第76話 魔族会議

~十二柱の一人・ベルゼブブの視点~


 ここは東の大陸の中央に位置する私の私邸である。

 今日は悪魔族の幹部を招集していた。魔王について話し合うためだ。前に話した時は誰も信じず、私とフルーレティーだけで南の大陸へと移動したが、今回は違う。私は魔王らしき者に遭遇したのだ。あの魔力、そして私の魔法を押し返したその力は、魔王の片鱗が感じ取れた。解せぬのは『魔王の支配デモンズ・ルール』を発動しなかった事だ。魔王の持つその固有呪術を使えば、私は成すすべがなかったはずなのだ。

 そういう意味では、あの者はまだ魔王であると断定する事はできなかった。


「で、まーた、魔王が復活してるかもしれないからって事で俺達を呼んだのかよ?やる気のないお前が2回も会議を開くなんてどうしちまったんだ。空から星でも降ってくるんじゃないか。」

口を開いたのは上級悪魔の上に君臨する十二柱の一人、サタンだった。


長方形のテーブルにはある12の席には、私以外に7人の悪魔族達が着席していた。それぞれが私と同格の力を有し、全員が十二柱のメンバーだった。


「本当だぜYO。魔王が南の大陸にいるわけないぜYO。そんなところにいたら、とっくに人族は絶滅しているぜYO。Hey,my friend!!」

ラップ調でそれに応じたのはバルベリスだった。


「普通に喋ってください。下手なラップはやめてください。というか、全然韻を踏んでないから、あなたのそれはラップですらないですよ。」

眼鏡を中指でくいっと押し上げながら、突っ込むのはダンタリオンだ。


「YO、ブラザー、そんなつれないこと言うやーつ、一緒に魚釣っても、全然つれないYO、YO!」

気にせずバルベリスはリズムに乗りながら返事をする。


「意味がわからないですね。」

ダンタリオンは眉一つ動かさず一蹴した。


「こないださー。メドゥーサのやつが好きな奴の目を見て話せないって言うのよ。あいつの呪いって常時発動型だから、目を見た奴が石になるじゃん。だから、これでもかけてみればって黒いサングラスを渡してやったのよ。そしたら、呪いがかからなくなったわけよ・・・」

ベリアルはマイペースに関係のない話をし出した。


「そんな事はどうでもいいわ。くだらない。早く帰りたいんだけど。ていうか、強制参加って事だったから来たのにルシファーとアスモデウスとリヴィアタンはどうしたのよ?」

幼女体形をしたアスタロスが人形を抱えながら仲裁し、ここにいない4人のうち3人を非難した。


「YO、シスター、アンドラスを忘れてるYO。」


「あいつは50年くらい前からどっかに行方をくらましたじゃない。大方、何かに取り憑いて何もせず魔力を吸収し続けてるんじゃない。もう、あんなやつは十二柱から外して違うやつを格上げすればいいのに。ってあいつの事はどうでもいいのよ。3人はどうしたのかって聞いてるのよ。」

アスタロスは私に問いかける。


「あいつらは、忙しいから来れないそうだ。」


「それを信じたってわけ。どうせ家でゴロゴロしてるに決まってるじゃない。怠け者のあんたが緊急会議を開いたから来たって言うのに・・・」

アスタロスはぶつぶつと文句を言っていた。


「そんで、相手が君の瞳をよく見たいなんて言ってさ。メドゥーサのやつが俺に相談しに来るわけさ。だから、俺はサングラスの透過率をあげていったわけ。んで、ここぞって時にかけるといいよって教えたわけさ・・・」

ベリアルは自分の話をずっと続けていた。しかし誰も話を聞いてはいない。


「早く本題に入りましょう。結局あなたが出会ったのが、魔王である確率はどのくらいなの?それに南の大陸にいるのなら、前に言ってたようにここを離れる必要がないじゃないかしら。ここの方が安全という事になるんですから。」

フォルネウスが話を戻そうとした。


 フォルネウスは前に私が魔王復活の話をした時一番関心を持って聞いていた。そして、他の場所に移動する事に賛成していた悪魔でもある。しかし、結局それをしなかったのは、部下全員を連れて行くことを私が拒否したからだった。フォルネウスは自分の部下も全員移動させられないなら、このまま東の大陸に残ると言ったのだ。


「魔王である確率はかなり高いと思う。しかし、まだ断定はできない。そして、ここにいた方が今のところ安全だと言う事も間違ってはいない。」


「だったら何故私たちを招集したのですか。」

フォルネウスの横に座っていたエリゴスが問う。


「今の魔王はまだ『魔王の支配デモンズ・ルール』を使えない可能性がある。つまり、私たちが協力して奇襲をかければれるチャンスがあるという事だ。その事について全員の意見を聞こうと思ったのだ。」

 私は考えていたのだ。どうすれば、魔王の支配から逃れる事ができるのかを。一度、その能力が発動されれば、魔王が死ぬまでこき使われてしまうのだ。長い時で300年に及ぶ支配を受けた時もあった。それを考えれば、今動く事など小さなことだ。


