第84話 勝負にならないのですぅ
ゆっくりと無警戒に近づいてくるツヴァイにアリア達は身構える。
しかし、不穏な空気を感じるダンテは横にいるヒースが緊張から汗を流すのを見て、状況の不味さを理解した。
何故なら、前回の戦いではヒースはこのメンバーの中でツヴァイにかろうじて単独で切り結ぶ事が出来た。
だが、そのヒースが気圧されるように無意識ではあるだろうがジリジリと後ろに下がっていた。
何より、まだ精霊感応がはっきりしてないのにも関わらず、精霊達がダンテに逃げろと強く警告していた。
判断に悩んでいるダンテに強張った顔をするミュウが近づく。
「ダンテ、アイツと戦う、ダメ。ホーラ達、テツがいないとミュウ達、死ぬ」
「ミュウの言う通り……と思う。油断してるように見えるのに隙がまったくない。たったあれだけの期間でこれほど実力を上げてるとは……」
「前回の戦ってる最中でも凄い速度で強くなってたけど……そこまでなの?」
ダンテが下唇を噛み締めながらミュウとヒースに問うと頷かれる。
ミュウはピンクの長い髪を逆撫でながらツヴァイの一挙一動を注目し、ヒースは顎下に伝った汗を拭う。
プレッシャーは感じはしてたがそこまでの実力差があるとは思わなかったアリア達は背後にいるダンテ達を驚愕の表情で見つめる。
決死の表情で歯を食い縛るヒースは剣を構えて隣にいるダンテに伝える。
「ダンテ、頼むよ。勝敗を左右する采配ではなく、生きて、みんなでツヴァイから逃げる方法を考えて……勝負にならない……!」
「おいおい、いきなり逃げる相談かよ? 暇なんだ、遊んで行けよ?」
ヒースの声を拾ったツヴァイが口の端を上げて笑い、ユラッと体を揺らしたと思った瞬間、スゥの目の前に瞬間移動したように現れる。
ダンテとヒースの話に注目してたスゥは突然現れたツヴァイが振り上げた青竜刀に反応出来ずに目を見開く。
「まずは一匹!」
「――ッ! 縮地!」
ツヴァイだけでなくミュウも瞬間移動したようにスゥとツヴァイの間に躍り出て短剣で斬りかかる。
斬りかかったミュウの短剣を石突で払い、ツヴァイは面白そうに歯を見せる。
「おっ? 犬ガキも出来るのかよ? でも、まだ未熟だ!」
石突で払った反動も利用して青竜刀でミュウに斬りかかるが弾かれなかった左手の短剣で受け止めるが力任せに振られて最後方に吹き飛ばされる。
ミュウに貰った時間で立ち直ったアリア達はツヴァイに身構える。
改めてスゥに青竜刀を振り下ろしてくるツヴァイ。
盾で受け止めようとしたスゥであるが、余りに力の差があり受け流そうとする。
「な、なんて馬鹿力なの! う、ウソ! きゃあぁぁ!!」
力を受け流そうとしたスゥは完璧だと思えるタイミングでそれを成した。しかし、気付けば天地が逆になって吹き飛ばされていた。
足の裏で発生させていたスパイクのようにして突き刺していた石もあっさりと砕かれていた。
「力も重量も圧倒的に不足だ! 出直せっ!」
更にスゥに追い打ちをかけようとするツヴァイの前にモーニングスターを構えたアリアが立ち塞がる。
邪魔だ、とばかりに眉を寄せて青竜刀を振り上げるツヴァイにアリアは無警戒にモーニングスターを振り被って特攻する。
そんな行動をするアリアに目を細めるツヴァイが舌打ちすると同時にヒースが飛び出す。
「アリア! 無謀だっ!」
「この馬鹿ガキがぁ!」
飛びかかってきたヒースを腕の一振りで吹き飛ばすツヴァイ。
振り被った青竜刀をツヴァイはアリアに振り下ろそうとするが一瞬、動きを止める。
「なっ――!」
驚きの表情のツヴァイが舌打ちと共に力を込める素振りを見せるなか、アリアはツヴァイの懐に飛び込む。
振り下ろせないツヴァイに振り被ったモーニングスターをアリアはツヴァイの腹を殴るように振る。
後方に飛ぼうとしたツヴァイが地面を蹴るがその場に留まってしまう。
後ろに行けない事に眉を寄せるツヴァイにアリアの攻撃がヒットする。
