第9話:大ピンチ?巨大割り箸を折れ!

「よーし!準備はいいか!?」

「「「「「「「はーい!」」」」」」」

リーダー少年の声に、神輿の担ぎ手たちが返事をする。彼らは一様にフンドシと法被はっぴに身を包む、10~15才の少年たちだ。


よく晴れた9月の土曜日、この日は町のお祭りであり、男子は子供御輿を担いで町内を回る(女子は女神輿のお手伝いだ)。

佐々木ささきくん、フンドシ大丈夫?」

割下わりしたはちょっと不安そうに聞く。

「おう、バッチリよ!」

佐々木は自信満々だ。


割下と佐々木は、中学1年生だ。子供神輿を担ぐ年齢のなかでは中堅である。佐々木は去年、うまいこと法被とフンドシが着こなせずグチャグチャになってしまていたが、今年はそうはいかない。もう先輩なのだ。


ゆえに、祭りの少し前、佐々木は割下の着こなし特訓を受けていた。特訓のかいあって、佐々木の着こなしはおよそ完璧である。もちろん、割下も抜かりない。


「それじゃあ行くぞ。せーの!」

「「「「「「「えいさ!」」」」」」」

リーダーの掛け声に合わせて、子供神輿が持ち上がる。このまま神輿は町内の商店街を一周する。子どもたちにとって、神輿は祭りのイベントの1つではある。しかし、もっとも大きいイベントは、夜店と花火だ。


――――――――――


……神輿担ぎが終わった後、割下と佐々木の二人は、神社の石段でアイスを食べていた。木陰に風が吹き、心地よい涼しさだ。

「いやー、疲れたな!」

「うん。でも、去年よりはちょっと楽だったかも」

「そりゃそうさ。俺たち、もう中学生だぜ?去年とは違うんだよ去年とは!」


佐々木はうまいこと神輿を担ぎ終えて上機嫌だ。法被に多少の着崩れはあるが、フンドシはがっしりとしまって揺るぎない。割下も、汗をかいてはいるが息が上がっているほどではない。去年に比べれば、体力がついたということか。


「あとは夜の花火か。楽しみだな」

「うん。だけど……」

ワクワクしている佐々木に対して、割下は何か不安そうだ。


「だけど?どうした?」

「……出ないといいね。モンスター」

「出るか?」


モンスターとは?邪悪な悪霊が宿った割り箸によって生み出されるクッキングモンスターである。クッキングモンスターは人々を混乱に陥れ、混乱は巨大な悪霊を誘い出す。だが、それを防ぐ魔法少女がいる。セイントヒップ達だ。


そして、何を隠そう、割下がセイントヒップの正体だ(佐々木も仲間だよ)。割下と佐々木は、割り箸を割ることで魔法少女装少年セイントヒップ&セイントリングに変身できるのだ!


「だって、夜店の食べ物って、割り箸だらけじゃない。フランクフルトとかチョコバナナとかりんご飴とか」

「焼きそばとかも割り箸使うしな……ま、出たら出たでソッコーで片付ければ大丈夫だろ。今までずっと負けてねえんだしさ!」

笑顔の佐々木は自信満々だ。


「それもそうだね」

割下も笑う。

「だろ?それじゃまた、夜にな」

「うん!じゃあね!」

アイスを食べ終わった割下と佐々木は、各々の家に帰っていった。


――――――――――


そして夜、割下は神社の境内にやってきた。小さなグラウンドほどの広さの境内は、浴衣を着た人々で賑わい、たくさんの夜店が並んでいる。スピーカーからは軽快なリズムの祭り囃子が流れ、奥の方にはステージも見える。


「おーい!割下!こっちだこっち!」

浴衣を着た佐々木が手を振る。

「あ!佐々木くん!」

割下も手を振って合流する。


「待った?」

「いや、ついさっき来たところ」

と言いつつも、すでに佐々木の手には食べかけのイカ焼きが握られていた。

「イカ焼き、おいしそうだね」

「お、割下も食うか?あっちの方で売ってるぞ」

佐々木は割下を引っ張り、イカ焼き夜店の方へ向かった。


イカ焼き夜店に向かう途中、割下は見知った顔を見つけた。

「あ!折部おりべさん!」

「あ、割下くんに佐々木くん。今日も一緒?」


「べ、別にいつも一緒にいるわけじゃねーけど」

「だって、いっつも一緒じゃない」

浴衣姿の折部は笑った。

「うーん、まあ、言われてみればたしかにそうだけど……」


((折部さんは、割下くんや佐々木くんと同じ中学1年生で、剣道部の元気な女の子だよ。割下くんは折部さんのことがちょっぴり気になっているんだ))


「折部さんは、一人?」

割下が聞く。

「ううん。友達と一緒に花火見る約束。でも、アレ」

折部が射的屋の方を指差す。


「アレって?」

折部が指差したのは、大きめの青いぬいぐるみだ。割下は、奇妙な既視感を感じた。

(色が違うけど、プリケッツに似てる気がする……)

「あのぬいぐるみが欲しくて、ちょっと早く来ちゃったんだ」


((プリケッツは、割下と佐々木……つまりセイントヒップとセイントリングに魔法のパワーを与えたマスコットだよ。ピンク色のぬいぐるみみたいなマスコットなんだ))


「アレかあ……」

割下はぬいぐるみを見る。射的の鉄砲では当てることはできても、落とすのは難しいだろう。ちょうど、一人の子供が手持ちのコルク弾を全部打ち尽くして、ぬいぐるみを落とせなかった。店主は、ぬいぐるみを元の位置に戻す。


折部は、割下と佐々木にだけ聞こえるように、顔を近づけて話した。

「ね?見た?あのおじさん、5発で落とせないと戻しちゃうんだ」

射的の持ち弾は1回5発。それで落とし切れなれば、スキを見て店主が景品の位置を元に戻すのだ。


「え、あ、う、うん。そ、そうなんだ……」

割下はとてもドキドキしていた。返事もおぼつかない。

(折部さん、近いよ……!)


「うっし!それじゃあ、俺達が取ってやるよ」

自信満々に言ったのは佐々木だ。

「え?本当!?」

折部は驚いた。

「え?俺たちって……僕も?」

割下も驚いた。

「ああ。いいか。ありゃあ5発じゃ落とせねえんだろう。だったら……」


……佐々木と割下はしばしの作戦会議を終え、射的屋にやってきた。

「おじさん、1回やらせて」

最初に挑戦したのは割下だ。

「はいよ。300円ね」

射的屋のおじさんは、5発のコルク弾を割下に渡した。


割下はコルク弾を銃に詰め、狙いを付ける。目標は、目当てのぬいぐるみではなく、横のキャラメルだ。

「よーし……」

割下は引き金を引く!パンッ!コルク弾が発射される!


「うーん、惜しいねえ」

射的屋のおじさんが励ます。割下は2つめのコルク弾を込め、銃を構える。

「おいおい、狙いがまるでなってねえぞ」

佐々木が割下の背後に立つ。


「佐々木くん!」

作戦会議より早い佐々木の登場に、割下は少し驚いた。佐々木は割下に、こっそり耳打ちする。

「お前アレだぞ。ちょっと下手くそすぎるっていうか、アレだぞ。オレが教えてやるから、しっかり覚えろよ」

佐々木の声を聞き、割下は頷く。


「いいか?構えるときは照準に目をつか付けて、しっかり合わせるんだよ。こうやって……」

佐々木はそう言いながら、割下ほ背後から、割下の手を覆うように銃を構えさせる。佐々木は割下の背中にピッタリとくっつき、まるで二人で一人のような状態だ。


佐々木の教えに従い、割下は十の照準を見つめる。

「いいぞ。そしたら、重厚の照準と狙いが一直線になるように構えろ」

「うん」

割下は佐々木の言うとおり、照準とキャラメルが一直線になるように構える。


「構えたよ」

「よし、あとは撃つだけだ。お前の好きなタイミングで撃て」

佐々木はそう言いつつも、割下から離れなかった。二人で一緒に、銃を支えていた。

「うん……」


割下は引き金を引く!パンッ!コルク弾が発射され、キャラメルに命中!