「魔王をる・・・」

サタンはつぶやいた。


「クレイジーだYO!」

バルベリスはリズムにのった。


「なるほど。」

ダンタリオンは頷いた。


「そんな事できるかしら。」

フォルネウスは半信半疑だった。


「いい考えね。」

エリゴスは乗り気だった。


「そしたら、その眼鏡の光沢に反射して自分が石になっちゃったんだよ。いやー、まいっちゃうよね。」

その話まだ続いていたのか。ベリアルは一人で大笑いしているが、メドゥーサが大変な事になってるな。助けてやらねばならないようだ・・・


「でもでも、そいつが魔王じゃなかったら、骨折り損のくたびれ儲けってやつじゃん。ただの強い人族ってだけなら100年もほっとけば死ぬんじゃないの。わざわざ、こっちから出向くのは馬鹿らしいんだけど。やっぱりそいつが魔王っていう100%に近い確証がないと動きたくないんだけど。」

アスタロスがごねると、「確かに。」とサタンが同意した。


「もう一度行って確かめてくるつもりだ。」

私は答えた。


「どうやって?」

アスタロスが尋ねる。


私は皆の顔見回して、間を取った後に言った。


「私には魔王かどうかを確かめるための手段がある。」



~下級悪魔・アモンの視点~


 俺様は今ベルゼブブ様の転移魔法で南の大陸へとやって来ている。

 俺様は下級悪魔の中では一番長生きをしている悪魔族だ。

 何故十二柱のベルゼブブ様と一緒にこの大陸へ来たかって?そりゃ、俺様のこれからの生活を快適にするためだ。


 俺様の固有呪術『運命の赤い糸ストーキング・ストリングス』はマーキングをつけた者が俺様の半径500mに近づいたらいつでも分かるっていういう呪いだ。そして、そのマーキングをつける事ができる人数は1人と少ない。


 こんなしょぼい呪いで嫌かって。とんでもないぜ。この能力のおかげで俺は長生きしてこれたんだからな。


 悪魔族は寿命で死ぬことが滅多にない種族だ。しかし、一気に数が減る時期がある。それが魔王が復活した時だ。魔王によって強制的に戦いに参加させられたものはどんどんと命を落としていくのだ。


 俺様は自分に力がない事をよく知っている。だから、最初に魔王の話を聞いた時ある計画を立てた。俺様の能力で魔王をマーキングするというものだ。そして、その計画は成功したのだ。それは今から2000年も前の事だ。俺様の予想では『魔王の支配デモンズ・ルール』の射程範囲は500mより短いのだ。


だから、俺様はいつも、魔王の気配を感知すれば、一目散に逃げて距離をとってきたのだ。


 そして、俺様の能力の真価は魔王が死んで復活しても有効な事だった。最初に魔王が死んだ時、俺様は呪いを解除しなかった。それが俺様にとってはラッキーだった。それから何度か転生していたようだが、一度も俺様は『魔王の支配デモンズ・ルール』を受ける事はなかった。


 そして、その事に気づいたものがいた。ベルゼブブ様だった。悪魔族は自分の固有呪術を他に言う事はない。だが、俺様が下級悪魔にもかかわらず、ずっと生き抜いている事に疑問に思い俺様を尋問したのだ。

 そして、その時にベルゼブブ様は魔王を殺す計画を俺様に話した。


 今回、俺様は魔王かどうかを確かめるだけで、ベルゼブブ様配下の上級悪魔を俺様の配下にしていいと言われたのだ。俺様は自分より強い悪魔族を顎で使うことを想像して悦に入った。


「では、頼んだぞ。ここからは目立ってはいけないので、1人で確認しにいってくれ。」

ベルゼブブ様の言葉で、想像の世界から引き戻された。


「おやすい御用です。」

俺様は魔導士学園とやらに向かった。


 実は俺様にはベルゼブブ様にも教えていないもう一つの能力があった。魔力感知の能力だ。この能力は結構持ってるものが多いのだが、俺様の魔力感知は一味違っているのだ。


 どんなに隠蔽された魔力であったとしても、半径1km先からでも感じ取る事ができるのだ。この能力と『運命の赤い糸ストーキング・ストリングス』の2つの能力のおかげで俺様は長生きできているのだ。


もうすぐ、魔導士学園の1km手前に入りそうだな・・・


どれ、俺様は魔力感知の能力を開始しながら近づいた。

魔導士学園というだけあって、小粒な魔力の反応がいっぱいいるな・・・


むっ、中級悪魔以上の魔力が固まって・・・・ぬおっ・・・なんだ・・・この魔力は・・・


無理だ・・・これ以上・・・進めない・・・行けば確実に殺される。


何だあの魔力は?今まで感じたことない魔力量だ・・・


しかし・・・だからこそ・・・今ってもらわねばならない・・・


 俺様は震える足を一歩一歩踏み出し、『運命の赤い糸ストーキング・ストリングス』の射程範囲へと近づいた。


 時間にして1分にも満たない時間が俺様には永遠に続く長い長い時間に感じられた。ただ歩いているだけで、俺様の呼吸は荒くなった。

 そして、目標の場所まで辿り着いた。


運命の赤い糸ストーキング・ストリングス


 俺様は固有呪術を発動した。


いるっ。確かに魔王が建物の中に存在している。


 俺様は夢中で引き返した。やばい。今回の魔王は常軌を逸している。捕まればおしまいだ。

俺様は震えて上手く走れなかった。何回か転びそうになりながらも、ベルゼブブ様のところまで辿り着いた。


ベルゼブブ様は驚いた顔で俺様に問いかけた。

「どうしたのだ、その体は・・・?」

どういう事だ。俺様は服から出た自分の手を確認した。


俺の体は恐怖で黒色から白色へと変化していた・・・





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