第5話 そして日常へ...
「どうでしたか?異世界のサウナは」
――いつものサウナのフロント横にある小部屋。異世界サウナ体験を終えたオレに向かいの席に座る司ちゃんが尋ねた。いまだ夢心地のオレの生返事を受けてつかさちゃんはオレのゴールド会員カードを机の上に浮かべた。
「私は現世と異世界の橋渡しをしている使用人。向こうのサウナをこっちでもサービスとして提供できないか、こうやって試験的に運用しているんです。この事は誰にも他言してはダメですよ?」
つかさちゃんに念を押されてオレはぼんやりとうなづく。「そしてこれが次回のポイントカードです」俺がその場を立ち上がると「よっぽど向こうのサウナが気に入ってくれたんですね」とつかさちゃんがそのカードを指で摘まんでぴらぴらと揺らしてみせた。
一見何も印刷されていないように見えるそのカードに30ポイント溜めるともう一度あの異世界のサウナに行く権利が与えられるらしい。一回の来店で1ポイント溜まるから次行けるのは30回後か。込み入ったパウダールームで髪を乾かしながらオレは異世界での体験を振り返る。身体の表面を削り取ってくれるキュアリーフィッシュ風呂。地獄の炎熱を巻き上げる鬼コンビのロウリュサービスのあるサウナ、氷の魔法使いが管理している水風呂……挙げればキリがくらい充実した2時間だった。
またあの世界に行くためにポイントを溜めなきゃな。ロッカーでスーツに着替えてフロントで会計を済ませる。人ごみで溢れかえる駅に続く道を歩きながら次第に意識が日常へと戻っていく。さぁ、明日からまた仕事だ。気合を入れるように深く息を吐くと突然、目の前に猛スピードのトラックが突っ込んできた。
「お兄さん、危ない!」
交差点に右折で飛び込んできたトラックがオレを捉えて周りから悲鳴が巻き起こる。オレはその場でぐっと足を踏み込むと道路の向こう側まで一気に
ふう。あぶない所だった。異世界で身体の疲れを取ったことと、むこうの空気を吸った事により身体能力が今までよりはるかに向上していた。オレの知る異世界に転生は必要ない。
現世を生き抜くサラリーマンは強いのだ。サウナに入るために明日もまた頑張っていこう!
おわり。
異世界サウナへようこそ まじろ @maji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます