第78話 僅かな違和感なのですぅ
「レイア、ミュウ!?」
近寄ってきたレイア達を見るスゥが驚きの声を上げるのに手を振りながらやってくるレイア達。
合流した3人が仲良く抱き合うのを横目にダンテはいち早く立ち直りを見せて羊皮紙を見つめ、考えに耽け始めた。
喜ぶ輪の中にダンテが居ない事に気付いた3人が羊皮紙と睨めっこするダンテの周りに集まる。
「なんだよ、アタシ達と合流出来て嬉しくないのかよ!」
「いや、そんな事はないよ。嬉しいのは嬉しいんだけど羊皮紙の反応がね……」
「あっ! そうだったの、確かにおかしいの!」
素っ頓狂な声を上げるスゥを見て首を傾げるレイアとミュウ。
少し何故だろうと羊皮紙を見るが理解出来ずに考え始めようとするレイアであったが、目の前に頭脳担当のダンテがいると思い出すと肩を叩く。
「説明、よろしくぅ!」
「はあ、少し自分で考えようとする素振りあったのにすぐに投げ出さないでも……」
ダンテ達がいないので必死に頭を使おうとする流れがあったレイアであったが、やはり安定、安心の頭脳担当がいると考える気はないようだ。
適材適所と言えばそれまでだが、とは思うがレイアとミュウの考える事の放棄率は司令塔としても今後の課題かもしれないとこっそりと溜息を洩らす。
ダンテはレイアが持つ羊皮紙を借り、自分が持つ羊皮紙を並べて交互に見つめると何かに納得したらしいダンテが頷く。
「もしかしたらと思ったけど、正解かもしれない。これを3人も見て?」
ダンテに言われた3人は差し出された2枚の羊皮紙を見つめる。
2枚の羊皮紙を見比べると違いがあった。
ダンテ達が持っていた羊皮紙には光の点が2個あり、レイア達が持っていた光の点が1個である。
レイア達が持っていたのはダンテ達と合流したから重なったと理解出来るが何故、ダンテ達が持っていた羊皮紙だけは2つの光の点、おそらく離れているのはアリア達の居場所が映し出されているのかレイアは首を傾げる。
「あれ? なんでダンテのはアリア達も分かるんだ?」
「この光の点がアリア達と仮定するけど、どうやら僕達が分かるのはアリア達の位置だけみたいなんだ。レイア達は僕達の位置が分かったようだけどね」
「がぅ? ミュウ意味分からない」
「つまり私達の羊皮紙にはレイア達の居場所が分からなかったの。だから、突然、声をかけられた時は本当にびっくりしたの」
スゥに驚いたと言われ、声をかけた時、2人がとても驚いた顔をしていたのを思い出したレイアは納得した。
そうと分かると生まれる疑問を2人にレイアはぶつける。
「アリア達の位置が分かってるなら、どうしてこんなところにいたんだ? 追いかければ良かったんじゃ?」
「まあね、僕達も当初はそうしてたんだけど何故かアリア達が僕達から逃げるように離れて行ったから何かおかしい、てね」
「そうなの。初めに確認した時なんて羊皮紙で見る限り、すぐ傍にいたのにアリア達が私達から離れて行ったからビックリなの」
アリア達が理由は分からないが合流を嫌ったとダンテ達が思ってしまったのは致し方が無い状況であった。
その状況で追いかけるのが吉と出るか凶と出るか悩むのは道理であった。
スゥはダンテが予測を立てた事柄に気付いた様子だが、脳筋の2人は分からないようでレイアは首を捻るがミュウは諦めてビーフジャーキーを齧りつつ、水筒をダンテに差し出して「水」とだけ短く告げ、観戦に廻る。
一度は無視したダンテであったが接近されて鼻と鼻が当たるぐらいの距離から再び「水」と言われて渋々、水を入れてやるダンテの代わりにスゥが答える。
「つまり、私達はアリア達を捉えていて、レイア達は私達を捉えていた。アリア達がレイア達を捉えていたのであれば全部説明は出来るの」
「なるほど、アリア達はスゥ達から逃げたんじゃなくているのが分からなかったって事か……納得」
追いかけても逃げるように離れて行ったアリア達が急にスゥ達が居る方向に近寄ろうとする動きに気付いて悩んでいたらしい。
そして、とりあえず街もある事だから少し様子を見ようと街に入ったとスゥは付け加えてくる。
うんうん、と頷くレイアであったがすぐに違和感を感じて質問をダンテにする。
「一度、街に入ったのにわざわざ出てきたんだ? 様子を見るなら街に居た方がいいんじゃ?」
「うん、僕達が悩んでいたのはアリア達だけでなく、街の事もあったんだ」
ダンテが眉を寄せて言ってくるのでレイアは危ない街なのかと眉間に皺を寄せるが被り振られる。
「ううん、危ないという事はないと思う。とりあえずは」
「と、とりあえずかよ……」
「何せ、分からない事だらけなの。一度、見た方が早いし、アリア達の動向を確認する意味でも宿でも取った方が良いの」
そう言う2人に連れられてレイア達は目の前の街へと歩き始めた。
▼
合流したレイア達が街に到着する。
街に入るところで警備をする人らしき人がスゥとダンテに「来た早々、出ていくから何事かと思ったら友達と合流しにいったのか」と安心した様子で人好きする笑みを浮かべられた。
