美術の授業
次の日、教室の外は雨が降っていた。僕は玲奈と美術の授業を受けている。玲奈はいつも熱心に先生の話を聞いている。美人で物静かでいつだって真面目だ。
実技になったとき、僕は玲奈の隣で絵をかいていた。彼女は注意深くキャンパスを見つめて、モデルのりんごを交互に眺めている。
「りんごは描けそう?」
僕は静かに玲奈に話しかけた。先生は教室の中を歩きながら僕らの絵を見ている。
「私、絵得意だからさ。それより、なんでみかんなんか持ってきたのよ?」
「先生が果物ならなんでもいいっていったじゃないか」
「それ書き終わったら食べる気でしょ?」
玲奈は僕の目を見つめながら強めの語気でそう言った。
「もちろん食べるよ。別に僕は絵なんかどうでもいいんだ」
「あなたっていっつもそんな感じね」
玲奈はあきれたように僕とキャンパスを交互に見ながらそう言った。
美術の授業の間、僕は熱心に絵を描いた。玲奈はしっかりとデッサンを終えて絵の具でもう書き始めている。
「早いね。玲奈はいつもなんだって真面目にやるから」
「私はこうするのが好きなのよ」
優しく玲奈は言った。
僕はやるせない気持ちになった。僕はいつだって何かにつけて反抗したくなってしまう。だからこの授業だって鼻から少し馬鹿にしていたのだ。
「いいなあ。絵もうまくて小説も書けて、そして勉強ができる」
「なんだってやればいいのよ。あなただって真面目に授業受けていれば絵だって描けるようになるしテストだっていい点数取れるわよ」
「僕は玲奈みたいにはできないんだよ」
僕は適当にデッサンを進めた。時折玲奈の細い体躯やぴんと伸びた背筋や長い綺麗な髪を眺めていた。玲奈は背が高くて顔が白くて小さくてまるでモデルみたいだった。
玲奈はシャツの上に薄いベージュのセーターを着ている。スカートは同年代の子より少し長めだ。
僕と言えばだぼだぼのシャツを着て、髪は若干寝ぐせがついている。背は高いほうで体は細身だ。僕はどことなくこの高校に来てから反抗していて、クラスにいる玲奈といつもつるんでいた。他にも男友達はいたが、玲奈と僕は特に気があった。クラスの事情をよく知らない人は僕らが付き合っていると思うに違いない。
「まだデッサンやってるの?」
あきれたように僕に玲奈はそう言った。
「なかなか終わらないんだよ」
「そんなの適当にやればいいのよ」
「適当にやってもうまく書けないんだ」
僕はあきらめたようにそう言った。
さっきから僕のキャンパスには不格好なみかんが鉛筆で何度も重ね書きされていた。
授業が終わると僕らは廊下を歩いていた。
「突然だけどさ」
玲奈は僕にそう言う。
「何?」
「あなたのこと好きかも」
放課後の夜に renovo @renovorenovo
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