第42話 懲りない才能の持ち主と褒められたのですぅ?

「それで、どうしてユウイチさんを知ってるか聞かせてくれるかい?」


 デングラにそう問いかけた時にテツは自己紹介をしてない事を思い出し、名乗るとアリア達にも促す。


 嫌そうにするアリア達であるがテツに微笑まれると渋々、デングラに紹介していき、アリア達のシメにダンテがした後にホーラが告げる。


「……なるほど、テツさん、兄さんと呼ばせて貰うけど、みんなが強い訳が分かった……俺様は話だけだけどユウイチ様に何度も聞かされてたんで」


 テツを始め、アリア達を順々に見ていき、雄一から聞かされた特徴と名前をすり合わせるように見ていくデングラに少し居心地が悪そうにするアリア達。


 なにせ、雄一がどんな話をしているか分からないという事もあるが興味も尽きない為である。


 興味深そうにテツ達を見るデングラにテツは続きを促す。


 デングラは頷き返すと少し考える素振りを見せる。


「どこから話したらいいっすかね? とりあえず、俺様がユウイチ様と初めて出会ったのは6年前になりますね。それから時折、顔を見せに来てくれてました」


 6年と聞いて、テツ達は意外と付き合いが長い事に驚きを隠せない。


 ちなみにデングラの年はミュウと同じで13歳で7歳の時に出会ったらしい。


「俺様の国の地下には太古の昔から棲みついた魔物がいました。年に一度、生贄を求める性質の悪い魔物でしたが、代わりに水を生み出しているのが魔物と言い伝えされてましてね」

「なるほど、水絡みですか……おそらくアクアさんかレンさん経由で知ったユウイチさんが出張った、という事でしょうね?」


 ダンテが呟くのを聞いたデングラはここまでの話だけですぐ理解したダンテに驚くが、経緯はともかく、アリア達ですら雄一ならきっとそんな魔物を知ったら黙っていないと納得していた。


「まあ、その通りでやってきたユウイチ様が生贄、王家の娘を生贄に出す決まりがあって……生贄として用意された俺様の妹を知って激怒したらしく、ウチのオヤジを問答無用でぶん殴ったところが俺様が初めてユウイチ様を見た時でした」


 デングラが嬉しそうに「凄く吹き飛んだのが痛快だった」と笑い、デングラ自身も納得出来ずに当時から父親である王と仲が悪かったそうである。


 雄一らしいな、と頬を緩ませるアリア達を見つめるデングラが首を傾げながら見渡す。


 それに気付いたダンテが、「どうしたの?」と問いかけるとデングラはおかしいとばかりに身ぶり付きで言ってくる。


「今の流れで俺様が王族と分かるのに何故、誰も驚かない!? 普通、『王子様だったの!』とかあるんじゃねぇ?」


 そう言ってくるデングラにダンテは確かにそれが一般的かもしれないとは思うが家では普通であると思わされて、いかに自分達が普通じゃない環境で育ったか思い、苦笑いが隠せない。


「王族なんて珍しくない」

「まあな……でも、珍しくないと思えるアタシ達がおかしいんじゃ?」

「しょうがないの。これでも私は王女だし、家には女王が2人出入り、住み付いたりしたけど、それが些細と思わせる四大精霊獣がいたりしたの」

「だいたい、自分の事を『俺様』というガキが一般人に紛れて生活は無理さ? 脅かしたいなら少しは身バレを防げ」

「がう!」


 みんなに畳みかけるように言われたデングラは「そういえば、王族の少女が家にいると言ってた」と言い、スゥを見つめる。


「ゆるふわの赤髪の目が愛らしい……さっきから終始、半眼の顔しか見てないから別人かと思った」

「そこのところ、もっと詳しくなの!」


 嬉しそうにするスゥの顔を見て、「なるほど」とニヤけるデングラ。


 それを見ていたホーラの眉が跳ね上がり、手が動きかけるがテツにソッと抑えられ、来る前に言ってた事を思い出したようでバツ悪そうな表情を浮かべる。


「ユウイチさんが僕達、家族の事を何て話をしてたかも興味は尽きないけど続けてくれるかい?」

「へい、兄さん!」


 話を止められた事を不満そうにするスゥであるが、相手がテツである事と本命はそちらだと理解出来ているので引き下がる。


「話を戻しますと、国の為に娘を生贄にするのは当然と主張するオヤジと両方救う為に魔物に立ち向かう、自国の力だけで足りないのであれば他国にプライドを捨ててでも助けを求めろ、とぶつかり合い……愚かにもユウイチ様に軍隊をぶつけようとしまして」

「えっと……どれくらい持ったのかな?」


 勝負にもならずに全滅も有りうるとダンテが冷や汗を流す。


 しかし、鼻で笑うデングラの言葉は予想を超えた。


「0秒。オヤジに召集された軍隊が集まった場所を一瞬で水の壁で覆ったところで、カッコ良く笑うユウイチ様が『やるか?』の一言で決着ですよ!」


 容赦ない、と思うが雄一らしく、人的被害を出さずに相手に折れやすい状況を作る。


 ここでまだ足掻こうとするなら徹底的に潰しにかかっただろうが、その状況で強気でいられるのは狂人ぐらいだろう。


「そして、生贄に捧げる為に連れて行かれた祭壇から俺様の妹を助け出し、その時に現れた魔物、でっかいカエルを一振りで始末したんですよ!」


 あの時の雄一はカッコ良かったと語るデングラ。


 雄一が倒した魔物がいなくなる事で水の問題が出るかと思われたが、実は魔物が水を堰き止めてただけでいなくなると一気に水の豊かな国になったようだ。


 さすがに砂漠化が進んでいたので緑豊かになるのは気の遠くなる時間がいるだろうが、水の心配から解放されたらしい。


「問題解決されたと思うが、と言ったユウイチ様は念の為に確認に時折、来てくれましてね。そして、俺様にユウイチ様曰く、『10年に1人の逃げる天才』と言われて歩行を教わったんですよ」


 それを聞いて、アリア達がゲンナリした表情を浮かべる。


 強い想いを寄せる雄一の+に-にもなる性格の特徴として子供の才能を見ると伸ばしたくてしょうがなくなる性癖である。


「そうか……オトウサンのせいでアタシはコイツに太股に頬擦りされたのか……」


 本当に久しぶりに雄一に怒りを覚えるレイア。


 今日は責めないとばかりに頷くアリア、スゥ、ミュウ。3人も胸、尻、胸と具合に触られていた。


 それにテツとダンテが苦笑いを浮かべながら、気持ちは理解できるが落ち着くようにドウドウと宥める。


 アリア達の様子を見ながら楽しそうに笑っていたデングラであったが、神妙な表情に変わる。


「ですが、3カ月程前から急に水の出が悪くなった。まさかと思い、地下に潜るとユウイチ様に滅ぼされたカエルの魔物が復活、もしかしたら同種なのかもしれないがいた」


 こんな真面目な顔も出来るんだ、と変な感心をするアリア達を余所に続ける。


「ここ2年程、ユウイチ様が来ない事をいい事に俺様のクソオヤジがまた生贄を始めると言い出した……」


 今まで、王族が生贄を出す事で生活が保障されてた事で市民達に絶大な権威があったが、雄一が魔物を滅ぼした事で王族の言葉が絶対でなくなってしまったらしい。


 その栄光を忘れられない貴族達を引き連れて過去の栄光と取り戻そうと動き出した。


 それに反対したデングラであったが、市民の大多数の応援はあったが軍事力は皆無だった為、相手にされなかったそうだ。


「そこで俺様は他力本願だと思うが、ユウイチ様のお力を借りるしかないとダンガに向かう為にザガンを目指していたが……俺様は運が良い! ユウイチ様の家族である兄さん達に出会ったのだから……早速なのですが、ユウイチ様はいずこに? ダンガに居られるのか?」


 嬉しそうにアリア達を見つめてくるデングラの瞳から逃げるように目を逸らすアリア達。


 アリア達の様子から不穏な空気を感じるデングラにテツは告げる。


「ユウイチさんの居場所は俺達も分からない。ユウイチさんは……1年前から行方不明だ」


 絶句するデングラは手と唇をワナワナと震わせた。

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