第60話 眼鏡をかけてみたのですぅ……ち、知的かもしれないのですぅ
雄一を抜いたテツはリアナを抱えてそのまま通路を駆け抜ける。
お姫様抱っこされたリアナはどこか幸せそうにする様子から余波などの予想外の怪我を負った様子もなくテツはホッとしてみせた。
駆け抜けた先の少し拓けた場所の上にある魔法陣を発見するとその手前でテツは止まる。
止まったテツはソッとリアナを降ろそうとするが少し愚図られる。
困った様子を見せるテツを見て残念そうな顔を見せるとリアナは大人しく降りる気になったようだ。
降りたリアナが魔法陣を調べるように跪くのを横目に辺りを見渡すと魔法陣がある場所からすぐのところに地底湖らしき場所があり、その中央に祭壇のようなものがあるのを発見する。
おそらく、あそこがリアナのような王族の少女が生贄にさせられた場所だと思っていると地底湖から激しい水飛沫を上げて飛び出してくる大カエルがテツ達に襲いかかってくる。
「あれが召喚された魔物か」
鞘から抜かれてない梓の柄に触れた状態で大カエルに向かって飛び出すテツ。
そのテツにリアナが声をかける。
「その魔物の血を魔法陣にかからないようにしてください。時間短縮出来そうなので!」
「分かった!」
飛び出したテツは抜こうとしてた梓を鞘に戻し、柄に触れたまま突っ込む。
大カエルとぶつかるような距離まで来たテツはゼロ距離から梓を鞘から抜くようにして柄で殴打する。
テツの柄による攻撃は体の芯まで響いたらしく呻くように仰け反る大カエルにテツは追い打ちのように廻し蹴りを放つとテツの3倍の身長はある大カエルであったが来た地底湖のほうに飛ばされる。
たったあれだけの攻撃で容易く吹き飛ばされる大カエルをリアナは目を点にして見つめる。
「嘘……テツ兄様は剣士ですよね?」
「こんなのは驚くほどの芸じゃないよ」
リアナからみれば、精通した格闘家がやりそうな事を『芸』の一言で済ませるテツに目を白黒させる。
そう言うが否や、テツは吹き飛ぶ大カエルを追うように飛ぶと今度は本当に梓を抜刀する。
鈴が鳴るような音を一瞬させただけでテツは柄に手を添えているだけにしか見えないリアナは声をかけにくそうにテツの名を呼ぶ。
「て、テツ兄様? どうして絶好の追撃チャンスをフイにされるのですか?」
「ん? もう終わったよ?」
大カエルに背を向けるテツが首を傾げる向こうをリアナは見つめると空中から水面に落ちる直前で大カエルがナマス切りされ、地底湖に落ちていくのに息を飲む。
巨体の大カエルが地底湖に落ちると水飛沫が飛び、その飛沫が顔にかかって漸く再起動するリアナ。
「見えなかった……テツ兄様が鞘から抜いたところを……」
「それよりも短縮出来るってどういう事だい?」
驚くリアナに苦笑するテツはここにきた目的を進める為に話を強引に戻す。
テツにそう言われて我に返ったリアナは恥ずかしそうに頬を染めつつ、懐から片眼鏡を取り出す。
それを右目に添えるようにして魔法陣を触り出すリアナにテツは質問する。
「その眼鏡は?」
目が悪いのかい? と聞いてくるテツにリアナはブルブルと顔を横に振ってみせる。
「いえ、私は目は悪くありません。これは魔力の流れを見る事が出来るマジックアイテムでとても珍しい眼鏡なんです」
リアナが言うには、この眼鏡を使って魔法陣の魔力の流れを変更させて魔払いをしてしまおうという事のようだ。
しかも、この方法でやれば時間短縮も出来るし、魔力の消費は実質、発動させる種火程度の魔力を使うだけ、そのうえ、リアナの血の消費量も抑えられるという良い事ずくめであった。
魔法陣に指を添えて、アチコチに指を這わせていくリアナの唇が弧を描く。
「敵の手を潰すのと、こちらの目的を達成する1度で2度美味しい作戦です!」
「リアナは凄いんだね」
テツに素直に褒められて嬉しそうなリアナが身を捩る。
「褒められて嬉しいですが眼鏡があってこそなので……」
「それでも凄いよ。でも、眼鏡なしで見れたら便利そうだよね?」
そう言ってくるテツにリアナは残念そうに首を横に振る。
「少なくとも人の器でそれが出来るとは思えませんし、出来たという話も知りません。出来るとしたらユウイチ様ぐらいじゃ?」
