第24話 オヤツの前に立ち塞がるのなら、横から行けばいいのですぅ
ホーラ達がイーリンとアンを連れて『試練の洞窟』に到着してた頃、『精霊の揺り籠』の最下層で土の邪精霊獣に必死に抗う土の精霊のティリティアが焦っていた。
「あれれ!? あの子の生命活動がドンドン希薄になってない? ちゃんと保護してるはずだから精神はともかく肉体が1,2日でどうにかなるはずないんだけど……人一番丈夫そうに見えたのに……」
心配しているように見えるが簡単に死なせて、切れたホーラ達の相手にするのが面倒だ、ぐらいにしか思ってないティリティアは困っていた。
何か手を施そうと思案し出して手探りでテツの様子を見ていると何かに気付いたような表情を浮かべる。
「更に力を送ろうとしたら弾かれた……なるほど、そういう事ね」
今以上にテツに何かをしてやる必要はないが、土の邪精霊獣の相手だけしてて退屈していたティリティアは取り込まれたテツに何が起こっているのかを知る為に意識を向け始めた。
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漂うような感覚に身を任せているとテツの頬を軽く叩く存在があった。
まだ寝ていたいのに叩かれ、嫌がるように身を捩るテツを追撃するように叩き続けられる。
少しずつ意識が覚醒していき、薄らと目を開くテツ。
目を開くとテツを覗き込むようにした赤いリボンで黒髪を縛った巫女装束の少女が眉を寄せて「やっと起きた」と口をへの字にして見つめていた。
咄嗟にテツは寝ながらズサァという音が聞こえそうな速度を出して後ずさる。
そんなテツに不機嫌そうな表情を見せる巫女装束の少女は文句を言う。
「ウチみたいな可愛い子に覗きこまれて最初にする行動がどうして逃げるなんですかねぇ? 健全な男子なら夢でもいいから、と抱き付こうとかするんじゃないんですかぁ?」
プンプン、と口で言いながら、「ウチはそんな安い女じゃないで撃退しますけど?」とチラチラと見つめる巫女装束の少女を見つめるテツが短く声を上げて指を差す。
「あ、梓さん!?」
「はいはい、優しくて可愛い梓さんですよぉ~」
慌てて、辺りをキョロキョロして見渡すテツ。
見渡したそこは真っ暗な足場がどこにあるかは感覚でしか分からない不思議な場所であった。
だが、テツは落ち着いた様子で呟く。
「ここは前に梓さんと会った場所ですか?」
「そうですよぉ、今回も死にそうになってね。2回とも同じ場所で死にかけるテツ君はここに墓標を建てたいのかな?」
にっこりとは笑っているが額にバッテンさせてテツの目を覗き込む梓。
怒ってる女の子に怯む条件反射が起きそうになるが梓が言った言葉を浸透して顔を強張らせる。
「ちょっと待って、今回も死にそうになってる?」
「覚えてないんですか? あの情けない少年、ヒースと言いましたか? 後先考えない行動をして土の邪精霊獣に取り込まれそうになったのを助けたでしょ?」
梓に言われて「あっ」と声を洩らすテツは思い出す。
「まあ、ここでは記憶や時間が曖昧になりやすくはあるんですけど、そんな死にそうな目に会った事を忘れるとかどうなんですかねぇ?」
「すいません。それで今の僕の状況を聞かせて貰っていいですか?」
真剣なテツが詰め寄るようにして頼みこまれた梓は「近い、近い!」と耳まで真っ赤にさせて押しやる。
押しやられながらも深く頭を下げて説明を求めるテツに溜息を吐く梓。
取り込まれたテツはかろうじてティリティアの力で肉体的には保護されたが、自然と称しても過言でない土の邪精霊獣の中で魔力が濁流に流されるようにするテツは肉体的にはともかく、精神、魂をジワリジワリと削られるようにして死へ一歩一歩と近づいている、と説明される。
腕を組んで難しい顔をするテツが梓に問う。
「意識を取り戻して、その濁流に抵抗できれば、ここから脱出出来ますか?」
「抵抗出来ればね? でも、今のテツ君では抵抗なんて出来もしない。例え、外からの援護があったとしてもね」
それこそ、雄一のような規格外が外から手を貸さない限り、とお手上げという感じに伝える。
「梓さんの力でなんとかなりませんか? 前に力を貸してくれたように!」
「無理ですねぇ、力が貸せないという意味ではなく、一応は仮の契約者になってるテツ君はウチの力を最低限は使えてます。このままではどうにもなりませんねぇ」
梓の言葉に一瞬、項垂れそうになったテツであったが気になるキーワードに気付き顔を上げると梓が気付いた? と言いたげに得意顔を見せる。
「このままでは、と仰いましたか? 何か手があると?」
「ええ、0%を1%にするだけかもしれませんけどねぇ~?」
