第83話 蓋を開ける前に出てきたのですぅ
茂みの隙間から状況を眺めるダンテ達。
ハッサンの吸う紙煙草の煙が立ち昇る中、どこかやり切れない顔をしたダンテがここに来た時の事を振り返る。
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ハッサンの案内の下、大魚を乗り継ぐようにして祠がある島にやってきたダンテ達は早速とばかりにガーゴイルを目撃した場所へと案内される。
案内されて祠に近づくダンテ達の進行方向に動物型、キツネに似た動物の石像があり、ハッサンが言うにはアレがガーゴイルらしい。
ズンズンと無警戒に祠に近づいていくハッサンにダンテが学んだ知識からガーゴイルの感知範囲はそろそろでは? と質問するが笑い「アイツ等が反応するのはもっと前だ!」とダンテ達を置き去りにして先に進んだ。
非常に不安に駆られるダンテがアリア達を見渡し、気を付けて進もう、と言いかけた瞬間、キツネ型のガーゴイルが急に動き出してハッサンに襲いかかった。
慌てて逃げをうったダンテ達がガーゴイルが追ってこない距離の茂みに隠れた。
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そして、丁度、今の状況になる。
呆れを隠さないダンテが振り返った先では咥え煙草をするハッサンが胸一杯に紫煙を吸い、気持ち良さそうに吐き出す。
「俺とした事が油断した。あのガーゴイル、俺の予想を一歩先をいってたな……だが、この失敗は取り返せる……ッ! 俺は若い、だって、アラサ―だからっ!」
おでこに指を当てて、首を横に振るハッサンが「これが若さゆえの驕りか……」と悦に入った様子で言う。
それを見ていたレイアがプルプルと震えて指を突き付ける。
「何が取り返せるだよ! もう足はガクガクで立てないわ、アバラも折れてるんだろ!」
突っ込まれたハッサンは泣くのを耐えるように口をへの字にしてプルプルと震える。
ガーゴイルに特攻された時にモロに腹に体当たりを食らい、ノックダウンを食らったハッサン。
どうも、その時にアバラを折られたようだ。
「青春には時には骨折、もとい、挫折は付きモノ! だって、アラサ―だからっ!」
「上手い事言ったつもりか、このクソオヤジ!」
レイアに罵倒されたハッサンは唇を尖らせて紙煙草をピコピコさせながら地面に『の』の字を書いて拗ね出す。
溜息を吐くアリアとスゥ。
アリアはハッサンに回復魔法を行使を始め、スゥは呆れるようにレイアに話しかける。
「もう、2人が息があった漫才なのは分かったから、それぐらいでいいの」
「なっ!!」
酷い事を言われた、とばかりに驚愕な表情で固まるレイアをハッサンがジッと見つめる。
ハッサンに見つめられている事に気付いたレイアが顔を向けるとサムズアップしてウィンクされた。
「よろしく、ブラザー。これから頑張っていこうぜ?」
「アタシは女だぁ!!!」
怒りに燃えたレイアの手加減少なめの拳がハッサンの頬を抉る。
それがトドメになって意識を刈り取られたハッサンに回復魔法を行使していたアリアが止める。
「とりあえず折れた骨は繋いだ。起こすとレイアが遊び出すから寝かせておく」
「遊んでねぇ!!」
ギャーギャーと騒ぐレイアを流すようにするアリアが絶妙な応酬を見せる。さすがは双子であった。
それを見て苦笑するヒースがダンテに話しかける。
「本当にレイアとハッサンさん相性良さそうだね? まあ、それはともかく、どうする?」
「そうだね。結果論だけどハッサンさんの犠牲でガーゴイルの動きが見れたのは大きかったね。ミュウ、あの動きに付いていけそう?」
「がぅ、問題ない」
気負った様子もなく当然と言いたげに言うミュウを見てダンテは頷く。
ダンテの見立てではミュウは勿論、魔法で強化さえすればアリアやスゥですら付いていけそうだと見ていた。
あの動きに付いていけないとしたら自分ぐらいだとダンテは苦笑いを洩らす。良くて逃げるので精一杯であろう。
勿論、自分がそんなスタンスで戦うタイプではない事を理解し、同じである必要はないと納得しているので悔しさはない。
ダンテはパーティで強ければ良いと割り切れる頭の良い子である。
「良し、油断はしない事は当然だけど、僕達で対応出来る相手だね。祠がまったく関係ない場所だったら申し訳ないけど突破しよう」
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ダンテ達はハッサンが体を張ってくれた事で分かったガーゴイルの感知範囲ギリギリで一旦、足を止める。
