木の子達
源 綱雪
裸子植物
銀杏
僕は銀杏の赤ちゃん。名前は未だ無いんです。
ある日、高校生の男の子が僕を見つけて
「可愛いね!名前付けてあげる」
どういう名前を付けられるんやろ?
「男の子ぽいので、与一にしよう、決定!!!」
僕は与一という名前を頂くこととなりました。
その高校生が去った後、お母さんは僕に
「坊や、1歳に満たないのにいい名前を貰ったわね」
と言われた。
僕は、へっ、としか反応できなかった。
お母さんは続ける。
「私は、生後1年を超えてから、あの榎の長老に春子という名前を貰ったの」
そう、それが暗黙のルールだったのです。他の種も生後一年しないと名前を貰えないしきたりです。
比較的早く名前を貰える種は赤松・黒松・ネム・ヤシャブシ・ハンノキ・(ケ)ヤマハンノキ等・(イヌ)エンジュの先駆性の木が10ケ月です。 そう、生後1年経たないと名前を貰えないって習慣があるのです。一方、ブナ・スギ・ヒノキ等の極相の種の木は3歳でしか名前を貰えない運命にあります。何だか可哀想です。
お母さんの言った榎は神木で・・・樹齢1000年を超えていらっしゃる。
その1ヵ月後、男子高校生が女子高校生を連れて、僕に会いに来てくれた。
「この子が、貴方の言ってた銀杏の赤ちゃんね!はじめましまて、与一ちゃん」
僕は、何故名前を知られているのか知りたいんだけど・・・
「俺が教えた」
そうなんだ・・・
それから2週間後・・・
2人で重い決意を持って僕の前に表れました。
「俺達は駆け落ちする。この娘に俺の子が出来たから二人で暮らす」
「私達の赤ちゃんのお兄ちゃんにしてあげる」
そう言うと、遠ざかって行った2つの影。僕はこの時、この人達と永遠の別れを覚悟していたんだ。
それからの僕はお母さんに甘えて、2本で生きて行くことになるのかな?と思っていたんだ。
その後、お母さんが亡くなり、僕は他の種の山桜・梅・ケヤキ等の友達と何とか仲良く生きていき10年が経った時にそれは起こった。
「パパ、ママ。お兄ちゃんの銀杏ってここら辺にいるの?」
女の子の声が聞こえて来た。
25歳の男女の声がその後から聞こえてくる。
僕の方に3人で近付いて来ている様で・・・
パパ?が僕の前で
「与一、少し大きくなったな」
それに続いてママ?が
「君の生みの母はどうしたの?」
僕は、話せないので、近くを通った人に言って貰った。
「この木の母樹は病気で死んだ」
それを聞いたパパ?、ママ?は
「大変だったね!でも今からは私達が両親になってあげる」
女の子は
「はじめまして、お兄ちゃん。私は花菜って言うの。これからよろしくね!」
そして、僕は初めて人間の家族を得た。
僕は、両親と妹のいる暮らしを始めることになって幸せを少しずつ実感してきている。
妹は少し大人っぽくなり、僕の背は10㍍を越えたころ、弟が生まれ、妹は姉になった。
僕の兄弟妹は2人になり、僕はもっと確りとしなくてはと思っているんだけど、動けない。僕が植物であることの証明ですね。
それから、妹は良く僕の元へ弟を連れてきて、僕の下で休んでおられる。受験生ですよね?
妹の受験は上手くいき、弟は1歳になった。保育園に入っているみたいです。僕は、まだ大人になってない。弟・妹は人間で、妹はあと5年もすれば成人する。僕は40歳近くにならないと成木になれません。僕の周りにはブナ、スギ、ヒノキの幼樹が生えてきているので、僕はその兄でもある(種の違いを別にすればね)。タブ・クス・シイの子も芽を出しているんだ。その子達の面倒も看ることになるんだ。
一年が過ぎて、妹は妊娠した。母と父は血は争えんと苦笑いをした。僕は、おじさんになる訳だけど、まだ大人になってない。弟もおじさんになるんだね、たった2歳のおじさんか・・・自重してね、我が妹よ。
僕が青年(40)になった時、人間の母、父が死んだ。僕は、悲しくって葉を落として鳴きまくった。落葉は止まらない。医者の方が来て、心因性落葉と診断を下して、妹と弟を連れて来てくれてからは、少しずつ元気になっていきました。
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