第100話 呪術研究会活動報告・その2

~呪術研究会部長・クロエの視点~


 私は見てしまったのです。先生がアギラさんの家を訪れ、外から家の中を覗いているのを。先生はそこで少しの間中の様子を伺っていると、急に走り去ってしまいました


 その目には涙が溢れているようにも見えました。何かショックな事があったのでしょうか。二人の仲はどこまで進展しているのか私には全くわかりません。

 しかし、先生のあの涙と表情を見ればうまくいってない事は一目瞭然です。


 なんとかしてあげたいですが、私に何ができるでしょうか・・・・



~魔法使い・ティーエの視点~


 あの変態悪魔を倒すことはできないまでも、温泉宿で連れてこられた少女を救う事ぐらいならこの天才魔法使いの私になら可能なはずです。


 私は変態悪魔の住んでいるところを何度も訪れチャンスを伺いました。部屋に監禁されているという少女が一人の時を見計らって逃がすのです。少女は滅多に部屋を出してもらえないようでした。そして、もう一つ問題がありました。少女の魔力も変態悪魔と同じように私の魔力感知では捉えにくいという事です。まだ子供だから仕方ない事でしょう。


 そして、今日も少女を救出すべく私は部屋の前に行って、窓から中を覗き込みました。

 そこで私は心臓が飛び出そうになりました。気を抜いていた私は魔力感知を怠り、中に変態悪魔がいるのを気づけませんでした。この変態悪魔の魔力を感じるには相当の集中力を要するのです。これは天才魔法使いの私にしかできない事なのです。


 私は向こうがこっちに気付いていない事を確認して、もう一度部屋の中を観察しました。

 そして部屋の中を見た私の目には驚愕の場面が飛び込んできました。

 私は持ってる杖を強く握りしめ、私から漏れ出す膨大な魔力を必死に抑えつけました。


 部屋の中では阿鼻叫喚な地獄絵図が広がっていたのです。


 変態悪魔はズボンを下ろし、一人の少女を空中にはりつけにしていたのです。よく見ると、その少女は温泉宿から連れ帰った少女とは別の少女だったのです。


 一体何人の女性をその毒牙にかけようというのか・・・


 あろうことか、その少女を魔法で空中に浮遊させ身動きの取れないようにしているのです。さらに、その少女は抵抗できず、生命力が弱りきっているように見えます。あまりに弱りすぎて私の目には体が透けているかに見えるほどでした。


 私は自分の無力さに歯噛みしました。そして、どうする事もできない自分自身への苛立ちから私の目から涙が溢れました。


 私がここで部屋に侵入して少女を助けようとしても、私も少女も殺されてしまうのが目に見えています。冷静に考えればここは助けに行く場面ではありません。

 変態悪魔もズボンを上げようとしていましたので、これ以上の惨劇がこれから起きるのは考えづらいのです。

 私ほどの頭脳の持ち主でなければ、ここで助けに行って二人とも無駄に命を落としてしまっていたにちがいありません。


 私は変態悪魔に察知される前にその場を離れました。




~呪術研究会部長・クロエの視点~



 アギラさんは本当に凄いです。新しく発見されたという遺跡で呪いについての新しい情報を得たばかりか、いろいろな薬品を研究室に提供してくれました。私には薬品類はさっぱりわかりませんが、これから皆で研究していければと思います。


 そして、呪いを解くために他の遺跡を巡るというのです。遺跡は新しい遺跡を含めて3つしか発見できていませんが、アギラさんの示した場所の近くに未発見の遺跡があるとの事でした。


 私はその場所を見て驚きました。一つの点が私の故郷である『ジパンニ』を指し示していたのです。しかし、私のいた島にそんな遺跡があるという情報は聞いたことがありません。


 そこでふと私は思い立ちました。夏休みを利用して、私の故郷で呪術研究会の合宿をするというのはどうでしょうか。

 私は遺跡に入って探索することはできませんが、遺跡を発見するまでの手助けくらいならできるかもしれません。

 それに上手くすればアギラさんと先生の仲が進展するかもしれません。

 

 私は合宿を皆に提案してみました。





~魔法使い・ティーエの視点~



 変態悪魔は連休中にイーリス帝国近くの遺跡へと行って、いろいろとアイテムを入手してきたという嘘をついていました。何故そんな嘘をつくのか・・・


 イーリス帝国までの道のりは往復で2週間はかかる距離、そして遺跡の探索にはさらにそれ以上の日数がかかると言われています。

 たった3日の休みの間に往復するばかりか、遺跡の探索もするなんて・・・・一般的には想像することもできません・・・しかし・・・この変態悪魔なら・・・・


 変態悪魔はそこで手に入れたアイテムは多いから呪術研究会で自由に調べて欲しいと言って、そのいくつかをテーブルに並べました。

 私はその並べられた薬品を見て背筋が凍りました。一つの瓶に書かれた薬品の名前が私を硬直させたのです。


 あの薬品は・・・・『テトラニチン』!! その効用はわずか0.2mgで2m級の熊を絶命させることができるほどの劇薬。


 私でも2g用意するのに困難を極めたというのに、あんな量を・・・いったい何人を虐殺するつもりなのでしょうか・・・

 あの量があればこの学園・・・いやこの王国の人間達を葬り去る事ができるのです・・・


 私はその薬品を持ってきた真意を探りました。


 そして私には分かったのです。


 圧倒的圧力、これは暗に秘めた警告なのです。


 お前の考えていた犯行は全てお見通しだぞ。俺にかかればお前の用意したもの等簡単にそれ以上用意できるのだ。お前は俺に従っていればいいのだ。余計な事はするんじゃないぞ。

 ・・・つまりはそういう事なのです。


 私には変態悪魔に抗う力はもうほとんど残っていません。

 温泉宿であれだけあった殺意が今では嘘のように消え去ってしまいました。私にはもう変態悪魔に抵抗する力は残されていないのです。


 変態悪魔に操られたクロエさんがいいました。


「な、な、夏休みに『ジパンニ』で、が、合宿するのはどうですか? ジ、『ジパンニ』は私の、こ、故郷なので、皆さんを案内する事が、で、できると思います。」


 私に拒否権などありません。

「そ、それは、いいですね。ぜ、ぜひ行きましょう。」



~吸血鬼・ソロモンの視点~



「それでアギラの話だと遺跡に呪いを解く鍵が隠されているらしい。」

 昼休みに私はニーナと食事をとっていた。呪術研究会での事を話すのは迷ったが、ニーナを信頼できるから大丈夫だろう。


「そうなの? それは初耳ね?」


「ああ、私も初めて聞いたから、真偽はまだわからない。今度それを調べるために合宿をする事になった。」

 私は行き先を説明した。


「どうして『ジパンニ』なんて辺境の島に行くの? あんな時代遅れの島なんて行っても何もないんじゃない。」


「なんでも未発見の遺跡がそこには存在する可能性があるらしいのだ。」


「えっ?? 他には何か言ってなかった?」


「もう一つ未発見の遺跡の位置を言ってたかな・・・」


「それってどこなの?」

 私は言うかどうか迷った。しかし、ニーナになら大丈夫だろう。


「この辺りらしい。」

 私はアギラに教えてもらった地図上では陸がない部分を指で円を描いた。


「そう・・・・」

 ニーナは静かに呟いた・・・・



~魔女族・ドロニアの視点~


 私は『叡智の図書館』に来ていた。

 そして一冊の本を手に取った。


 その背表紙には『悪魔大全』、そう書き記されたいた・・・

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