幕間 男の自己満足と女の叶えてあげたい望み
ナイファ城の王の間に10名程の男女が集まっていた。
そこにある玉座に座る赤髪の少年、王は難しい顔を見せながら口を開いた。
「それでは始めましょう。まずは報告からお願いします」
少年王の言葉に頷いた商人風の糸目と男は一歩前に出る。
周りに居る者達、1人ずつ目礼するように目を合わせて最後に少年王に頭を垂れる。
「結果から申し上げるとゼグラシア王国の壊滅の危機は免れました。ゼグラシア王国の王子が行動的だったので彼等に上手にその事を知らせる必要が無くなった事で時間の短縮、何より危機感を煽れた事でクロを使う事に躊躇させなかったのが良い方向に導かれました」
かなり際どかった、と付け加える糸目に少年王は報告書を眺め、苦笑しながら頷く。
「しかし、キングの成長とクィーンの復調で良い事づくめのようですが……」
「正直なところ、ここでダウトカードを切ってくるとは思ってませんでしたね……」
少年王の言葉に繋げるように話し出す妙齢の美しい赤髪の女性はトランプのカードを裏向きで見せ、そのままトランプの山へと返した。
それを見ていた剃髪の男前な大男が返したトランプを引き抜き、表返すとスペードの10を見てニヒルに笑ってみせる。
「ワイルドカードと思わせたが似て非になるモノという紛い物だったな……それで俺は聞いてないのだが、アイツ等があそこ、ゼグラシア王国を壊滅したかった理由とはなんだったのだ?」
「1つは『ホウライ』の活動し易い世界に近づける為。ダウトカードの経験値稼ぎ。最後の本命は……」
剃髪の大男に答えたのは少年王であったが、最後の言葉に自信が持てないのか、それとも躊躇う理由があるのかは少年王の胸の内だが黙り込む。
少年王が語った内容までは剃髪の大男にも想像が付いており、その先が知りたかったので少年王を促すが剃髪の大男の隣に立つ糸目の男が代わりに答える。
「ワイルドカードの生存確認でしょうね。生きているなら子供達が危機に陥り、しかも自分の偽者が現れたとなれば嫌でも出てこざるに得ない、そう考えたのでしょうね」
糸目の男があちら側にとって何より恐ろしく、どんな策略も力任せに引き千切られそうと憎々しく思っているだろうと語る糸目の男に剃髪の大男は更に質問を重ねる。
「それで、今回の件で向こうがどう判断したとお前は思ってる?」
「私の判断ですか? そうですね……普通に考えたら死亡説が有力になっていると思うでしょうが、最後のあのオーラの力が出た事をあの服が為したと考えるかどうかでしょうか?」
「そうですね、私もまだ疑いが晴れずにグレーゾーンと判断します」
糸目の男の言葉に赤髪の女性も追従する。
その言葉を受けた剃髪の大男は露骨に溜息を零す。
「そうなるとアイツにはこれからも厳重に自重して貰わないといかんな? この事に関してはすぐ暴走しかねない……」
剃髪の大男がそう言葉を洩らすと同時に少女2人の笑い声が生まれる。
その場にいる者達の視線が2人の少女に集中した。
金髪で頭頂部に自己主張の激しい一房の髪を靡かした少女と金髪の少女より少し年上に見える青髪の少女が奥のテーブルを背にしてこちらに顔を向ける。
「プップゥ、そんなお馬鹿な事をしないのですぅ。覚悟が決まれば、テコでも動かないのですぅ」
「クスクス、そうですね。進む先を見つめたあの方は寄り道をされません」
ドヤ顔する金髪の少女より大人の色香がかすかに香る髪の掻き上げ方をする青髪の少女。
どちらも決まったかのように見えるがその場にいる者達は苦笑する者、頭痛がするのか頭を押さえる者の二通りに分かれた。
苦笑する側であった赤髪の女性がハンカチを取り出すと2人の口許を拭ってやる。
「急いで食べられるから口の周りが汚れてますよ?」
拭われた2人は真っ赤に顔をして、クッキーなんて食べてない、知らない、と必死に言い訳するが背後のテーブルの上にある大皿にあったクッキーはほとんどなくなり、テーブルの上に食べカスが散らばっていた。
隠蔽工作も碌に出来ない2人が顔ビッシリに汗を浮かせるのを見て憐れみを感じるのかその場にいる者達が頭を撫でたり、優しく肩を叩く姿が見られた。
「あれれ? 何やら慰められてませんか?」
「ぶ、侮辱なのですぅ!」
プンプンと怒る金髪の少女に連れられて歩く青髪の少女は少年王の前に向かい、2人して右手を開いて見つめる。
「もう帰るのですぅ! ここまで来たお駄賃を要求するのですぅ!」
「えっと……クッキー全部食べられましたよね?」
金髪の少女の脇を覗いて後ろのテーブルの上にある皿の上に何もないのを確認する。
「いえ、アレは行きのお駄賃……私達が要求しているのは帰りのお駄賃です!」
2人は自分達の理論は完璧だと鼻息荒く言うのに諦めた様子の少年王は懐からグルグルキャンディを2本取り出す。
