第43話 私達の代わりに叱られてはくれないのですぅ?
ワナワナさせてた手を握り締め、口を真一文字に結ぶデングラは前のめりになってテツのズボンを掴む。
「ユウイチ様が行方不明とはどういう事だ! 俺様が命懸けで国を出てきた……国に残ってる妹にとってもユウイチ様が来てくれると信じる気持ちだけが心の支えだというのに……えっと、支えなんすよ?」
「すまない、俺達も何も分かってないんだ。遠目でユウイチさんが空間の歪に引き込まれたように見えただけで……」
すまなさそうに言うテツが一瞬だけホーラに目を向けた後、デングラに「普段と同じ話し方で構わない」と告げる。
テツがホーラを見たのは話す気があれば話してくださいという意味と解釈したホーラが嘆息すると口を開く。
「ユウが空間の歪に引きずり込まれるのを間近で見たのはアタイともう1人さ。引きずり込まれたという事実はアタイが保障する。そして……未だに音信不通さ」
ホーラは家を出てからも北川家に雄一の消息確認をこまめにしていた。だが、毎回送られてくる回答は「行方不明」のままであった。
最新の情報源、イーリンとアンから同じ回答を得ていた。
「つまり……ユウイチ様は生死不明で、俺様がダンガに行っても無駄ということか?」
「ユウイチさんに会うという意味では無駄になるかな……」
案外、雄一の代わりにリホウ達が動くかもしれないが、適当な事を言える昔のような立場でもないテツはその事には口を噤む。
絶望するように項垂れるデングラに活を入れるように背中を叩く少女、スゥが眉尻を上げて胸を張る。
「王族が人様の前で項垂れたら駄目なの!」
「ん、それにユウさんを死んだみたいに言われるのは不愉快。きっと生きてるし、帰るのが難しいか、意外と面倒事に巻き込まれてるだけかもしれない」
不機嫌そうにデングラを睨むアリアの言葉に同意とばかりに笑みを弾けさせて頷くスゥ。
手が地面に着いたままのデングラの肩に手を置いてくるレイア。
「アタシは難しい事は分からない。でもな、オトウサンをとても近くに感じるんだ」
レイアは自分を包むカンフー服を抱くようにして顔を伏せる。
デングラはレイアの羽織るものを見て驚く。
「コートだと思ってたが、それはユウイチ様の!?」
驚くデングラの言葉に頷くレイアは懐かしい思い出を思い出すように目を細める。
「こうして自分を抱き締めるとオトウサンに抱き締められてるような気がするんだ。1年経っても変わらずオトウサンの温もりを感じる……だから、きっと生きてる!」
そういうレイアをジッと見つめるデングラに気付き、自分の言った言葉が恥ずかしいモノである事に気付き、頬を赤く染める。
しかし、デングラがレイアを見つめる瞳に嘲りの色はなく、羨望と悔しさが滲み出ていた。
「そうか、お前がレイアだったな……あのレイアか……お前が言うなら本当かもな」
感情を噛み殺した様子で別人のようにおとなしくなったデングラに面喰ったレイアはアリアを見るが首を振られる。
アリアならコッソリとデングラの心の色を見てるだろうと思って見たが、色からでは判別が難しい感情が渦巻いているようだ。
そんなアリア達を離れたところで見ていた年長の2人のホーラが苦々しく顔を顰める。
「何を呑気な事を……アレを見てないから言えるだけさ……」
「ホーラ姉さん」
テツはアリア達に聞かれてないか目を走らせながらホーラに呼び掛ける。
ホーラの声は小さく横にいたテツしか拾われなかったようでホッと溜息を吐くテツ。
テツに止められた時、呆けるようにしたホーラが奥歯を噛み締め、顔を片手で覆う。
「気を付けてください。今回は俺だけで済みましたが……」
「……すまないさ。しばらく口を閉ざしてるから、あの子等の相手は頼んだ」
ホーラの気持ちは察するモノはあるテツは静かに頷くとアリア達の視線からホーラを守るようにテツは前に出る。
そんな会話がなされてるとは知らないアリア達の話は進んでいた。
「ユウイチ様のお力が借りれないとなると国の危機をどう乗り切ったら……」
「がぅ、ならミュウ達が力を貸す。ミュウ達、強い」
ミュウの言葉に頷くアリア達であるが、一瞬は喜色を見せたデングラであったがすぐに表情を暗くする。
「気持ちは有難いが、俺様の動きに翻弄される程度では……」
「そう思う気持ちは分かるの。人とモンスターとは違いがある事もあるけど……」
「口で説明するより、こっちのが早いって」
スゥが説明をしようとするがそれを遮るレイアが構えるとデングラに「立て」と手招きをする。
首を傾げるデングラが立ち上がるとレイアは「こかすから避けろよ?」と告げるとゆっくりとデングラに近づく。
それに慌てて歩行を始めるデングラに笑みを浮かべるレイアが近づくとあっさりとデングラはこかされる。
気付けば天井を見上げている事に目をパチパチさせるデングラが慌てて身を起こす。
「何故だ! さっきまでは掠らせる事も出来なかったのに!?」
