第8話:総集編だプリ!

「というわけけで、これまでの活躍を振り返るプリ!」

「え、どうしたのいきなり?」

「おいおい、呼び出した理由はそれか?」


中学生になって初めての夏休みも、もうすぐ終わろうという八月末のある日、割下わりした佐々木ささきの二人は、割下の部屋に集まっていた。というのも。プリケッツに呼び出されたのだ。


((プリケッツは、ピンク色のヌイグルミのようなマスコットだよ。割下と佐々木に魔法の力を与えてくれた不思議な生き物で、悪者を追いかけてこっちの世界にやってきたんだって。))


「まあまあ、聞くプリ。レディ・パンとセイントソードには、いろいろ謎が多いプリ。君たちも気になっているプリ?」

「そう言われてみりゃあそうだな」

佐々木が頷く。


「そんなわけで、ヒップとリングの活躍を振り返りながら、謎に迫ろうというわけプリね」

「僕達の活躍に、セイントソードとレディ・パンの秘密って、関係あるのかな……」

割下は少しばかり疑問に思い、首をかしげる。


「細かいことは気にしないプリ!まずは、セイントヒップ誕生の瞬間を振り返るプリ。ふたりとも、割り箸ケースを渡すプリ」

割下はピンクの割り箸ケースを、佐々木はイエローの割り箸ケースを、それぞれプリケッツに渡す。プリケッツがそれを組み合わせると、魔法のディスプレイが出来上がった。


「それじゃあ、VTRスタートだプリ!」

プリケッツが魔法のリモコンの再生ボタンを押すと、ディスプレイに映像が浮かび上がった。


――――――――――


(第1話:誕生!セイントヒップ!より)

割り箸を割る。


パキン。


その時だ!

『パパラパ~チャララパパラパ~♪パッパラ~パパラパッパッパラ~♪』

謎のBGMが鳴り響く!

「え!?なに!?なにこれ!?」


わけも分からずあたふたしていると、いきなり割下の体が宙に浮いた!

「え?えっ!?」

そして体が光に包まれる。これは……変身バンクだ!


全身が光のシルエットになり、半ズボンがはじけ飛ぶ!そして代わりに黒いスパッツが装着される!

次は上半身のTシャツがはじけ飛び、フリフリの淡いピンク色ドレスみたいな服が装着される!

「あ、え、ええ!?」


割下が戸惑う間もどんどん変身だ。

レースの手袋にニーソックス。ちょっとだけヒールが高い靴。髪の毛はリボンで結ばれる。

「あ、あの、ああ!!」


そして最後に、黒いスパッツの上から白いフンドシが装着される!

『パパラパ~パパパッ♪パッパン♪』

BGM終了!

「なんだこりゃー!」

変身完了!

「すごいプリ!完全に着こなしてるプリ!」


「着こなしとかそういう問題じゃないよ!っていうかなんでいきなり変身!?」

「それは、キミが割り箸を割ったからだプリ」

「……へ?」


「割り箸を追ってオイラを開放したキミは、割り箸を割ることで魔法少女になれるプリ」

「いやいやいやいや!いやいやいやいやいやいやいやいや待った!」

「待ったも何もないプリ。それに似合ってるプリ。可愛いプリ」

「可愛いだって?」


割下は鏡を見る。そこに写っていたのは、言われてみればたしかに可愛い……気がした。

「いや、まあ……その……。でもフンドシ丸出しじゃん!」

「スパッツ履いてるから大丈夫だプリ!」

「そ、そうじゃなくて……あれ?メガネがなんかいつもと違うけどこれは?」

「顔がバレるとまずいプリ?髪型とメガネを変えれば案外バレないものだプリ」


「そりゃそうだけどって、もしかして」

「さあ!早速悪霊退治に行くプリ!セイントヒップに変身したってことは、近くに悪霊が出たってことだプリ!」


「い、嫌だよ!」

割下が座り込んで駄々をこねようとしたその時だ。携帯電話に着信有り!相手は佐々木だ。


「もしもし?」

「オイ!すげーことになってるぞ!ユーレイが出たんだよ!」

「ユーレイ?」

「ああ、とにかく早く来いよ!」

「来いってどこに」

「商店街の……うわぁ!!」

「佐々木くん?」

叫び声と共に、電話は切れた。


「悪霊の仕業だプリ。助けられるのはキミだけだプリ」

「僕だけ……?」

友達を助けられるのは自分だけ。その現実に、割下は決意した!