「おお!惜しいね!」

キャラメルは動いたが、落下はしなかった。しかし、確かに割下は当てたのだ。


「やった!やったよ佐々木くん!」

割下が佐々木の方を振り返り、大喜びではしゃぐ。

「ははは!ま、あとは一人で頑張れよ!あ、おじさん、俺も1回やりたいんだけど」

佐々木は300円を射的屋に差し出した。


「はいよ!ボウズはなかなか教えるのが上手いじゃないか。これじゃあ景品全部持っていかれちゃうかな!?」

射的屋は笑いながら、佐々木にも5発のコルク弾を割下に渡した。


「いや、俺がほしいのは一つだけなんで」

パンッ!佐々木は言うが早いか一つ目のコルク弾を発射した!もちろん狙いは例のぬぐるみだ。


「お!そのぬいぐるみが狙いかボウズ。だが、難しいぞ?」

コルク弾が当たったが、ぬいぐるみは落ちない。射的屋は挑発しながら笑う。だが、佐々木はそれを苦ともせずに2つ目のコルク弾を込め、発射した。


パンッ!ぬいぐるみに命中!更に3発目!パンッ!ぬいぐるみに命中!更に4発目!パンッ!ぬいぐるみに命中!


残り1発。だが、射的屋は内心笑っていた。ぬいぐるみは最初から、5発ではギリギリ落とせない位置にあるのだ。


「後1発だ。落とせるかな?」

射的屋は佐々木に注目する。佐々木は息を整え、最後のコルク弾を込め、銃を構える。そして……。


パン!最後の1発がぬいぐるみに命中!ぬいぐるみがぐらつくが、あと一歩のところで落ちない。

「いやあ、残念だったなボウズ」

射的屋がぬいぐるみに近づこうとした、その時だ。


パン!ぬいぐるみにコルク弾が当たる。ぬいぐるみはゆっくりと後ろに倒れ、そして、落ちた。射的屋が振り返ると、そこには、たった今コルク弾を撃った割下がいた。

「やったな、割下」

佐々木がニヤリと笑う。


然り、ぬいぐるみを撃ち落とした最後の一発は、割下が撃ったのだ。

「……お見事。これはボウズたちのもんだ」

射的屋はぬいぐるみを手に取り、割下と佐々木に差し出した。


「おーい!折部!」

佐々木は、割下にぬいぐるみを持たせ、折部を呼ぶ。

「あ!そのぬいぐるみ!」

「ああ、割下が取ったんだ」


「で、でも、当てたのはほとんど佐々木くんだし……」

割下は遠慮して一歩下がろうとする。

「いや、最後の一発を決めたのは割下だ。間違いなくな」

そう言うと佐々木は、割下の背中を押して、折部さんの前に立たせる。


「あ、あの、これ、どうぞ……」

割下は近況して、うまいこと声が出ない。

「ふふ、ありがとう、割下くん」

そんな割下を見て、折部は笑いながらぬいぐるみを受け取った。


――――――――――


「えー、皆様!今年もお越しいただきありがとうございます!」

スピーカーから流れていた祭り囃子が止まり、ステージの方からマイクで声が聞こえる。

「今年も無事に天候にも恵まれ、祭りが開催できて大変喜ばしいことです。それではそろそろ、毎年好例の奉納舞のお時間となります。皆様ぜひお近くでご覧ください」


スピーカーの音楽は、軽快な祭り囃子から厳かな太鼓と笛の音へと変わる。舞台の左右から、二人の巫女が現れ、ゆっくりと舞台中央へと歩いていく。その場の誰もが、舞台に注目していた。その時だ!突如照明が落ちる!