それにダンテが曖昧な笑みを浮かべて「ご心配おかけしました」と返事をすると警備の人が「ジップの街へ、ようこそ。お嬢ちゃん達には2度目だけどな?」と笑われる。
あの人好きする笑みを浮かべる警備の人は悪気はないのだろうな、と思うが相変わらず男扱いされないダンテが微妙に傷ついていた。
入口を通り過ぎて、そこから見える人々が歩く姿を見てレイアにはどうしても平和そのものにしか見えない。
振り返りながら歩くレイアがボソッと呟く。
「危なそうな雰囲気がまったくなさそうだけど?」
「ダンテも私も危ないとは一言も言ってないの。そういう事じゃないの」
早々に結論を出そうとするレイアに嘆息するスゥ。
話に介入する気がないミュウが通りにある屋台の串焼きを見つけて色めき立つ。
しかし、屋台の看板に書かれている1本、銅貨5枚と書かれてるのを見てポケットを弄って出した銅貨が4枚なのを見て落胆するミュウ。
「食べたい? じゃ、10枚あげるからレイアと一緒に買うといいよ。1本ずつだからね?」
「がぅ!!」
「ど、どうした!? 強請る前からダンテが奢るのって珍しい……あっ、待て、ミュウ引っ張るな!」
ダンテが差し出す銅貨を引っ手繰るようにして嬉しそうにするミュウに引っ張られるレイアは屋台に連れて行かれる。
レイアはダンテの行動もおかしいがスゥが何も言わずに居る事にも疑問を感じながらもミュウが屋台の人に「串焼き、2本」と言って銅貨を差し出すのを眺める。
差し出された串焼きを受け取ったミュウが1本をレイアに手渡すと早速と言わんばかりに齧りつき始める。
美味しそうに咀嚼するミュウを横目に串焼きを見つめるレイアにダンテが言ってくる。
「貸しを作ろうとかじゃないから、というか、今更、レイア達に貸しがどうとか言わないでも充分に事足りてるよ」
思わず、肩が落ちるレイアであるが確かにダンテの言う通りだと思い、齧り始めるとスゥが前方にある宿屋を指を指す。
「とりあえず、部屋を取るの」
みんなの了解を取るとスゥに連れられるように宿屋に入っていった。
部屋を取ったレイア達がベッドに腰掛けて落ち着く。
ダンテがジッとレイアを黙って見つめてきて落ち着かなくなり質問を投げかける。
「それでさ、街がおかしいって言ってたけど何がおかしいんだ? アタシには普通としか言えないと思うんだけど?」
「普通に思えてしまうところがおかしいんだけどね」
えっ? と聞き返すレイアから隣にいるスゥに頷いてみせるダンテ。
スゥはダンテに変わり、説明を始める。
「さっき、屋台で串焼きを買っておかしい、って思わなかった?」
「別に……特別美味しいという訳でもなかったけど普通だったと思うけど……」
レイアならそう答えると思っていたらしく特別反応を見せずに続ける。
「レイア、お金の価値ってどうやって決まるか知ってるの?」
「えーと……確か、国と国が保証しあって、だったっけ? 昔に習ったから自信ない」
「うん、最初はそうだったけど今じゃ、大陸と大陸でも保証しあってるね。ザガンでも同じ貨幣だったからね」
レイアの言葉にダンテが返事をしたのを聞いてスゥも頷く。
何故、いきなり昔に習った内容を質問されるのだろうと難しい顔をするレイアにスゥが話す。
「これでも私は王族なの。だから、私達が使う貨幣の分布をほとんど理解してるの。でも……空に浮かぶ島にまで流通してるという話を聞いた事がないの」
スゥが言う空に浮かぶ島に流通以前に存在すら初めて知ったスゥは頭を痛そうにする。
ここまで聞いてやっとスゥとダンテが言いたい事にレイアも辿りつく。
「そ、そうか……さっきの串焼き、普段使ってるお金で買えた」
「うん。スゥはここの事を知らずにいた。僕も結構、世界や地図なども勉強したつもりだけど聞いた事もない場所で同じ貨幣で同じぐらいの価値として使われている」
やっとダンテがレイア達に串焼きを奢った理由に行き着く。
実際に支払う場面で受け取った時に店員は疑問を持った様子もなかった。
「どういう事なんだよ、ダンテ!」
身を乗り出してくるレイアをチラリと見たダンテはソッと目を逸らす。
「推測は出来る……けど思った自分自身がおかしいと感じてる」
「街だけでもなく不思議な事が多いの。アリア達の動きをジッと待ってるのは芸がないの」
スゥの言葉に頷いたダンテが続ける。
「アリア達との合流を最優先するけど時間がある限り、調べてみようと思う。どうも引っ掛かるんだ」
街があり、質問する相手がいるのに情報を集めないで動き始めるのは4年前の失敗を思い出すと言ってくるダンテの言葉に3人は頷く。
こうして、レイア達はアリア達と合流する間に空に浮かぶ島の事を少しでも調べようと早速、宿を出て通りへと戻った。
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