「わかったよ。行こう!恥ずかしいけど、佐々木くんを見捨てられないよ」

立ち上がる割下。いまこの時を持って、割下はセイントヒップとなったのだ!


――――――――――


「うわー!やっぱり恥ずかしい!っていうか、なに?何なのこれ?」

割下がもだえてゴロゴロ転がる。

「何って、キミの変身バンクだプリ。やっぱり最初からヒップは可愛かったプリ~♪」

「もーう!佐々木くんも何か言ってよぉ!」

「いや、俺は、その……プククッ!」

「笑い事じゃないよ!んもー!」

「いや、だって、まさか最初はこんな慌ててたのかと思うとさ」


((セイントヒップ誕生の続きが気になるみんなは、第1話を見てみよう!))


「佐々木くんだって、最初の変身はびっくりしたでしょ?」

「う……俺はそんなこと……」

「見るプリ?」

プリケッツがリモコンを操作する。

「え?」

目を丸くする佐々木。


「わーい!見せてよ!」

「それじゃあ行くプリ」

「あー!ちょっと!」

慌てふためく佐々木を尻目に、プリケッツは再生ボタンを押した。


――――――――――


(第3話:新たな仲間!セイントリング!より)


「あの子を助けられるのは俺だけなんだろ?」

周りを見渡すと、目覚めているのは佐々木だけだった。

「だったら、やるしかねえじゃねえか!」

(わかったプリ。それじゃあ、その割り箸を割るプリ!)


「ああ!俺が、セイントヒップを助けるんだ!」

佐々木は、割り箸を割った!


パキン。


その時だ!

『パパラパ~チャララパパラパ~♪パッパラ~パパラパッパッパラ~♪』

謎のBGMが鳴り響く!

「こ、これは!?」


佐々木の体が宙に浮き、光に包まれる。これは……変身バンクだ!


全身が光のシルエットになり、スニーカーががはじけ飛ぶ!そして代わりに装着されるのはカウボーイブーツ!

次はズボンとTシャツがはじけ飛び、ショートパンツ、胸下で縛られたへそ出しTシャツ、そして茶色いカウガールジャケットが装着される!


腰には二丁のガンベルト。手にはレザーのグローブ。首元にはスカーフ。頭にはテンガロンハット。


そして最後に、蛍光イエローのバイザーサングラスが装着される!

『パパラパ~パパパッ♪パッパン♪』

BGM終了!

変身完了!サイバーカウガール魔法少女服に身を包んだ、セイントリングの誕生だ!

「お!え!?ええ~~~!?」


「今日からキミは、魔法少女セイントリングだプリ!」

「はぁ!?魔法少女!?セイントリング!?」

あたふたと戸惑うセイントリングに、パンケーキが襲いかかる!


「う、うわ!どうすりゃいいんだ!」

「腰の武器を使うプリ!」

セイントリングは腰のガンベルトから二丁の銃を取り出す。だが、ただの銃ではない。


「輪ゴム鉄砲!?」

それは紛れもなく、割り箸で作られた輪ゴム鉄砲だ!

「こんなもんでどうしろってんだよ!?」

迫りくるパンケーキ!


「いいから撃つプリ!」

「ええい!やってやるー!」

セイントリングが輪ゴム鉄砲でパンケーキを攻撃!

「パパーン!?」

命中!

