俺がパンツ一丁で異世界に転生した件について

あんだんご

第1話 異世界症候群

 ――数百年前。

 とある1人の少年が異世界へのゲートを開き、転生をした事より、地球は他世界と繋がりやすい世界となった。


 それからも異世界転生者は数をしていき、地球は異世界の影響を最も受けやすい世界として、他世界からも現実世界からも認識されるようになっていった。



 そしてその影響のせいで俺、小原おはらシンは、一つの病気を抱えていた。



 『異世界転生症候群いせかいてんせいしょうこうぐん』。別に大した病気では無い。1日で治るし、健康を害するモノでもない。


 だが、発症すると厄介なことになる。昼夜問わず、風呂やトイレに行っている場合であったとしても、コレを発症させてしまうと――強制的に異世界へと飛ばされてしまうのだ。


異世界転生症候群いせかいてんせいしょうこうぐん』は1度しか起きないし、その日が来たら適当に24時間やり過ごそう。あわよくば異世界の道具なんかを手に入れて帰ってこよう………なんて考えていた俺を俺は殴り倒したい。



 俺は今、異世界にて化け物と対峙するという絶体絶命のピンチな状況を迎えていた。――しかもパンツ一丁で。



 俺が異世界へと強制転生されたのは、学校から家に帰ってきて直ぐの事であった。


 高校生の俺は、自室で学校指定の堅苦しい制服をで脱ぎ、動きやすいスウェットに着替えようとしていた。と、まあその時に直ぐに着替えなかったのが失敗だったんだろう。


 部屋に立て掛けてある全身ミラーを見て、パンツ一丁の俺は自分のモヤシのような体にほとほとウンザリしていた。別に不健康なわけでは無いし、ルックスがアホみたいに悪いわけでも無い。日本人らしいボサボサな黒い髪に、黒の瞳、身長は172センチほど。


 何処にでもいそうで誰にでも似てそうな日本人だ。別にモヤシでも何も困らない。


 だが、やはり男子高校生なんだから、筋肉が服の上からでも分かるようなムキムキの男に憧れを抱いてしまうものだろう。



「はあ…なんでこんなに貧者なんだろ…」



 そう、呟いた次の瞬間であった。見ていた鏡がいきなり輝きを放ち、その光に俺は吸い込まれてしまった。


 そして目を開けると――マンモスに似ている、全身が真紫の化け物が目の前にいたのだ。――そんなこんなで今に至る。


 いきなりの突飛な出来事に、何が起こったかは分からなかったが、とりあえず異世界に来たのと死ぬのは分かった。ウン、さよなら母さん…あんたの息子はパンツ一丁で死を迎えるよ。


 化け物に敬礼をしながら、目から液体を流す俺。あ、涙か…コレ。


「もう少し…生きたかった」


 俺は目を瞑り、覚悟を決める。今から踏み潰されて俺は死ぬんだろうが、ここで無様に叫んで逃げ惑うよりは、潔く死んだ方が幾分か格好がつく。――パンツ一丁だが。



「きゃああああああああああああああ‼︎」



 と、何かの境地に達している俺の耳に、誰かの悲鳴が聞こえてくる。きっとこの化け物の餌食になりそうになっている誰かが叫んだんだろう。全く、無様な死際だな。そう思い、俺は閉じていた目を開き、嘲笑あざわらってやろうと声の主の方を見る。



 ――俺は、目に映ったその人物の容姿に驚愕した。



 自分冒険者ですと言わんばかりの鎧的な装備を身に纏いっている少女は、端的に言えば………めっちゃくちゃ可愛い。ヤバイ惚れた。


 日本ではお目にかかれなそうな、ナチュラルな金色の髪に碧眼。顔の線はシャープで、どこか気品の良さが感じられる可愛らしい顔立ち。胸デカいし、腰くびれてるし、絶対現実にはいないタイプの完璧理想型の王道美少女――。


 ああ、死ぬ前にこんな美少女を拝めたんだから…悔いはない……。心残りがあるとすれば、きっと俺の次にあの娘が化け物に殺されてしまうということだけだろう。


 そう、考えたのだが…。化け物は俺の方しか見ていないように見える。少女は逃げようと思えばいつでも逃げられそうだ。てか、敵対されていない気がするのだが……。なら何故さっき悲鳴を上げたんだ?


 頭に疑問符を浮かべながら俺が化け物の方へと目を移した瞬間。化け物の足裏が頭上に見える。きっとそのデカイ足で俺のことを踏み潰すんだろう。


 まあ、いいや。美少女よ、今のうちに逃げろ。俺に眼福を与えてくれたお礼だ、君の為に死ぬのなら悔いはない。


 そして化け物が足を勢いよく俺に向けて踏み込む。頭を鈍い感触が駆け抜け、走馬灯が見えてきたその刹那、再び少女の叫び声が俺の耳に聞こえた――。



「きゃああああ‼︎いきなり現れたパン一の変態がケイモスに踏み潰されるー‼︎」



「――あ…」


 俺は察した、少女の悲鳴が誰に向けられていたのかを。あの化け物ではない。……………俺だ。


 それに気がついた瞬間、俺は地面へと沈んでいった――。

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