「キャアッ!」

「おいおい、なんだなんだ?」

観客に混乱が広がる。


「えー!みなさん、落ち着いてください!機材のトラブルだと思われますので、そのままお待ちいただければ……」

「いいえ!これは私の仕業よ!」

舞台の上から謎の声!そしてスポットライトが当たる!


「オーッホッホッ!」

スポットライトを浴びて高らかに笑うのは、ダークセクシーエプロン姿のレディ・パン!邪悪なクッキングモンスターを作り出す闇の料理魔法パワーを持っている恐るべき魔女だ!


「この舞台は私が乗っ取ったわ!さあ、お行きなさい!」

レディ・パンの命令に合わせ、舞台の証明が復活する。そこには、二人の巫女を飲み込んだ、ピンクの巨大なわたあめモンスターが!

「ワタワター!」


(プリプリ!悪霊だプリ!)

割下の鞄の中からプリケッツの声がする!

「佐々木くん!」

「おう!」


割下と佐々木は人混みをかき分け、大急ぎで林の方に走る。そして、割り箸を取り出し、割った!


パキン。


『パパラパ~チャララパパラパ~♪パッパラ~パパラパッパッパラ~♪』

変身BGMが鳴り響く!割下と佐々木の体が宙に浮いて体が光に包まれ、変身バンクだ!


割下の全身が光のシルエットになり、浴衣がはじけ飛ぶ!そして代わりに黒いスパッツが装着される!


佐々木も全身が光のシルエットになり、下駄ががはじけ飛ぶ!そして代わりに装着されるのはカウボーイブーツ!


割下の上半身にはフリフリの淡いピンク色ドレスみたいな服が装着される!レースの手袋にニーソックス。下駄がはじけ飛び、ちょっとだけヒールが高い靴。髪の毛はリボンで結ばれる。メガネも魔法で形が変わる。


佐々木の浴衣がはじけ飛び、ショートパンツ、胸下で縛られたへそ出しTシャツ、そして茶色いカウガールジャケットが装着される!腰には二丁のガンベルト。手にはレザーのグローブ。首元にはスカーフ。頭にはテンガロンハット。


そして最後に、割下には黒いスパッツの上から白いフンドシが、佐々木には蛍光イエローのバイザーサングラスが装着される!

『パパラパ~パパパッ♪パッパン♪』

BGM終了!割下はセイントヒップに、佐々木はセイントリングに、それぞれ変身完了!

「よし!行くぞ!」


――――――――――


大混乱一歩手前の祭り舞台。だがそこに、それを食い止めるものたちが現れた!

「そこまでだ!レディ・パン!」

「今日もさくっと片付けてやるぜ!」

セイントヒップとセイントリングだ!


「ママーッ!見て!セイントヒップとセイントリングだよ!」

子供がステージ上を指差す。

「あら!本当!一緒に応援しましょうね。頑張れー!」

「がんばれー!」


親子の声に続いて、観客たちは二人に声援を送る。

「いいぞー!」

「がんばれー!」


ステージ司会者はこれを見てインカムで音響に指示!

「おい、BGMだ!舞台演出ってことにしてごまかす!」

「了解!」

音響担当がBGM変更!三味線と尺八をベースとした軽快なビートのバトルBGMが会場を包む!


ステージ上待ち構えていたレディ・パンとわたあめモンスターを睨むヒップ&リング。

「リング、もしかして今回の割り箸って……」

リングはサイバーゴーグルを通して、クッキングモンスターの弱点である割り箸の位置を知ることができる。

「ああ、アレだ」

サイバーゴーグル越しにWEAKの文字が表示される。それが指し示すのは、巨大なわたあめモンスターを支える、巨大な割り箸だ!


