第43話 冒険者ギルド

「これ、アギラが作ったの?」

鍋の中で焼けた魚を覗き込む。その上半身は、何故か何も身につけていたない。


「服、服。」

俺はリーンから視線を逸らす。


「えっ・・・・あっ。」

慌てて船室に戻り、服を着て戻ってきた。


「いつもの癖で・・・見た?」


「いや、すぐに見ないように横を向いたから・・・」


「そうなの・・・まあいいわ。それよりも、その魚美味しそうに焼けてるわね。」

いいのか・・・。実は少し見てしまったのだが、すいません。


「リーンの分もあるから食べていいよ。」

リーンの目が輝いた。


「本当に?じゃあ、ありがたく頂くわ。」

アーサーの分は骨を取り除いてやり渡した。


「マスターの料理は美味しいですからにゃ。最近さらに腕があがってますにゃ。・・・うまいにゃ。・・・うみゃ・・・うみゃ・・・・止まらないにゃ。」

凄い勢いで皿の中の魚がなくなっていく。


 自分でも料理が美味しくなっている実感はあった。鍋とナイフを手に入れてからである。焼き魚は鍋の中で塩焼きにしただけなのだが、かなり美味しかった。この鍋には何か料理を美味しくする秘密があるのかもしれない。


「ホントね。美味しいわ。エルフの村で食べていた魚よりも美味しく感じる。アギラは料理の才能があるわね。」

そんなに褒めても何も出てこないよ。


 それでも、自分が作った料理が褒められるのは嬉しかった。もしや、料理人としての才能もあるかも・・・。


俺たちの航海は順調に進み、1カ月ほどすると、南の大陸の海岸が見えてきた。

「これからアギラ達はどうするの?一緒にメガラニカ王国に行く?」

リーンが尋ねた。


 俺はまだどうするか決めていなかった。

「ひとまず行くところがあるから、そこへ行こうと思う。」

皇帝から手紙を届けるように頼まれていたので、まずそこへ行かなければならなかった。


「そうなの。残念ね。」

本当に残念そうにしてくれていた。


「アギラの料理が食べられないなんて・・・」


『ん?』

あれっ、料理?

 たしかに、俺はアーサーに預けていた素材を使って、あれからいろいろと料理を作っていた。しかし、いろいろ話もして仲を深めたと思っていたが、どうやら俺=料理という認識だったらしい。