「そうか、出来たら便利だと思ったんだけど……」
本当に残念そうに言うテツをチラリと見るリアナは陰を感じさせる真剣な表情を浮かべる。
それに気付いたテツが覗き込むようにするとリアナは口を開く。
「便利どころではありません。それが為せる人がいるとしたら……魔法を繋ぐ線を破壊出来ると言う事に他なりません」
「それってつまり……」
生唾を飲み込むテツをしっかりと見上げるリアナは答える。
「はい、その人を魔法で傷つける事は事実上、不可能と言えます」
▼
テツに吹き飛ばされた兵士達が呻き声を上げる場所ではグラ―ス国王は全身を震わせて尻モチを付いていた。
「あ、あれだけいた兵達が……まともに立っている者が1割もいない」
テツの突進に突っ込んだ者は勿論、進行方向に居た者ですら倒れて身動きもままならない状態であった。
グラ―ス国王の傍にはその同等数以上の兵がいるとはいえ、テツが帰れば瞬殺されるぐらいは馬鹿でも分かった。
ずりずり、と来た道に尻を擦りながら下がるのに気付いたデングラが怒鳴る。
「オヤジ! これ以上、馬鹿な事をせずに王族の義務を果たせ!」
「お、親に馬鹿とはなんだ! 私は未来のゼグラシア王国の事を思って!」
吼えるグラ―ス国王にデングラも吼えようとした時、飛び出したレイアがグラ―ス国王の股ぐらの傍の床の拳で叩き割る。
ひぃ! と情けない悲鳴を上げるグラ―ス国王の目を覗き込むように睨みつけるレイア。
「アタシも話では色々聞いた事あるけど、ここまで情けないお父さんを見たの初めてだ!」
「か、勘弁してくれ!」
飛び上がるように立ち上がったグラ―ス国王は来た道を逆走をして逃亡を始める。
逃げたグラ―ス国王に付いていくように数名の兵士も走り出す。
「お待ちください、国王!」
残された100名以上いると思われる兵士は引くべきか留まるべきか悩む素振りを見せるのを見てレイアが再び、吼えようとするがダンテに止められる。
「レイア、もう相手にしてる暇ないよ。あの偽者はもう待ってくれる気はないみたいだ」
「ちぃ!」
舌打ちするレイアが振り返ると額に血管が浮き上がらせた雄一が青竜刀を構えて見せていた。
雄一を覆う白いオーラが徐々に大きくなり、地下の床が震え始める。
「こうなったらクソガキ共をぶっ殺した後、殺されたお前等を見て怒り狂う白髪エルフをぶっ殺す!」
舌舐めずりをして凶悪な笑みを見せる雄一。
偽者と分かっていても、そんな様子を見せる雄一に嫌悪感が隠せないアリア達。
「まずは動けなくしてから切り刻んでやる!」
そう言う雄一が手を翳すと莫大な魔力が集まる恐ろしさに思考が停止しかけるアリア達は固まる体を叱咤して回避行動に移る。
アリア達の行動を見た雄一が嬉しげに口の端を上げる。
「回避なんで出来ねぇ!」
そう言う雄一が翳した手から放たれる魔力波は前方のほとんどを網羅するように放たれる。
当然のようにアリア達だけでなく、残された兵士達も巻き込んで……
雄一の名を絶叫する兵士達と避けられないと覚悟を決めたアリア達は防御態勢に入る横からホッとしたような声が聞こえる。
「師匠の生活魔法ですら対応出来なかったけど……この人の雑な制御なら対応出来そうだ」
巨大な魔力波が襲いかかるなかの呑気な声音の元をアリア達は辿る。
そこには大刀を抱えた少年ヒースが心底安堵した様子で迫りくる魔力波を見つめ、ゆっくりと大刀を大上段に構える。
「シッ!」
短い声と共に大刀を魔力波に振り下ろす。
すると、魔力波を抵抗なく振り抜くと魔力波が消え去る。まさに消失と言う言葉が似合う。
「な、何だと……」
茫然自失の雄一を嬉しそうに見つめるヒースは肩に大刀を載せる。
「師匠の言う通りだ。繋ぐ糸を切ったら魔法が霧散した」
拳を握り締めるヒースは「ヨシッ!」と声に出して喜びを露わにする。
「課題の1つをやっと出来るようになった!」
場違いながら嬉しそうにするヒースをアリア達も驚きを隠さずに見つめ続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます