第22話 たまには辛いオヤツも……水ぅなのですぅ
急ぎ、『精霊の揺り籠』から脱出したホーラ達はザガンを目指してソリを走らせた。
ザガン周辺に着いた時には夕暮れ時で、今のザガンでは宿はないし、街中の治安もお世辞にも良いと言えなかったのでザバダックのねぐらに向かい、体を休めた。
次の早朝、時間が惜しいとばかりにすぐに『試練の洞窟』を目指して出発する。
『試練の洞窟』前に到着するが辺りを見渡すレイアは寂しそうにする。
「前に来た時は攻略するパーティで一杯だったのにな……」
「今は、そんな事をしてる余裕なんてない、という事なの……」
レイアと同じように見つめていたスゥも4年前の事を思い出して辛そうに目を伏せる。
それはあの時、一緒したメンバー全員の想いであった。
レイア達が感じる寂寥感なんて関係ないとばかりに前に出るホーラ。
「そんな感傷に浸ってる時間なんてないさ。さっさと行くさ!」
ホーラはレイア達を放って歩きながら「馬鹿テツはしぶといけど、あの馬鹿精霊の根性には期待できないさ」と言う言葉に我に返ったレイア達はホーラを追いかけるように走り始めた。
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『試練の洞窟』に入ったホーラ達は、今回は攻略が目的ではないので最短コースを突き進む。
長い間、突入するパーティがいなかったせいか、安全とされた最短コースといえ、少しはモンスターとの遭遇もあったが障害になるような事もなく地下50階に到着する。
地下50階に到着した時に現れたオークキングとオーク10匹に子供達が身構えるが面倒臭そうに背後からパチンコを構えるホーラが短く唱える。
「込めるは『爆裂』」
そして、放たれた玉がオークキングにぶつかると大爆発が起き、煙が晴れると無残なオークキング達の姿がそこにあった。
消えて行くオークキング達から恐る恐る振り返る子供達は長女を見つめる。
見つめられたホーラは気にした風でもなく、部屋の中央に行くとダンテに振り返って機嫌悪そうに怒鳴る。
「ダンテ! 地下51階へはどうするさ?」
「は、はい!」
慌ててカードキーを挿し込んだ場所へ走るダンテは短く「あっ!」と声を上げる。
振り返るダンテが困った顔しながらヒースに問いかける。
「そう言えば、鍵がない……ヒース、ソロ攻略した時に出た鍵はどうした?」
「あれね……『試練の洞窟』から持って出たら消えたんだ」
それに驚くレイアが「マジで!?」と騒ぐのを見て、同じように驚きそうになっていたスゥが顎に手を添えて予測を口にする。
「もしかしたら、トラップモンスターと扱いが一緒で死んだり、破壊したら消える原理で範囲外出ると同じように消えるのかもしれないの」
「うん、僕も同じ事思ってた。面倒だけど取りに行くしかないね」
ダンテとスゥの考えを否定する材料がない、と一同の意志が統一され、地下39階にあるモンスターハウスに向かった。
モンスターハウスに到着すると前と同じでゴブリンが大量に沸き出す。
それを見たレイアとヒースはやる気を見せる。
「ようし、やってやるぜぇ!」
「ソロ攻略したのは伊達じゃないというのを見せるチャンス!」
ワクテカしか顔をする2人が振り返ると臨戦態勢どころか諦めたような顔をしたダンテ達に目が点になる。
「何してんだ、みんな?」
「何してんだ、じゃない。もうどうなるか予想出来る」
姉のアリアが脳筋な妹のレイアを嘆息し、隣でパチンコを構えるホーラを示す。
引き絞るパチンコを言葉と共に放つ。
「込めるは『爆裂』」
ゴブリンの中央に放たれた瞬間、起こる爆発。
爆風に煽られるレイア達が見つめる先の視界がクリアになると100を超えるゴブリンが倒れ、消えて行く。
シールドで守られてたゴブリンキングとゴブリンクィーン守りが無くなると同時にホーラは何のタメもなく短剣を一本ずつ投げ放つ。
狙い違わず、脳天を貫かれたゴブリンキングとゴブリンクィーンが仰向けに倒れていく。
ホーラは目の前に現れたカードキーを受け取るとアリア達に振り返る。
「さあ、地下51階にいるというマサムネに会いに行くさ?」
「がぅ!」
