第7話:海で対決!浜焼きモンスター!
「わーい!海だー!」
「おじさん、おばさん、ありがとうございます」
「いいのよ。このまえ
夏休みの中頃、佐々木兄妹の
「お姉ちゃーん!はやくー!」
「はいはい」
凛のわくわくした声に、
「おっし、俺たちも行こうぜ」
「うん、浮き輪膨らませてからね」
割下は浮き輪に息を吹き込みながら答えた。
「はっはっは。左助くん、準備体操はしっかりするんだぞ」
「はい、おじさん!」
佐々木は元気よく返事をすると、体操を始めた。
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「あのテトラポッドまで行ってみようぜ」
「うん」
佐々木と割下は、防波テトラポッドに向かって泳ぎ始めた。距離はだいたい50メートルくらいだろうか。運動が得意な佐々木にとっては、どうってことない距離だ。一方の割下はというと……。
「ま、待ってよ~」
浮き輪を使ってバシャバシャとバタ足で追いかける。
「あ、わりい。ゆっくり行くよ」
佐々木は立ち泳ぎで答えると、割下のペースに合わせてゆっくりと泳いだ。
しばらく泳いでテトラポッドまで到着すると、佐々木が見知った顔の女の子を見つけた。
「おい、あれ
「え?」
テトラポッドの上に、遠くの水平線を眺める折部がいた。
((折部さんは、割下くんの同級生だよ。ここだけの話、割下くんは折部さんのことが好きなんだ。でも、その気持ちをずっと隠しているんだよ))
「おーい!折部さーん!」
佐々木が手を降って呼びかける。
「あれ?佐々木くん、割下くん!」
折部が振り返って手を振る。学校の授業とは違った、可愛い水着を着ている。
佐々木と割下もテトラポッドに登り、歩み寄る。
「水着、可愛いね……」
「ふふふ、そーでしょー。新しいの買ってもらったんだ。似合う?」
「うん……」
割下は、半ばぼんやりとして答えた。
「今日は二人揃ってどうしたの?デート?」
「ち、ちげーよ!」
「そ、そうだよ!ちがうよ!」
「あはは、冗談だよ」
佐々木と割下はちょっと動揺するけど、折部はカラリと笑った。
「あ、そうそう、あそこの洞窟って行ったことある?」
折部が指差したのは、海岸沿いの小さな洞窟だ。
「いや、行ったこと無いけど」
「もうすぐお昼だからさ、その後で行ってみない?」
「うーん。危なくないかな」
「大丈夫だと思うぞ。ほら、俺たち以外にも行ってる人いるし」
不安そうな割下を説得するように、佐々木が洞窟を指差す。確かに、多くはないけど、人がいる。
「佐々木くんがそう言うなら、行ってみようかな」
「よし!それじゃあまた後でね!」
折部はそう言うと、また海岸に向かって泳ぎ始めた。
――――――――――
その頃、浅瀬では、凛と美羽たちが砂のお城を作っていて、ちょうどいい感じに完成したところだった。
「おねーちゃん、写真取ろう!」
「うん。私のスマホある?」
美羽が、ビーチパラソルの下で休んでいたお父さんとお母さんの方を見る。
「車の中においてきたんじゃなかった?」
「あー、そうだった……お父さん、鍵貸して」
「おう。ほれ」
お父さんが投げた車の鍵をキャッチして、美羽は車へ向かった。
「あ!凛も一緒に行く!」
海を見ていた凛が振り返って走ろうとした、その時だ。
「キャッ!」
誰かにぶつかって転ぶ凛。
「あらあら?大丈夫ですか」
凛がぶつかったサングラスの女性は、子どもにも丁寧な物腰で話しかけ、手を差し伸べた。
「うん、大丈夫。だけど砂のお城が……」
凛がころんだ時、砂のお城が崩れてしまったのだ。
「うちの子がすみません」
美羽のお父さんとお母さんが出てきて謝る。
「いえ。怪我もしてないですし、大丈夫ですよ」
サングラスの女性は、にこやかに挨拶する。それから、落ち込む凛の前にしゃがみ込み、目線を合わせて言った。
「崩れちゃったのは残念だけど、あなたなら、また良いお城が作れるわ。もしかしたら、もっとおっきなお城だって作れちゃうかもしれないわよ?」
「ああ。今度はおじさんとおばさんも手伝ってあげるからな」
「そうね。久しぶりにやってみようかしら」
美羽のお父さんとお母さんも、凛を元気付ける。
「……わかった!やってみるね!」
凛の目に、再びやる気が戻ってきた。
「あれ、もしかしてあなた……あの、
美羽のお母さんが、サングラス女性の顔を見て言った。渡鍋先生とは、若くして人気の料理研究家で、テレビ番組にも出演している有名人だ。
「ええ。今日はオフなんです。ですから、ね?」
