第79話 教訓は大事なのですぅ
宿屋を出たレイア達はまずはどこに行くべきかをダンテに質問した。
「どうするの?」
「まずは市場に売っているモノをザッと見ていこう」
スゥに聞かれたダンテがそう答えると気合いを入れるレイアが拳を叩く。
「じゃ、手分けして一気に行くか! ダンテ、何に注目したら……」
「いや、時間がかかるけど全員で一緒に行動しよう。レイア達と合流前に街を出たのは2人だけで対応出来ないトラブルに巻き込まれる恐れを考えたからなんだ」
こういう繊細な対応を求められる恐れがある時にレイアとミュウを野放しにするのは怖すぎるという想いはダンテは口に出さずに胸に仕舞う。
下手に口にすると意固地になる恐れが高い為である。
どうやらダンテの真意には気付かなかったらしいレイアが「そっか」と軽く返事をして頷く。
内心、ホッとしたダンテは3人を連れて通りを歩き始めた。
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とりあえず気になったモノで桃が売られる店を発見する。
ここに至るまでにいくつもの店をスルーしてきたのでレイアの愚痴が酷くなってた事もあり、寄っていく事になった。
本当はもう少し歩き廻って確認してから寄る店を考えたかったが、このまま騒ぎ始められたら目立つので諦めの一手でダンテとスゥは顔を見合わせて溜息を洩らす。
やっと動きがあった事に喜ぶレイアが特攻するように桃が売られる店へと向かうと客待ちしていた女性に銅貨1枚見せて話しかける。
「なあなあ、おばちゃん、銅貨1枚の価値って……もごもご」
早速やらかしを発動させようとしたレイアの口をスゥが抑えにかかる。
ジタバタするレイアを抑えられるのを見てホッとするダンテにスゥがレイア達を単独で行動させない判断をした事を評価するように頷いてみせる。
レイアとスゥの行動に目を丸くした女性は2人を見つめながら言ってくる。
「どうしたんだい? あのお嬢ちゃん達は?」
「いえいえ、さっきまで喧嘩とまで行きませんがじゃれ合ってたので遊んでるだけですよ。それより、銅貨1枚で桃がいくつ買えますか?」
ダンテがスゥの行動とレイアの迂闊な言動をフォローする。
女性はダンテの言葉に首を傾げて隅に置かれた値札を見て納得したように頷く。
「ああ、隅で向きがおかしくなってたから気付かなかったんだね?」
そう言う女性が値札をダンテに見える方向に向け「銅貨2枚で桃3個だよ。銅貨1枚だと1個になちゃうから3個がいいよ?」と笑顔で言ってくる。
なるほど、と頷くダンテであるが当然のように値札の事は気付いており、銅貨2枚を女性に手渡す。
受け取った女性が「良いのを選んであげるね」と笑みを浮かべて紙袋に桃を入れていく。
その動作を見ながら売りモノの桃を見つめるダンテが質問する。
「随分、新鮮そうですけど獲れたてですか?」
「そう、今朝のさ。瑞々しいだろ?」
ドヤ顔をする女性に若干苦笑するダンテが頷くと桃が入った紙袋を手渡してくる。
「ありがとうね! また寄ってね」
「はい、また桃を食べたくなったら寄らせて貰います」
ペコリと頭を下げたダンテは3人を連れて店を離れて、再び、店巡りを開始した。
それからも似たような話をしながら店を廻ったダンテ達。ちなみに今回はスゥに失神させられる前に手を外して貰えた。
前回の事を覚えていたダンテがスゥを止めたからであって2人の成長ではないあたりが悲しさを覚える。
通りの中央にある噴水広場でダンテ達は腰を降ろしていた。
「通りの店の調べはこれぐらいでいいとして……」
そう言いかけたダンテの袖を引っ張るミュウが真面目な顔をして覗き込んでくる。
「桃、早く食べないと駄目になる。おやつの時間」
「……はいはい」
紙袋から桃を取り出し、ミュウ達3人に配るダンテは肩を竦めた後、考え始める。
ミュウ達に食べながらでいいから話を聞いて欲しいと告げて話し始めた。
「やっぱり、おかしいよ。お金だけでなく売ってるものも」
ダンテがそう言った瞬間、桃を齧っていたレイアとスゥが激しく咽始める。