「パーン……」

パンケーキに当たった輪ゴムは光のリングとなり、パンケーキの頭上に輝く。そして、パンケーキは光の粒になって消えていった。


「セイントリングは聖なる輪っかだプリ。キミの撃つ輪ゴムには魔力が流れているプリ。だから、悪霊に効果があるプリ!」

天使の金の輪をご存知だろうか。セイントリングが放つ魔力を帯びた輪ゴムは、まさにそのパワーを持っているのだ!


――――――――――


「ぐわー!なんだこれ!?俺か!!」

佐々木がもだえてゴロゴロ転がる。

「佐々木くんだって、やっぱり最初はびっくりしてたじゃない」

「そうだプリ~♪」

割下とプリケッツは、ニヤニヤとしながら佐々木を見つめる。


「いや、だってお前、その、あれだぞ!どんどんズボンが短くなるんだぞ!」

佐々木が変身するセイントリングは、服の魔力を輪ゴムに変えて撃ち出すことができる。つまり、輪ゴム鉄砲を撃つごとに、どんどん服の布面積が減っていくのだ。考えなしに無駄撃ちすれば、ケツ丸出しになってしまう。


「それはそうだけど、でも、僕を助けるために変身してくれたんでしょ?」

「いや、まあ、結果としてはそうなったというか……」

この頃まだ、佐々木はセイントヒップの正体を知らなかったのだ。


((佐々木とセイントヒップの関係が気になったみんなは、第3話を見てみよう!))


「リングになるのは、もはや運命だったプリ。だって、変身する前から、ヒップのサポートをしていたんだからプリ」

「ああ、あの時だね!」

割下は、ピザモンスターとの戦いを思い出した。そして、プリケッツが再びリモコンのボタンを押す。


――――――――――


(第2話:恐怖のピザモンスター!より)


ピザモンスターのオリーブを撃ち抜く輪ゴムは百発百中だ!そして、ついにオリーブがこぼれ落ちた!

「ピィ~ッ!!」

足元に這いつくばってオリーブを手探りで探すピザモンスター。


「佐々木くん、割り箸を探して!」

「割り箸……あ!セイントヒップ、足元だ!」

「足元?」

セイントヒップが足元を見る。最初に足を取られたピザモンスターに、割り箸が刺さっていたのだ!


「やった!それを折れば……ふん!」

体を捻ってピザチーズを引きちぎろうとするが、程よい弾力で引きちぎれない。かといって、このまま足元の割り箸を拾うことができるかと言えば、それも不可能だ。

「佐々木くん、お願い!その割り箸を、僕のケツとフンドシの間に入れて!」


「え、ええ!?そ、そんな恥ずかしいこと……」

「アイツがオリーブを探しているうちに、早く入れて!僕だって恥ずかしいだから!!」


「わ、わかったよ!」

佐々木はピザモンスターから割り箸を引っこ抜き、セイントヒップのケツに手を伸ばす近づく。

「し……、失礼します!!」

フンドシをちょっと引っ張る。

「ヒャッ!」

「ご、ごめんなさい!」

セイントヒップの声に、思わず佐々木の手が止まる。


「だ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから!」

「お、おう」

フンドシとケツの間に割り箸をはさみ、フンドシを戻す。パンッ!と軽快な音がなり、ケツ割り箸準備完了!……そして!


「えいっ!」


バキィ!


割り箸が割れた!

「ピピピピピピ……」

ピザモンスターが中から光りだす!そして!

「ピザーーーーーーーーッ!!!!!!」

ピザモンスターは爆発!キラキラした光の粒子となって空へと登っていった。


――――――――――


「そうそう、この時は佐々木くんが助けてくれたんだよね」

「この時だって、セイントヒップを助けようと思っただけで、別にお前を助けたかったわけじゃなくって……」

「プリプル~♪そんなに照れなくていいプリ~♪」

「いや、別に照れてるわけじゃなくてだな……」

そうは言いつつ、佐々木の顔は赤い。


((変身する前の佐々木の活躍を知りたいみんなは、第2話を見てみよう!))