「さっきのハッサンさんにした攻撃を見る限り、単純な体当たりぐらいしかしてこないと思う。スゥが先頭で歩いてガーゴイルの体当たりを受け止めて動きを抑えて。そこをレイアとミュウが横から挟撃して撃破。ヒースは2人でトドメを刺せなかった時の後詰でアリアはみんなのサポートを」
そう行って1人、1人の顔を見ていき「僕は後ろから状況を見て変化あれば指示を出すよ」と言うダンテにアリア達も頷く。
スゥが先頭になり、ダンテに振り返って見つめてくるので頷くダンテを見て盾を構えてゆっくり歩き出す。
少し歩いた所でダンテがスゥに声をかける。
「そろそろ動くよ」
「分かってるの!」
その言葉に反応したようにガーゴイルが少しカタと音を鳴らしたと思った瞬間、スゥに目掛けて飛び出してくる。
飛び出してきたガーゴイルを盾で受け止めると想像以上に強い力だと分かるといなすように受け止める。
「馬鹿正直に力押しなんてしないの! レイア、ミュウ!」
「よっしゃ、出番だ!」
「がぅがぅ」
ガーゴイルの真横から挟撃をかける2人。
レイアは拳に赤いオーラを纏わせ、ミュウは短剣を前方に合わせて突き出すように飛び込む。
カ――ン
キンッ
甲高い音が響くと同時にレイアとミュウは後方に飛んで退く。
「い、いったあぁぁ!!」
「がぅ、耳、キ――ンする……」
これもまた想像以上に硬い事を知ったダンテが叫ぶ。
「くそう! ヒース、いける?」
「任せて、僕も伊達に師匠に鍛えられてないよ!」
剣を抜いたヒースが気を吐き、吼えると剣に気が纏わり出すのを見たダンテはヒースがハウリングソードを使う気だと分かり、あの煩い音が近くで鳴らされたら堪らないと耳を塞ぐ。
「ハウリングソード改!」
すると、ミュウがいきなり頭頂部にある耳を両手で押さえると「キャィ――ン」と鳴くと後方に脱兎の如くに走り去る。
ガーゴイルに飛びかかるヒースを見上げながら耳に押さえていた手を外す。
「あれ? 煩くない……むしろ音がしない?」
ダンテの疑問を余所にヒースはガーゴイルに接近すると上段から一気に斬り下ろす。
ヒースが振り下ろした剣でガーゴイルがバターを切るようにサクッと真っ二つに切れるのを見てレイアが歓声を上げる。
「すげー! ヒース」
「以前と比べ物にならない切れ味だね?」
「うん、振動のスピードが前と段違いだからね?」
少し得意そうにするヒースの後方から珍しく怒った表情のミュウが駆け寄ってくると問答無用にヒースの背にドロップキックを食らわす。
不意打ちを食らったヒースがこけ、背中に馬乗りになりヒースの頭に齧りつくミュウ。
「あんな大きな音させるなら早く言う! ミュウ、耳が壊れたと思った!」
「ああ!! そういえば師匠に動物には刺激が強いとか言われてたから……」
動物と言われてミュウが「ミュウ、犬、違う!!」と更に噛んでくるので「痛い、痛い、ごめん、言葉のアヤだから!」と必死に謝るのを見てダンテは納得する。
ヒースが言ったように振動スピードが格段に上がり、人の耳では拾えない高音を出していたのでダンテ達には煩くなかった。
だが、例えば、犬笛のように高い音を拾える者には堪ったものじゃない音を聞かされたのだろうと納得するとダンテはヒースもミュウも災難だな、と苦笑いを浮かべる。
「まあまあ、ミュウ。ヒースも悪気がなかったし、ヒースもミュウが犬じゃないと思ってたから事前に言う必要があった事を気付いてなかったんだから?」
「……ヒース?」
「うんうん、ダンテの言う通りで気付かなかった事は悪かったけど、まったくそういう事は考えてなかったよ!?」
「がぅ、許す」
あっさりと許しを与えて、背中からどいてくれるミュウ。
対応は直情的で言い訳を聞く前に行動してしまうが、しっかり詫びれば根に持たない優しい子のミュウが立ち上がろうとするヒースに手を貸す。
その手を取って謝るヒースに笑顔でガゥと頷き、肩をポンと叩く。
話は纏まったと判断したダンテが祠を指差し、みんなに話しかける。
「良し、じゃ、祠の中を調査しよう」
そう言ったダンテがみんなを連れて行こうとするとミュウがダンテのマントを掴んで止める。
引っ張られた事で首が締り、咳き込むダンテがミュウに文句を言おうと振り返る。
すると、ミュウが真剣な表情をして祠の入口を睨んでいた。
「誰かいる……凄く強いヤツ、この匂い……」
慌ててダンテ達は入口に注目すると長い黒髪を後ろで縛るカンフー服を纏う大男がのっそりと青竜刀を肩に載せて現れる。
その大男を見たレイアが叫ぶ。
「あっ、オトウサンの偽者!」
「うっせな……偽者言うな、俺の名はツヴァイだ」
面倒そうにダンテ達を見渡し頭を掻く大男、雄一のクローンのツヴァイがダンテ達の進行方向の祠の入口を塞ぐように立ち塞がった。
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