第82話 だって青春爆発なのですぅ
アリアとヒースの安否確認ができ、合流出来た事を喜び合ったダンテ達はカウボーイハットを目深に被っているが顔がでかくて目が隠し切れてない知らないオッサンにみんなの視線が集まる。
ダンテ達の注目が集まり、ニヒルな笑みを浮かべてるつもりのようだが、鼻の穴を大きくして口許が緩んでいるようにしか見えない笑みをして隠しきれない顔を隠すように更にカウボーイハットを下げる。
「ところで誰? このオッサン?」
「ん、魚の中の先客さん」
変なヤツ、と言いたげな表情をするレイアがオッサンに指を指して言うのにアリアが実質、誰か知らない上に興味がないと分かる発言をしてくる。
オッサンもレイアの『オッサン』の辺りで肩が弾けるようにビクついた様子からかなり気にしているようだ。
結局、何も分からないと誰もがどうしたらいいか悩む。
そして、必然のようにみんなの視線がダンテに集まり、ダンテは諦めの溜息を洩らす。
「あの……失礼ですがどなたか紹介して頂いていいですか? 僕達は……」
自分達の紹介もせずに正体を聞こうというのは失礼と判断したダンテが率先して自己紹介して順番にアリア達もしていく。
そして、最後にオッサンにダンテ達の目的、風の精霊神殿に向かっている事を伝える。
目的を伝えた時、スゥに目を細められダンテの耳元に口を寄せて「無暗に話して良かったの?」と言われるがこの場所にいる以上、出口に行かない限り行き先は1つしかないから嘘吐いても意味がないとダンテに諭される。
うんうん、と頷くオッサンが爽やかに笑ってるつもりらしい歯を見せる笑みを見せてくるが失敗していた。しかし、どこか憎めない人好きする笑みを浮かべてくる。
「やっぱり風の精霊神殿への道だったか……おっと悪い。俺の名はハッサン、トレジャーハンターを生業にする39歳、アラサ―さ!」
ウィンクしながらサムズアップしてカウボーイハットの淵を指で上げるオッサンこと、ハッサンは紙煙草を咥え、火を灯す。
一番近くにいたレイアが煙草の煙にむせ、後退しながらハッサンを見つめて言う。
「オッサン、ハッサン、ややこしいな。39歳ってアラサ―だっけ? あらふ……」
「アラサ―だっ!」
でかい顔を近づけられ、圧迫感と慣れない煙草の匂いに顔を顰めた空気の読めないレイアが両手で押し退けるようにして言う。
「アラフォーだろ?」
「レイア」
レイアの肩に手を置くスゥに呼び掛けられ振り返ると面倒そうに眉を寄せた顔をしたアリアとスゥの顔があった。
「アラサ―でもアラフォーでも私達にはどうでもいいの」
「だいたいトレジャーハンターなんて職業はない。そういうのは冒険者がやる仕事を自称してる段階でイタイ人」
と、2人に説き伏せられたレイアは憮然とした表情をハッサンに向ける。
「39歳、アラサ―。これでいいのかよ?」
「ふっ、物分かりの良いお嬢さんはおじ様は大好きだぞ?」
どうやらハッサンの認められる範囲は『おじ様』がギリギリの譲歩ラインのようだ。
そんなハッサンにミュウが肩を叩き、ビーフジャーキーを手渡す。
「くれるのかい? お嬢さん」
「がぅ」
ハッサンはモテるおじ様は辛いな、と言いたげに首を振るがアリア達はミュウが慰めたと正しく理解し、空気の読めないレイアですら憐れみの視線を向ける。
それを横で見ていたダンテとヒースは将来、こんな目で見られるオジサンにならないようにしようと心に戒め、ダンテは話を再開させる。
「それでハッサンさんも風の精霊神殿に?」
「ああ、まあ、そのつもりで島にやってきたんだが、どこに風の精霊神殿があるのかと調べてる途中で人がやってきた形跡があるのが分かって追跡したら、この施設を起動させて消えるのを見て真似てやってきた」
ハッサン曰く、あの島に風の精霊神殿へと続く道がある、といったフワッとした情報でやってきて調べてたようだ。
そこで後から来たメンバーが装置を起動したのを見て後を追って、今があるらしい。
顎を撫でながら先頭にいたダンテを近くで見下ろすようにして首を捻り頭を掻くハッサン。
「あの集団は君等か? 俺が見た人数は4人に見えたんだが?」
ダンテ達に指を指して数をカウントしていき、「やっぱり6人いるな?」と呟くのを聞いたレイアが「ボケたんじゃねぇ?」と言われる。
