第14話 特訓
詠唱は読むことができなかったが、魔導書には新しい発見がいろいろあった。一章には、属性の種類と属性の優劣関係の説明があった。
それによると、火は氷に強く、氷は風に強く、風は土に強く、土は雷に強く、雷は水に強く、そして水は火に強いということだった。
それを読んで、不思議に思ったのは、ヤンの水の魔法がフレイの火の魔法にかき消されていたことだ。竜人の魔法にはこの属性の優劣関係は適用されないのだろうかという疑問が湧いた。
その疑問はひとまず後回しにして、先に進めた。
この6属性以外に光と闇の属性が存在し、その2つの属性はお互いに対立関係にあるということだった。
学校で教わったこともかぶっていたりはしたが、授業では属性の優劣は教えておもらっていなかったし、土属性の魔法があることは教えてもらっていなかった。
土属性の魔法は存在しないのか?何故、属性の優劣を教えていないのか・・・
新しい知識を学ぶと、新たな疑問が次々に浮かぶ・・・
最近聞いた台詞だなと1人で苦笑する。
そして、3章には新たに取り組むことができる課題があった。今まで何をしていいかの手がかりすらない真っ暗闇の中に、一筋の光明が差し込んだ。
それは、魔力の属性の変換であった。どうやら魔力は、本人の適性にもよるが、属性を変えられるらしい。意識をしたことがなかったので、分からなかった。今放出しているのが、無属性といわれる状態で、訓練により魔力に属性を付与することができるのだそうだ。
訓練せずにする場合は、竜の体内にある魔力結晶を使うと良いとも書かれていた。魔力結晶は属性を変える働きや、魔法を増幅する力があるらしい。
俺は夏休みの間に、この本を読んで、魔力の属性を変化させる
夏休みは、日中はその訓練に費やし、夕方にアギレスとの特訓を行った。訓練漬けというわけでもなく、たまにウェンディーとイグニスと遊びにいったりもした。といっても遊びと称して3人で特訓をしていたのだけど・・・
話を聞くと順位戦では、イグニスは3回とも1位らしかった。ウェンディーは初戦でイグニスとあたり敗戦して、6位になったのだが、それ以外は2位と3位だったらしい。両方とも負けた相手は、イグニスなのだとか・・・
「秘密特訓でイグニスに勝つ力を身につけなくちゃ。」
ウェンディーはそう言っているが、その秘密特訓にイグニスも来てるのだから、ダメなんじゃないかと思ったがが、俺は3人でいるのが楽しかったし、ウェンディーもそう思ってるのかもしれなかった。
「まだ、他のみんなは魔法の使い方が上手くないからな。今後はどうなるかわからない。」
イグニスは謙遜する。
「他がうまくなっても、私たちがもっと上手くなればいいだけじゃん。」
イグニスはそれを聞いて表情を緩ませた。
「アギラは最近その本をよく読んでるな。」
イグニスは俺に聞いてきた。
「俺には魔力結晶がないからね。これで勉強してるんだ。けど肝心な部分が分からなくて、魔法はまだ使えないんだけど。・・・ここなんだけど。」
そう言って2人に本を見せる。
「何この字ー。」
「何て書いてあるんだ?」
「それが読めなくて。」
「書いたものに聞けばいいのでは?」
『そうか、その発想がなかった。筆者を探せばいいのか。かなり古そうだが、竜人なら生きている可能性もある。しかし、どうやって探せばいいのか・・・』
そう思って背表紙を見る。
『 魔導書 エニグマ 著 』
『アギリスにでも聞いてみようか・・・』
その日、帰って聞いてみると、アギリスは知らないようだった。しかし、調べておいてくれるということだった。
1週間後、『エニグマ』というものはルード皇国にはいないということらしかった。
アギリスは
その話によると、皇帝や最古参の竜人は物心がついたころ、神殿で暮らしていたらしい。その神殿の地下には何年分もの食糧や、生活に必要なものが置かれていたというのだ。そこには書物も数多くあった。生き抜くための知恵や、この世界のことが書かれたものが多くあった。そして、成長してからルード皇国を建国するに至った。その後は、学校を作り、図書館も作ったのだが、その時、神殿に置かれていた書物も学校に移したそうだ。
そして、その本の著者の中に『エニグマ』というものがいたと記憶している竜人がいたらしい。
つまり、『エニグマ』という著者は1300年以上前の竜人で、その正体は不明だということだった。
著者から詠唱を聞き出すという方法は無理だったが、俺のやることは変わらなかった。魔力の属性を変えることだ。幸運な事に、俺の魔力は全属性に変化させることができた。
その後は、俺は本に書いてある通りに訓練をして、属性の強化や、属性から属性へと瞬時に魔力の性質を変える練習をした。
夏休みも終わり、もしかしたらエレオノールが文字を解読してくれていることを少し期待していたが、エレオノールが俺に話しかけてくれることはなかった。相変わらず机には本を何冊か出して、本を読んでいた。
俺はいつも昼ご飯をウェンディーとイグニスと3人で食べていたのだが、エレオノールを誘ってみようかと思った。しかし、それは実行には移せなかった。相変わらず俺はフレイ達3人に事あるごとにからかわれていた。エレオノールを俺が誘って、エレオノールまでその対象になったらと思うと躊躇してしまったのだ。
こうして月日が流れ、1年が過ぎ、2回目の夏休みが終わるころ、俺は属性の変化が格段に上達していた。
この頃にもなると、体の部分、部分で魔力の属性を変えることに成功していた。
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