「おい! だからダンテだけ食べてないのかよ!」
「そうなの! 私達で実験してるの!?」
レイアとスゥが詰め寄ってくるのにタジタジにはなるが、すぐに持ち直すと首を横に振る。
「いや、僕自身の判断ではあるけど、食べて害があるという話ではないと思っている。何より……」
「何より?」
ダンテの言葉を促すレイアから話に介入してこないミュウに目を向けるダンテ。
目を向けられたミュウが食べ終えたらしく、指をペロペロと舐めるとレイアとスゥの間に顔を差し込んでくる。
「がぅ、レイア、スゥ、食べないならミュウ食べる」
一口、二口、齧った程度の桃にターゲットロックオンするミュウが唾を飲み込む姿を見てダンテが頷く。
「何より、ミュウが危険だと感じてないから害はないと思うよ」
「なるほどなの」
状況証拠だけで言われていれば不安を感じたレイア達であったが、長年の付き合いでミュウの鼻の良さとカンには強い信頼を寄せていた。
今までミュウが大丈夫と言ったもので駄目だった事もないし、ミュウは問題はないが他の面子だったらお腹を壊すとかの線引きにも定評があったのでダンテの説明は素直に頷ける内容である。
レイアとスゥが安堵した様子を見せると食べるのを止めていた桃を齧り始める。
桃を食べ始めた2人を見てミュウが「ミュウの桃……」と悲しげに地面に四肢を付く。
いつの間にか自分の桃と認識してたらしく、本気で悲しがるミュウが涙目になってるのに苦笑するダンテが話しかける。
「どう? 新鮮で美味しかった?」
「がぅ、美味かった……変、おかしい」
ダンテとミュウのやり取りを聞きながら桃を齧っていたレイアとスゥが思わず噴き出す。
咽る2人の背中を困った笑みを浮かべるダンテが摩りながら「害があるという話じゃないって言ったでしょ?」と言うが短い間に2度も咽させられた2人はダンテを恨めしそうに睨んでくる。
その2人の視線から逃げるようにしてミュウを見るダンテ。
「やっぱりミュウも同じ事に気付いた?」
「がぅ。今、桃が取れない。他にも売られてるの、実になるのずっと先のがあった」
ミュウの言葉に頷くダンテにレイアとスゥが「どういう事?」と質問してくる。
ダンテは桃や店先に並んでいた不自然と感じた商品を思い付くだけ口にしていくとレイアはまだ気付かないようだがスゥが気付いたようで短く息を吸う。
「確かにおかしいの。今の季節には出来ないモノが新鮮なのがおかしい……」
新年祭をペーシア王国で過ごし、それからしばらくしてから旅立った。ザガンでヒースを待つ為に1カ月を過ごし、ゼグラシア王国に行った期間などを考えると今の季節は春であった。
手にしてた桃を見つめるスゥが呟く。
「確かに早い品種だったらギリギリ春で実になるのがあるかもしれないの。でもこれは間違いなく早くても初夏にしか出来ないはずなの」
「そうなんだ。季節感を無視した商品が当然のように置かれている」
漸く理解が追い付いたレイアが納得するように頷いて警戒が薄れた瞬間を狙って桃を一齧りしたミュウが言ってくる。
「ああっ! アタシの桃!」
「それ以外にもおかしい。海の魚、海の匂いしない」
「あっ、やっぱりそうだったんだ。僕もそんな気がしてたけど、さすがはミュウだね」
桃を奪われたレイアがミュウの激しく揺さぶるがシレっとした顔したミュウが咀嚼してゴックンと飲むのを見た瞬間、項垂れるレイア。
ああいう所があるからイマイチ信憑性を疑いたくなるが食べ物関係、鼻やカンがモノ言う場面でミュウを超える信頼を寄せる相手をダンテは知らない。
ミュウが言うようにダンテの鼻ですら海の魚だと分かるのに川の魚だと思える匂いを嗅ぎ分けていた。
同じようにミュウも思ったか確認すればはっきりするだろうが違いがあると分かれば今回はいいと判断して聞き返さない。
匂いはともかく、本当に海の魚だとして転移装置を使って漁業をしてるとする。
魚は桃より傷むのが早いから毎日のように仕入れないといけないを踏まえてみんなに話す。
「アリア達と合流した後の話になるけど、出れるなら一旦、出た方がいいかもしれない」
「マジかよ? ただでさえホーラ姉達に遅れを取ってるんだぜ?」
