4章 天空の大陸物語

第65話 とんでもない所に行く事になったのですぅ

 ゼグラシア王国からザガンに戻ってきたホーラとポプリは真っ先に訓練所に向かった。


 最下層に到着し、マサムネの復活の確認後、次の行き先の話を聞き出す為である。


 到着するとそこには復活を果たしたマサムネの姿があり、ホーラはイーリンとアンをシメずに済んだなと思い、鼻を鳴らす。


 当の本人達がいない事をマサムネに問うと「下手に弄られたら困るので正しい知識を持って貰う為に資料室を解放したら引き籠った」と弱った顔で伝えてくる。


 生きてるならどうでもいいと本音で言い放つホーラはマサムネに向き合う。


「無事だったようで良かったさ。で、次の行き先を教えな」

「教えな、って……もうちょっと優しい言葉があってもいいと思うんだけどね……」


 相変わらず器用な立体映像のマサムネは肩を竦める。


 そんなマサムネに音速の動きで魔法銃を抜くホーラ。


 少し慌てた様子を見せるが立体映像であるマサムネが撃たれたところで困る事にはならない。

 呆れた様子を見せるマサムネは両手を上げて諦めの溜息を洩らす。


「はぁ……前より気が短くなってないかい? まあ、いいや。向かう先は風の精霊神殿」


 そう言うマサムネが虚空に指を指すと地図が現れ、指差した先が点灯する。


 点灯された場所を覗き込むように眺めるポプリが眉を寄せながらマサムネに質問する。


「旧シキル共和国の東の海のようですがここに何かあるという報せは受けてませんが?」

「まさか、海の底とか言わないさ? 水の精霊神殿ならいざ知らず」

「勿論、そんな事は言わないよ。ここにある一定の魔力がないと感知すら出来ないものがあるんだよ」


 マサムネがワザと言葉を濁している事に当然のように気付くホーラ達は顔を見合わせる。


 再び、魔法銃を突き付けてくるホーラにヤレヤレとばかりに首を振るマサムネを見て、やはり効果がない事を知り、舌打ちする。


 苛立ちを見せるホーラの肩を叩くポプリが「任せて」と笑みを見せる。


 ニッコリと笑って近寄るポプリに言い知れない恐怖を感じたようで後ずさるマサムネ。


 逃がさないとばかりにマサムネの顔に向けて手を伸ばすポプリ。


「まさか掴む気かい? 掴める訳ない、だって、僕は立体映像……あれ? あれあれ……なんか痛い?」


 一言、「痛い」と口にした直後、マサムネは急に痛がり始め、ポプリに耳を引っ張られるようにして涙目にされる。


 事態が飲み込めないホーラと痛いから引っ張らないで、と嘆願するマサムネ。


「ど、どうして僕に痛みを与える事ができるの!?」


 相変わらず引っ張るのを止めずに微笑むポプリと必死にポプリに問うマサムネを交互に見つめるホーラ。


「アタイも知りたい。どういう事だい?」

「僕も! 後、手を離して!」

「そうですねぇ……先程、伏せた事を全部話してくれるのであれば?」

「分かったっ! 話す事が許された範囲であれば何でも答えるから!」


 マサムネが降参した事を確認するとポプリは手を離してやる。


 漸く離して貰えたマサムネは引っ張られた耳を撫で、「この子も違う意味で怖い……」とボヤキつつ、ポプリから距離を取った。


 マサムネの様子を見ながら苦笑するポプリは説明を始める。


「そんな難しい話じゃありません。初めにホーラに魔法銃を突き付けられた時、害がある訳でもないのに怯える素振りを見せたのがひっかかりです」

「はぁ? 突然だからビックリしただけじゃ?」

「ああ……そういう事か……」


 まだホーラには伝わっていないようだが、マサムネには通じたらしく「やられた……」と項垂れる。


 理解が追い付かずに取り残された事に苛立つ様子を見せるホーラに苦笑するポプリは指揮棒のような杖をホーラに突き付ける。


 突き付けた杖の先が赤く輝くのを見てホーラは表情を硬くする。


「何をする気さ……」

「説明の簡略化よ」


 ほくそ笑むポプリから後ずさろうとするホーラに向かって杖から生まれる赤い光が爆発するように放たれる。


 逃げるのが無理と判断したホーラが身を縮める。


 目を瞑るホーラであったが、一向に衝撃がこずに薄ら目を開けると杖を片手に悪戯っ子な表情をするポプリの姿を確認すると胸倉を掴みかかる。


「性質の悪い冗談は止めるさ! こないだ、アンタとやりあったばかりだから本気で焦ったさ!」

「品の良いやり方じゃないけど、まだ分からない?」


 怒れるホーラは「はぁぁ?」と首を傾げるが徐々に冷静になっていく頭がある解答を教える。


 苛立ちを隠さずに頭を掻き毟るホーラはポプリを睨みながら告げる。


「つまり、アンタの杖から赤い何かが出ようとしてたら火の魔法だと思ってしまうさ。そして、それを放たれたと思ったアタイが身を守ろうとしたのは記憶、経験則からきてる」

「そう、魔法銃に怯える素振りを見せたという事は痛みに対する記憶が風化してない事の証明なのよね」


 憮然とするホーラをクスリと笑うポプリ。


 ポプリがマサムネの耳を掴んだように装い、マサムネの動きとポプリが引っ張ってるかのような演技をする。


 すると、マサムネは耳を引っ張られているような錯覚を起こし、耳を引っ張られると痛い、という記憶が刺激されて痛い気がしたという話であった。


 ゲンナリするマサムネを見つめるポプリは楽しそうに笑う。


「マサムネさんがホーラを怖がってくれてたから成功したとも言えるんですけどね。ホーラの連れは何をしでかすか分からない、と疑心暗鬼になってくれたから成功したので」


 フンッと鼻を鳴らすホーラと乾いた笑いを見せるマサムネ。


 負けた、とばかりに両手を上げるマサムネは苦笑いしつつ、話し始める。


「降参。話せる事は何でも話すよ。何を聞きたい?」

「まずはこの場所に感知出来ない何かがあるのはいいとして、そんなに大きな陸地があるとは思えないのですが何があるのですか?」


 早速、質問を浴びせかけるポプリの言葉に頷いてみせるマサムネが答えた。


「その通り、そこにあるのはザガンの街どころか港すら収まりきらない小さな島があるだけだよ」

「じゃ、そこに風の精霊神殿があるということさ?」


 ホーラの言葉に被り振るマサムネは指を天井に向ける。


「風の精霊神殿があるのは空にある。その島にあるのは転移装置さ」


 マサムネの言葉に度肝を抜かれたホーラとポプリ。


 呆ける2人を見つめて一矢報いた事を喜び、マサムネは歯を見せる笑みを浮かべた。

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