第31話 長安脱出

元、董卓軍大将の李傕・郭汜は董卓を誅殺した呂布を長安から追い出し、首謀者の王允や黄琬を一族諸共討ち、政権を欲しいままにした。しかし、この二人の統治能力は皆無であった為に長安は荒れに荒れた。この二人は元来、仲の良かったが、しばらくして互いに献帝を巻き込んだ権力闘争を始める。この争いを止めたのは李傕・郭汜と同様で元・董卓軍の大将・張済だった。だが争いが収まっても献帝の洛陽に戻りたい気持ちが収まる事は無かった。そして、我慢できなくなった献帝は夜陰に紛れ長安から逃げ出した。


その日も李傕は民が飢饉で苦しむ中 一人豪勢な食事をしていたのだが


「ご報告 宮廷内に献帝の姿がありません」


「何? どういう事だ!」


「夜陰に紛れ長安を抜け出したのではないかと」


「全く、監視は何をやっていたんだ」


「宮殿内には酒に酔った者ばかりです」


「くそ! まさか逃亡を企てるとは」


この知らせは郭汜にも伝えられた


「献帝を逃がすような事は避けねばならん」


「逃げられては我々が逆賊扱いされてしまう」


二人は即座に軍を編成 献帝を連れ戻すべく行動を開始した。


一方 献帝一行は洛陽に向けて馬車を走らせていた。


「なんとか長安を出られたな」


「しかし、いずれ追手が来るでしょう」


「そうなれば、この手勢では長く持ちません」


現在 献帝に付き従うのは董承・楊彪・張楊・宋果・楊定・徐晃や元・黄巾党一派の白波賊・楊奉・韓暹・李楽・胡才等だけだった。そして一行に李傕・郭汜軍が迫る。


「後方に砂塵を確認」


「随分と早いな」


「だが数は思った程多くない様だが」


「先行部隊だな」


「いずれ追いつかれてしまうなら戦うべきだ」


先行部隊との戦闘が始まる。苦戦を強いられたが、楊奉等の奮戦で先行部隊を退ける事に成功。


「素晴らしい武勇です」


董承が徐晃・楊奉・楊定等を褒め称える


「これでしばらくは大丈夫だろう」


「ですが、いずれ本隊が追いつきます。そうなれば、真面に戦う事も出来ません。今後はどうなされる御つもりですか?董承殿」


「そうなる前に洛陽に到着できる事を願うばかりです」


「しかし、洛陽に着いても李傕・郭汜軍に対抗は出来ないでしょう」


「心配は要りませんよ徐晃殿。献帝が長安を離れた事を知れば諸侯が黙ってはいいません」


「今、李傕・郭汜に対抗できるのは洛陽に近くにいて彼等と同等かそれ以上の軍事力を有する群雄。それに現在当てはまるのは徐州と豫州を有する皇族の劉備玄徳。同じく荊州の劉表景升。公孫瓚を滅ぼし冀州・并州・幽州を有する袁紹本初。そして領土は兗州のみだが多くの兵を有する曹操孟徳。彼らには既に、帝が直々に記した密書を届けている」


「洛陽に近づけば彼等の内、誰かが駆け付けてくれるだろう」


「そんな事してもまた第二、第三の董卓が出るだけだろう」


「今はそんな事はどうでもいいでしょう」


「我等がやるべきは献帝を李傕・郭汜の追撃から守ることです」


一行は再度、洛陽を目指し馬車を走らせる。そして遂に李傕・郭汜軍の本隊が迫る。


「遂に追いつかれてしまった」


「やはり、この兵力差では戦えない」


「クソッ!目の前の黄河を渡りきれれば良いのだが」


「私に少し考えがある」


そう言うと董承は馬車の積荷の路銀をバラ撒きはじめた。するとそれを見ていた李傕・郭汜軍の兵士たちは我先にと拾い始めた。こうして、献帝一行は僅かな手勢と共に黄河を渡る事に成功した。









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