第15話 報復

 魔力の属性を変えて体に纏っているのには理由があった。

 魔力の属性による魔法の種類はたくさんあったが、微妙にだが偏りがあった。それぞれの属性に、身体強化、攻撃、防御、幻惑など数多くの魔法が存在した。火の属性の魔法は攻撃魔法が多彩で、光の属性には結界や回復の魔法が多かった。だからといって、火の属性に防御の魔法がないわけでもないし、光の属性に攻撃の魔法がないというわけではない。魔法に偏りが有るのなら、もしかしてと思ったらやっぱりだった。それぞれの魔力にも、特長があったのだ。


 いろいろ実験をしたところ、風属性の魔力を体に纏えば少し早く動ける事が分かった。なので、それを足に纏わせた。火属性の魔力で纏えば、攻撃力が上がった。そこで右拳を火の属性で覆った。土属性は打撃に強かったので、それ以外の部分をカバーした。後は相手の属性に合わせて、攻撃が当たる瞬間に、その属性に有利な属性の魔力を展開した。はじめは全属性を同時に出して纏うことも考え実験してみた。しかし、魔力の消費量が半端なく、魔力切れを起こして眠くなりそうだっので諦めた。魔法が発動できないなりに、試行錯誤の連続だった。


 中でも助かったのは、怪我した部分を光の魔力で覆えば、回復魔法のように怪我が立ち所に治る訳ではないが、痛みが緩和された。そして、徐々にではあるが怪我も少し回復することができた。


 魔力の操作が格段に上がったから、格闘戦で勝てるようになったかといえば、そんなことはなかった。相変わらず、順位は最下位だった。俺も成長しているという実感があるが、周りも成長していたのだ。打撃戦がメインではあるが、魔法の使い方がみんな上手くなっていた。サムシーはヤンとは相性がいいのか、俺に当たる前にヤンと当たれば、最下位争いにはならなかった。そのため、俺は最近はサムシーとは戦っていなかった。ヤンとの勝負では属性の優位性が働いて、サムシーの電撃がヤンに見た目以上のダメージを与えているのではと、俺は推測していた。


 エレオノールの属性は未だに分からなかった。それというのも、ずっと魔法を使わずに戦っていたからだ。その戦い方は、一貫性がなかった。はじめの頃は、相手の力を利用して戦っていたが、足技だけで戦ったり、関節技に持ち込んだりといろいろな事を試しているようだった。


 そして、フレイはというと、常にトップだった。フレイの炎は赤い炎から青い炎へと変わって、威力が格段と上がっていた。


 時は流れ、2年目最後の格闘戦を迎えた。相変わらず最下位争いとなってしまっていた。その相手はサムシーだった。

「アギラなら楽勝でやんすね。」

開始戦につくと俺に聞こえるようにつぶやいた。


 俺は足に風の属性の魔力を、そして拳に炎の魔力を込めた。対するサムシーは体に雷の魔法をまとわせた。


 ヤンがあれに触って気絶していたのをみていた。それだからだろうか、サムシーの防御は隙だらけに見えた。体に纏った雷があるせいで攻撃を食らっても大丈夫だと思っているようだった。

『その油断を後悔させてやる。』

まず、俺は隙だらけのサムシーの懐に入り、土属性の魔力をサムシーの鳩尾みぞおち付近に放ち、ひざを曲げ下から上へ突き上げるように右アッパーをそこにお見舞いした。


「ウッ」

サムシーは呻き声をあげた。


『効いてる。』


 そう確信して、腰、腕に風の属性の魔力を付与した。そして、腰の回転から、腕を回転させて、上手く力を伝達させて、サムシーの顎に拳が着弾寸前に炎の魔力で拳を覆った。少しびりっと体に電撃が走ったが、耐えれないほどではなかった。サムシーは前のめりに倒れていった。


 少ししてサムシーが起き上がらなかったので、俺の勝利が宣言された。

 相手が油断してくれていたが、初めて一勝をつかんだ。特訓の成果が実感できた気がして嬉しかった。


 その放課後俺はウェンディイーとイグニスと一緒に帰るために、2人が出てくるのを外で待っていた。

そこへ、フレイとサムシーとヤンがやってきた。


「今日ので勝ったと思うなでやんす。ちょっと油断してただけでやんすよ。」


「弟分が世話になったな。格闘の練習を俺としてくれよ。」

するわけないだろ。と返事をする前にフレイは拳に青い炎を纏い、俺に殴りかかってきた。


「まずい。」そう思って、水の魔力をフレイの拳の飛んでくる場所に集中させた。

魔力による防御は間に合ったが、全然耐えきれなかった。


「ゴハッ。」

骨が何本か折れたかの衝撃を受けた。

そして、胸倉を掴まれた。


「お前ら人間が攻めてこなきゃ、ば・・・・」

その時、横から声がした。


「その手を放せ。」

イグニスだった。その右腕には、フレイと同じ青い炎を纏っていた。


「ちっ。」

舌打ちすると、俺から手を離した。


「帰るぞ。」

そう叫んで、3人は帰っていった。


 そして、イグニスの後ろからウェンディーが走ってきた。

「大丈夫!!どこをやられたの?!」


「大丈夫。胸のあたりをちょっとやられただけだから・・・」

俺は光の魔力を傷口に集める。その魔力の流れを見たウェンディーが

「ちょっと見せて。」

服を脱がしてきた。


「ちょっ。やめっ・・・」

光の魔力が集まるところにウェンディーは息を吹きかけた。

すると、骨が折れたかの感覚が一瞬でなくなり、怪我が治っていた。


「ウェンディー、回復魔法使えるようになったのか?」


「へへへっ。びっくりした?これで、アギラが傷ついてもいつでも治してあげられるね。それにしてもフレイの奴め~。」

ウェンディーは3人の帰っていった方向をみながら憤っていた。


 そして俺たちも帰路についた。

 その帰り道、3年目は同じクラスになりたいね。とウェンディーが言っていた。この学校の制度上3年目と5年目にクラス替えが行われるのだ。俺もこの2人と一緒のクラスになれることを心から願った。そして、フレイ達とは一緒のクラスにはなりたくないと願った。


 そしてその願いは半分叶って、半分叶わなかった・・・





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