机のゴミを捨てたぐらいの感覚のホーラにアリア達は着いて行くが、放心したレイアとヒースが見送りながら乾いた笑いを浮かべる。
「あははは……間抜けだよな、アタシ達……」
「はぁ……僕、ソロ攻略、死ぬ思いでやったんだけどね……」
肩を落とした2人はみんなに遅れないように追いかけてこの場を後にした。
地下50階に戻ったホーラ達には再び、モンスターが現れる。
以前、マサムネが言ったように正規の方法で来た者にはグリフォンがお出迎えした。
前回、アリア達を苦戦させたグリフォンであった。
空の王者と言わんばかりに空を駆ける様は相変わらず雄大で飛ばなくても強い事はアリア達は身を持って知っていた。
だが、今度は気楽というかアリア達はグリフォンに同情の目で見つめる。
当然のように身構えていない。勢いだけのレイアと功を少し焦り気味のヒースですら、どこか申し訳なさそうにグリフォンを見つめる。
そんなアリア達に雄叫びを上げる。
「GYAAAA……」
サクッと脳天を短剣を投げられて突き刺さる。
そして、地面に落ちると同時に消えるグリフォン。
「さあ、地下51階の扉を開けるさ」
「あ、はい!」
ホーラがカードキーをダンテに手渡し、色々と悟りきったダンテはカードキーを受け取って挿し込み解除する。
開くように見えなかった場所が開き、そこに初めて来たはずのホーラは暗闇に恐れを見せずにズンズンと中に入っていく。
いくら前にアリア達が入った話を聞いていたとはいえ、躊躇なく入っていく姉の度胸に感嘆の溜息を零しながら着いて行く。
全員が入ると暗かった部屋に明かりが点くと前来た時と同じように眠そうな目をしたマサムネが現れる。
「訓練所、踏破おめでとう!」
ノンビリした声音で締まらない感じで祝うマサムネはボサボサ頭をガリガリと掻き毟る。
マサムネを見上げるアリア達を見て、思い出したかのような顔をする。
「あれれ? 君達は前に来たよね? うわぁ、無駄におめでとう、って言った上に恥ずかし!」
恥ずかしいと言った割に眠そうな目はそのままのマサムネにダンテは身を乗り出す。
「そんな事はどうでもいいんです! 僕達の家族が土の邪精霊獣に取り込まれました。土の精霊であるティリティアさんが咄嗟に手を出してくれましたが、いつまで持つか分かりません。ティリティアさんに伺った所、ここは土の邪精霊獣と戦う術を得れる所と聞きましたが!」
「うわぁ、懐かしい名前だね……そうだね、確かにここは土の邪精霊獣と戦う術が得れた場所だったよ」
話を最後まで聞かない組のレイアとミュウが喜んで跳ねるが呆れ顔のホーラに拳骨を落とされて静かにさせられる。
当然のように気付いたスゥが眉を寄せる。
「場所だったよ、なの?」
「ああ、その通りさ。もう壊れて久しい。普通に戦う力の底上げぐらいなら新人レベルからベテランレベルまで引き上げる訓練ぐらいなら出来るけど、君達レベルを更に上げて、土の邪精霊獣対策を行使するのは今の僕では無理さ」
そんな……と呟くスゥの後ろにいるアリアが問う。
「なんとか直せない?」
「うん、僕の自動修理機能では限界がきてるし、何より人でなければならない領域とその部品を作り出せる高度な技術を要求されるんだ」
知識だけであればあるから、後は直せる技術者が必要らしいがアリア達の前回の踏破者の話では、それが出来る技術者は既にいないと言われてるらしい。
がっくりと項垂れるアリア達に申し訳なさそうするマサムネ。
「ごめんね? こればかりはどうにもならない。技術者さえ何とかなれば手を貸す事もできるんだけどね……」
思いつめるような顔をするヒースを見つめるマサムネは溜息を零す素振りを見せる。
「特攻とかも考えない方が良いよ。どんな事情があるか知らないし、家族が取り込まれたのも可哀想だとは思うけど、土の邪精霊獣に人では普通は勝てない。君達に万が一も有り得ないよ?」
本当にごめんね? と謝るマサムネを黙って見つめ続けたホーラが口を開く。
「つまりアタイ達が前を進む為には技術者を連れてくるしかない、という事さ?」
「うん? そうなんだけど、聞いてた? その技術を伝えてた技術者はもういないだよ?」
ちゃんと説明したつもりだったのに諦める素振りを見せないホーラにマサムネは目を白黒させる。
