部活動
授業が終わると僕らは部室に向かった。部屋は鍵がかかっていて、窓から見る中は暗い。
「部屋の鍵持ってる?」と玲奈が僕に聞いた。
僕はポケットから鍵を取り出して部屋のドアをあける。
部室の中は広く、六人掛けのテーブルとソファと本棚があった。部員は全部で四人いるが、それぞれが好きな作家の本を本棚においてある。
「さっそく小説書こうかな」
玲奈はそう言って、部室の中で原稿用紙を広げた。
僕も玲奈に向き合って座って小説を書く。文芸部は文化祭で部員の小説をまとめた短編集を配ったりしていた。
「小説って難しいよね。私いくら書いてもうまくならない気がする」
玲奈はそう言いながらもボールペンを進める。
「僕だって原稿用紙一枚書くだけでずいぶん疲れるよ。昔から読書感想文とか国語とか苦手だったし」
「どうして文芸部に入ったの? あなた以外男で文芸部に入っている人なんていないわ」
「ほかにやりたい部活動がなかったんだよ。別にいいだろ? どうせ大して活動なんかしていないんだし」
「この間顧問の小林先生にちゃんと部活やれって怒られたからこうして今小説書いているんじゃない。普段なんか私たち紅茶飲んだりケーキ食べたりしてたわ」
「さすがに部室でケーキはまずかったんじゃないの?」
「あの人急に怒ったりするもんだからびっくりしたわよ。小説なんか難しくて書けないし、どうせ書いたところで誰も読まないわ」
僕らはそんな会話をしながら、ただ黙々と小説を書いていた。いつの間にか外は夕方になっている。僕は原稿用紙の束を放り投げた。
「もう書けない。限界だ」
僕はそう言って部室のソファにうなだれた。手と足を延ばして横になる。とても気持ちがいい。
「あなたはいっつもそんな感じね」
あきれたように原稿用紙から顔を上げた玲奈がそういう。
「僕には小説は向いてないね。それに小説にすら興味がない。年に数冊読めばいい方だ」
僕はそう言って、ソファに横になりながら玲奈のことを見ていた。とても美人で愛嬌がある。
「玲奈は小説家にでもなるつもりなの?」
「別に。私も他にやりたいことがなかったから文芸部に入っただけよ」
「僕は玲奈のこと好きだけど」
「いきなり何よ?」
「こっちへきてよ」
「なんで?」
玲奈はそう言いつつも僕のいる方へやってきた。
彼女は僕の隣に座る。僕たちは向き合っていた。
僕はそっと玲奈の体に手を伸ばす。玲奈は不思議そうに僕のことを見つめている。
僕らはソファの上でそっとキスをした。甘くとろけるようなキスだった。
「いきなりなに?」
玲奈は少しとまどっていた。
「彼氏いるんでしょ?」
僕はそう聞く。
「別に彼氏なんか、彼氏になってって言えばそうなるの」
「僕とキスしてもいいの?」
「あなたが急にそうしてきたからそうしただけ」
僕らは部室のソファの上で抱き合った。時間は過ぎていく。
「こうしていると暇つぶしくらいにはなるわ」
「なんだよ? 暇つぶしって」
「私のこと好きなの?」
「そりゃあクラスで一番美人だし、気が合うし」
僕らはほかの部員が来るまでそうしていたが、結局その日部活に来たのは僕らだけだった。
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