「そ、そういえば、レディ・パンの話はどうなったんだよ」

「うんうん。そろそろそっちも知りたいよね」

佐々木の言葉に割下も賛同し、眼鏡を光らせる。

「それじゃあまず、レディ・パンが初めて出てきたときを振り返るプリ」


――――――――――


(第4話:宿敵の名はレディ・パン!より)


「イカイカー……」

焼きイカモンスターは輪切りのイカリングとなり、その隙間からおびただしい数の触手のようなイカスミパスタが躍り出て、ヒップの体に巻き付いたのだ!

「オーッホッホッホ!私の料理がただのイカ焼きだと思ったら大間違いですわ!」

イカ焼きモンスターは仮の姿、その正体はイカスミパスタモンスターだ!


身動きが取れないセイントヒップ!

「っく!で、でも割り箸を折れば……」

ケツ割り箸準備はすでに完了している。ケツに力を込めるセイントヒップ。だが。

「……あれ?折れない?なんで?」


「プ、プリー!?セイントヒップ!これじゃダメだプリ!」

ステッキは姿を変えたプリケッツが声を上げる!

「ダメってどういうこと?」

「ケツが汚れて魔力が出せないんだプリ!」


セイントヒップの下半身は、黒いスパッツの上に白いふんどしが付けられている。これでもって割り箸を折るのだが……先程のイカスミで真っ黒に汚れてしまっていたのだ!

「聖なるケツは清潔じゃないと行けないプリ!今のケツじゃあ割り箸を折れないプリ!」

「そんな……」


「あーら。イイコトを聞いちゃったわ」

身動きできないヒップに近づくのはレディ・パン。

「せっかくだから、少しオシオキしてあげましょうか」


「お、オシオキって……」

レディ・パンがヒップの背後に回ると、ヒップのケツだけがイカスミパスタ触手から解放される。

「悪い子には、こうよ!」

スパーン!


「きゃあ!」

軽快な音と共に、ヒップのケツに巨大フライ返しが叩きつけられる。

「フフフ。手加減はしてあげるわよ……」

スパーン!

「やぁん!」

再びの巨大フライ返しケツ叩き!フライ返しにヒップのケツ拓が!


「もう一人の子は逃げちゃったみたいね?」

「え、リングが……?」

ヒップが見渡すと、たしかにリングはいない。


「あなたも、私たちに抵抗しないように、たっぷりとオシオキしてあげるわ!」

スパーン!

「きゃあ!」

スパーン!

「きゃあん!」

スパーン!

「きゃああああ!」


もはやヒップのケツは魔力で守られているにもかかわらずヒリヒリと痛み、ヒップは涙目だ。

「ぐすん……」

「あらあら?そんなにオシオキが効いたのかしら?」

レディ・パンがケツ叩きをやめて、ヒップの正面に回り込む。

「これ以上、私達の邪魔をしないっていうのなら、もう終わりにしてあげてもいいわよ?どう?」

ヒップの顎をくいっと上げて、顔を近づけて降伏を求めるレディ・パン。だが、ヒップは屈しない!


――――――――――


「いやいやいやいやいやいやいやいや!見る場所おかしくない!?」

割下がプリケッツをポコポコ殴りながら訴える。

「お、おかしくないプリ!レディ・パンの卑劣なやり方が、これでもかっていうくらいに分かる名場面だプリ!」


((レディ・パンの登場シーンとヒップのピンチが気になったみんなは、第4話を見てみよう!))


