第25話 4か所? そんなにオヤツを隠す場所があるのですぅ?

 イーリンとアンを『試練の洞窟』に放置した次の日、ホーラ達は経過報告を聞く為にやってきた。


 確認の声をかける前に目の前の案件を片付ける必要があると判断したホーラは目を爛々とさせて見えない壁を撫で回して喜ぶ変態2名と右往左往するマサムネに声をかける。


「これはどういう状況さ? もう修理が終わった?」

「やっと来てくれた! そう、修理が終わったと途端、手当たりイジりだして困ってたんだ! もう用は済んだんだから、この2人を外にポイしてきてよ!」

「やっぱり凄いの。自分達に興味がある事になると……興味がないと1時間前に食べた物すら忘れるの」

「ただの変態じゃなかった」


 マサムネとホーラのやり取りを見ながら、アリアとスゥはマッドサイエンスコンビの2人を総評する。


 ダンテ達も乾いた笑みを浮かべる。


 誰1人としてマサムネを見ない、いや、相手にしない事に愕然とする。


 放置プレイされるマサムネの後ろで見えない壁を楽しそうに触ってた変態こと、イーリンとアンがようやくホーラ達に気付く。


「あ、久しぶりぃ、ホーラやん……あれぇ? なんかウチ、ホーラに用があった気がするやけど?」

「それはあれだ。目の前のケツの穴の小さな男が少し調べられただけで、こうやって閉じ込めてきたから助けて欲しかったが、この構造を調べる事と自分で解除するのが楽しくなってどうでも良くなったって話があったでしょ?」


 そうやった、そうやった、と掌を叩くイーリンがホーラに「用ないさかい、帰ってええで?」とおざなりな態度をするがマサムネは必死だった。


「この子達の学習能力高過ぎ! 1日で部品製造から修理までやっちゃうし、今、閉じ込めてるシールドの構造を7割は解いてる! もう時間の問題なんだ、助けてよ!」

「ああ、分かった、分かったさ。アタイ等がここの施設を利用した後で何とかしてやるさ」

「それじゃ遅いよ! 君達が利用が終わる前にあの子達が出てくるよ? 今、あの子達が一番興味あるのがブレーンである本体だからね? そこを下手に弄られたら全機能停止だからね?」

「それって最悪、死んじゃうってことかよ?」


 珍しく、話に着いてこれたレイアがさすがに死ぬのは可哀想だとホーラを見る。


 肩を竦めるホーラが渋々といった様子で振り向いてダンテに伝える。


「あの馬鹿2人を魔法で寝かしちまいな?」

「強引な手ですけど、あの2人を止めるとなるとそれぐらいは必要ですね……」


 そう言うダンテが、キャッキャと楽しげに解析を進める2人の前に立つと強い眠りに落ちる魔法を唱え出す。


 ダンテがそれなりに本気で唱えた魔法だった為、膝から崩れ始める2人であったが、アンは唇を血が出るレベルで噛み締めて、イーリンはドライバーを自分の太ももに突き刺す。


「ウチ等に寝てる間なんてないんやぁ!」

「貴方達はそこまでやりますかっ!」


 2人の行動にドン引きしたヒースが叫ぶ。


 ダンテ達は考えれない展開ではなかったと思うが「本当にやったよ……」と呟く。


 無表情のホーラが近づくと子供を守る獣のように威嚇する2人が膝を着いた状態で見上げる。


「私達は屈しない!」

「そうかい……おとなしく寝ないというなら、アンタ等の研究室をルーニュの遊び場として開放するさ?」


 ホーラの言葉にギョッとした表情を見せた2人が顔を見合わせて頷くと声を揃える。


「「おやすみなさい~」」


 あっさりとダンテの魔法を受け入れて眠りにつく2人。


 それに嘆息したアリアが近寄り、2人の血止めの魔法をかけるのを見つめるマサムネが安堵の溜息を吐く。


「ああ~、良かった。一時はどうなるかと思ったけど色々ありがとうね?」

「それはいいさ、それより、この施設の力を使わせて欲しいさ? 土の邪精霊獣と戦う為にね」


 嬉しそうなマサムネは「こっち、こっち」と案内する為に前を歩き出す。


 そんなマサムネをスゥは目尻に浮いた涙をハンカチで拭いながら見つめる。


「ホーラさんは終わった後、2人を連れ出すとは言ってないの。言ったのは『何とかしてやる』であって、連れ出すとは言ってないの。終わった後の事を思うと……切ないの……」

