第16話 エレオノール
3年目の初日にクラス発表が行われた。同じクラスには、ウェンディーとイグニスがいてくれた。嬉しかった。嬉しくない名前もあった。フレイとサムシーだ。
クラスにいる名前をもう一度みると、エレオノールもいた。
授業内容は、1、2年とは多少異なる部分があった。料理の授業や、体育の時間に結界の外に出て魔獣を狩るというもの、魔獣肉の保存の仕方や、野営の仕方、後は個人としての戦術ではなくて、軍としての戦術の授業などである。
もちろん、格闘訓練も行われた。
授業中は、前までのように、フレイとサムシーにちょっかいをかけられる事がなくなった。ウェンディーとイグニスがいたからかもしれない。
そこで、俺はエレオノールを、昼に誘ってみる事にした。
「自分で誘いなよー。」
事前にウェンディーとイグニスに誘ってもいいかと了解をとると、ウェンディーはニヤニヤしながら、そう言った。
エレオノールは相変わらず、本を読んでいて、話しかけづらい雰囲気を出していた。
「あのさ、一緒に昼ご飯を食べに行かないか?ウェンディーとイグニスも一緒に。」
俺の方を見上げると、少し間が空いたあと。
「‥‥分かった。」
と言って、立ち上がり、俺の後を付いて来てくれた。
その昼は4人でご飯を食べる事になった。
「私はウェンディー。で、こっちはイグニス。よろしくね!」
「僕はエレオノール。よろしく。」
本を読みながら、返事した。
ウェンディーに対する態度が素っ気なかったからか、イグニスは含む所がある物言いをした。
「食事中くらいは本を読むのは、やめたらどうだ。」
俺は仲良くして欲しかったので焦ったが、エレオノールはあまり気にした様子はなく。
「そうだな、これは失礼。あまり、こうして人とご飯を食べたりした事がなかったので、礼儀がなっていないんだ。本に夢中になったら、食事を抜いてずっと読んでしまったりもしてしまうんだ。申し訳ない。」
そう言って、本を閉じて横に置いた。
「食事を抜いてたら、体がしっかりできないぞ。女のような体つきに見えるぞ。」
えっ、と言う呟きがエレオノールから漏れた気がしたが、ウェンディーの大きな声でかき消された。
「イグニス、それはヒドイ。エレオノールは女の子だよ。すごい可愛いのに。」
「えっ」
『えっ』
イグニスは驚いた声をあげた。そして俺は、心の中で驚きの声をあげた。
「アギラもそう思うよね?」
「うん。そうだね。」
『許せ、イグニス。』俺は心の中で謝った。
「悪い事を言った、許してくれ。」
イグニスはエレオノールに謝罪した。
「よく間違われるから、気にしなくていい。」
竜族には、美形が多い。だから俺の中で女の子かどうかの判断基準は胸の大きさと、髪の長さによっていた。エレオノールの場合は、それに加えて喋り方もあった。その3つから、エレオノールを男だと判断してしまっていた。たぶん、イグニスも一緒だろう。
こうして、女の子だと意識して見ると、すごい可愛く見えた。ウェンディーには、違う判断基準があったのだろうか・・・
「イグニスは女心が全然分かってないんだから。この前も、告白された女の子を泣かしてたでしょ。」
初耳だった。
「俺にはまだ早い。」
「好きな子がいるって嘘ついたでしょ。そんなのいないんだったら、一度付き合ってあげればいいじゃん。付き合ってみたら好きになるってこともあるし。」
そうかもしれないが、それをウェンディーがいっちゃだめだろう。たぶん、イグニスはウェンディーのことを・・・
この会話をあまり続けたくないのか、イグニスは助けを求めるような視線を俺に送る。
「そういや、前に見せた文字、何かわかったりした。」
エレオノールに聞いてみる。
「いや、あの文字はあれから見つかっていないな。」
やっぱり、分からないか・・・
「それって何の話ー?」
ウェンディーは尋ねる。
「前に見せた、魔導書の詠唱の文字だよ。」
「あー、あれね。」
「あれから何か分かったのか?」とイグニスが質問する。
