第19話 オヤツに一番必要なモノ? 飽くなき探求心なのですぅ

 とりあえず、ダンテの意見に従い、『精霊の揺り籠』の最下層を目指そうという事で話が着き、ホーラ達は入口があった場所を目指してソリを走らせていた。


 使えない、とブツブツ言うアリアもスゥも四大精霊の1柱に数えられるティリティアであれば、何かしらの指針を示すのではないかと期待からか少し明るい表情を浮かべていた。


 レイアは考える事は苦手であるが、最近は自分で考えるようになっていた。だが、さすがにホーラやテツですら何かしら期待する素振りを見せるのを見て無駄に考えるのは休んでいるようなものかと楽観視しているとダンテと何故かミュウの2名が黙り込んでいるのに気付いた。


「なんで暗くなってるんだ? ミュウは腹が減った?」


 レイアの言葉に廻りの者も2人の様子がおかしい事に気付く。


 細かい事に気付く若き司令塔と直感だけはパーティ1のミュウの様子がおかしい事は異常事態と判断したホーラが問う。


「何に気付いたさ?」

「馬鹿キツネが斬った場所ない」


 ミュウがそう言うのを聞いたホーラ達も短く声を上げると辺りを見渡す。


 確かに巴が切り裂いた穴が塞がったように無くなっていた。


「それはティリティアさん、もしくは部下の人が頑張ったとかじゃないのかい?」


 そうテツが聞き返すとダンテが被り振る。


「やってやれない事はないですが、ペーシア王国の地盤沈下対策に力を割き、こちらも直すというのは効率が良いとは言えない。こちらはすぐに直さなくても誰が困るという訳でもありませんから」


 ホーラが「どういう……」と言いかけるのに被せるようにダンテはソリを操船するザバダックに質問する。


「ザバダックさんがザガンに居た間で大きな地震などありましたか?」

「ない。それがどう繋がる?」


 また黙り込むダンテをみんなが見つめるが、スゥは何かに気付いたように声をかける。


「短い時間で修復されたと思われる大地なのに誰にも気付かれてないという事は……」


 光文字に魔力を込められるようになってからダンテと魔法関係で話し合う事が増えたスゥはダンテが考えている事を理解する。


「うん、急遽、穴を塞がないといけない事情がティリティアさん側に生まれたか……それとも……」


 三度黙り込むダンテを見て嘆息するホーラは腰に手を当ててみんなを見つめながら言う。


「ここで可能性を口にしても行くしかないのが現実さ? でも、覚悟だけはしとくさ。ウチの苦労人が口ごもるレベルは笑えない事が多いからね?」


 そう言われたアリア達は口を真一文字に結び、腹に力を入れるようにして気合いを込める。


 ホーラを弱った表情で見つめるダンテは「分かってるなら、普段から少しは労わってくれても……」と弱々しく手を伸ばす。


 差し出す手をそっと掴んで下ろすテツはゆっくりと被り振る。



 願うだけ無駄な事だよ?



 ダンテを見つめるテツの目は口よりはっきりと伝えてきて、ダンテは諦めたように項垂れる。


 当然のように2人のやり取りに気付きつつ、無視を選択したホーラはザバダックに『精霊の揺り籠』の入口に急いでくれるように頼む。


 頼まれたザバダックは無言で頷くと速度を上げた。







 目的地である『精霊の揺り籠』の入口があった場所に到着する。


 辺りをキョロキョロするアリア達。


 頭を掻き毟るレイアが首を傾げながら言う。


「あれぇ? この辺りに入口があった気がしたんだけど、記憶違い?」

「ううん、ここで合ってるよ。切り裂かれた大地が無くなってる時点で予想はしてたけど……本当に面倒事が待ってそうだな……」


 溜息を吐きながら前に出るダンテは目の前の岩肌に近寄り、両手を突き出して両目を瞑って何かを弄るように宙に手を彷徨わせる。


 それを後ろで見てたスゥが「開けれそう?」と聞くと頷くダンテ。


「入口がない時点で前のように塞がれたとは分かってたけど、こちらから干渉出来るようになってたんだね、ダンテ。凄いよ」


 テツに褒められたダンテは少し照れた素振りを見せ、「精霊門を開く応用です」と言ってくる。


 すると、ダンテが取っ手を見つけたような素振りを見せると両開きの扉を開けるような仕草をすると軋むような音と共に入口が生まれる。


 奥を覗くと以前来たダンジョンがそこにあった。


「ふぅ、開けれました……あっ、ごめんなさい! 僕、基準で作ってしまったからテツさんとミュウには少し小さい……」

「大丈夫、入口だけだから屈めば入れるよ」


 ミュウもガゥ! と頷き、テツが先頭で入り、ミュウが続き、アリア達がダンテに軽い感じで「お疲れ~」と手を振って入っていく。


 次にホーラがやってきて、ダンテの頭を叩き「でかしたさ!」と言うのにダンテが文句を言う。


「なんで叩くんですか!?」

「労ってやったさ?」


 口をあんぐりと開けるダンテにニヤっと笑うホーラはスタスタと入っていく。


 最後にザバダックとヒースが前に来て、ヒースが立ち止まってダンテを見つめる。


「凄いね……ダンテは何でも出来る。引き換え、僕はお父さんの事で一杯でみんなに迷惑ばかり……」

「違うよ!? 僕に出来ない事をヒースは出来る。僕達だけで1年、ホーラさん達と1年、合わせて2年で僕達に出来る事、得意分野を分かり合ったはずだよ? 今、目の前だけの情報だけが全てなんて思わないで?」