クッキングモンスターの心臓部は、悪霊が宿った邪悪な割り箸だ。その割り箸を、セイントヒップの聖なるケツでケツ割り箸することによって、クッキングモンスターは倒される。だが……。

「あ、なんなに大っきいの、どうやって割ればい~の!!」

今回の割り箸は、あまりにも大きい!まるで物干し竿だ!


「オーッホッホッ!さあ、折れるものなら折ってみなさい!まあ、この攻撃に耐えられてからの話ですけどね!」

レディ・パンは腰からおたまを取り出す。すると、なんということか。そのおたまは巨大化し、まるで巨大なゴルフクラブのような武器になったのだ!


「そぉれ!」

レディ・パンが巨大おたまを勢い良く振り抜き、わたあめモンスターの体を削り取る!

「アメーッ!」

削り取られたわたあめモンスターは、小さなわたあめモンスターとなってヒップに飛びかかる!


「それくらい!」

ヒップは割り箸型魔法少女ステッキで小さなわたあめを打ち返そうとする!だが、わたあめはステッキに絡みつき、一体化してしまったではないか!


「うわー!取れないー!」

ステッキをブンブン振るうが、絡みついたわたあめは外れない。

「プリーッ!絡みついてくるプリ!」

割り箸型魔法少女ステッキは、プリケッツが姿を変えたものだ。このわたあめが簡単に取れないことは、プリケッツが一番良く感じていた。


「それなら手でむしってやる!」

ヒップは手でわたあめをむしり取ろうとした!だが!

「あれ?あれれ?」

手にもわたあめが絡みつき、更に厄介なことに!両手を大きく開いても、ふわふわのわたあめが伸びるだけで、ちぎれない!


「えーい!こうなったら足だ!」

ヒップが大きく右足を蹴り上げてわたあめをちぎろうとする。しかし、更に足にも絡みつき、混乱が加速する。

「みぎゃん!」


思わず姿勢を崩して転ぶヒップ。ついには全身に伸びるわたあめが絡みつき、1つの団子のようになってしまった!

「うわーん!助けてー!」


「ヒップ!しっかりしろ!」

ヒップに絡みついたわたあめを、リングが二丁の輪ゴム銃で射撃!

「アメーッ!」

撃たれたわたあめはキラキラした光となって消え、ヒップは再び自由の身となった!


リングの撃ち出す輪ゴムは、天使の金輪と同じ聖なる力がある。小さなクッキングモンスターなら、撃たれるだけで成仏してしまうのだ。だが、無限に撃てるわけではない。リングの輪ゴムは、魔法少女服の魔力を変換して撃っている。つまり、考えなしに連射してしまえば、いつかはケツ丸出しなのだ。


ヒップは立ち上がり、ステッキを構え直す。リングも輪ゴム銃を再装填し、迎撃の構えだ。


「そぉれ!」

再びレディ・パンが巨大おたまを勢い良く振り抜き、わたあめモンスターの体を削り取る!

「アメーッ!」

削り取られたわたあめモンスターは、小さなわたあめモンスターとなって二人に飛びかかる!


「任せろ!」

リングがわたあめを撃ち落とす!

「アメーッ!」

撃たれたわたあめはキラキラした光となって消え、リングのショートパンツがじわりと短くなる!


「いつまで持つかしら?それ!それ!それ!それ!」

レディ・パンが巨大おたまを勢い良く4連続で振り抜き、わたあめモンスターの体を削り取る!

「「「「アメーッ!」」」」

削り取られたわたあめモンスターは、小さなわたあめモンスター達となって二人に飛びかかる!


「やってやる!」

リングが連続射撃でわたあめを撃ち落とす!

「「「「アメーッ!」」」」

撃たれたわたあめ達はキラキラした光となって消え、リングのショートパンツが更に短くなる!


「リング!」

「構うな!俺が時間稼ぎしている間に、何か策を!」

「オーッホッホッ!間に合うと良いわね!それ!それ!それ!それ!」

再びレディ・パンが巨大おたまを勢い良く4連続で振り抜き、わたあめモンスターの体を削り取る!

「「「「アメーッ!」」」」

削り取られたわたあめモンスターは、小さなわたあめモンスター達となって二人に飛びかかる!


「ちくしょう、これ以上は……」

その時だ。

「えーい!」

飛び出したのはヒップ!ステッキを器用にクルクルと回転させ、4匹のわたあめモンスターをひとまとめに巻き取った!

「まだまだ!これ以上、ヒップのパンツを短くさせるもんか!」


「いいぞー!」

「がんばれー!」

観客からの声援が飛ぶ!


「くっ!だけど、それもいつまで続けられるかしら?それ!それ!」

「「アメーッ!」」

小さなわたあめモンスター作成!

「えい!えい!」

ヒップが巻き取る!


「それ!それ!」

「「アメーッ!」」

小さなわたあめモンスター作成!

「えい!えい!」

ヒップが巻き取る!


「それ!それ!」

「「アメーッ!」」

小さなわたあめモンスター作成!

「えい!えい!」

ヒップが巻き取る!


「それ!それ!……あれ?」

小さなわたあめモンスター作成されず!

「しまった!」

レディ・パンはわたあめモンスターを飛ばしすぎたのだ!

「ワター……」

すっかりやせ細ったわたあめモンスターは、飲み込んだ巫女二人も落としているほどに弱っている。


そして、それに対峙するのは、巨大なわたあめを持ったヒップと、それを支えるリング!

「リング!」

「おう!」

リングがヒップの持つわたあめに、輪ゴム銃を発射!

「ア、アメーッ!!」

一網打尽とはこのことだ!


「くっ……なーんて、悔しがると思いましたの?」

レディ・パンは余裕の笑みだ。

「なんだと?強がりか?」


「まさかそんな。私は料理人よ。ですので……」

レディ・パンはダークセクシーエプロンのポケットに手を突っ込み、何かをばらまいた!

「そぉれ!」

ばらまかれたのは砂糖!しかも、ただの砂糖ではない。わたあめの材料であるザラメだ!

「ワタワタワタワターーッ!!」

わたあめモンスターは高速回転!ザラメが糸状になり、巨大割り箸に絡みついていく!そして……!


「ワッターッ!」

わたあめモンスター復活!人質の巫女二人も、再び取り込んだ!

「ええええっ!」

「オーッホッホ!さあて、おかわりはいかが!?」

驚くヒップと対して、レディ・パンは一方的に優位!

「ど、どうすりゃいいんだ……」

リングも尻込みする。もはや、万事休すか?


「あ!あそこ!」

観客席から少女の声。指差す先はステージ照明の上!

「証明!スポットライト!」

ステージ司会者がインカムで照明係に指示!スポットライトが照らされる!そこには、侍魔法少年服の戦士が!


「セイントソードだ!」

観客席少女の歓声!

「音響!BGM!」

ステージ司会者がインカムで音響係に指示!BGMが尺八を拍子木をミックスした舞台登場BGMに切り替わる!


「セイントリングとセイントヒップ、どうやらお困りのようだな。助太刀いたす!」

その声は少年か、あるいは少女か、どちらにも聞こえる。目元は前髪で隠れて見えず、淡いブルーを基調とした侍魔法少年服の胸元は、サラシが巻かれている。


「はあ!」

セイントソードは巨大わたあめモンスターにむかって飛びかかり、二膳の巨大な割り箸を抜刀!然り、まるでそれは二刀流のごとし!

二膳双操にぜんそうそう……取分箸とりわけばし!」


一瞬の閃光と静寂……そして、舞台に着地したソードの両手には、とらわれていた二人の巫女が!箸でわたあめを切り裂き、救出したのだ!

「さあ、お逃げなさい」

「「は、はい!!」」

二人の巫女は顔を赤くして舞台袖に降りておく。


「ええい!またしてもお前か!」

レィで・パンは巨大おたまを構え直す。

「フッ、それはこっちの台詞だ」

ソードも、二膳の巨大箸を構え直す。


音響担当がBGM変更!再び、三味線と尺八をベースとした軽快なビートのバトルBGMが会場を包む!それを合図に、向かい合う二人は動き出した!

「そぉれ!」

「はあ!」

レディ・パンとソードの激しい殺陣たてが始まった!

「ヒップ!リング!わたあめモンスターがふらついてるうちに、割り箸を抜き取るんだ!」


「抜き取るったって、どうやって!?」

「……わかった!リング、僕に任せて!」

戸惑うリング。一方で、ヒップは何かひらめいたようだ。


「……オーケー、お前がそういうんなら、任せるしかねだろ!」

リングが二丁の輪ゴム銃を合体させる!それは変形し、巨大なボウガンになった!

「よし!」

ヒップはステッキを巨大ボウガンにセット!それは変形し、巨大な矢となった!


二人は一緒に巨大ボウガンを構え、狙いを定める。

「そうはさせませんわ!」

レディ・パンがポケットからザラメを取り出してわたあめモンスターの再強化を狙う!だが、ソードがこれを見逃さずはたき落とした!

「今だ、セイントヒップ!」

「はい!」


「ロックオン!」

リングが照準を固定!

「シュート!」

ヒップが発射トリガーを引く!

「「セイントアロー!!」」

二人の息のあった声で、聖なる矢が打ち出される!イエローの光を纏ったピンクの矢は、わたあめモンスターに突き刺さる!


「プリプリーッ!」

打ち出された矢、すなわちプリケッツが気合を込めると、矢は螺旋状に回転!そしてそのままわたあめを全て巻取り、割り箸本体を露わにしたではないか!


「な、なんですってー!?」

驚くレディ・パン。

「スキあり!」

ソードはそのスキを見逃さず、二膳の割り箸をバットのように構えて大きく振るう!

「アーレーッ!」

レディ・パンは観客席を飛び越え、神社の入口まで吹き飛ばされた!そして、同じく吹き飛ばされていたわたあめモンスターに絡みつく。

「あーん!動けませんわ!」


「よし!あとは割り箸を折るだけ……ってどうしよう」

ヒップがたじろぐのも無理はない。いつもなら、通常サイズの割り箸をケツ割り箸すればよかった。だが、今日のこれは、あまりにも巨大すぎる。


「安心しろ。俺たちが手伝ってやる。なあ、ソード」

「致し方あるまい。助太刀いたす」

リングとソードはそう言うと、ヒップのフンドシとスパッツの間巨大割り箸を通し、両端を支える。スパッツの上に、白いふんどしと割り箸が、聖なる十字を表した。


「いいか?せーので一気に折るぞ!」

「承知した」

「うん!」

3人が呼吸を整える。観客性も指示まり、固唾を呑んで見守る。そして……!

「……せーの!」


バキィ!


巨大割り箸が割れた!

「ワ、ワ、ワ……」

わたあめモンスターが中から光りだす!そして!

「ワターーーーーーーーー!!!!」

わたあめモンスターは爆発!キラキラした光の粒子となって空へと登っていった。


「ええい……今回はここまでにしてあげますわ!それではごきげんよう!」

わたあめモンスターから開放されたレディ・パンが突然白い煙に包まれる!小麦粉だ!……そして、小麦粉が晴れたとき、すでにレディ・パンは逃げおおせていた。


BGMは明るい祭り囃子に戻った。観客にとって、このサプライズ舞台は終了ということだ。

「えーと……」

なんと言っていいかわからずに言葉に詰まるヒップ。


「みんな!今日は応援ありがとうな!」

助け舟を出したのはリングだ。ヒップの方を見て、ウインクをする。

「え、えーっと!ありがとうございました!」

ヒップがお辞儀をする。ソードもそれに合わせて、頭を下げた。


「ワアーッ!」

観客席からは万雷の拍手!