「ああ、確かにな。でも、アタシ等、アンタみたいな悪戯された事がほとんどなくて頭に血が上ったから冷静じゃなかったしな」
歩行を使われてると分かれば、そんな入門編程度の歩行に惑わされない、とレイアに笑われる。
まだ信じられない様子のデングラにレイアは意地悪そうな笑みを向ける。
「じゃ、何ならみんなに試して貰う? でも、ミュウなら分からないけど、アリアとスゥは優しくないと思うぜ?」
レイアの言葉に驚くデングラはアリアとスゥを凝視すると冷や汗を流し始める。
何故なら2人が自分の得物を持ってニッコリと笑っていた為である。
「うん、俺様はレイアの言葉を疑った訳ではないんだ。念の為に聞いただけだから証明の必要はないな」
「それでもアタシ等だけでは心配かもしれないけど、テツ兄、ホーラ姉もいるから何とかなるって」
振り返ったレイアがテツに「いい?」と聞くとテツは少し考える素振りを見せた後、頷いて見せる。
「そうだね、ユウイチさんの代わりを務めるとは大口は叩けないけど出来る範囲で手を貸せるよ。いいですよね、ホーラ姉さん?」
「ああ」
テツの言葉に返事を返すのみでホーラは再び、口を閉ざす。
口数の少ないホーラに首を傾げるアリア達だが、テツがデングラに話しかける事で注意を引き剥がす。
「それで君の国はここからどれくらい離れた場所にあるんだい?」
「ソリを使って多分、1週間ぐらい? 6日目でモンスターに襲われて大破して歩いて3日ぐらいで行き倒れたから、それぐらいだと思う」
それを聞いてたダンテが顎に手を添え、考え込む。
「デングラさんが国を出て約10日ですか。すぐに出発したとして往復20日ぐらいかかってる計算になる。国の情勢……少し厳しいかもしれない。そこで、テツさん、ホーラさん」
「なんだい、ダンテ?」
ダンテが若干言い難そうにしてる様子からテツは何を言おうとしてるか察したがダンテの言葉を待つ。
「クロに運んで貰いませんか?」
「確かに急ぐとなるとそれしか手段はないんだが……」
ザガンを見ていると良く分かるが『ホウライ』の襲撃だったりで疑心暗鬼に囚われている人々が大鳥になったクロを見てパニックにならないかと心配していた。
ダンテもそれを分かっていたらしく慌てた様子を見せずに頷く。
「なので、夜だけ移動するようにしたらと思っています。クロなら2日もあれば到着するでしょうし」
「夜か、クロの羽根は黒いから闇に紛れるだろうが……鳥目は大丈夫なのかい?」
テツはダンテの背後にいたアリアに目を向けると鼻息荒めのアリアが胸元からクロを出してくる。
「心配ない。クロは鳥目なんかに負けない」
寝てたらしいクロが辺りをキョロキョロさせるが母、アリアの気合いの入った目で見つめられてビビるが、とりあえず賛同するように「ピーピー」と羽根を広げて威厳を示そうとしていた。
「若干、不安にさせられるけど、選べる手は少ないうえに時間も有限。行くと決めた以上、手抜きはなしだ。今夜に出発するから急いで旅支度を始めて」
テツが手を叩くとアリア達はすぐに行動を始める。
勝手に進む話に呆けていたデングラは復帰するとテツの手を両手で取る。
「兄さん、有難う! ユウイチ様がいないと分かった時、絶望したけど兄さん達なら……」
「感謝は早いよ。俺達の力が及ぶか分からない。全力は尽くすけどね」
気の早いデングラに苦笑いするテツにホーラが声をかけてくる。
「アタイはイーリン達にこの話をしてくるさ。きっちりと仕上げておくようにってね」
そう言うと後ろ手を振ってホーラも家から出ていく。
ホーラを見送った後、テツはデングラを誘う。
「荷物1つもないんだろう? これから必要なものと一緒に買いに行くから着いておいで」
「本当に感謝しかない。兄さん、借りておきます」
テツに頭が上がらないとばかりに頬を掻くデングラを連れてテツ達も家を後にした。
▼
それから数時間後、日が暮れ始め、出発する直前、ザバダックの家に1人レイアが机で必死に紙の上でペンを走らせていた。
「レイア? そろそろ出発だよ?」
入口から声をかけてくるダンテに「分かってる!」と返事をするレイアはついに書き終える。
すぐに荷物を背負うと家を飛び出していった。
誰もいなくなったザバダックの家のテーブルの上に一枚の紙だけが残される。
『ヒースへ
アタシ達はザガンの北にソリで1週間ぐらいの距離にある『セグラシア王国』に向かってます。
本当はヒースの帰りを待ちたかったけど、その時間が惜しい事態が起きたのでごめんなさい。
でも、アタシ達は必ずザガンに戻ってくる。
だから、アタシ達を信じて待っててくれると嬉しいかな、下手にこっちくるとすれ違いになるかもしれないし……
後、あの晩の時の事、アリアも反省してます。許してくれると嬉しいな。
アタシはヒースの事……
ああ、もう何て言えばいいか分からない! とりあえず、また会えると信じてる。
行ってきます。
レイア』
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