第21話 オヤツは、みんな巻き込んで食べるのが美味しいのですぅ

 テツが生み出した風に吹き飛ばされるヒースを土の邪精霊獣が追撃するように触手を飛ばしてくる。


 ヒースはテツの風の力に翻弄されて体勢も整えられずに飛ばされているので追撃する触手から無防備な状態を晒していた。


「チッ!」


 舌打ちするホーラが旋回するようにしてヒースを追いかける形になる。


 風を圧縮して起爆させて爆発的な速度を出してヒースの襟首を掴んで触手の範囲から逃げようとするが、触手の速度がそれを上回り捉えられそうになる。


「ホーラ姉ぇ!!」

「まったく手のかかる奴らばかりでウンザリさっ!」


 ホーラとヒースを捉えようとする触手に息を呑む子供達の中で叫ぶレイアの声に眉を寄せるホーラは胸元から魔法銃と取り出す。


 照準を土の邪精霊獣に向けると舌打ちと共に引き金を引く。


 魔法銃から放たれた水弾は触手に当たり、勢いを衰えさせ、ホーラとヒースは魔法銃の反動も速度に上乗せされて加速する。


 吹き飛ぶホーラ達は地面を転がり、慌てて立ち上がるホーラの眼前には土の邪精霊獣の触手がピーンと伸ばされて動けなくなっているのを見て安堵の溜息を零す。


「どうやら、ギリギリ範囲外に出れたようさ……」


 魔法銃を仕舞うホーラは放心状態のヒースが足下が覚束ない感じで立ち上がるのを見て近寄り、喉輪をして軽く持ち上げると壁に叩きつける。


 叩き付けられたヒースの背後の壁から小さな落石が起こり、土塗れになるヒースを見たレイアがホーラに叫ぶ。


「ホーラ姉! 何するんだよ!」

「おい、ボケ精霊! テツはどんな様子さ?」


 抗議するレイアを無視するホーラはティリティアにテツの安否を確認する。


 それに困った顔をやっと見せたティリティアが自信なさげに言ってくる。


「咄嗟にシールドを張ったけど、常人じゃ1日持つかどうか……」

「ならテツなら1週間は軽いさ?」


 ティリティアの言葉に息を呑む子供達を余所にあっけらかんに「そんなヤワな扱いをしてきてないさ?」とホーラが肩を竦める。


 そして、レイアに介抱されながらも心ここに非ずといった様子のヒースの前髪を掴んで目線を同じくする。


 止めようとするレイアを目で威嚇した後、ホーラの視線から逃げようとするヒースの顎を掴んで視線を合わせてホーラは目を細める。


「いいかい? アタイはアンタがどうなろうとも結構さ? でもテツの意気を汲んで1度だけ助けてやったさ。後はそのままそこに座ってるなり、もう1度特攻するなり好きにするさ」


