第2話 やめて、そんな目で見ないで

 ああ、土って冷たいんだな。


 あれ?でもなんで土に埋まってるんだっけ?確か…マンモスみたいな化け物に踏みつけられて…釘みたいに地面に突き刺さって…いや、そんなことよりもっとインパクトあることがあったような…。


 化け物に踏みつけられるよりインパクトがあることなどそうそうないが、俺は必死に記憶を辿る。そして、ある1人の少女の言葉を思い出した――。



『きゃああああ‼︎いきなり現れたパんな一の変態がケイモスに踏み潰されるー‼︎』



「――いや、変態じゃないから――――‼︎」



 俺は叫び、上へと手を伸ばすと、手から眩い白い光が湧き出るように出てくる。そしてそれは重力とは真反対に逆らうように上へと向かい、今まで暗闇だった空間に、穴をけた。


『グガァァァァァァァァァァァァァ‼︎』


 上から人ならざる者の声が聞こえる。おそらくは先程の化け物だろう。

 俺は地面の中から何とか抜けでようと上に手をうんと伸ばし、何とか表面に手をのせる。


「う…よいっしょお!」


 腕ものせ、肩の力で何とか這い上がる。こんな時に筋肉があれば軽々登れるんだろうに…。


「――ふぅ…出られたー……んなっ⁈」


 何とか穴から脱出することに成功し、立ち上がった俺は、目の前の光景に愕然とする。――さっきの化け物が死んでる…‼︎


 先程のマンモス似の化け物が、右脚から頭にかけてを酷く損傷し、地面に伏していた。しかも目が文字通り


 あまりの意味のわからなさに、ただただ目を見開いていると、少し離れたところから誰かが話しかけてくる。


「あ…あの…大丈夫…ですか?」


 心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。――先程の美少女だ。


 ここは男として勇ましく応えるべきだろう。うむ、ジェントルマンみたいな感じで。


「ふっ、お嬢さん。私は大丈夫でっすよ…。それよりあなたこそ、お怪我は?」


 決まった!大丈夫なことをアピールしつつ、相手も気遣う。まさに出来る男!


「あ!はい、私は大丈夫です。ケイモスの攻撃は受けませんでしたから。それより、どうやってケイモスを倒したんですか?地面から何か攻撃魔法を放っていましたが…」


 ケイモス?ああ、きっとあの化け物の名前だろう。そして攻撃魔法……は、きっとあの手から出た白い光のことだろうな、ウン。


「いやぁ、私は実はもの凄く強い魔法使いでしてね〜。あんなケイモス一匹くらい倒すの造作もないですよ!ははははは!」

「へぇ…凄いん…ですね。けど、何でそんな強い魔法使いさんがパンツ一丁何ですか?」

「っは‼︎」


 この娘、痛いところを突いてくる!だが、確かにそうだ。紳士ぶった態度とって接していたとしても、パンツ一丁じゃあ格好つかないし、苦い顔されて当然だあああ‼︎


 な、何か良い言い訳を…。そ、そうだ!


「こ、これは魔力を上げるための正装なのです!さあ、どうです⁈あなたもパンツ一丁で正装に――」


 て、違――――う‼︎


 何でパン一勧誘してんだ俺は⁈異世界来てパン一布教したやつ他にいるか?いやいない!(反語法)


 ああ、ああ…あの娘も『何こいつ?キメェ』みたいな顔してるじゃないかぁ‼︎


「わ、私は今の装備で充分です……はは…」

「だ、だよねーははは…」


 もうダメだ、お互い愛想笑いしか出来ない。


「あ、あの!それよりも、あなたにお願いしたいことがありまして――」



「――姫様ー‼︎」



 少女が何かを俺に言おうとしたその時、馬に乗った大量の人々がこちらに押しかけてくる。


「姫様‼︎」

「ああ、アーノルド」


 アーノルドと呼ばれた騎士風の男が馬から降り、それに続いて周りの人達も馬を降りる。


 そして、何だか知らないけど俺に槍や剣を向けてくる。


「ええい!貴様!怪しいやつめ!なぜ下着一枚なんだ!」

「い、いやぁ、これには事情があって……」

「パンツ一丁で姫様に近寄るなど!汚らわしい!喰らえい!」


 俺の脇腹に長棒のような物が叩きつけられる。その一撃に続いて、周りも俺を棒で叩き始め、思わず俺はしゃがみ込む。


「ちょっ!まっ!やめてぇ!い、痛い、痛いから…!ん?痛い?」


 あれ?そんなに痛くないぞ?こんなに叩かれているのに痛くないとは……手から出た白い光といい、ダメージを全然受けない身体といい、もしかしてこれは……異世界行ったら特別な力に目覚めるというやつでは⁈


 異世界に行くと、特別な力を神から得たり、開花させたりする者達がいるというのは、有名な話だ。だから踏みつけられても死ななかったのかと、俺は初めて納得する。


 身体は全く痛くない…全く痛く無いのだが……。


「この変態が!」

「死ね!露出狂!」

「このパン一のクソ野郎が‼︎」

「掘るぞオラァ‼︎」


 心が痛い!めっちゃ罵倒されてる!しかも何かホモっぽいの混じってるし!


 俺は必死で耳を塞ぎ、場が収まるのを体を丸くして待つことにした――。

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