俺は、アギリスから聞いた神殿の話をした。神殿には最古参の竜人や皇帝が暮らしていて、そこには食料や本などが置いてあったこと説明した。
その話にエレオノールは興味を示し。詳しく聞かせてほしいとせがまれたが、俺もあまり詳しくなかったのでアギリスにまた聞いておくよと約束する。
話はいろいろと弾み、魔導書の話から、お互いの属性の話に発展した。ウェンディーは風で、イグニスは火であることは知っていた。しかし、俺は1、2年の時にエレオノールの魔法を一度も見たことがなかった。みんなに見せないように秘密にしているのかと思った。
意外にもあっさりと
「僕は光属性だよ。」
と答えていた。
「アギラのお母さんと一緒だね。」
「そうなのかい?」
エレオノールが俺の方を向く。
俺は頷く。
「でも、エレオノールって、格闘訓練のとき魔法を使ったことがないよね。」
「うん、まぁ。魔法に頼らず戦う方が面白いからね。」
俺にとっては、格闘訓練は生か死かの死活問題だったが、エレオノールは楽しんでいたみたいだった。
「どんな魔法が使えるの?」
ウェンディーはわくわくしながら聞いた、
「そうだな、例えばこんなのとか・・・」
そう言うと、エレオノールの姿が見えなくなった。
「消えた・・・」
俺は驚いて、エレオノールがいた場所に手を伸ばして確かめようとしてしまった。
しかし、そこにはやわらかい感触があった。
「きゃっ。」
エレオノールが小さい悲鳴をあげて、姿を現した。俺はあわてて手を引っ込めた。どうやら、胸を触ってしまったようだった。
それを見てウェンディーが俺の頭を、おもいっきり叩いた。
「何してんの!!」
「ごめん。消えたのを確かめようと思って・・・」
慌ててエレオノールに誤った。
「いや、いきなりで説明もしなかったから仕方がない。」
「今のはどうやったんだ?」
イグニスが質問した。
「光を屈折させたのさ。上手いこと調節させれば、自分をいないようにも見せることができるし、逆に何人もいるようにも見せることができる。」
「面白いな。」
イグニスは感心する。俺にとっては面白いというより、凄すぎるんですけど。
「私も負けてられないわ。」
ウェンディーはその目に炎を宿す。
「よかったらだけど、今日君の家にに行ってもいいかい?」
突然のエレオノールからの申し出だった。ウェンディーは興奮して、好奇心の眼差しを向けてきた。
「周りに光の属性の人がいなくてね。よければ君のお母さんと話しがしてみたいんだけど・・・」
なるほど、光属性は結構レアな属性みたいで、竜族の中では数が少ないらしかった。
俺は、家に連れていってルーラに会わせてあげたかったが、1つ問題があった。最近ルーラの体調があまりよくなかったのだ。1日中寝ている時もあった。
「母さん、病気で体調がよくない日が多いんだ。来てもらっても、話せないかもしれなけど・・・話せる日もあるんだ。帰ってみないとわからないけど・・・」
俺は来て欲しかったが、誘う事ができなかった。
「じゃあ、行ってみて、話せないようだったら帰るよ。」
「本当に?」俺はウェンディーとイグニス以外家に呼んだことがなかったので、少し嬉しかった。
「それじゃあ、行ってみて、話せそうになかったらみんなで一緒に遊ぼうよ。」
ウェンディーは提案する。
そして、学校が終わって、4人で俺の家に向かった。その日、ルーラの体調は良くて、家事をこなしていた。それを見たウェンディーは「あっ、用事を思い出した。」と言って、イグニスの腕を引っ張りどこかへ消えてしまった。ウェンディーは何か勘違いをしているみたいだった。
俺は家に入ると、ルーラにエレオノールを紹介した。
「アギラがこんな可愛い女の子の友達を連れてくるなんて。」
かなり嬉しそうだった。俺もそれを見て嬉しかった。ルーラが喜ぶ姿を見ると幸せな気分にさせてくれる。
それにしても、ルーラも、ウェンディーも、エレオノールの性別を一瞬で見分けたな・・・
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