「いや、まあ、たしかにそうなんだけどさあ……」

割下は、あの時の痛みを思い出してケツを擦る。

「あれ?」

ディスプレイをじっくりと見ていた佐々木は、何かに気がついた。


「そんなにじっくり見ないでよ!もう!」

「いや、ほら、この顔、どっかで見たことないか?」

言われて、割下もディスプレイをじっくりと見る。

「……確かに、どこかで見たことあるような。でも、誰だろう」

二人は考えたが、その正体はつかめない。


「きっと、あのマスクのせいだプリ」

「マスクのせい?」

レディ・パンは、マスカレイドマスクを装備している。

「そうだプリ。ヒップは眼鏡、リングはゴーグルで、それぞれ目を隠しているプリ。あれは、正体がバレなくなる魔法がかかっているプリ」


「ってことは、レディ・パンのマスクもってことか?」

「そうだプリ。オイラの世界からこっちの世界に逃げてきたやつの力だプリ」

佐々木の問に、プリケッツは答える。


「そいつの名前はワルノワールだプリ」

「ストレートっつうか、なんつうか……」

「なんだか、悪そうな名前だね……」


「それはそれは悪いやつだプリ!オイラは、ワルノワールを捕まえるためにこっちの世界にやってきたんでプリ!」

自信満々に語るプリケッツ。

「じゃあ、ワルノワールの目的ってなんなの?」


「それは……」

神妙な顔つきになるプリケッツ。

「「それは……?」」

神妙な顔つきになる割下と佐々木。


「……分からないプリ」

「「わからないのかよ!」」

とぼけたプリケッツに二人がツッコミを入れる。


「いつも二人がモンスターを倒してくれるから、問題ないプリ!」

「ハッハッハッ!たしかに負けたことないしな!」

佐々木が自信満々に笑う。


「でも、それだけ有名になっちゃったよね……」

「ああ、そうだな……」

二人は、写真を取られていたことを思い出した。


――――――――――


(第5話:佐々木くんの悩み!より)


それからしばらくして、二人はパジャマに着替えて佐々木の部屋にいた。

「で、これなんだけどさ」

佐々木はスマートフォンの画像検索画面を見せる。

「え、これって……」


その画面に写っていたのはセイントヒップ!そしてセイントリングも!

「他のクラスのやつらが話しててさ。俺たち、結構撮られてるみたいなんだよ」

写真の中にはなかなかきわどいアングルの写真もある。

「いつの間にこんなの」

「俺たちが戦いに集中してる時に決まってるじゃん」


二人は画面をスクロールしながら眺める。セイントヒップが華麗に飛び回っている写真、セイントリングが飛び交うクッキングモンスターの攻撃を撃ち落とす写真。

「おー、ふたりとも可愛いプリ」

いつの間にか姿を表していたのはプリケッツ。ヌイグルミみたいなマスコットで、二人に魔法の力を与えた張本人だ。


「いやあ、そうかな。フフッ」

「なんだよオマエそんな満更でもないのかよ」

「でも、いい写真も多くない?」

「いや、そうとも限らないんだ」


更に画面をスクロールする。ヒップがケツ割り箸を決める瞬間の写真、リングのホットパンツが限界まで短くなってケツがはみ出しそうになっている写真……。

「うわ」

「な?こんなん正体がバレたらみんなにバカにされちまう。どうすりゃいいんだ?」


――――――――――


「あれは、ちょっとピンチだったよね」

「ああ、流石になんつーか、な」

ちょっと落ち込む二人。


「でも、佐々木くんが助けてくれたじゃない。あれから、そういう写真も減ったんだよ」

割下がスマートフォンで画像を検索する。最近の写真は、二人が活躍するかっこいい写真や、可愛い写真が多い。

「おー、いいじゃん。かっこいいじゃん!」

佐々木も楽しそうに写真を眺める。


((佐々木が割下のピンチをどうやって救ったか気になったみんなは、第5話を見てみよう!))