「馬鹿レイア! 今回、調査に出るとなった時に言った事を忘れたの? 4年前と同じ失敗をしないように、と言ったの!」
4年前のゴブリン退治のつもりで向かった先で、依頼内容と違う展開になり引き下がれなかったレイア達が強行してホーラ達や雄一に迷惑をかけた事もあるが周りにも迷惑かけた。
村人もそうだが、レイア達の危なかしさに気付いたミラーが根回しした事で各署に迷惑を多大にかけ、実は、終わった後、関係部署に頭を下げてレイア達は廻った。
その時に熱くならずに引ける時は一度、引いて考えるという大切さを学んだはずだがレイアは綺麗に忘れて強行したのでスゥに叱責を受けていた。
思い出してバツ悪そうに鼻の頭を掻くレイアに優しく頷くダンテ。
「思い出して悪かったと反省出来る内に気付けて良かったよ。話を戻すけど、野菜にしろ、魚にしろ、新鮮なものを入荷しようとしたら搬入する馬車なり、僕達が乗った大魚みたいなのがあるはずだ」
「つまり、この街がある場所から出るルート、運が良ければ転移装置へのルートが発見出来るかも?」
スゥの言葉に頷くダンテがレイアとミュウを見つめる。
「今までうろついてる間に搬入されてる動きはなかった。おそらく店が空いてるのも2時間ぐらいだと思う。それまで散開してそのような動きがないかだけを見て廻る。決して自分1人で勝手に介入、話しかけたりしないようにね?」
「閉店までだけなの? 開店前も確認するよね?」
「うん、そこでも確認するけど一旦、閉店しだしたら宿屋に集合ね?」
ダンテがそう締めくくるとレイア達は噴水広場からバラバラに行動を始める。
みんなを見送るダンテは1人難しい顔をしていた。
確証もない事もあるし、みんなの不安を煽る形になると判断して口にしなかった事。
「冒険者ギルドや貴族といった統治機構らしきものが一切見当たらない。しかも住宅地らしき場所に生活臭もない」
通りの店は活気はあったが路地裏から見える住宅地だと思われる場所で人が歩いていたりする光景が一切なかった。
これだけ平和な雰囲気があるから統治機構がない、とレイア辺りなら言いそうだが、人が集まる以上、纏める存在、解決する存在がどうしても必要になる。
レイア達と合流する前に街の周囲を見て廻った時に果物が自生してそうな森もなく、畑すらなかった。
「どう考えてもおかしい。島が空に浮き、大魚が空を泳ぐからそれぐらいと思うべきかもしれないけど……僕の考え過ぎだといいんだけど」
これ以上は考えても答えが出ないと判断したダンテは3人が向かわなかった方向に歩き始めた。
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次の日、陽もまだ上がらない早朝、ダンテ達は相談しあった噴水広場から閉まっている店を眺めていた。
結局、あの後、見廻ったが搬入があった形跡がなく、宿に戻ると早めに就寝して早起きして見張りに着いていた。
全部の店が確認出来る場所があればいいが、ホーラでもないと高い所から見渡して完全に網羅するのは無理なので見えない位置はミュウの超感覚頼りにする。
しばらくして店が一斉に開店した。
その店先を見たダンテ達は目を剥き出しにして驚いた。何故なら、店先に並ぶ商品が明らかに獲れたての瑞々しさが遠目にもはっきりと分かった為である。
「……どういう事なの? 搬入された形跡はなかったの。まさか全部、深夜に?」
「がぅぅ、それはない。あったらミュウ分かる」
深夜の静かな時間に人の出入りが沢山あればミュウなら確かに気付けると思ったスゥが認めたくはなさそうだが頷く。
気持ち悪そうにするレイアやスゥとミュウを見つめていくダンテが言う。
「想定以上の状況みたいだ。なるべく早くアリア達と合流しよう」
カバンから羊皮紙を取り出し、アリア達の居場所を確認するとダンテはレイア達を先導して入ってきた方向とは違う街の出入り口を目指して不自然と思われない程度に早歩きをして向かった。
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