そんな事お構いなしのホーラは鼻を鳴らす。
「知識はアンタがあるって言ったさ? 後は物覚えの良いヤツと手先の器用なのヤツの首に縄を付けて引っ張ってきたらいいさ?」
ホーラの強引な連れてくる相手の事を考えない発言にマサムネは「それって拉致じゃない? 考え直さない?」と言ってくるが綺麗に流される。
止めるマサムネを無視するように出ていこうとするホーラに着いて行こうか悩むダンテ達に諦め顔のマサムネが声をかける。
「そんな都合のよい人材が見つかるかどうかはともかく、前回、渡し損ねた踏破証明であると同時にここに入る為の認証キーだよ」
そう言うとダンテの前に先程使ったカードキーに似た物が目の前に浮く。
これを持っていれば、と思う気持ちもあるがあの時はそんな余裕もなかったと諦めの溜息を吐きながらダンテはカードキーを受け取る。
「あのお姉さん、かなり余裕なさそうだから、無茶しそうなら止めてね? 巻き込まれた人は迷惑じゃ済まないよ?」
「はぁ、一応、頑張りますけど聞くような人じゃないんですよね……」
マサムネに心配されるが、ダンテもどうしようもないと伝えると「そういう事じゃないんだけどね?」と肩を竦められる。
どういう意味か分からなかったダンテにマサムネが出口を指を差す。
「あのお姉さんに置いて行かれるよ?」
「ああっ!? 置いて行かれるじゃねぇ! アンタがアタシ等を止めたんだろうが!」
叫ぶレイアに軽い感じで「ごめんねぇ?」と謝るマサムネ。
慌てて追いかけるレイア達を見送るマサムネは独り言を洩らす。
「気の強い女の子程、張り詰めた糸が切れた時の反動が怖いんだよね。切れる前に緩められるようになるといいんだけど」
勿論、マサムネの独り言に返事をする者はなく、ゆっくりと明かりが落ちて、再び、部屋は暗闇に包まれた。
▼
『試練の洞窟』から出てきたホーラ達は話しかけないと基本、口を閉ざしたままのザバダックに質問する。
「ザガンにいる学者や技術者に心当たりはないさ?」
「ある。ただし、それは『ホウライ』に街が破壊される前の話でな……正直、もうおるまい。こんなザガンの状態では生きていく事もできんだろうからな」
治安も悪く、学や技術に対価を払う者がいるとは思えないザガンに残らず、違う地域に脱出しているとザバダックは溜息混じりに語る。
反論の余地はないホーラであるがさすがに他の地域から連れてくる時間の余裕があるとは思えない。
「駄目元でも心当たりを全て当たるさ? 案内頼むさ」
そう言ってくるホーラにザバダックは頷く。
まずは街に戻ると決めたホーラ達が広場の方を目指して歩いていると爆発音が広場の方からする事に気付く。
それに反応する眉を寄せて皺を作るアリア。
「アイツが動き出した!?」
「いや、『ホウライ』にしては小規模過ぎると思う。でも何かあったようだよ!」
「口を動かしてる暇があったら走りな?」
アリアの疑問に返事をするダンテにホーラは頭を叩くと走り始める。
そして、広場に到着すると三つ編みをした眼鏡をかけた少女と少しだらしなさが目に付くが、くすんだ赤い長い髪を後ろに流す女性が尻モチを着く男達を睥睨していた。
三つ編みしている少女がフラスコを振り上げて叫ぶ。
「ウチ等は金を返せって言ってるんじゃないんよ! 古代の技術がある場所に案内せぇって言ってるんや!」
かなり憤っているようで振り上げたフラスコを恐れて固まる冒険者崩れの真ん中に投げると冒険者崩れが蜘蛛の子を散らすよう逃げる。
落ちたと同時に起きる小爆発。
うがぁ――と騒ぐ少女に落ち着け、と諭す女性だが本気で止める気はないのがミエミエであった。
それを見たホーラが頭が痛いとばかりに額に手を覆うが口許を緩ませる。
ゆっくりと近づいて2人の前に行くと2人は驚いた顔を見せて固まったのを見計らって声をかける。
「アンタ等、何してるのさ? でも都合が良かったさ。アンタ等なら気兼ねなく連行できるしね。イーリン、アン?」
ザガンの広場で暴れていたのは北川家不良債権トップ3のマッドサイエンスコンビのイーリンとアンであった。
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