第5話 ダンジョンレストランエルフ(仮)
ダンジョンレストランエルフ(仮)
いっさい飾り気のない店名、見晴らしのいい峠にある建物はログハウス調だった。
扉を開けると、からんからんと喫茶店のように鈴が鳴った。
「いらっしゃいませー」
「しゃーせー」
「ませー」
メイドドレスのフリルを揺らしながら、エルフたちがそれぞれ言う。
レストランのなかはいい匂いが充満していた。エルフのかわいこちゃんたちの匂いではない。ルリンゴを砂糖と煮込んだときに出る、甘い匂いだ。ケンタウロスが運んでいたルリンゴで料理をするのだと思い込んでいたが、あれは追加に過ぎなかったのだ。
あ、やっべ。と思ったが、遅かった。
「あ、ヨシノさま! どうぞ、座ってください!」
気がつくと、わたしの目の前のテーブルに、ルリンゴのスープが出されていた。
瑠璃色なのは皮だけで、中身はほのかに赤い。ビルベリーみたいなイメージ。
スプーンですくって、口に入れる。
「うまい!」
それが誘い水になって、あとは簡単なことだった。
触手モンスターの給仕が、からになった皿を取り上げ、次の品を休みなく出してくる。ルリンゴという食材を生かして、これほど多彩な料理ができるのだと感心する。
ルリンゴのアラカルトは四種類。薄く切って揚げたもの、すりおろして混ぜてあるもの、香草やお酒につけたもの、細長く切って生地で巻かれたものがあった。昔、わたしが持ち込んだ料理本が役に立っているらしい。
ひとつひとつ感想を述べていくと、エルフたちも喜んでくれた。それが嬉しくて、また箸が進む。味もいい。ダイエット中という罪悪感は、はるかかなたに吹き飛んでしまった。
ルリンゴを一緒に煮込んでいるという馬肉シチューが出てきたときは、ケンタウロスの反応をうかがった。しかし馬肉(異世界産)に対して同族意識はないらしい。平気で食べていた。あるいは気づいていないのか。
メイン案はほかに四種類あり、ローストビーフ、生姜焼き、タンドリーチキン、寿司を考えているらしい。とりあえずジャンルがめちゃくちゃなことはさらりと指摘しておいた。香辛料なんかも、わたしが持ち込んだものを元に代用品を集めているところらしい。
馬肉シチューのあとにはデザートがあった。アイスに生ルリンゴが添えてある、シンプルなものだった。いや、生ルリンゴにアイスが添えてあるのか。いや、どっちでもいいか。
「うまーい!」
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