第18話 戸棚の奥にあったのが明日のオヤツとは知らなかったのですぅ

 宴会をした次の日、ついにザガンの港に到着した。


 ホーラ達は船着き場に着いているのに降りれずに辺りを見渡していた。


「聞いてた話と港が見え出した辺りからの感じから酷いのは分かってたけど、間近に迫ったら更に酷いさ」


 肩を竦めるホーラが言うのを聞いて、茫然と見る影もないザガンの港を見つめていたヒースがビクッと肩を震わせると俯く。


 目の前に広がる瓦礫の山と離れた所に見える灯台もかろうじて機能してるのが丸分かりな壊れ方をしているのを見つめてレイアも辛そうにする。


 あの灯台は、かなり勢いでしたとはいえ、雄一と和解をした思い出の場所であったからであった。


 2人だけでなく、アリア達にも色んな思い出がある場所だったザガンの港を眺めて悲しそうにする。


 雑多とはしてはいたが活気のあった街へと繋ぐ港では無気力な人々が地べたに座り、茫然とする姿があちらこちらに見られた。


 よろしくない状況など見れば分かる事を敢えて言葉にするホーラにテツが声を顰めて言う。


「ホーラ姉さん、さすがに事実だからと言わなくても良いセリフだったんじゃないのですか?」


 弟、妹達の心情を考え、何より故郷であるヒースの目の前で言うセリフではないと苦言を上げるテツだったが、ホーラは呆れるように嘆息する。


「目を背けられる事なら、それでもいいさ。避けれない事をしっかり受け止めさせるのは年長者の義務、違うさ?」

「し、しかし、まだカラシルの研究所の事があってから日も経ってませんし……」


 まだ食いつこうとするテツの胸倉を掴むと引き寄せると顔を近づける。


「いいかい? アンタには一回しか言わないさ? 優しさは人を救う、でも、甘さは人を傷つけるさ。その辺の境界線の線引きはユウはしっかりしてたさ。アンタ、ユウの意志を継ぐんじゃなかった?」


 そう告げると引き寄せてた胸倉を突き離すようにして離れるとホーラは船から降りて行く。


 ホーラを見送るテツを見つめるアリア達に気付くとテツは微笑みかける。


「大丈夫だよ。俺もホーラ姉さんが言っている意味はちゃんと分かってるし、喧嘩した訳じゃないから」


 アリア達に降りようと背を押しながら空を見つめるテツは、ここにいない雄一に問いかける。



 優しさと甘さの違いと境界線はどこにあるのでしょう?



 だが、テツの心の中にいる雄一の大きな背中はテツに何を語り返してくれはしなかった。





 ホーラ達はザバダックに先導されるようにヒースの実家であるソードダンスコミュニティを目指して街中を歩いていた。


 ちゃんとした建物の形状を残す建物はほどんどなく、露天商の簡易屋根のように布で作ったモノで雨露を凌いでる者が大半であった。


 それを眉を寄せて見渡すダンテが先頭を歩くザバダックに質問する。


「あの……襲撃を受けて1年が経ってるんですよね? その割に復興させようとした跡が見当たらないんですが……」

「最初の3カ月は『ホウライ』じゃったな、アヤツから受けた被害は災害と諦めて気持ちを切り替えて復興しようと皆もした。だが、直しかける度に局地的な竜巻や火事、酷い時は隕石まで落ちてきた事もあって半年後にはこの有様じゃ」


 そう聞いてホーラ達はダンテからの情報の『ホウライ』の力の源の恐怖や不安を定期的に補給するためにしている処置だと理解して顔を顰めるがヒースは表情を変えずに黙々と歩く。


 おそらく、ヒースはザバダックから既に聞かされていた内容だったのだろう。


 そして、ザバダックの後を着いて行き、ソードダンスコミュニティに到着する。


 無残にほとんどが瓦礫の山となっている。


 その有様にアリア達はヒースの様子を伺うようにすると、どうやらこれも聞かされていたらしく、アリア達が思ってた程ショックを受けているようには見えなかった。


 それでも辛いモノは辛いらしく下唇を噛み締め、何かを捜すようにするとまだ屋根がある建物に目を向けるとヒースはそちらに歩き始める。


 そのヒースと並んで歩くザバダックの2人から少し離れて歩くホーラ達。


 建物の近くに来た瞬間、ドアが乱暴に開くとアリア達とそう変わらない少年達が飛び出して逃げて行く。


 どうやら、主なき家を無断で使っていた者達のようだ。


 逃げる少年達を追いかけようかとしたレイアであったがテツが肩を掴み、振り返ったレイアに首を振ってみせる。


「追いかけてどうするんだい? 特別、何もできないよ。まさか宿代でも請求するのかい?」

「で、でもよぉ……」


 レイアはテツからヒースに視線を切り替える。


 ヒースは拳を握り締め、一瞬の躊躇をした様子を見せたがゆっくりと開け放たれた部屋へと入っていく。


 遅れてアリア達も入っていくと部屋の中央でヒースは四つん這いになって地面を叩いていた。


 中に入ると先程の少年達が生活してたようでゴミが散乱していたが、ベットが1つと壁に大きな破れた肖像画だけがある寂しい部屋であった。


「お母さん!!」


 泣くのを耐えるようにするヒースを見てられないとばかりに目を逸らした先にザバダックがいたのでスゥが誤魔化すように質問する。


「どういう事なの?」

「ここはヒース坊っちゃんの部屋で目の前の……破られた肖像画は唯一残された母親であるシーナ様を描かれたものじゃった」


 誤魔化すつもりが逆に追い詰められたアリア達は辛そうに顔を伏せる。


 ここ最近のヒースはアリア達が知るヒースらしくないが、普段の穏やかなヒースであれば、ここで母親の肖像画に「おはよう」「おやすみ」と毎日言っていただろうと簡単に想像できた。


 悔しそうに拳を固めるレイアが踵を返そうとするのを今度はダンテが手を掴んで止める。


「止めんな、ダンテ! やっぱりアイツ等を掴まえる!」

「掴まえてどうするんだよ! テツさんが言ったように高い宿代を請求するの? それとも憤りをぶつけに行くって言うなら……」

「言うなら、なんだよ!」


 手を離せ、とばかりに振り切ろうとするレイアにダンテが言い淀んだ言葉をホーラが告げる。


「アイツ等がこれを破いたか証明も出来ないのに力ずくで解決させようってなら、アンタの実父がやってる事とどれぐらい違うさ?」


 えっ? と固まるレイアを庇うようにアリアが間に入り、ホーラを見上げる。


「ホーラ姉さん、分かってる。後で私が言って聞かせる」

「ふぅ、確かにアンタ等が一番理解し合わないといけない事だからね。でも1つだけ言っとくさ。ここにいるみんなは当然、ヒースですら、アンタ等の実父だとしてもアンタ等と結び付けちゃいけないと分かってるさ。居ても立っても居られないからといって、拳を振り下ろす先を捜すんじゃないさ」


 びっくりした表情をするレイアを見て、ホーラも読み間違いをしていた事を知る。


 レイアの行動は本人も理解しての行動ではなかったという事に。


 それに気付いていたからアリアはホーラとの間に割って入った事を知る。


 ホーラも自分が思っている以上に冷静にみんなを見ていない事を知り、嘆息する。


 沈黙するホーラ達を見渡すザバダックが声をかける。


「一旦、腰を落ち着けて話をした方が良さそうじゃな。居心地は保障せんがワシの住処は『ホウライ』の選定基準外じゃったようで無事じゃったから案内するぞ」


 ここに居たら襲撃を受けかねない、呟くザバダック。


 中身は『ホウライ』だが、ノースランドの体で姿を晒していたので、その息子であるヒースや関係者を恨み襲ってくる者がいないと言えないようだ。


 ザバダック自身も何度か襲われたらしい。


 再び、ザバダックに先導されるようにして街の外を目指して歩き出した。





 街を出た所からすぐに見えた大きな岩が並んで立っている場所にやってくるとザバダックは固まっている岩の中央付近にある石戸の前で何やらカチカチさせて横に石戸を動かす。


「さあ、入ってくれ」


 開け放たれた石戸を奥へと誘うザバダックの言葉に従い、ホーラ達が入ると自動で壁にあるランタンに日が灯る。


 それを見て呆れるように鼻を鳴らすホーラが呟く。


「石戸といい、これも色々と手が込んでるさ」

「暇は結構あったのでな」


 と、気にした様子も見せないザバダックがみんなが入ったのを見た後、またカチカチさせるのを見たミュウがザバダックが離れたのを見た後で石戸を開けようとするがすぐに振り返り唇を尖らせる。


「ビクともしない。ジジイ、ミュウより力持ち。ミュウ、ちょっとショック」

「そうじゃない。鍵をかけたようなもんじゃ。そういう仕掛けを施しておる」


 クエスチョンマークを浮かべるミュウにヤレヤレと首を振るザバダックにダンテがミュウに近寄り、ザバダックが言ってる意味をミュウに分かり易い言葉に変換して説明してやる。


 ガゥ! と理解したとダンテに告げるミュウはザバダックを指差す。


「卑怯!」

「どんな説明をしたんじゃ?」

「ごめんなさい。どうやらまだ理解しきれてないみたいなんで……」


 まあ、いいわい、と肩を竦めるザバダックはホーラ達を奥にある部屋へと案内した。


 少し拓けた場所で地べたに座るホーラ達は奥に座るザバダックを見つめる。


 そして、ホーラが口を開いた。


「おさらい、というか確認作業さ。爺さん、アンタは怪我が治った後、しばらくノースランドの足跡を求めて捜しまわったが、てかがりも見つけられず、ヒースに知らせるのを優先して会いに来た、間違いないさ?」

「ああ、その通りじゃ」

「本当に何もなかったの? 捜す方向性も?」


 あっさりと頷くザバダックにスゥが小さい事でもないかと思い、問いかける。


「特にないのぉ。言える事があるとしたら、おそらくヤツはこのザガンからそう離れてない場所にいるのではないか、という事だけじゃな」

「それはどうして……ああ、街を監視しているからですね」

「復興させようとしたらすぐに壊す為、慢性的な不満と不安を煽る。アイツならしそう」


 テツの気付きにアリアが心底気持ち悪いと言わんばかりに鼻の頭に皺を寄せる。


 ザガン周辺にいる……と呟くダンテが何かを思い付いたように顔を上げる。


「もし、『ホウライ』がザガン周辺にいるというのが正しいという前提であれば捜すアテがあるかもしれません」


 みんなの視線が一斉に集まるのにビビるダンテだったが隣にいたレイアが背中をバンと叩く。


「ビビんな! ダンテはアタシ達の司令塔なんだから!」

「余計にプレッシャーかけないでよ……はぁ、えっと、方法なんだけど土の精霊のティリティア様に聞けば分かるかもしれない」


 ダンテの提案を聞いたザバダック以外の者達が「ああっ!」と驚きの声を上げる。


「そう言えば、そんな奴がいたさ……」

「前にティリティア様は知る気があれば海の向こうである僕達の大陸の事も分かるって言ってたから、この大陸の事なら知っててもおかしくない」


 成程、と一同が納得するが、ずっと黙っていたヒースも理解はしたようだが当然の疑問を口にする。


「居るのを忘れてたから疑問に思わなかったんだけど、この1年、どうして何もしなかったんだろう?」


 悔しさも滲ませるヒースが所詮、人がいくら苦しもうが気にしないのかと呟くがダンテが言い難そうにしながらヒースに告げる。


「えっと、『ホウライ』の事は精霊達にとっても他人事じゃないから、それはないと思う……」

「じゃ、なんで!」


 ヒースに再び問い返されたダンテは、更に言い難そうにしながらも言ってくる。


「た、多分だけど寝てて気付かなかったとか?」


 有りそうだ、と一同が呆れ全開の嘆息する。


「確かにやりかねないの」

「働け、土の精霊のトップ」


 『精霊の揺り籠』の最下層で以前した似たようなやり取りをするアリアとスゥであった。

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