 そう言ったホーラは突き離すに軽く押し出す。


 それだけでふらつくヒースはその場に座り込み、鼻を鳴らすホーラがレイアのポニーテールを掴んで引っ張ってアリア達と合流する。


 痛がるレイアを相手にせずにティリティアに「アタイ達の用が終わるまでは頑張りな?」と告げると情けない声を上げらる土の精霊、ティリティア。


 アリア達と合流したホーラはレイアの髪を引っ張ったまま出て行こうとするのでレイアが掴む手を抑えながら文句を言ってくる。


「ホーラ姉! 酷いじゃないか! 確かにヒースのした事は良い事じゃないけどあれはあんまりだ……後、痛いから髪を離してくれよ!」


 本当に泣きが入り始めているレイアの髪を手を離してやるホーラは明後日の方向を見つめ、嘆息しながら出口に向かって歩く。


「男ってのはね、ああいう時に女に慰められると余計にヘコむさ。つまりアンタじゃミスキャスト。適材適所ってのがあるさ?」


 えっ!? と固まるレイアにアリアとスゥが苦笑いしながら周りを見渡した後、来た道を見つめる。


 そして、レイアの肩を叩くミュウがガゥと力強く頷いたタイミングでこの場に居ない2人の存在にレイアも気付く。


 少し、拗ねたように唇を尖らせるレイアはぼやくように呟く。


「なんかズッコイよな、それってさ?」


 そういうとミュウがレイアの肩に腕を廻して一緒に歩き出した。





 テツを取り込んだ土の邪精霊獣を睨むようにダンテが自分の頬を両手で強めで叩いて気合いを入れる。


 雄一が言っていた事を体現するテツに勇気を貰ったダンテは迷いを捨てて一歩前に足を進める。


 そして、どうしたらいいか分からなくなっているヒースの隣にお互いにとって唯一無二の男友達であるダンテが隣に座り込む。


 それだけでヒースがビクッと肩を竦ませるのに気付く素振りを見せないダンテが口を開く。


「僕ね、ちょっと自信喪失中なんだ」

「えっ!?」


 正直、甘えた考えではあるがダンテが自分を慰めにきたと思っていたヒースは豆鉄砲を食らった鳩のような顔をする。


 それにも気付いた素振りを見せずにテツを取り込んだ土の邪精霊獣を眺めながら言う。


「何年もみんなを見てきたつもりなんだけど、ここぞ、という時に安心させてあげられない情けない司令塔なんだ」

「そ、それは……」


 ダンテが言おうとしている言葉の先を理解したヒースが口ごもるがダンテは優しく被り振る。


「いいんだ、本当の事だから。冷静に話を聞ける時であればアリア達は聞いてくれるけど、咄嗟の時は僕の言葉より自分の判断を優先するしね」


 黙り込むヒースに困ったな、と苦笑いを浮かべるダンテを離れた所から見つめるザバダックは祈るように目を瞑る。


「確かに『精霊の揺り籠』に突入する時の僕の言葉は届かなかった。でもテツさんの笑みは信じられたんだろう? だから、ホーラさんにああ言われたからじゃなく、どうしたらいいか悩んでる、違うかい?」


 沈黙するヒースにダンテは続ける。


「僕には両親の顔も名前も知らされてないから知らない。姉さんもいたし、アリア達と会ってからは、そんな事を気にする暇もなかったからね。だから、僕には親がいる人の気持ちが多分、分かってない」


 ダンテにそう言われたヒースは下唇を噛み締める。


 ダンテに限らず、ミュウもいないし、ヒースは直接関係してないが北川家にはそんな子ばかりだと聞かされて知っていた。


 ノースランドの体で座ったままで眠る『ホウライ』を眺めながら「アリアとレイアにもいるけど、あっちはあっちで大変だよね」とダンテが言うのにヒースは複雑そうな表情を浮かべる。


 意を決したような顔をするヒースがダンテの方に顔を向ける。


「無理にダンテが関わらなくてもいいんだよ? これは僕……」

「なら、ヒースはお父さんを諦められるかい?」


 言われた事に虚を突かれたヒースは噛み合ってないように思う会話に思考が固まりそうになる。


「僕は諦めないよ、だって初めて出来た男友達の君をね」

「ダンテ……」


 泣きそうになっているヒースに弱ったようなフニャっとした笑みを浮かべるが必死に引き締めるダンテ。


「そんな君に以前、僕が貰った言葉を贈るよ」


 目をパチパチさせるヒースに微笑を浮かべるダンテが一字一句を思い出すように目を瞑る。




『できる、してあげられるじゃない。何をする、何をしたい、だけなんだよ。結局の所、相手の気持ち、希望なんて分からない。聞いて教えて貰ってもそれが正しいなんて誰も保障できないんだ。だったら、自分の気持ちを信じるしかないじゃないか?』



 その言葉を受けたヒースは顔を真っ赤にして俯く。


 まるでヒースが知らない人の言葉を告げるようにし、口許を綻ばせるダンテがヒースを見つめる。


「そうさ、どうしたらいいかなんて簡単に答えなんて出ない。悩んで悩み抜こう。でも忘れないで、ヒース1人で悩ませない!」

「でも、これはダンテに直接関係ないよ!」


 そう言ってくるヒースにダンテは柔らかい笑みを浮かべて立ち上がると手を差し出す。


「そんな寂しい事を言わないで『僕は遠慮なく巻き込んでくれるよね?』」

「くっ! 今日のダンテは性格が悪いよ!!」


 そう叫ぶヒースの瞳に意志の力が宿ると力強くダンテの手を取り立ち上がる。


 笑みを交わし合う2人は拳を叩き付け合って頷くと出口に走り出す。


 2人に合流するように追走するザバダックがダンテに告げる。


「感謝する!」


 ダンテは笑みを大きくして気合いを入れるように叫ぶ。


「行くよ、ヒース! 失った信頼は行動で取り戻すんだ!」

「うん!」


 3人は先行しているホーラ達を追いかけて速度を上げた。

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