第85話 レイアの武器なのですぅ

 ツヴァイとレイアが対峙するのを見たダンテが水魔法を行使しようとするがヒースに止められる。


「ダンテ、駄目だ。下手に援護したらレイアの集中力が切れる。それにあの間合いで援護は難しいだろ?」

「何故? 確かに援護は難しいけどツヴァイにレイアは勝てないよ!?」


 詰め寄るダンテからツヴァイを睨みつけるレイアに目を向けるヒースは突破口を見つけたような表情を浮かべる。


 ヒースが何故、引き攣り気味ではあるが笑みを浮かべた事に眉を寄せていると説明される。


「覚えてるかい? 島に行く時に僕がみんなに挑むとしたら誰から潰すか、って話」

「いきなりなんだい? こんな時に?」


 ダンテはヒースがいきなりこんな事を言い出してるか見当も付かないが、話しながらも辺りを見渡し、アリア達の状況を頭に入れ、策を講じていく。


 そんなダンテにヒースが「いいから、言ってみて」と言われ、こんな時にと思いつつ、ダンテは思い出す。


「リアナが僕から潰しにかかった、という流れからヒースも僕から、いや、レイアも候補に入れるって言ってたっけ?」

「そう、僕は港で再会した時、レイアの左袖が右袖に比べてボロボロなのが気になったんだ」


 ヒースの言葉を聞いたダンテはツヴァイと向き合うレイアの左袖を見ると確かにボロボロになっている事に気付いた。


 言われてみれば、とは思うがレイアに手ほどきをしたのが、あのホーエンである事からそれほど不思議にも思わず見逃していた。


 みんなが見つめる中、ツヴァイがレイアに振り下ろして斬りかかるが左腕で青竜刀の横っ面を押すようにして直撃を避け、逃がし切れなかった力にたたら踏むレイアの様子にアリア達は息を飲む。


 レイアの必死の防戦を見て苛立つダンテが止めるヒースを押し退けようとする。


「相手はホーエンさんなんだ! レイアの左袖ぐらいボロボロになるよ、ガードをするんだから!」

「そう、ホーエンさんだからなんだよ。僕が聞いてる限り、ホーエンさんはテツさんよりずっと強いはず。果たしてレイアはどうして左腕ばかりでガードが出来たんだと思う?」


 ヒースのレイアをジッと見つめる顔を見て「えっ?」と声を上げてしまうダンテ。


 上段からの切り込みには弾かれる事で防がれたツヴァイが横から斬り込むのを見てミュウが叫ぶ。


「レイア、出来る、頑張れ!」

「はっきり言うのは申し訳ないけどね、レイアは決して頭は良くない。だから、きっとホーエンさんに仕向けられただと思う。ねぇ、ダンテ、レイアの最大の武器ってなんだと思う?」

「ミュウとタメを張れる身体能力、特に肉体強化の使い方の上手さかな?」


 ダンテの言葉に被り振るヒースはツヴァイが斬り込む青竜刀を見つめるレイアを見て笑みを浮かべる。


「レイアの最大の武器は……」


 ヒース達の話を余所にレイアは斬り込んでくる青竜刀に一歩踏み出し、気を吐く。


 左腕に纏わしていたオーラが更に強くなり、上げてた拳を下げる。


 下げた拳を一気に振り上げながら雄一に言われた言葉を思い出す。



「レイア、お前は門前小僧ではなく、門前小娘だ。誰かがやっている事を見てるだけで、感覚的に理解してモノにする。真剣にやる気さえあれば、地力が着いてきたら、自分が必要と感じる技能を覚えていく。これはある種の天才に許された才能、『見取り稽古』って言うんだぞ?」



 再び、青竜刀の横っ面を今度は拳で叩き上げて軌道をずらしてレイアの頭上を通過させる。


 額にある汗を吹き飛ばしてレイアは吼える。


「その速度は理解したっ!」


 青竜刀を弾かれた事でボディが空いた場所へレイアは空いている右手を振り被って殴りにかかる。


 それを見つめるヒースは拳を握り締めて続けた。


「目だよ。戦いの内に見て覚えられるという事は動きを捉えられる事。後は踏み込む勇気さえあれば、理屈上、レイアはどんな攻撃でも見切れる。レイアの目の凄さは戦った事がある僕だから良く分かる」


