第101話 マリアージュ ~ドーナツふたたび~
~料理店店長・ワルテールの視点~
休日目が覚めた時から、今日は何だかおかしいなー、みょうだなーという気分でした。
というのも、普段は寝つきがいいあたしが昨日はなかなか寝付くことができず、眠るまでに2時間くらいかかってしまったのです。
そして朝起きたら首のあたりが、まるで何か重りをつけているかの如く重く感じたのです。
首が回らないなー、重いなー。
そんな何かの予兆を感じる朝だったのですが、あたしは気にせず街に出る事にしました。普段通るルートを歩いていると、なんだか違和感を感じました。
変だなー、変だなー。
あたしはその違和感について考えると、ふとその違和感の正体に気付いてしまったのです。
普段通る見慣れた街並みに一つの見慣れない建物があったのです。
私は看板を見て少し迷ったあと、その扉を開けることにしたのです。
チリリーン、チリリーン
冷たい鈴の音が店内に鳴り響きました。
あたしはドキッとしながらも私は店内を見回しました。ソファには少女が一人何かを夢中に食べていました。そして奥にも目をやるともう一人少女がいました。その少女も何かを食べているようです。
なにかなー、なにかなー
あたしが考えていると、猫があたしのところへやってきました。
ふわふわふわ、ふわふわふわと飛んでいるのです。あたしは驚きました。さらに驚いたことにその猫はあたしを席へと案内するのです。
あたしはこれが現実なのか、それともまだ夢の中なのか分かりませんでした。これは夢でまだベッドの中かななんて錯覚に囚われました。
あたしはひとまず誘われるままにソファに座りました。
「これがメニューにゃ。どれにするにゃ。」
猫があたしに尋ねました。あたしはメニューを見ました。なじみのある料理から聞いたことのないような料理までいろいろと書かれてありました。あたしはどれにしようか迷っていると、後ろから微かな音が聞こえてきました。
むしゃむしゃむしゃ、むしゃむしゃむしゃ
ばっと振り返ってみると少女が一心不乱に丸い輪っかのようなものを食べていました。
あたしはその丸い食べ物に興味が出たんです。
「あちらと同じものをくれんかね。」
あたしは猫に注文しました。
すると、すーっとどこかへ行ったかと思うと、皿を持って再びあたしの前へとやってきました。
「こちらになりますにゃ。」
あたしはテーブルに置かれた料理を見ました。
どうやらパン生地のようなものに独自のソースをかけているのですね。
あたしはこう見えて料理店の店長を勤めていますから、見ただけである程度のことは分かるのです。
あたしは少女たちが夢中になっているこの料理を手に取り、口に運びました。
一口、また一口
へんだなー、おかしいなー
こんな味は食べたことがないなー。あたしの経験上味わった事のない味がしたのです。
あたしはそこで自分のスキルを使ってみました。
あたしはこう見えて魔眼を持っているのです。その魔眼によって『鑑定スキル』というものを使う事できます。料理の材料などを一目で分かるのです。今まで、このスキルを使ってライバル店のレシピを盗み、繁盛させてきたのです。
あたしは『鑑定スキル』を使いました。
砂糖 30g
卵 1個
バター 50g
薄力粉 40g
油 適量
スライム 1匹
マッ??????????
あたしは自分の目を疑いました。目をこすりもう一度見直しましたが、やっぱり最後の一行におかしな材料が表示されたのです。
おかしいなー、おかしいなー。
あたしはもう一度魔眼の能力を使いました。
砂糖 30g
卵 1個
バター 50g
薄力粉 40g
油 適量
スライム 1匹
ムマッ??????????
腕で目をこすった後、何度も確認しました。どうやら、この料理にはスライムが隠し味として使われているというのです。
魔物を食べる・・・たしかにそれを実行したものはいるのですが、不味過ぎて食えたものじゃないと言われているのです。
しかし、これはどうしたことか。実際にはこれほど美味しいのです。今まで言われてきた事が実は嘘なんじゃないかと疑い始めました。そして、ここの店主はそれに気付き誰にも知られずに儲けようと考えているのです。あたしが魔眼でその秘密を暴いたとも知らず・・・・
あたしはいてもたってもいられなくなりました。席を立ち、会計をすませようとしました。すると、入口付近に先ほどまではいなかった女性がスーッと現れたのです。一切の気配が感じられませんでした。
「ドーナツ6個で銅貨42枚になります。」
その霊のような女性の前へ言われた額を置きました。
そして、支払いを済ませたあたしは薄気味の悪い店を後にしました。店に帰って、早速スライムの遺体を冒険者ギルドに発注することにしました。
そして、料理に使う事にしたんです。
周りからはあたしが狂ったとか何かの呪いにかかったとか噂していましたが、このあたしの料理を食べれば皆黙るはずです。
あたしは来る日も来る日も試行錯誤を続け、あのおかしな店で食べた料理を再現しようと研究を重ねました。何度も食べているとあたしの味覚は狂い始め、これで大丈夫なのかどうかが分からなくなりました。そこで、何度か客にあたしの料理を出して反応を確かめたりもしました。もちろんスライムのソースをかけましたよ・・・
そうして何週間かすぎた頃、寝つきの良いあたしがなかなか眠ることができない日がありました。
なんだかおかしいなー、みょうだなー。
あたしは家を出て普段通るルート歩いていると、またもや、なんだか違和感を感じて立ち止まりました。
なんだかおかしいな~、おかしいな~
そこにあったはずの建物が無くなっているのです。そこで私は気付いてしまったんです。
お店が潰れてなくなっていたのです・・・・・・・・・・あたしのお店が・・・・
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