まあいい。


「そういえば、リーンは南の大陸で1人でも大丈夫なの?」

リーンには心配させる何かがあった。


「大丈夫よ。誰に言ってるのよ。こう見えても、何度か南の大陸に来たことはあるのよ。親と一緒だったけどね。エルフの里から1年に1回南の大陸行きの船が出てるのよ。」

どうやらエルフの里とやらは南の大陸と交流があるらしい。


「お金もちゃんと持ってきてるから、当分はなんとかなるわ。アギラこそ大丈夫なの?」


「素材でも売ろうと思ってるんだけど、どこで売ればいいかな?知ってる?」


「冒険者ギルドで買い取ってくれるはずよ。そこで依頼をこなせば、報酬も貰えるわ。だいたいの街にはあるそうよ。」

南の大陸のはそういうのがあるのか。用事が済んだら行ってみよう。


「リーンも港についたら冒険者ギルドに行くの?」


「ひとまず、私はメガラニカ王国を目指すわ。試験を受けてから、王国の冒険者ギルドでお金を稼ごうかと思ってるの。」


「そうか、じゃあ、もし俺もメガラニカ王国に行くことになったら、よろしく。」


「そうね。また会えるのを楽しみにしてるわ。」

口からよだれが垂れている気がするが、気にすまい。

俺たちは海岸に船を近づけ、碇を下ろし、船から降りた。

そして、リーンと別れて、竜人がいる場所に向かった。


 地図に印があるところには、海に近く港町から少し離れた場所だった。

その場所には大きな屋敷がたっていた。

俺は扉を叩いた。

「すいませーん。」

しばらくすると、1人のメイド服を着た女の人が出てきた。


「『奇跡の水』ならここにはありませんよ。皆さんこちらに来られますが、本当にここにはないんです。」

『奇跡の水』とは何の事だろうか。


「いえ、ルード皇国から皇帝への手紙を届けに来たのですが・・・」


「ルード皇国?」

どうやら、ルード皇国を知らないようだった。尻尾も生えてないので、どうやら竜人ではないのかもしれない。


「あの、こちらのご主人は?」


「こちらの主人は、滅多に人前に出ることはありません。ですので要件は全て私が承っています。」

どうしようか迷っていると、部屋の奥から声が聞こえた。


「アリス、そちらの方は客人だ。お通しして。」


「えっ?よろしいんですか?」

驚いた顔をして、俺を屋敷の中に案内してくれる。


 応接室らしきところに行くと、1人の爽やかな青年がいた。その甘いマスクと尻尾から容易に竜人である事がわかった。


「おじゃまします。・・・女王から手紙を預かっていたので、届けに来ました。」

俺は預かっていた手紙を渡す。


 その竜人は手紙を読むと、何やら魔法を使ったようだった。

その魔法の効果で尻尾が消えて、人と区別がつかなくなった。

「ライン様、その姿なら自由に外に出ることができますわ。」

扉付近で待機していたメイド服の女の人が、竜人に近づいて喜んでいた。その目は明らかに恋した乙女のそれだった。


 それを竜人は軽くあしらっていた。

「すいません。はしゃいでしまいました。」

すぐに冷静に戻って、ドアのそばに戻っていった。


「今の魔法は何だったんですか?」

俺は尋ねた。


「手紙に尻尾を消す人化の魔法の仕方が書かれていた。南の大陸で活動するのに好都合だろうという皇帝の配慮だ。」

手紙にそんな事が書かれていたのか。もっと早く届けた方がよかったのでは。


「すいません。届けるのが遅くなってしまって。」


「いや、成功する可能性が低いと書かれていたから、皇帝も急いではいなかったのかもしれない。」


「難しい魔法だったんですか?一発で成功するなんて凄いですね。」


「イメージするのが難しいらしい。人間に良くない感情を抱いて行うと失敗するらしい。」

という事は目の前の竜人は人に対して悪感情を抱いていないということだろう。

扉の前に立っていた女の人も同じことを思ったのか、嬉しそうにしていた。


「そうですか。・・・そういえば、名乗るが遅くなりましたが、私はアギラと言います。で、こちらの猫がアーサーです。」

ソファーの俺の横で丸くなっている猫も紹介した。


「アギリスからも聞いているので、知っている。俺はラインだ。呪いの件では国が世話になった。ありがとう。」

ラインは頭を下げた。


「そんなに大したことはしてません。頭をあげてください。」

俺は慌てた。あの一件は実際にそれほど大したことをしていないので、感謝されると恥ずかしいのだ。俺は話題を変えようとした。


「あちらの方は、人間ですか?」

ラインは頭をあげた。


「ああ、アリスという名前の人間だ。人間の町で買い物などをしてくれている。竜人が町に行くと目につくからな。でもこれからは、俺が行っても大丈夫そうだな。」

自分の後ろの尻尾があった部分を確認する。


「ライン様、私はクビですか?ずっと、これからもライン様に仕えていたいです。」


「アリス、何度も言っているが君は自由になれたんだから、君の好きなようにいきたらいいんだ。」


「じゃあ、ライン様に仕えるのも私の自由という事ですか?」


「好きにしたらいい。」


「ありがとうございます。」

なんだこれ・・・アリスっていう女の人はラインに夢中のようだ。


「人間は竜人に対して、悪い感情を持っているとかはないんですか?」

アリスが俺を睨んでいた。


「そうだな。だいたいは、尻尾を見ると皆恐れた反応を示す。だから、調査に出るときは長いコートで尻尾を隠して行っていたし、買い物もアリスに任せていた。」

アリスは竜人が怖くないのだろうか。


「みんな誤解しているのです。ライン様は心優しい人です。貴重な薬を使って私を助けてくれました。」

どうやら、助けてもらって仲良くなったという事か。人間と竜人が仲良くなっていくのは望ましいことだったので、こういう小さな一歩が重要なんだと思った。

俺はその後ルード皇国の近況を話したり、南の大陸の事も教えてもらったりした。


「では、俺はそろそろ旅に戻ります。」


「また、何かあればここへ来てくれ。」

別れを告げて、俺は港町にある冒険者ギルドへと向かった。素材を売ってお金をつくるためだ。


 何人かに道を尋ねながら俺は冒険者ギルドへと到着した。

 冒険者ギルドには酒場が併設されており、日もまだでているというのに酒を飲んでる人が何人かいた。受付らしいところがあり、そこで依頼を受けたり、素材を売ったりできるようだった。

受付の横には大きな掲示板があり、2,3人の人が張りつけられた紙を読んでいた。どうやら依頼内容が書かれているらしかった。


 俺はどんな依頼があるのか見てみると、そこには多種多様な依頼があった。

 魔獣の討伐、ペットの捜索、農業の手伝い、鉱山の発掘、家の手伝い、大きいものから小さいものまでいろいろだった。


 その中でも一番新しい依頼を見て、俺はびっくりした。

そこには見たことのある似顔絵が描かれていた。

「リーンにそっくりですにゃ。」


依頼内容は『エルフ捕獲 金貨10枚』というものだった。




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