 ヒースの言葉を聞きながらレイアの様子を見ていたダンテの耳に鈍い音が響く。


 するとレイアは苦い顔をしてツヴァイから飛び退く。


 レイアがどいた事でツヴァイの様子がはっきり見える。片足を上げてる姿で「危なかった」と口の端を上げる様子から今のレイアの攻撃を足で止めたようだ。


 首をコキコキと鳴らすツヴァイが面白そうにレイアを見つめる。


「その速度は理解した、かよ? だったら少しずつ速度を上げていってやら」


 再び、斬りかかってきたツヴァイの攻撃にレイアはかろうじて弾き返す。明らかに先程と比べて余裕のなさが伺えた。


 それを見たヒースがダンテに振り返る。


「ダンテ、レイアの事は嬉しい誤算だったけど、ツヴァイには勝てない事は動かない。アイツが遊んでる内に逃げる術を……お願い!」

「くっ、それが一番難しいんだよ!」


 凌ぎ切れなくなったレイアが後方に飛んで逃げるのを援護するように速攻を優先した数十個の水球をツヴァイに放つがツヴァイは鼻で笑うようにして無視して突っ込まれる。


 放った水球の影に隠れるように飛び込んだミュウとヒースがツヴァイを驚かせてたたら踏ませるとすぐにその場から離脱する。


 ヒース達に視線を奪われるように横を向こうとしたツヴァイの視界の隅でスゥが空中に光文字を描く姿に気付く。


 描き終えるとスゥは持っていた剣の腹でスイングして光文字を打つ。


 すると、流星のように放たれた光文字に目を剥いたツヴァイがブリッジをするようにしてかろうじて避ける。


 放たれた光文字はツヴァイの背後にある祠に陥没した。


「くぅ! 惜しいの!」

「なんだ、今のは……ちっ、考える前に体が勝手に避けちまったぜ」


 背後の祠を突き抜けて地面にまで陥没させているのを見てツヴァイの顔から一瞬笑みが消える。


 スゥに視線を奪われたツヴァイにレイア、ミュウ、ヒースの波状攻撃が始まる。


 舌打ちするツヴァイはそれに応じながらも、スゥの攻撃をモロに貰ったら終わりと訴える本能に従い、スゥを警戒する。


 スゥに意識を奪われているのでレイア達にも決定打が打てずにこう着状態に陥った。


 それを見ていたダンテが必死に考えを巡らせる。


 確かにスゥの攻撃が当たれば大きなダメージは入れられるだろうが、それでも現状、ダンテ達にツヴァイに勝機はないと判断していた。


 やはり、まともに戦うという選択肢はない。かと言って逃げる術がないという事実は動かない。


 必死に考えるダンテの脳裏にある可能性が過るが被り振る。


「リスクが大き過ぎる。しかも成功する可能性がどれくらいあるというんだ……」


 被り振ったダンテだったが、それでもそれ以外に可能性を拾える術は思い付いていなかった。


 それ以外の可能性を考えるなら、この場にテツが突然現れるといった策でも何でもなく願望という展開しかない。


 ダンテはチラリと後方の草むらに目を向ける。


 現実的な現れてもおかしくない助っ人という話であれば、草むらで気絶しているハッサンだろうが、とても助けになってくれるとは思えない。


 下唇を噛み締めるダンテの視線の先ではスゥが何かを計るようにツヴァイの後方を気にしている姿を捉える。


 ダンテが気付いたようにツヴァイも気付き、背後を見ると先程の光文字が陥没した穴があり、気付けばスゥと穴の射線上にツヴァイが立っている事に気付く。


「くそうっ! まさかっ!!」

「気付かれたの!!」


 舌打ちしたツヴァイが射線上から飛び退こうとするが見えない壁にぶつかったように動きが止まる。


「またお前かっ!」


 魔力消費が激しいのか冷や汗を掻きながら荒い息を吐くアリアが掌をツヴァイに翳していた。


 それを見たスゥが右掌を握り締めて、手前に引っ張るようにする。


 スゥの動き連動するように陥没した穴から先程放った光文字は飛び出してきた。


「お願い、当たってなの!」

「当たってたまるかっ!!」


 ツヴァイはアリアのシールドを破壊すると反動があるのかアリアは吹き飛び、ツヴァイも慌てて身を捻る。


 飛び出してきた光文字が通過して上空に飛んでいくのをスゥが悔しそうに拳を握る。


 すると、突然、生まれるプレッシャーにアリア達は一瞬体が硬直させた。


 ゆっくりとアリア達に顔を向けるツヴァイの頬から一筋の傷とそこから血が流れる。


「遊んでやってたら調子乗りやがって……」


 プレッシャーの元凶、ツヴァイが目を血走らせるのを見て唾を飲み込むダンテは猶予はないと覚悟を決める。


 精霊感応で精霊達に語りかけ、協力を申し出ながらも自分の魔力も高め始める。


「いちかばちか……勝負するしかないっ!」


 ダンテの周りに魔力が集まりだす。そして、ダンテの周りを旋回する可視化した精霊の姿はまるでダンテに遊んで? と言ってるように楽しそうな姿があった。


 その中心にいるダンテの青い瞳が更に澄み出し透明度が増した水の色を称え出した。

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