「分かってるのに何もしようとしないんだね……」


 ヒースに突っ込みを受けるが、ハンカチを仕舞うとスタスタと歩き出すスゥ。


 えっ~! と言いたげのヒースの肩を叩くダンテが「うん、ヒース、行こう?」と言うダンテの瞳は『受け止めて諦めて』と言っていた。


 そういうものか、と受け止め始めるヒースもだいぶ染まりつつあるが、一つ疑問に思う事をダンテに問う。


「ルーニュさんって誰?」

「ごめん、僕も良く分からない。6年一緒に過ごしてたのに何を考えているかというより、存在が分からない」


 本当に分からないと言ってると判断したヒースは、北川家は人外魔境かと一瞬考えるがそう間違ってない。


 ヒースはダンテに連れられ、マサムネを追いかけた。







 マサムネに連れられた場所は小さな部屋、立ってる人が10人いれば狭く感じる部屋に小さな扉が一個だけある。


 小さな扉の前に立ったマサムネが振り返る。


「ここがそうさ、土の邪精霊獣と戦う為の処置室。昔の人は『訓練所』とも呼んだ場所だよ」


 小さな扉を指差すマサムネにダンテが手を上げる。


 それを見たマサムネが首を傾げながら「何かな?」と質問を促す。


「僕の気にし過ぎなのかもしれませんが、邪精霊獣と戦う為ではなく、『土』の邪精霊獣と戦う為の場所という風に今までの説明を聞いてて思えたのですが……」

「うん、その通りだよ。誰にも質問されなかったら答える気はなかったんだけど、各属性の処置室がここ以外にもある」


 マサムネがダンテを見つめて「君は聞き流しがちのところを良く聞いているね?」と褒めてくるがダンテは微妙な顔を受けべる。


 ホーラは眉を寄せて自分が根本的な勘違いをしてた事に気付き、問い詰めるようにマサムネに近寄る。


「処置室と言ったさ? ここで強くなって土の邪精霊獣と戦うという訳じゃないということ? 何を処置するさ?」

「君達は土の邪精霊獣と向き合って何も感じなかったかい? 意識を向けられただけで生きた心地がしない気持ちにさせられた、とか?」

「あっ!」


 マサムネの言葉に反応したヒースは父であるノースランドの体を乗っ取った『ホウライ』に駆け寄ろうとした時にした恐怖を思い出す。


 ホーラ達もヒース程ではないがそれなりに感じてた。


 みんなに心当たりがあると分かったマサムネがニヤリと笑う。


「そう、その感情は畏怖だ。神や大自然のように抗うのが愚かしいと思わされるモノと同じなんだよね。そんな畏怖に怯まされながらでは勝てる勝負も勝てない」

「つまり、その畏怖を中和させる場所がここ?」


 アリアの答えに「大正解!」と楽しげに笑うマサムネ。


 顎に手を添えるダンテがマサムネをジッと見つめるのを見てマサムネは破顔させる。


「やっぱり君は頭がいいね。いいよ、多分、合ってるから言ってごらん」

「では、推測とも言えない話ですが……それだったら昔の人が『訓練所』とは言わないですよね? その由来は?」


 あっ! と声を上げるホーラ達であったがマサムネは手を叩いて喜ぶ。


「君、本当にいいね! 生きてる時代が一緒だったら助手、いや、同士として迎え入れたかったよ!」


 ダンテをべた褒めするマサムネは続ける。


「四大属性、土、風、水、火がある。これは人それぞれなんらかの属性を持っているのが普通だ。勿論、全部ある者もいれば、ないものもいる。この処置室はここで言うなら土の属性を魂に流し込み、加速させる事により耐性を高めるんだけど……」

「高め過ぎる人が現れる?」


 ダンテの推測にその通りと笑うマサムネ。


 付け加えるなら、とマサムネは話を続ける。


「まだ開花してない才能の開花を促す事をしてくれるから強くなり、昔の人は『訓練所』と呼んだんだよ」

「よく分からねぇけど、ここに入れば強くなれるのか?」


 そう聞いてくるレイアにマサムネは「眠っている才能があればね?」とウィンクしてくる。


 黙って話を聞いていたホーラが小さな扉の方に向かって歩き出す。


 慌てるダンテ達にホーラは言う。


「グダグダ言ってても入らない事には結果は出ないさ? なら、ここで喋ってる時間だけ無駄さ?」

「まあ、その通りだね。あっ、でも1人ずつ入ってね? そうしないと入った人数がどうあれ1人と認識して処置するから中に居る人、多分、死ぬから?」


 ギョッとして仰け反るダンテ達に苦笑するマサムネが「一度、扉を閉じて、すぐに開いて入れば大丈夫だから」と時間はかからないと伝える。


 ふんっ、と鼻を鳴らすホーラは躊躇なく小さな扉を開けると中に入っていく。


 それを見て肩を竦めるマサムネはダンテに言う。


「あの子、えらく男前な子だね?」

「ノーコメントを貫かせて貰います」


 無表情で言ってくるダンテを見て笑うマサムネは「やっぱり君とは生きてる時に会いたかった」と肩をポンポンと叩く。


 目の前では次に入るのは自分だとレイアとミュウが争っているのを眺めてダンテはソッと溜息を吐いた。

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