第10話 帝の使者
劉備が広宗に向かう途中、狭い街道で敗走している官軍の一団を見つけた。
「可笑しいな。官軍が優勢と聞いていたが・・・?」
「理由は分かりませんが、あのままでは、全滅します」
「なら、後方から突っ込め、挟撃が成り立つ」
攻勢に出ていた黄巾賊は突然、現れた劉備軍に驚き、敗走していた官軍も援軍の存在を知り反転し、挟撃が成功。敗走中の官軍の全滅は免れた。
「危ない処を有難う御座います。私は董卓 仲穎と申す。貴殿は?」
「劉備玄徳と申します」
「おぉ、貴方が劉備殿。各地でのご活躍されているようで」
「処で、董卓殿。聞きたい事があるのですが」
「何でしょう?」
「なぜ、この様な処に?指揮官の盧植殿はどうなされた」
「知らないのですか? 盧植殿は既に、将軍の任を降ろされ、その後任を左豊殿から頼まれ私が出向いたのです」
「・・・」
広宗では、未だに激戦が続いていた。しかし劉備や官軍が各地の黄巾賊を各個撃破するにつれ、黄巾賊の士気が落ち、官軍が優勢だった。そんな時、帝への近況報告の為の使者 左豊が現われた。
「現在は我等が優勢だと、帝にお伝えください」
「それだけですか?」
左豊は盧植に賄賂を求めた。しかし、真面目な盧植が渡す筈もない。後日、左豊は、帝に「盧植は戦おうとしない」と嘘を告げ、怒った帝は、盧植の将軍の任を降ろし、洛陽に収監した。劉備が広宗に着いたのはその後。
「左豊は今、何処に?」
「まだ、本陣にいらっしゃいますよ」
董卓と共に官軍の本陣に帰った劉備は早速、面会を求めた。
「おや、劉備殿。お久しぶりですね」
「左豊! 貴様、自分が何をしたか分かっているのか?」
「なんですか? いきなり」
「なぜ、盧植殿の任を解いた!」
「盧植殿は、戦いもせず、悪戯に時を過ごしただけ、これでは、兵の士気も上がりません。兵の士気を下げるのは重大な軍規違反ですよ」
「だが、聞いた話ではお前の選んだ董卓は負け続けているぞ。お蔭で、黄巾賊が息を吹き返しているではないか!盧植殿が在任時にはそのような事は無かった!この責任をどう執るつもりだ」
「戦の勝敗は私の責任ではありませんよ」
「官軍が劣勢な直接の原因は貴様が盧植殿の任を解いた事だと言っているんだ。これは、明らかに貴様の責任だ」
「言いがかりは止めていただきたい、劉備殿。貴方も、盧植殿と同じ事になりますよ」
「貴様ごときが、誰を脅迫しているんだ!」
「劉備殿 これ以上は」
険悪な雰囲気に董卓や左豊の付き添いが止めに入る
「左豊、軍規を乱した者がどうなるか知っているか?」
「お止めないさい劉備殿」
劉備の行動に気づいた董卓だが彼を止める事は出来なかった。その時、既に左豊の首と胴が離れていた。左豊の付き添いは次は自分がやられると思い逃げ出した。
「コイツは軍規を乱した者だ。違反者として皆に知らしめよ」
「劉備殿、左豊殿は仮にも帝の使者ですぞ」
「帝の使者でも、違反者は罰するのが当たり前だ」
「先程の付き添いの者が都に帰れば宦官達が黙っていませんぞ」
「そんな事はどうでも良い。今は眼の前の敵に集中しろ」
後日 別の使者が劉備を捕らえようと来たが彼等を返り討ちにした。
「帝には帰ってから報告すると伝えよ。それと、宦官どもにこれ以上、手間を掛けさせるならば帰って直ぐに愚か者の首を取りに行くと伝えろ」
そう言って、使者を無理やり返した。その後、劉備を恐れたのか黄巾の乱が終息するまで、使者は訪れなかった。
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