テツは短く息を吸うと息を止めて、ゆっくりと吐き出した後、迷いの眼差しを梓に向ける。
「ユウイチさんが巴さんから受けたような試練……俺にも受けさせて貰えますか?」
「一応、言っておきますがぁ、失敗は死ではなく消滅を意味しますけど?」
試すように流し目をする梓にテツはビクともしない。
そんなテツに見つめられて、薄らと頬を染める梓はコホンと咳払いする。
「分かりましたぁ。では、契約の第一段階を始めます」
「第一段階? ユウイチさんは一度しか受けてなかったはず……」
テツに言われた梓は呆れたように掌をヒラヒラさせて嘆息する。
「本当は第二段階まであるのをせっかちなツンデレが一気に第二段階までやったんです。まったく常識を知らないですねぇ」
それに応える雄一もおかしい、と嘆息する梓は考え込むテツにまた嘆息すると話しかける。
「自分も! と言いたいかもしれないけど、無理だからね? 自力も足りてないけど……テツ君の覚悟も決まってないよね? 意志を継ぐといいながら、あのホーラって子の言葉に迷ってる状態では、お話にならない」
バシッと言われたテツは悔しそうにするが、優しさと甘さの境界線を聞かれて答えられなかった事実は引っ繰り返らない。
ちょっとキツイ事を言ってしまったかな? と心配げな梓がワザと元気な声を出す。
「でもでも、第一段階であれば条件は揃ってるよぉ? 何をともあれ、これを乗り越えない事には何も為せないから前向きに頑張ろうねぇ!?」
「そう、そうですね、有難うございます。俺には立ち止まってる時間も惜しいはずなのに情けない所を見せました!」
やる気に溢れるテツにホッとする梓だがすぐに表情を引き締める。
「テツ君が言うように時間が惜しい。いける?」
「はいっ!」
腹に力を入れるようにするテツに頷いてみせた梓が両手を天に翳して弄るようにする。
梓が少しビックリした様子を見せるがすぐに破顔させる。
「これは簡単に集まりそうですねぇ。よっぽど、土の邪精霊獣は恐怖させられたという事なんでしょうけどねぇ」
梓の言葉に眉を寄せるテツの前に天に上げてた両手をテツに向けると黒い霧状なモノが溢れだし、何かの形になり始める。
その形作られる物を見つめていたテツの目が驚愕に開かれる。
長い黒髪を後ろで無造作に縛り、自信に溢れる笑みを浮かべ、カンフー服を纏う偉丈夫が青竜刀を手にして現れる。
震える声音でテツは目の前の懐かしく、常にその背中を追いかけた存在の名を呟く。
「ゆ、ユウイチさん!?」
「そうです。ウチからテツ君に与える試練はこの人に一撃を入れることですぉ。ああ、念の為に言っておきますがぁ、本物じゃないので安心して斬り込んでくださいねぇ」
不敵な笑みを浮かべる雄一を見つめて顔色の悪いテツは下唇を噛み締める。
「こ、これ以外の試練はないですよね……」
「当然ですねぇ、選べたら試練って言いませんよ?」
テツとて分かっていたが色んな意味で斬り込み難い相手である雄一に困惑していた。
例え、偽者だとしても雄一に会えた事が嬉しいという想いと同時に締め付けられるような想いを募らせる。
それと同時に心が訴える。
雄一に一撃入れる事など可能なのだろうか? と
プレッシャーから汗を流すテツに梓が言う。
「これは心の試練。心が負けてる状態ではどれだけ実力があろうとも決して試練を突破する事は敵わないですよ?」
梓の言葉に背を押されるようにテツは梓を抜き放ち身構えると委縮しそうになる心に叱咤して飛び出す。
全力で飛び込んだテツが間合いを詰めて雄一を横から斬りつけようとするが一歩も動かない雄一に横に向けている刃を真下から蹴り上げられる。
そんな簡単な蹴りで梓を吹き飛ばされそうになったが必死に握り、手元に引き寄せる。
一瞬、雄一から目を背けてしまったテツが顔を上げると目の前で目を覗き込むようにする雄一がいたのに驚き、後ろに跳躍すると叫ぶ。
「唸れぇぇぇ!!」
テツは梓で放てる全力の竜巻を雄一に放つが余裕の笑みを浮かべる雄一が青竜刀を軽く一振りする。
たった、その一振りでテツが放った竜巻はそよ風にされる。
明らかな実力差を目当たりさせられたテツに梓は更なる残酷な事を伝える。
「そうそう、あの人のギフトは封印され、持ってる青竜刀は巴じゃなくて、タダの鉄で出来た武器でぇ、しかも、今の彼はテツ君より2歳年下だった時の彼ですよ?」
梓から驚きの事実を告げられたテツは慌てて雄一を見つめる。
余裕の笑みを崩さない雄一にテツは生唾を飲み込む。
追ってた背中ではなく、立ち塞がる大きな壁と化した雄一を見つめてテツは途方にくれた。
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