俺を殺す僕

拓魚-たくうお-

俺を殺す僕





 「まぶしい。」


 日差しが俺の瞼を容赦なく突き刺す。

 俺は徐々に意識を取り戻し、徐々に徐々に瞼を押し上げた。


 「…どこだ。」


 今理解できているのは、自分が真っ白なベッドに仰向けに寝ているということのみ。それ以外、ここはどこなのか、自分は誰なのか、何一つ分からない。

 とりあえず上体を起こし、周りを見渡してみた。このとき体に少し違和感を感じたが、その違和感の正体は分からない。


 「…病院?」


 間違いない。ここは病院だ。

 カーテン、天井、床、ドア、ベッド…

 全てが真っ白だ。

 相当頭の狂った人間以外に、こんな部屋に住む者などまずいない。



 …頭が痒い。

 俺は頭に手を伸ばし、それを額の少し上あたりに置いた。


 「…なんだこれ?」


 触った感じ、これは包帯だ。


 だんだん分かってきた。俺は恐らく頭を怪我して入院している。

 頭を怪我する。という大事に至っているにも関わらず、何故か俺は冷静に物事を捉え、推理している。

 何か、それ以上の大事が、自分の体には起こっている気がした。


 そうだ。鏡が見たい。今自分が、自分の頭がどうなっているのかが見たい。


 そう思い、ベッドから降りようと掛け布団をめくった。


 「…」


 何故だろう。言葉がでなかった。

 両足の無い自分の下半身を見た僕に、何故か恐怖はなかった。

 思考が追い付かないのだろうか。


 思い出してみれば、さっき上体を起こしたときの違和感や、頭を怪我したこと以上の大事の予感。間違いなくこれによるものだ。


 まだ思考が追い付かない。

 思考が追い付かないのだが、僕はベッドの横にあったハサミに手を伸ばした。


 今の自分の感情が分からない。

 今の自分の考えが分からない。

 今自分がなにをしているのか分からない。


 俺の左胸に突き立てられたハサミは、今日の日差しのように、容赦なく俺を突き刺した。





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俺を殺す僕 拓魚-たくうお- @takuuo4869

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