神隠しの家


 俺の通う高校の近くに『神隠しの家』と呼ばれる有名な廃屋がある。


 何十年も前。ここに住んでいた家族が、ある日忽然と姿を消した。

 最初は夜逃げかと思われたが、家の中には家具や日用品はもちろん、金品や靴までもそのまま残されていた。まるで、本当に神隠しにあったかのように、住んで居た人たちだけが煙のように消えてしまったのである。


 ブロック塀にぐるりと囲まれたその廃屋は、手入れもされずに伸び放題、茂り放題の木や雑草に埋もれ、もはや建物自体どんなものなのか外からでは確認できないほどだ。

 唯一の入り口である門は、錆びきった鎖と南京錠で固く閉ざされていて、中に入れそうもない。


 夏になると決まって肝試しにやってくる輩が後を絶たないのだが、来ても中に入れないので、みんな外観――といっても塀と雑木しか見えないが――だけ拝んで帰ってゆく。


 まぁ、地元民からしたら迷惑極まりない話だ。


 土地の所有者も何故か一向に手を付けようとしない、はたから見たら、まさにお化け屋敷であった。


 でも、それ以外はこれと言って特に怖い噂があるわけでもなかったので、お化けが出そうな雰囲気なだけの「ただの空き家」に違いない。


 少なくとも、俺はそう思っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る