「俺はボケてない! 若いんだ、青春爆発真っ盛りだぁ! なんたってアラサ―だからっ!」
突っ込んだレイアをスゥが黙って後頭部を殴る。
頭を抱えるレイアにアリアが「余計な事を言わない。面倒だから」と窘めてくる。
明後日の方向を涙を流しながらウォォォ! と叫ぶハッサンに苦笑いしながらダンテが問う。
「まあまあ……それでハッサンさんがこちらに来られてからどれくらいですか?」
「お前なら分かってくれるよな? 俺は若いんだ!」
むさ苦しい顔を近づけられて、離れて欲しいと思いつつも話を進ませる為にダンテはグッと堪えて頷く。
ハッサンをあやすようにするダンテに代わりヒースが問い直す。
「来てからどれくらい経ってますか?」
「ん~、そうだな……10日ぐらいか?」
10日と聞いて頷くダンテを見てスゥが声を上げる。
「10日前って……」
「うん、多分、ハッサンさんが見たのはホーラさん達だろうね。それだったら4人だったのも分かる」
「あれは、お前達じゃなかったのか?」
「違う、私達は昨日来た」
アリアに否定されてアリア達を順々に見ていくと笑う。
「確かに1人はお前等と同じぐらいの身長だったけど、こんなチビじゃなかったな」
と気安く近くにいたレイアの頭をポンポンと叩く。
チビと言われた事と頭を不用意に触られてイラッとしたレイアが無言でハッサンの鳩尾を叩く。
鳩尾を押さえて蹲るハッサンは呻くように呟く。
「こ、この子、意外と容赦ないな……しかし、俺は割れた腹筋の持ち主……若さが痛みを凌駕する!」
言葉だけを聞いていると耐えきったかのように聞こえるが実際は鳩尾を押さえて地面をゴロゴロと転がり、ギャン泣き中であった。
また話を中断されてダンテが頭を抱える隣ではレイアが正座させられ、アリアとスゥに説教中であった。
「だってよぉ!」
「問答無用なの!」
このままだとレイアに話を脱線させられまくると判断したスゥが光文字で作ったロープでレイアを拘束する。
正座していたのであっさり拘束されたレイアがビックリしてる間にスゥは手拭で猿轡をして黙らせる。
さすがのレイアも光文字のロープを力任せに切れない。
横に居たアリアはそれを見届けるとギャン泣き中のハッサンに回復魔法を行使する。
かけられたと同時に痛みが和らいだのかすぐに立ち上がるハッサンはドヤ顔する。
「有難う、お嬢さん。回復魔法がなくても大丈夫だったが、痛みが和らいだよ。若いから回復が早いな! だって、アラサ―だからっ!」
そんなハッサンにアリアとスゥは好きに言っておいて、と言いたげな顔をしながら相槌を打つとダンテを見つめる。
さっさと話を終わらせて、と目で訴えられたダンテは溜息を吐く。
「急かすようで申し訳ありませんが、僕達も昨日来たばかりでここの情報がありません。良かったら、ここに来て気になった事を教えてくれませんか?」
「気になるって見たままだと思うが、魚が空を泳いでるわ、街、ここにもあっただろうが人がいなくてパペットが売り子してて初めは焦ったな」
わははっ、と笑うハッサンにダンテとスゥが身を乗り出す。
いきなりの行動で戸惑った様子を見せるハッサンにダンテが問う。
「ここから近くにある街の売り子はパペットだったんですね?」
「えっと、おう……そうだっただろ? あれ? 違う島と勘違いしてるのか?」
「ここの街に来たのはいつなの?」
確認されて自信を失いかけるハッサンにスゥが街に行った時期を問われると4日前と言われてダンテとスゥは顔を見合わせる。
何やら納得し合う2人に置き去りにされたアリアとヒースが近寄っていくとダンテがスゥを含めて3人をハッサンから離れさせ、円陣を組むように顔を寄せ合う。
「何かあった?」
「良く聞いて、アリア、そしてヒース。私達が街に行った時にはそこで売り子しているのが人間になってたの」
「ちょっと待って、今、ハッサンさんがパペットって言ってなかった?」
「うん、それは間違いではないんだ。正確に言うと僕達の目には人間に見える幻がかけられてた、という事なんだ」
驚く2人にそれに気付く要因になったのがミュウの鼻とカン、そして完全ではないが取り戻しつつある精霊感応によって精霊が教えてくれたと伝えると疑うのを止めたようで考え込む2人。
ハッサンの言葉を信じるなら4日前まではパペットだったとなるとダンテ達が来た昨日までの時間の間に行使された事になる。