 唇を噛み締めて泣くのを耐えるようにするダンテにハッとさせられたヒースは目を逸らして「ごめん」と告げる。


 ザバダックが礼をするように頭を下げるとヒースを連れて入っていくのをダンテは見送る。


 壊れてしまいそうなヒースの背中を見つめながら、今、やっと理解したダンテ達の指針であり続けた男、雄一の言葉を思い出していた。





「ダンテ、司令塔に一番必要なものは何だと思う?」

「冷静な判断力……ですか?」


 5歳になったダンテ達が雄一に連れられて獣狩りに向かった時、既にアリア達の戦闘スタイルは今のような形が出来上がっており、当然のように自信なさげなダンテが離れた所からみんなに指示を出し、フォローしていた。


 雄一に問われて、手が止まってしまったダンテに「手が止まってるぞ?」と言われ、慌てて戦局を見つめるダンテ。


 同じようにアリア達を見つめて腕組みする雄一は「判断力、確かに必要だ」と頷く。


 雄一の言い方から、それが一番じゃないと理解したダンテが「では、何が?」と問い返す。


「俺が思う司令塔に一番必要だと思うのは、個人個人の一番を見つけてやる事だ」

「い、一番ですか?」


 ダンテがイマイチ要領を得ない感じで返事するので雄一が苦笑する。


「特性を見出す力、別の言い方をするなら才能を掘り起こす事が出来る力だな」


 はぁ、と良く分かってないと伝える必要がないダンテの反応に雄一は頭をガリガリと掻く。


 雄一はオオカミに飛びかかられ、サイドステップして避けて横から飛び蹴りを入れるレイアを指差す。


「今のレイアの動き、反射だけでやってるように見えるだろ? あれ、考えて動いてるんだぞ?」

「えっ!? 嘘ですよね?」


 脊髄反射で動いて頭を使ってないと思ってたレイアが戦い方を組み立ててるという雄一の言葉に驚く。


 ダンテの驚きようが面白かったのか雄一はクスクスと笑う。


「まあ、レイアに説明を求めても『ガッと来られたらバッと避けてドカだろ?』とか言われるだろうが、オオカミの力の動きがどっち方向に向いてるか見定めて、反応し辛い方向に避けて隙だらけの横腹を狙う、という具合に言葉にすると考えているんだぞ?」


 驚くダンテからオオカミを倒して喜び合うアリア達を見つめて雄一が言う。


「まあ、レイアに限らず、だけどな、特色がある。それをお互いに羨ましいと思っている訳だ。みんなが出来る事が出来るようになりたい! でも現実的じゃない。落ち込む時もある」


 うんうん、頷くダンテを見つめる雄一が続ける。


「みんなと同じ事が出来るようになりたい、という欲求と同じぐらいに『みんなに出来ない事が!』という想いがある。それがあると自信に繋がる。つまり……」

「一番を見つけてあげられるのが司令塔の役割?」


 そうだ、と頷く雄一を見つめるダンテは思う。


 確かに、例えば、攻撃を凌ぐ事に関してパーティでスゥを超えるメンバーはいない。


 そこで、「何々の攻撃を凌ぎたい」と言えば、スゥが指示しなくても自信を持っていれば当然のように前に出ようとする。


 戦闘中に作戦会議なんてする間なんて基本ない。


 誰がやる? という無駄なコミニケーションをする間など敗北に繋がるし、役割を事前に考えただけの動きだと不測の事態に瓦解するのが見えている。


「後は、その特性を司令塔、ダンテがちゃんと理解してくれていると信頼に繋がる」


 そう、ダンテが特性を理解してて、みんなを繋ぐようにすれば、柔軟なパーティが出来上がる。


 だが、ダンテはその問題点にも気付く。


「みんなに僕が気付いていると信じて貰えない時はどうしたら?」

「それは毎日のコミニケーションという地道な積み重ねと、それから……」


 それから? と問い返すダンテに雄一は口の端を大きく上げる笑みを浮かべる。





「迷いを感じさせずに笑ってみせる……ですか……ユウイチさん、今の僕には荷が重いです……」


 親友であるヒースの辛そうな背中を見つめてダンテは拳を握り締めた。

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