「おい、これ!セイントソードじゃないか?」

佐々木がスマートフォンの画面を指差す。

「あ、本当だ!」

画面に写っているのは、ヒップとリングに続く3人目の戦士、セイントソードの写真だ。


「ねえ、プリケッツ。セイントソードは、プリケッツの魔法じゃないんだよね?」

「そうだプリ。せっかくだから、初めて出会ったときを見返すプリ」

プリケッツがリモコンのボタンを押すと、ディスプレイにセイントソードが映し出された。


――――――――――


(第6話:謎の戦士?セイントソード!より)


「早く脱出するプリーッ!」

ステッキに姿を変えたプリケッツが叫ぶ。

「そんなこと言ったって」

「コレじゃ動けねーよ」

ヒップとリングの二人は海苔にぴっちりと包まれて動けない。万事休すか!?


だが、その時だ!


閃光一線!ヒップとリングを包む海苔を切り裂く者あり!

「え?」

「あ、あれ?」

突然の出来事に困惑する二人。


「どうした?君たちの実力はそんなのもではないだろう」

海苔を切り裂いたのは、刀と見まごう巨大な割り箸!そして、それを構える侍魔法少年服の戦士!


「ア、アナタはいったい……」

うろたえるレディ・パンに、侍魔法少年服の戦士は悠然と答える。

「セイントソード、とでも名乗っておこう」

その声は少年か、あるいは少女か、どちらにも聞こえる。目元は前髪で隠れて見えず、淡いブルーを基調とした侍魔法少年服の胸元は、サラシが巻かれている。


「ええい!今更一人増えたところでなにも変わらないわ!やっておしまい!」

「ニギーッ!」

レディ・パンの号令で、おにぎりモンスターから巨大な海苔が放たれる!


「せい!」

セイントソードは難なくそれを真っ二つ!

「なあ、セイントソード!この輪ゴムも切ってくれよ!」

リングが頼む。しかし。


「残念ながら、それは叶わぬ。私の箸は、あくまで食材を切るものだ。聖なる輪ゴムは切れぬ」

「そ、そんなあ……」

しょげるヒップ。

「私が時間を稼ぐ。その間に二人で協力して輪ゴムを外せ」


「「えー!」」

二人は顔を見合わせる。未だに喧嘩のことで、素直になれないのだ。

「フン。おにぎりの具が梅か鮭か。君たちもそんなことで喧嘩をしているのか?」


「な、なにーっ!」

「そんなことって……そんなことじゃないよ!もう!」

二人はソードにブーイングだ。


「君たちがするべきは強力だ。喧嘩ではない。敵を見ろ。数多の具材の調和で強力な美味さを引き出している。それぞれの味を知らなければ、難しいことだ。だが……」

ソードはヒップとリングを見つめる。

「……君たち二人は、お互いをよく知っているはずだ。一膳托生いちぜんたくしょう、二人で一膳の箸ならば、お互いを支え合うことができるはずだ」


「ええい!なにをごちゃごちゃと!こうなったらセイントソードから片付けてあげますわ!行くわよ!」

「ニニニニニ……」

おにぎりモンスターが力を貯める!


「時間を稼ぐとは言ったが、あまり長くは持たなそうだ。急げ!」

それだけを言い残し、ソードはおにぎりモンスターに向かって走り出した!


「ニギーッ!」

おにぎりモンスターの真ん中から、鮭の切り身モンスターが飛び出した!

「シャケーッ!」

一直線にソードに突撃!


一膳一閃いちぜんいっせん……ほぐしばし!」

ソードは大箸を振り抜き、鮭モンスターと交差する!


それは一瞬の出来事だった。

「シャ……?」

鮭モンスターは皮と骨を取り除かれ、鮭フレークとなったのだ!

「バ、バカな!」

「フッ。言ったであろう。私の箸は、食材を切るものだと」

ソードの瞳は上に隠れて見えないが、口はニヤリと笑っている。


「なら、これはどうかしら!」

「コーンブッ!」

おにぎりモンスターの中から次なる具が飛び出す!佃煮昆布が鞭のようにしなり、ソードの大箸に巻き付いた!


「くっ……!」

強靭な弾力で引きちぎれない!