「セイントヒップ!ありがとー!」

「セイントリングも可愛かったよー!」

「セイントソードかっこよかった!」


「えー、皆様、サプライズショーはお楽しみいただけたようで何よりです。それでは、改めて奉納舞となります」

司会者はそう言うと、ヒップたちを舞台後ろに下げてくれた。


「そろそろ変身が解けるプリ」

「おっと!それじゃあとっとと隠れねえと……」

リングが言いかけたとき、ソードはいきなり膝をついた。


「ソード!大丈夫!?」

ヒップが身を案じて声をかける。

「な、なに、少し無理をしただけだ。すぐに……」

そのまま、ソードは気絶してしまった。


「まずいぞ!人が来る前にとにかく隠れないと!」

「うん!」

ヒップはソードをお姫様抱っこして、リングと共に人気のない林へと急いで駆け抜けていった。


――――――――――


「ここまでくればもう安心だ」

祭りの賑わいから遠く離れた林の奥に、ヒップとリングとソードの3人はいた。ソードは目を閉じて眠っているようだ。

「変身が解けるプリ」

プリケッツの声で、ヒップとリングの変身が解け、割下と佐々木の姿に戻った。だが、ソードの変身は、まだ解けない。


「佐々木くん、どうしよう。このままで大丈夫かな。」

心配そうな割下に、背中から声が届いた。

「案ずるでないハシ」


「うわあ!」

振り返った割下の目の前にいたのは、プリケッツのようなマスコットだ。

「あー!ハシパッキじゃないかプリ!」

「やはりプリケッツか」

「おいおい?もしかして……」


「そうだプリ。この前話した、オイラと同じ世界からやってきた仲間、ハシパッキだプリ!」

プリケッツの紹介に、割下と佐々木の二人は、ハシパッキを見る。プリケッツに近いが、色は青っぽく、顔もプリケッツより凛々しい(プリケッツの顔はどちらかと言うとたるんでいる)。


「フン!オレはお前の仲間になったつもりはないハシ」

「えー、そんなこと言わないで欲しいプリ!一緒にワルノワールを捕まえようプリ!」

そっぽを向いたハシパッキに、プリケッツがぐりぐりとほっぺをくっつける。


「ええい!寄るな!」

「プリィッ!」

ハシパッキに突き飛ばされて、プリケッツが木に激突し目を回した。


「さて、そろそろセイントソードの変身が解けてしまう。君たちには席を外してもらいたいのだが、構わないハシ?」

ハシパッキが割下と佐々木に言う。

「う、うん。わかったよ」

「ああ、正体を知られるのは恥ずかしいもんな。行こうぜ、割下」

二人はプリケッツを連れて、夜店の方に戻っていった。


――――――――――


「……もういいハシ。目を開けるハシ」

ハシパッキの声に、まだ変身が解けていないソードが目を開ける。

「割下に佐々木、といったか。知っているハシ?」


「……うん」

ソードが立ち上がると、変身が解ける。その姿は、割下と佐々木の同級生、折部だ。

「ふたりとも、私の友達だよ。優しんだけど、ちょっと無鉄砲な、大切な友達」


「そうだったハシか」

「二人はみんなを守ってるけど、二人を守ってくれる人はいない。だから……」

「ハシ?」


「だから、私が二人を守ってあげなきゃ」

折部の瞳は、覚悟に満ちていた。



――――――――――


ヒップとリングの正体を知ってしまったソードこと折部。3人の関係はどうなるのか!?



ケツ割り箸魔法少女装少年セイントヒップ

第9話:大ピンチ?巨大割り箸を折れ!

おわり

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