要確認すべきは
ごく普通の平凡な学生である太郎には不思議な能力があった。自分の意志で未来と現代を自由に行き来できる力。割と限定的な能力であり、過去には行けないが、現在よりも先にある時間軸地点になら、どこへでも飛ぶことができた。能力の行使によるデメリットは特に感じなかったこともあり、太郎はちょくちょくこの能力を使って遊んだり、時には調べ物のために使ったり、日常的に活用していた。
ある日、お母さんが作ってくれた大好物のから揚げを食べながらテレビを見ていて太郎は思った。テレビの特集でやっている50年先の未来の地球滅亡予言。もしこれが現実に起これば、穏やかな隠居生活を謳歌するという人生目標の一つが完遂できなくなってしまうかもしれない。そんなこと、絶対に許さない。太郎はから揚げを全て平らげて、台所のお母さんにお礼を言ってお皿を置くと、駆け足で自室に戻り、額に右手を添えた。50年後の未来に飛んで、世界の安否を確かめようと考えたのだ。頭の中で時間旅行のイメージを膨らませると、右手から眩い光が発し、太郎はそれに包まれて未来へとワープした。
50年後の世界、到着したのは随分と壁に染みが増えた自分の部屋。太郎は部屋にあったカレンダーで正しく飛べたかどうかを確認。時間飛行に成功したことが分かると、窓を開けて、外の様子を伺った。地球滅亡の危機に瀕していれば、ご近所さんが皆避難して閑散としているか、逃げる前の大騒ぎで警報やら人の慌てた様子で騒がしくなるはず。しかし、太郎の目の前にはありふれた、人々が団欒する姿と道行く車の往来…変わらぬ日常が広がっていた。どうやら予言は外れたらしい。太郎は内心ホッとした。それから念のため一日が終わるまで観察を続けたが、結局世界は滅ぶことなく正常に動いており、明るい未来に確信を持った太郎は、満面の笑みを浮かべて現代へと帰っていった。
太郎が現代に戻り、それから50年後、地球は滅んだ。きっかけは、太郎が平和な未来を確かめにタイムスリップしたことが原因で生じた時空の歪み。偶々この日未来に飛んだことが仇となり、この時空の歪が偶然発生し、50年の歳月を経て、歪は肥大化。最終的に地球の倍近くの大きさにまで成長した歪は、地球を丸ごと飲み込み、地球を粉々に粉砕してこの世から消滅した。自分が引き金を引いたとは露にも思わず、太郎は大好きなから揚げを口いっぱいに頬張りながら、隠居生活初日に地球と共にその長くも短い生涯を終えたのであった。
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