しかし、腹筋で耐えられたアリアは荒い息を吐いてツヴァイから距離を取ろうとするアリアに拳が迫る。
それも直前で拳が止まり、離れるアリアを苛立ちげに睨むツヴァイが「なるほどなぁ……」と呟く。
「なかなか面白い事してくれるじゃねぇーか? シールドにこんな使い方があるとはな」
「くっ、もう気付かれた」
アリアはシールドを自分の前面ではなく、小型なシールドを任意の場所に発生させていた。
最初は青竜刀の柄がぶつかる位置に発生させ、次はツヴァイの背後に発生させて後方に行けないようにした。拳で殴ろうとしたのも二の腕の可動部分を止めるように発生させて封じていた。
全部、力が乗りきる前に発生させているから簡単に破壊出来てなかった。
肩で息をするアリアを青竜刀の柄で肩を叩くツヴァイが口の端を上げながら分析する。
「器用な真似が出来るようだが……経験値不足なのか、魔力消費が激しいのか、もしくは、両方か?」
そう言われたアリアが悔しそうにするのを見てツヴァイが再び青竜刀を振り上げ、斬りかかる。
シールドを発生させられ、一瞬、動きが止まったかのように見えたツヴァイが獰猛な笑みを浮かべる。
「止められると分かってれば、この程度の強度、あってもなくても変わらねぇーよ!」
乾いた音と共に振り抜いてくるツヴァイの攻撃にアリアは歯を食い縛って左腕で盾を構えるようにして突き出す。
カンッ!!
甲高い音が鳴り、アリアは悲鳴も上げられずに地面を滑るように吹き飛ばされる。
ツヴァイは青竜刀を地面に突き刺して手をブラブラと振ってみせる。
「いてぇ! シールドの効果範囲を縮める事で圧縮したのを盾代わりにしやがった。本当に器用だな、と言ってやりたいがそこまで柔軟な思考してるように見えないな」
アリアを訝しげに見つめ、動きを止めたツヴァイを見て吹き飛ばされていたヒースがダンテの下に戻り、プレッシャーから呼吸が整わない掠れた声で言ってくる。
「だ、ダンテ、ツヴァイの強さが予想以上だ……なんとか逃げる術はないかい?」
「ごめん、まったく思い付いてない。暇潰しだと言ってたのが本当なら僕達と戦わないといけない理由がないはず……せめて、陸繋ぎで走って逃げれるなら逃げれるかもしれないけど」
仮にここで逃げたしたところで大魚に乗らないとここから離れられない。
ツヴァイに追い付かれずに乗って逃げるのは不可能に近い。
少し考え込むダンテが呟く。
「祠にあるのが本当に風の精霊神殿への転移装置か何かであれば逃げれるかもしれないけど……」
「……本当にそうだとしても転移装置が始動する時間の間のツヴァイの足止め方法がないの」
盾を持つべき左腕を押さえながら近寄ってきたスゥが痛みから顔を顰めつつ言ってくる。
ダンテもそれに気付いていたので何も言わずに唇を一文字に結ぶ。
助かる術が暇潰しに飽きた、満足したと去ってくれる可能性を考え始めたダンテは首を横に激しく振る。
「司令塔の僕がそんな弱気でどうする! 考えろ、僕!」
突破口を求めて、ツヴァイを穴が開く程睨むように見つめるダンテは倒れるアリアに近づいていくのを見送ってしまう。
「アリアをやらせねぇ!」
歩くツヴァイの前に飛び出すレイアが左腕の肘で空中で立てるようにして、その肘を右拳で守るようにして構える。
立てた左腕の後ろに顔を近づけ、左腕に赤いオーラを纏わせる。
変わった構えをするレイアをジッと見つめるツヴァイが不機嫌な声音を吐き出す。
「何をする気だ?」
「さあ~てね。こうなったアタシはしぶといぜ?」
コメカミから頬へと汗の粒を流すレイアが笑みを浮かべるのを見てツヴァイも面白そうに笑う。
「そいつは楽しみだ」
足を止めて青竜刀を構え、レイアの左腕の赤いオーラを興味深そうに見つめ始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます