僕は、ブナ等と混交していることが、一般的なんだけど、周りは総て同じ種の木(スギ)の林に植えられている。

 う~ん、前話の銀杏と僕はどちらが幸せなのだろう?それがわからないんだ。

 僕は周りが同じ種であるので、人間では単一民族みたいで、切なさと安心感の混じった変な気持ちがある。

 土はポゾソルに近くなり、僕達は大人にちゃんと成れるのかわからないんだ。金属分が少し足らなくなってきているの。

 僕の産まれたのは苗床。そこで、1歳になると根を切られて山中に植えられたんだ。勿論、苗床にいる時に接してくる人間は優しかったんだけど、1歳の誕生日に根を切っている人間の顔は怖かった。鬼の様な形相っていうのがこれだなって思った。

 それから、ここに植えられて、現在に至るんだ。今、10歳になり、除伐されるという年ごろです。僕の周りは5本切られた。寒い昼のことだった。

 実は、母も父も何処に植わっているのかわからない僕。ここにいるのかもしれないし、他の所にいるのかもしれない。親を知らないでいる方が不孝であるということが聞こえたりする。人間が常に言っていることである。



 僕の目の前に40歳を超えたおじさんが伐られることになっている。でも、おじさんは清々しさを漂わせていた。

「おじさん、伐られるのに暢気ですね?」

「いやな・・・俺は震災で家を無くした人間の新築する家の柱にしてくれるみたいだから、仏になってくれと言われたんだ」

「殺されるよね?」

「しかし、君も殺される為に植えられたんだぞ」

 衝撃的な言葉を受けて、頭が真っ白くなった。

「だからな、有効に俺の身体を使ってくれるなら仕方ないと思う様にした」

「僕の親も?」

「・・・・・」

 どうして黙っているんだろう?

「君の親は・・・・ただ、伐られて打ち捨てられた。草葉の陰で眠っている」

 これを説明すると・・・僕の親は、木材需要の無い時に伐られたってことだったんだけど、それだけじゃなく、病にかかっていた。運悪く伝染病で伝染するスピードが強かった。抵抗力が無かったのか災いして、死ぬ寸前であったらしいです。


 それから、何年かして・・・

 僕は20歳になった。

 おじさんの切り株を眺めていると・・・切り株にはおじさんの枝を挿されていたのが、子供として育っている。僕はまだまだ伐られる心配はないんだ。

 この子もこれから色んなことに出くわすだろうけど、僕と一緒に生きて行こうね。


 あれから何年たっただろう。僕は、伐られることになった。僕を柱として使いたいので、成仏して欲しいと言われた。お神酒を周りに撒かれた。

 そして、僕は木材となり、死んだ。


 僕の一生を振り返るとあんまり良いとは言えなかった様な気がする。産まれる前、産まれてすぐには、親が居なかった。

 根を切られたりすることもあった。でも、友達がたくさんできたり、幸せなこともあった。親との死別を体験することも無かった。

 銀杏の子と比べてどうだったかと言われるとわからないけど、僕には他の種の友達は居なかった。人間の友達も当然に居なかったんだ。もし、僕にも人間の友達が出来ていたら・・・また、人間の家族が居てくれたらと思うと、惜しい気がする。

 死んでから人間の温かさを知ったんだけど、生きている間に知っていればどんだけ良かったか・・・後悔しても遅いよね。



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