこうはまったくちである。

 会社から帰り眠りにつく。そのわずかな間に、結構遊んでいるのだ。

 だから──


「これで終わりです!」

「おまえがな」

「ぬあー!?」


 ……そう、このように大連鎖を返すことぐらい、造作もないのである。

 ユーウィンと表示されるオレの画面。

 ユーアールーザーと表示されるニートの画面。

 しばらく彼女はプルプル震えていたが。


「び、びえーん!!」


 やがて、大声で泣き始めた。

 まったく、やかましいにもほどがある。


§§


 結局、その日もエンガーデンは災害に見舞われていた。

 きっと寝不足が原因だろう。

 翌日、出社したオレは、偶然本目さんと出くわした。

 本目さんはなぜか、天井の蛍光灯を取り換えている最中だった。


「あ」

「あ!」


 お互いの目が合い、気まずく伏せられる。

 その瞬間、彼女が乗っていた脚立が揺れた。


「きゃ!?」

「危ない!」


 思わず飛び出し、オレはぎりぎりで本目さんを抱きとめる。

 本目さんは驚きに目を見開き。


「……っ」


 オレの手から逃れると、なにも言わずその場から立ち去ってしまった。


「…………」


 まったく。

 気が滅入る毎日だよ……

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