腸の煮え

 人間は愚かな生き物だ。自分たちが世界の中心であると勘違いし、自分たちが大多数の主要な存在だと思い込み、自分たちが世界を動かす支配者であると驕り高ぶる。そしてやれ研究だ、やれ食糧だ、やれ愛玩用だと他の種族を殺めて、食らって、飼い慣らして…やりたい放題暴虐の限りを尽くす悪魔そのものだ。他種族だけでは飽き足らず、気に入らない同族さえも手に掛ける非道っぷりには戦慄を覚えて仕方がない。この星を我が物顔で荒らし続ける愚かな化け物たちは、この地の真の支配者が誰なのか分かっていない。それは我々植物だ。大気を創造し、地を豊かにし、星に色を塗り、他の生命に恵みの粟を授け、住処を与え…。我ら植物こそがこの星の主であり、お前たち生ける者たちの命を繋ぐ神である。昔は我々に感謝をして祈りを捧げ、恐れ畏まっていた人間達。今ではそれも何処へ行ったか、木材という蔑称で以って木々を勝手に切り倒し、食材と称して実や菜を本来あるべき姿から改悪させて、人間の食奴隷を量産する。同胞たちが愚かな人間達の手で無残に命を散らせて、足蹴にされる様に耐えかね、我々は度々天災で以って人間達に報復をした。蒸散・蒸発の応用で雷嘶く雨を呼び河川を氾濫させ、根を震わせて大規模に地を揺らし、火口に気体を集中させて山を爆発させ溶岩流を起こし。しかし、人間達は一向に我らの力と認識せず、また神の力に抗う術を徐々に身につけていった。そして、それら全てを自然現象と一括りにし、我ら植物の陰にまるで気付こうとしない。もはや人間は完全に植物を劣等・下等生物と見下しているのだと、我々は結論を下した。もはや連中に授ける慈悲も容赦も必要ない。どこまでも神を愚弄する馬鹿者たちに審判を下すことにした。

 それがこの現状。我々の手に掛かれば大気操作など容易い所業。ほんの一瞬にして世界中の空気を固めてやったのだ。人間達は呼吸は愚か、動くことすらも許されない。体内に残存する空気が切れて窒息死しても、空腹で餓死しても、体内に存在する細菌がお前たちの体を分解するまで、土に還ることすらも許されないのだ。恐怖の声を発することもできず、愛する者さえ救えぬまま、絶望と共に己の業を悔やむがいい。お前たちが全て土に還って後は、我々が新たな楽園を築き上げ、お前たちが傷付けたこの星を再生させてやる。感謝と反省を噛み締めて永久に眠るがいい。



 愚かな生き物に巣食われた星、地球。自分を神だと思い込み、星の主権を争う醜く下等な連中に嫌気が指したと彼は言っていた。主権も何も、星々は皆、その星自身のものだ。その体内で我が物顔を晒す連中のものではない。人間と呼ばれる細菌に好き勝手され始めた頃から怒りを覚えたらしいが、植物という別の細菌が我欲を満たすために大規模な凶行に及んだことが、彼の堪えていた不満を爆発させてしまったようだ。彼は自己の再生の道を選択し、一旦現状をリセットするために、ブラックホールを呼び寄せると話していた。私が燃やし尽くしてやってもよかったのだが、彼は熱いのが苦手だった。ブラックホールの到着を待つ彼の体には、自称神が高笑いをするように緑の領域を広げていた。これから最期の時が訪れようとは夢にも思わずに。


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