天体観測
夜になると僕と玲奈は屋上に僕の望遠鏡を持って行った。空一面は真っ暗で星がはるか遠くに輝いている。
「天体観測なんて小さいとき以来だわ」
「僕だって最近の趣味ってだけでさ」
「どうやって準備するの?」
「まぁ見ててよ」
僕は望遠鏡のピントを合わせる。月面を見ようと思った。それでしばらくいじっていると白い月面がレンズの奥に見えた。
「見えたよ」
「本当に?」
玲奈は僕の隣で望遠鏡を眺める。その髪は美しく風に吹かれていた。
「綺麗。月の表面ってこんなに輝いているのね」
「月面が一番見やすいんだ。他の星ってなるともっと大きい望遠鏡が必要になる」
「素晴らしい。これだって十分よ」
玲奈はそう言って望遠鏡をのぞいている。僕はしばらくの間望遠鏡の外から玲奈の隣で空に浮かぶ月を眺めた。
「何か飲み物が飲みたいわ」
ふと僕の方を向いて玲奈はそう言った。
「買ってくるよ。何がいい?」
「アイスコーヒー」
玲奈がそう言ったので、僕は階段を下りていく。階段のタイルは緑色で汚れている。僕は自動販売機まで行って二つの缶コーヒーを買った。
二つ持って階段を駆け上がる。屋上の扉を開ける。玲奈は望遠鏡を興味深そうに眺めていた。
「ありがとう」玲奈はそう言って笑った。
「缶コーヒー代」
僕はそう言う。
「それくらいおごってよ」
「じゃあいいよ」
僕は玲奈に缶コーヒーを投げて渡す。
「なんだかロマンチックねー。また私とキスしたくなったんじゃない?」
「さっきのは偶然だよ。恥ずかしいな」
「照れなくてもいいじゃない? 同年代なら皆やってるわ」
「玲奈は今まで何人としたんだよ?」
「三人くらい」
「何回したの?」
「さぁ?」
玲奈は屋上の手すりに寄りかかりながら遠くを見ている。ただ暗闇の街の景色が広がっていたが、若干青い世界だ。
「啓介は今まで何人とキスしたの?」
「玲奈が初めてだよ」
「まさかさっきのキスが?」
「そう」
玲奈は手すりから僕の方へかけよってくる。
「あれが初キス?」
「そうだよ。悪い?」
「べっつにー」
「なんだよ?」
「じゃあ童貞なんだね」
玲奈は後ろを向き、笑っていた。
「なんで今まで彼女としなかったのよ?」
「彼女なんかいたことないからだよ。まだ高校生だし」
空一面に銀色の星が広がっている。
「じゃあさー。手もつないだことないんじゃない?」
「まぁね」
玲奈は僕の方へやってきて、手をつないだ。
「これが、初めてね」
「そうだね」と僕は小声で言った。
「夏も終わりね」玲奈は僕から手を放してそういう。
「涼しいもんね」
「私、夏が好きなのよ」
降り向いた玲奈は僕に微笑みかけた。
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