「オホホホホ!いくら切れ味が良くても所詮は箸。巻きつかれたら切れないでしょう?さあ、トドメよ!」

「ニーッ!」

おにぎりモンスターが大きくジャンプ!このままソードは押しつぶされてしまうのか!?


「ギーッ!」

おにぎりモンスターがズドンと着地!

「さあて、これで邪魔者はぺしゃんこに……あら?」

レディ・パンは首を傾げる。立ち上がったおにぎりモンスターの足元には、ソードがいない。それどころか、佃煮昆布鞭が切られているのだ!


「どこを見ている?」

レディ・パンの後ろから声!

「なんですって!?」

「ニギーッ!?」

レディ・パンとおにぎりモンスターが振り返る。そこには、大小二膳の箸を構えたソードの姿が!


「二本目の箸ですって!?」

二膳一流にぜんいちりゅう、とでも名付けておこう」

ソードの左右の手には、大箸と小箸がそれぞれ握られている。二刀流ならぬ二膳流!おにぎりモンスターがジャンプした時、とっさに小箸を抜き、佃煮昆布鞭を切り払い、脱出していたのだ!


――――――――――


「セイントソード、やっぱりかっこいいよね……」

見とれる割下。

「見とれてる場合じゃねえだろう?」

佐々木がジトッと割下を睨む。


「べ!別に見とれてるわけじゃ……!」

「見とれてたプリ」

「見とれてたよな」

佐々木とプリケッツの意見に、割下はぐうの音しか出なかった。

「ぐぅ……」


((セイントソードの初登場での活躍が気になったみんなは、第6話を見てみよう!))


「そういや、セイントソードも、目が隠れてるよな」

佐々木が気がついた。

「そうだよね。眼鏡とかじゃなくて前髪だけど」

「オイラの世界の魔法だプリ。効果は、ヒップの眼鏡とかと同じで、正体がバレなくなる魔法だプリ」

「それじゃあやっぱり、プリケッツの仲間なの?」

「だと思うプリ」

「思うって……」

佐々木が呆れる。


「だって、いつもヒップとリングを助けてくれるプリ?それに、ワルノワールを追ってこっちの世界に来たのはオイラだけじゃないプリ」

「前にも言ってたけど、それって仲間ってことだよね?」


「うーんっと、仲間っていうか、友達だプリ」

「友達?」

割下が首を傾げる。

「そうだプリ。ワルノワールを追っていたのは、オイラと、ハシパッキの二人だったプリ。ハシパッキは友達だけど、負けず嫌いなんだプリ」


「それで、お前に勝とうとして一人で頑張ってるってことか?」

「そうだと思うプリ。でも、オイラは一緒に協力したいプリ」

「うん、僕もソードとは協力したいよ」

「俺たち、いっつも助けられてるばっかりだもんな」


「この前、海に行ったときもそうだったよね」

「お、見るプリ見るプリ?」

プリケッツがボタンを押すと、ディスプレイに海での出来事が映し出された。


――――――――――


(第7話:海で対決!浜焼きモンスター!より)


レディ・パンの武器、巨大トングには無数の輪ゴムが縛り付けられている!このままではトングを開けない!

「ええい……小癪な真似を……」

レディ・パンは開かなくなったトングをそのまま大ぶりに叩きつける!


だが、我々は忘れていないだろうか。もう一人の戦士の存在を!

「私が引き受けよう」

セイントソードだ!二膳の巨大箸でトングを受け止める!

「せいっ!」

そのままトングを弾き飛ばす!


「ヒップ!リング!つぼ焼きモンスターは目を回している。今のうちに箸を取るんだ!」

「わかった!」

リングが二丁の輪ゴム銃を合体させる!それは変形し、巨大なボウガンになった!

「よし!」

ヒップはステッキを巨大ボウガンにセット!それは変形し、巨大な矢となった!


二人は一緒に巨大ボウガンを構え、狙いを定める。

「そうはさせませんわ!」

巨大トングを拾ったレディ・パンが二人に襲いかかろうとする。だが、ソードが立ちふさがり鍔迫り合い!

「今だ、セイントヒップ!」

「はい!」


「ロックオン!」

リングが照準を固定!

「シュート!」

ヒップが発射トリガーを引く!

「「セイントアロー!!」」

二人の息のあった声で、聖なる矢が打ち出される!イエローの光を纏ったピンクの矢は、つぼ焼きモンスターのフタと貝殻の間に突き刺さる!


突き刺さったピンクの矢は、テコの原理でフタをこじ開ける!ガッチリと閉じられたフタがこじ開けられ、邪悪な割り箸が落ちてきた!

「セイントヒップ!折るプリーッ!」


ヒップは拾った割り箸をふんどしを挟む。スパッツの上に、白いふんどしと割り箸が、聖なる十字を表した!……そして!


「えいっ!」


バキィ!


割り箸が割れた!

「ツ、ツ、ツ……」

つぼ焼きモンスターが中から光りだす!そして!

「ツボーーーーーーーーー!!!!」

つぼ焼きモンスターは爆発!キラキラした光の粒子となって空へと登っていった。


――――――――――


「ソードも強いけど、二人のコンビネーション必殺技もかっこいいプリ!」

「そ、そうかな……。えへへ……」

照れる割下。

「特に、オイラが飛び出すところはいつ見てもかっこいいプリ~♪」

「そこなの!?」


「それに、海の家で食べた焼きそばも美味しかったプリねえ♪」

「プリケッツは食べ物のことばっかり……。でも、海、楽しかったね」


((割下たちの水着姿が気になったみんなは、第7話を見てみよう!))


「ああ、折部おりべさんにも会えたしな。ええ、おい」

佐々木がニヤニヤして、肘で割下を小突く。

「や、やめてよもう!」


((折部さんは、割下と佐々木の同級生の女の子だよ。運動が得意な剣道部員で、割下くんの好きな人なんだ。でも、その気持は、まだ伝えられていないんだよ))


「あーあ、夏休みももう終わりか」

佐々木がゴロンと寝転がり、天井を見上げる。

「あ!そうだ!夏休みが終わったら、お祭りがあるよ!」

割下がはっと思い出す。

「お!そういやそうだったな」

お祭りと聞いて、佐々木はガバッと起き上がる。


割下たちの住んでいる町には神社があり、そこで九月の頭に大きなお祭りがある。で店が出たりして、とても賑やかだ。そして、割下と佐々木は、フンドシにハッピをはおり、お神輿を担ぐのだ。


「割下は、今年はフンドシバッチリだよな。いつも履いてるし」

「いつもって、そりゃあ、セイントヒップになる時はいつもフンドシだけど」

「俺、アレ履く自信あんまりねえんだよな」


フンドシでおみこしを担ぐのは、小学5年生からだ。去年のこと、慣れないフンドシを履いた佐々木は、上手いこと履けずに何度も締め直したのだ。それ自体は、小学生には珍しいことじゃない。でも、今年からは中学生だ。そんな無様を晒すことはできない。


「それじゃあ、あとでちょっと練習しようか?僕が教えてあげるよ」

「いや、それはちょっと恥ずかしい」

佐々木はちょっと恥ずかしい。それに、割下に頼りのはみっともないような気も、ちびっとした。


「えー、いーじゃん別に。お祭り本番であたふたするのは嫌でしょ?」

割下が押す。

「そうだプリ!練習は大切だプリ!」

プリケッツも押す。


「あーもう、わかったよ!それじゃあ、明日な!頼むぞ!」

グイグイ押されてしまっては、佐々木も断るに断れない。明日の約束をした二人は、残った夏休みの宿題を片付けるのだった。



――――――――――


これまでの戦いを振り返り、気持ちを新たにしたヒップ&リング!来週はいよいよお祭りだ!



ケツ割り箸魔法少女装少年セイントヒップ

第8話:総集編だプリ!

おわり

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