それを見た2人が強奪するようにして天に翳してキャッキャと嬉しそうに声を上げる。
みんなに大きく手を振って「バイバイ」と気楽な事を言ってのける2人が王の間を出て行こうとするが糸目の男が呼び止める。
「お待ちを。本来、来るはずだった彼の代わりに来た理由を聞いてませんが?」
「ん~、『行きなくない……』と言ってたから来たのですぅ。理由を聞こうと思って部屋に行ったら壁に向かって三角座りしてブツブツと言ってるのですぅ?」
「呟いている内容が『俺は人並。ま、マヌケなんかじゃないんだ……』と言ってるのですが何の話かは分かりません」
まるで新兵の罹る病気のようにブツブツ言っているらしい。
2人は事情が分からないようだが、大まかな報告を聞いていた他の面子は何が原因で心の病になったのかを知り、苦笑いを洩らす。
自分達の用はなくなったと判断した2人はスキップしながら王の間を後にする。
2人が出ていったのを確認した後、糸目の男が大きく溜息を零す。
「丁度、彼女達がやってきたから言っておきます。私達、私の親友と主導させてもらっている今回の計画で一番読めないファクターは……彼女達です」
ここぞ、という時に行動を起こし、何をしでかすか読めない、と糸目の男は口にする。
勿論、問題を先延ばしにするだけになったであろうが、一応の解決を迎えられた選択肢も土壇場で彼女達に阻止された。
顎に手を添える剃髪の大男は思い出すように呟く。
「確かにそうかもしれない。俺との戦いの時、アイツは最後まで意地を通して封印を死んでも解かなかったであろう。しかし、あの2人がどの程度考えてたかは分からんが、その考えを選ばせたのは……」
あの2人だったと眉間に皺を寄せる剃髪の大男は肩を竦める。
雁首揃えて悩む男達を赤髪の女性はクスクスと笑いながら眺める。
それに気付いた少年王は首を傾げて何故笑うか問いかけた。
「どうして男は裏の裏を読みたがるのかと思いましてね? 真実は意外と目に映るモノと言う事です。彼女達はもう邪魔をしたりしません」
まだ分からない様子を見せる男達を見て、半端に頭が切れる男というのはこういう事を見落とすと赤髪の女性は経験で知っていた。
ここにパラメキ国の小悪魔がいれば、この場にいる男達をからかっただろうが赤髪の女性は可愛く笑うに留め、掌を叩いて注目を集める。
「悩んでもしょうがない事はお暇な時に。次の予定はどうなっていますか?」
「……ふぅ、次は『風』のはずです」
赤髪の女性の言葉に答えた糸目の男は少し悔しそうにする様子が珍しく、赤髪の女性は嬉しそうに目を細める。
「では、次の行動の準備に取り掛かってください」
状況は劣勢と判断した少年王はそう言って話を終わらせ、解散を言い渡した。
▼
糸目の男と剃髪の大男を送り届けた黒髪の男女はホームであるダンガにある降り立つ。
いつもなら愚痴や甘えるような言葉を吐く女性が大人しい事に首を傾げる男性が問いかける。
「どうかしたのかい?」
「うん……あの2人が邪魔したりしない理由って何かな? って思って」
隠れていた訳ではないが部屋の隅にいた2人もその時の会話は聞き耳立てなくても聞こえていた。
男性も同じ疑問を思っていたので何気なく問いかける。
「あれは僕も気になってたんだ。分かったの?」
「多分だけどね」
どことなく自信なさげ、いや、良く見ると恥ずかしそうに頬を染める女性の姿があった。
余計に気になった男性が教えて欲しいと頼み込むと嫌そうに溜息を吐くが渋々話してくれる気になったようだ。
「つまり、全ての悲しみ、苦しみを1人で受け止めてみせる、というのが男の悪い病気なわけ?」
「そうはっきり言われると恥ずかしいけど、あながち間違ってないかな? で、女の子は?」
問いかけ直す男性に返事をする。
「みんなの幸せ、そして何より愛する人が笑って暮らせる未来を実現させる。その方向に歩き始めているのを邪魔したりはしない」
最近、この考え方が理解出来始めた、と顔を真っ赤に赤面させる女性に困った視線を向ける男性。
難しい顔をする男性であるが、今は考えてもしょうがないと首を横に振った後、話しかける。
「答えは気になるけど先に報告しにいかないといけない人達がいるから急ごうか?」
「本当に面倒臭いわね。こないだも休みの申請を蹴られたし……やっちゃう? 私達の幸せの為に?」
先程までの乙女な空気を発してた人物と同一人物か疑う女性が邪悪な笑みを浮かべる。
その様子を見ていつもの彼女に戻ったと嬉しくないはずなのにホッとする男性は女性を宥めながらダンガ冒険者ギルドへと歩を進めた。
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