当初はダンテ達を待ち構えていたのかと思っていたが、もしかしたら違うかもしれないとダンテは考え始めていた。
「狙いは僕達ではなくホーラさん達かもしれない」
「となると出入りしている人、ハッサンさんが怪しい?」
「それはないと思うの。あの若さを訴える性格で幻を使えるなら自分自身を若く見せるぐらいしてもおかしくないの」
「あの人の心の色は春の陽気のような一色で染まってる。きっとお馬鹿さん」
アリアとスゥの説明に説得力を感じたダンテとヒースは引き攣った笑みを浮かべつつではあるが納得する。
では、誰がしたのかという話に移行しかけたところでハッサンが声をかけてくる。
「おーい、おじ様は放置されると寂しくて泣いて死んじゃう生き物なんだぞぉ?」
本当に半泣きでダンテ達に呼び掛けてくるハッサンを見て肩を落とす。
見た目はともかく本当に39歳だろうかと疑いが頭を過るが4人はソッと目を逸らす事で無かった事にした。
反応はあるが離れたままであるダンテ達に悲しみを募らせたハッサンが鼻水まで追加して子供のように大きく手を振ってアピールしてくるので渋々、4人は近づく。
放置が解除されたと分かると鼻を啜り、袖で涙を拭う。
「本当に寂しかった訳じゃないからね? ちょっとだけ、こうなんだ? まあ、そういう訳だ」
何がそういう訳だ、なのか分からないが適当に頷くダンテ達であったが、詫びるように軽く頭を下げる。
「僕達も合流したてだったので軽く会ってなかった時に何かあったかの擦り合わせをさせて貰ってました」
「うんうん、仲間同士の情報の共有は大事だしな?」
訳知り顔で言ってくるのに苦笑するダンテが続ける。
「ここは正直、得体が知れない場所なんでなるべく風の精霊神殿へと向かいたいと思ってます。ハッサンさんはそこに至る道に心当たりがありませんか?」
「俺も捜してるところだったんで……うーん、関係ないかもしれないが……」
「何か気になる場所でもあるの?」
悩むハッサンにスゥが問いかけると少し嫌そうに頷く。
それを見たダンテ達が一瞬、顔を見合わせるのを見たハッサンが諦めるように口にする。
「何でもいいから聞きたいって言いそうだな? 祠のような場所があるんだが……」
「物凄く怪しくないですか、そこ?」
ヒースがずばりそこが風の精霊神殿へと続くルートじゃないかと言いたげに言うのを見てハッサンが溜息を吐くのを見てアリアとスゥは顔を見合わせて眉を寄せる。
「どうして確認してないの?」
「しようとは思ったんだが……そこを守るガーゴイルがいて近寄れなかったんでな」
「しかし、守るものがあるという事になりますよね? そこに何かあるというのは間違いないでしょう」
そう言って考え込むダンテの耳に何かを引き千切る音が聞こえる。
音が聞こえた瞬間、弾かれるようにスゥが振り返り、呆れたように声を洩らす。
「まったくどれだけ馬鹿力なの?」
「……よし、やっと外れた!」
猿轡されていた手拭を放り投げたレイアはダンテに拳を突き出して叫ぶ。
「ダンテ、悩んでる場合じゃないぜ! アタシ等には手かがりがないんだ。片っ端からいこうぜ!」
確かにレイアが言うように行ってみるしかないとダンテも思うが危険性を考えるとどうしたものかと悩むが近寄ってきたレイアがダンテを見つめて笑う。
ニカッと笑ってくるレイアをキョトンとした顔で見つめたダンテが苦笑いをしてヒースと目を合わせると頷かれて覚悟が決まったようにレイアを見つめ返す。
「戦う必要があるかは現地に行って考える。この基本姿勢は絶対に守って貰うよ?」
「おう! アタシがダンテの指示を聞かなかった事あるかよ!」
むしろ聞かなかった方が多いレイアが都合の悪い事を忘れる特技を発動させたらしく嬉しそうに笑うのをダンテは負けたとばかりにお手上げポーズをする。
ダンテはレイア以外にも意志を確認するように目を向けていくと頷かれ、最後にミュウに目を向けると脱力するように肺にある息を吐き出す。
ミュウに近づき、肩を揺する。
「道理でさっきから静かだと思ったら……」
話に参加せずに座り込んで寝ているミュウを起こすところから開始するダンテであった。
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