第3話 それでも俺はパンツ一丁だ。

 場が収まったのは、しばらく経ってからだった。

 姫様と呼ばれていた人物…《セルレア王国第一王女》のシルヴィ・セルレアによって俺の無実は証明され、俺を囲んでいた人達は次々に掃けていった。


 騎士と思わしき人々が遠ざかっていく中、初めて気がついたのだが……若干パンツが下がっていた。しかも、不自然に誰かに引っ張られたように。


 いやまあ、もしかしたら棒に絡まって誰かが引いた時にズレたのかも…とか思ったが………先程のホモが物足りなさそうにこちらを見ていたので、とりあえずその場では色々と考えるのはやめることにした。



 それから俺は、姫様の『我が王国に来てください』という一言により、セルレア王国へと招かれ、王国最大の城に連れてこられた訳だが――


「ふむ、お主がケイモスを一撃で倒したという……すまん、名前なんて言った?」

「えっと、小原シンです」

「ああ、そうそう。てか、ワシ今初めて聞いた?名前」

「そうですね…今初めて聞かれましたよ名前。異世界来てからという意味でも…」

「フォッフォッフォッ 何言ってるかよく分からんが変な名前だな フォッフォッフォッ」


 実に奇妙な…まるで冬にプレゼントを届けてくれる白ヒゲおじさんのような笑い方をする人物が、俺の目の前にはいた。


 黄金で作られていると思わしき高級な椅子に腰掛け、自らの白いヒゲを上から下へと撫でている。

 赤いマントを羽織り、頭に赤い王冠を被っているその容姿はまるで…。


「そういえばワシの名前を言っていなかったな。ワシは《セルレア王国国王》サンタ・セルレアじゃ」


 まんま!いや、見た目まんまの名前!

 冬に不法侵入して来るやつじゃん!

 てか、よくよく見たら足にトナカイの毛皮で作ったっぽい絨毯敷いてるし!



 と、まあ色々言いたいことはあるが…自己紹介を聞くに、国で一番の権力を誇っていそうなので、下手なことは言わないでおく。



「あのぉ〜…なんで俺……いや、僕はいきなり王様と謁見してるんですかね?姫様に案内されてつい来ちゃいましたが…」


 そう、俺は城に着くなり姫様に『父と会って欲しい』と言われ、状況を全く把握出来ずに王様と対面したのだ。

 パン一の件は解決した筈だが、何故俺は王様に呼び出されたんだろうか?


 ちなみに、解決したと言っても、俺の装備自体は未だパンツ一丁である。


「ああ、そうそう。……実は、我が国は今、深刻な問題を抱えていてな。ケイモスを一撃で倒したというお主に、是非とも協力をして貰いたい事があるんじゃ」

「問題…ですか?」


 何だろうか?異世界に来たことにより、俺のステータスはかなりアップしているようだが、あまりに怖い事には巻き込まないで欲しい。折角助かった命、無駄に捨てたくは無い。


「実はな…今から15時間後。千年封印によって、この王国の地層奥深くに封じ込められていた“終焉竜バハムート”が目を覚ましてしまうんじゃ…。残り15時間、それが千年封印が効力を発揮できる時間……。お主には封印から解き放たれたバハムートを…その手で討ってもらいたいんじゃ!」


 む…無理難題キター‼︎

 い、いや、ちょっと待ってよ、バハムートとか一番最後に出て来そうなボス魔獣的存在じゃん?

 聖剣で倒したりするやつじゃん?それをパンツ一丁の俺にどうしろと?


 心苦しいが、ここは丁重に断って――


「ちなみに、バハムート討伐の暁には我が娘、シルヴィとの結婚を許し、王位をお主に継承しよう」

「な、なん…ですと?」

「ワシも歳じゃ。そろそろ王位を誰かに譲らんといかん。しかしながら我が子はシルヴィただ1人。王国の平和を維持するには婿養子が必要なんじゃ。もし、お主がバハムートを倒せれば、お主を婿養子として我が城に迎え入れることを約束しよう」


 ま、マジか?マジで言ってるのか?

 あの完璧美少女の姫様との結婚⁈

 なんつー好条件!だが…。


「ひ、姫様が嫌かもしれませんし。俺はいついなくなるかも分からないような不安定な存在なんです。う、上手くは言えませんが……だから結婚とかは…」

「あ、大丈夫大丈夫。シルヴィの了承は取ったから。まあ、あと何だったら国民の前でキスとかしてくれたら後はコッチで上手くやるからさ〜。実力ある婿養子がこの国を継いだという事実が欲しいだけはなんだよね〜…じゃ」


 落書きみたいな顔でメッチャ適当に言う王様。

 てか、今『じゃ』を付け加えたぞ。この人キャラ不安定だなオイ。


 あまりの適当さに、俺は自分の頬に一筋の汗が流れるのが分かった。


 ――にしても………国民の前でキス…だと…?


 自慢では無いが、俺は清潔感溢れる汚れなき少年である。――つまりDT。


 もちろんキスもした事はない。

 ファーストキスはよく、思い出に残ると聞くが……もし、異世界で…更には国民が見守る中、超絶美人とファーストキスが出来たとしたら…!


「ふへっ…ふへへへ…」

「む?どうかしたか?」


 ――!おっとっと…危ない危ない。

 自分でも分かるくらいに頬が緩んでしまった。


 それにしてもそんな体験、滅多に出来るもんじゃ無いだろう……。出来たら何処へ行っても自慢出来る話だ!

 うん!1度死を覚悟したこの命!どうせならやれるだけやってみようじゃないか!


 意を決し、俺は自分の薄い胸板をドンッと叩く。


「分かりました!バハムート討伐!この俺に任せて下さい!」

「おおー!引き受けてくれるか!それは心強い!」


 満足気に手を叩き、立ち上がる王様。まあ、悪くないな。ファーストキスという思い出をどうにかして獲得し、パンツ一丁の最悪スタートを最高の思い出にしてやろうじゃないか!


 ――が、その前に。


「王様。バハムート討伐には全力を尽くす所存ですが、その前に……何か服を貰えませんか?」

「む?シルヴィから聞いた話では、その格好が強さの秘密なのだろう?ならばそのままで良いではないか。…それとも、まさか嘘を申したわけでは無かろうな?」


 あ、やばい、姫様一部始終話してる。おそらくだが、きっと姫様にパン一布教したのもバレとる…。


 ここで『嘘でしたー!てへぺろ』なんて言ったら……確実に極刑だ。

 石を投げられ、無様にパンツ一丁のまま国民の前で醜態を晒して死ぬことに…!


 さ、避けねば。それだけは阻止しなければ!


「う、嘘じゃ無いですよ!は、はい!服を着ないことにより、魔力がスムーズに回るといいますかね!ハイ!いや〜全然パンツ一丁のままでオッケーです!何だったら他の方々もパ、パン一どうすか⁈」


 あー‼︎何でまたパン一布教してんだ俺は――⁈


「ふむふむなるほど、そうなのか。それは効率的で良いかもしれんが…我が国の兵士達に真似させるのは酷かもしれんな…。うむ、お主だけは特別として、パン一のみの装備を許可する!思う存分その装備で城内を回るといい!」

「あ…あざま〜っ…す」


 王様直々にパンツ一丁装備を認めて貰えた訳だが…。


 全く嬉しくも何とも無く、ちょっと肌寒くなってきたと感じている俺は、肩を交差するように手で掴みながら、ただただ愛想笑いを浮かべるのだった。

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俺がパンツ一丁で異世界に転生した件について あんだんご @skuryu

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