第77話 とりあえず発見したのですぅ

 大魚の上で胡坐を掻いているレイアが羊皮紙の映る自分達ではない光の点に徐々に近寄っているのに満足そうに頷く。


 たまたまか、大魚が近づく方向に泳いでくれているので合流出来そうだとレイアとミュウは笑みを浮かべ合う。


 そのまま前方をしばらく見ているとレイア達が転移した場所より、ずっと大きな島が目に飛び込んできた。


 見つけたのが嬉しいのかミュウに指を指して喜びを見せる。


「ミュウ! あの島にアリア達かスゥ達がいるんじゃね?」

「がぅ、それより水が無くなったから早く降りたい」


 寝そべりながら水筒を逆さにするが水が出ない事が悲しいのかポテと手を降ろすミュウにレイアが苦笑いを洩らす。


 ビーフジャーキーのような塩辛いモノばかり食べた結果、水をがぶ飲みしたミュウはすぐに水を切らした。


 ミュウは生活魔法の火と風しか習得しておらず水が出せない。


 レイアも似たようなもので口を濯ぐぐらいの水が精一杯だったりした。


「水、大事……今度、真面目にダンテに習う」


 火は調理に必要だから覚えたが水は色んな場所で確保する術を得ていたので覚える気がなかった。


 砂漠ですら水がある場所を鼻で発見出来るミュウであるが、今回のようにどうにもならない事態があると理解したミュウは真剣に学ぶ覚悟を完了させた。


 レイアもそうだが特に学習から逃げる傾向のあるミュウがやる気になるのを見て、自分も普段と違うモノを学ぼうかと思っていると大魚がアリア達かスゥ達の組み合わせがいると思われる島を逸れ始める。


「おい、こんな所で方向転換するなよ!」


 後少しでレイア達であれば跳び移れる距離まで来たのに、と慌てたレイアが大魚の背を拳で叩くが相変わらずの手応えの無さであった。


 あたふたするレイアの肩を叩くミュウが後方に指を向ける。


「船、舵。魚、尻尾」

「尻尾? ああ、そういう事か!」


 ミュウの言いたい意味、船なら舵を操れば方向転換が出来る。魚のその役割をするのは尻尾だと理解したレイアは尻尾の方へと駆ける。


 レイアを追うようにミュウも駆け寄ると2人同時に尻尾に跳び付く。


「ま、曲がれぇぇ!!」

「がぅ……がぅぅ!!」


 全身の力を使って尻尾を動かそうとするが所詮は脳筋の2人は普通であれば気付ける事に気付けてなかった。


 10m超えする大魚の推進力の大半を司る尻尾の筋力、そして重量を考えれば体だけ使った人の筋力では明らかに無理があった。


 無理な事をした結果、当然のように止める事も出来ずに煩わしいとばかりに一気に尻尾を振られて2人は弾き飛ばされる。


 余りの力の強さに弾丸のように吹っ飛ばされる2人は悪運だけは強かったらしく、目指したかった目的地へと吹き飛ばされていた。


「ああああ! でも結果オーライ……じゃないか!」


 勢いが強過ぎるのでこのままでは地面に頭から突っ込んでしまう未来が思い浮かぶ。


 頭が下になるのを避けようとするがその勢いで反転できずに舌打ちするレイアの耳に乾いた音が聞こえる。


「やっぱり無理。風の足場、すぐ潰れる」


 レイアもそうなるとは思っていたが成功しなかった結果を知って歯を食い縛る。


 どんどん地面が近づいてくるのを見て、レイアはホーエンに修行と言われて滅多打ちされるなか見た技を思い出す。


「あれが出来たら助かるかも……やるしかない!」


 色んな攻撃を受けた技の中に倒立したホーエンが開脚して回転し出し、上空に逃げたレイアに飛んで追撃してきた時の事を思い出す。


 それであれば落下スピードを抑えられるかもしれないとレイアは気合いを入れる。


 全身の気を両脚に廻し、180度に開脚する。


 上半身を思いっきり捻り、反動を付けて全身で回転する。


 竹トンボのように一気に回転したと同時に両脚に強い風圧による圧力が一気にかかり、両脚は勿論、股に強い引き攣りを感じる。


 しかし、強い抵抗を受けた事で速度が落ちる。


 その瞬間を逃さないとばかりに腹筋を使って上下を反転させようと試みる。


「あっ、やば……」


 慌てて勢いを付け過ぎたレイアは反転では済まずに止められない勢いで回転しながら落下するかと思われた時、レイアの肩にポンと飛び乗るミュウの姿があった。


 レイアが回転を加えようとした方向と反対側を押し蹴るようにして回転を止める。


「ありがとう! ミュウ!」

「がぅ! ミュウも減速、出来た」


 ミュウのフォローを受けてレイアは体勢を整え、2人は地面に足から着地して土埃を上げて横滑りをしたが無事に着地する。


 無事に着地出来た事で2人はその場に尻モチを付いて緊張したせいか荒い呼吸をしていたので落ち着かせる。


「し、死ぬかと思った……」

「がう、いつか食ってやる」


 安堵の息を吐くレイアと遠く離れて行く大魚に捨て台詞を吐くミュウ。


 辺りを見渡すと飛ばされた時に咄嗟に投げたらしいカバンを見つけたので疲れた体にムチ打って立ち上がると取りに歩く。


 カバンを見る為に下げてた視線の端に見えたモノに反応したレイアは顔を上げ、見た瞬間、目を驚いたように開く。


「ま、街だ!」


 大魚に悪態を吐いていたミュウの耳にレイアの言葉が届いた。


 レイアに駆け寄ってきたミュウが横に並ぶ。


 顔を見合わせると2人は嬉しそうに頷く。


「行こうぜっ!」

「がぅ!」


 落としたカバンをレイアは拾うとミュウと競争するように遠くに離れて見える街を目指して走り始めた。





 しばらく走り続けた2人の視界に街が広がり、遠目にではあるが人を確認したレイアが更に加速しようとしたがミュウが急にレイアの襟首を掴まえて止めてくる。


「待つ、レイア」

「げっ……ゴホゴホ……喉が締まって痛いだろうが!」


 喉を摩りながら止めたミュウに文句を言おうするが無視されて街からちょっと離れた場所で佇む1組の男女を指差す。


 2人とも難しい表情をしながら街を見つめる男女、金髪の少女と見間違うが少年とフルプレートを着こむ赤髪の少女を見て、レイアは嬉しそうに声を上げる。


「スゥ、ダンテ!」


 レイアの言葉に反応して振り返ったのは離れ離れになっていた仲間のスゥとダンテである事をしっかり確認したレイアは本当に安心したようで驚く2人に駆け寄った。

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