サングラス女性、渡鍋は、人差し指を立てて口の前に当てた。このことは秘密に、というサインだ。
「はい。それはもちろん。いつも番組は楽しく見せてもらっています。これからもがんばってくださいね」
「ありがとうございます。それでは」
渡鍋は軽くお辞儀をすると、海の家の方に向かって歩き出した。
――――――――――
「ふふふ、海といえば、やっぱり浜焼きよね」
「オレ様も早く食べたいワル」
ウキウキする渡鍋に話しかけるのは、カバンの中に隠れているワルノワール。目付きの鋭い、黒いヌイグルミのようなマスコットだ。
「こら!静かにして!ちゃんと買ってあげるから」
鞄の中のワルノワールをツンツンと突っつく。触感はムニムニとしている。
「わ、分かったでワル……」
渡鍋がお目当ての網焼きコーナーにたどり着くと、元気にイカや貝を焼く青年がいた。
「いらっしゃいませ!なににします?」
「えーっと、そうね……あら?」
渡鍋が何かに気がついた。
「お兄さん、もしかして今日が初めて?貝の焼き方が、慣れていない感じ?」
「あ、はい。今日1日だけこっちの方やってくれって言われてて……」
「よければ、教えてあげましょうか?これでも私、料理は得意なのですよ」
「あ、はい!お願いします!」
渡鍋の料理研究家としての魂に火がついた。
「いい?サザエのつぼ焼きは、最初に醤油を入れちゃって。貝殻を鍋にして煮るイメージね。でも、入れるのは少しだけ。海水で塩味がついてるから、ちょっと少なめってくらいで大丈夫よ」
「はい!」
渡鍋の言うとおり、青年はサザエを調理する。
「次はハマグリね。殻が開く時、身は上の方にくっついちゃうの。だから、開いたら、すぐにトングで挟んでぴったり閉じて、出汁をこぼさないように素早くひっくり返すの」
「こう、ですかね?」
青年は、今まさに開いたばかりのハマグリを、トングで挟んでひっくり返した。
「ええ、そうそう!醤油も少なめにね。出汁がこぼれてないから、海水の塩分が効いてて丁度いい味になってるわ。だから、醤油は香り付け程度にちょっぴりでいいの」
言われたとおりに、醤油をほんのちょっぴり垂らす。
「さあ、これで出来上がりよ。そのつぼ焼きを2つと、ハマグリを3つ、もらえるかしら」
「はい。まいどあり!」
渡鍋は焼き貝を5つ受け取ると、その中から、ハマグリを1つとり、青年に差し出した。
「え?」
「自分で作ったものだもの、自分でもしっかり味見をしてみて」
「あ、はい。いただきます……」
青年は、渡鍋に教えてもらった焼き方で焼いたハマグリを食べた。
「うまい!身もだけど、出汁もうまい。こんな旨い出汁をこぼしていたなんて!」
「どう?調理法がシンプルだから、素材の味がそのまま出るのよ」
「いやあ、ありがとうございます」
「いいのよ、お礼なんて。それじゃあ、がんばってね」
「はい!がんばります!」
渡鍋は笑顔で手を振り、自分のビーチパラソルの元へと帰っていった。
――――――――――
ランチタイムが終わって少し後、割下と佐々木は洞窟にいた。怪我をしないように、サンダルを履いてTシャツを着ている。お昼休みでのんびりしている人が多いのか、二人の他には誰もいなかった。
「うーん、さっきの焼きそば、美味しかったプリ」
割下の鞄の中に寝転がっているのはプリケッツ。ピンク色のヌイグルミのようなマスコットだ。
「んもー。こっそり食べさせるの大変だったんだからね」
プリケッツのことを知っているのは、二人だけだ。テーブルの下に隠れたプリケッツに、バレないように焼きそばを食べさせた割下の苦労は大きかった。
「それにしても、ちょっと早く来すぎたんじゃないか?」
「いやでも、折部さんを待たせるのは嫌だったし……」
「ま、待ってりゃそのうち来るだろ。……お、カニがいるぞ」
「あ、ホントだ」
割下と佐々木が洞窟で遊んでいた、その時だ。
「キャーッ!」
海の家の方から悲鳴!
「な、なんだ!?」
二人が悲鳴の方を見ると、巨大なサザエのつぼ焼きモンスターが!
「プリプリ!悪霊だプリ!」
プリケッツが激しく反応する。
「ええ!?そんなこと言っても、こんなところにまで割り箸持ってきてないよ!」
「俺もだ」
「大丈夫だプリ。こんなこともあろうかと、海の家から割り箸を持ってきてるプリ!」
プリケッツが鞄の中から割り箸を二膳取り出す!二人は割箸を折ることで、邪悪なクッキングモンスターと戦う魔法のパワーを得るのだ!
「よし、変身だ!」
「おう!」
二人はプリケッツから割り箸を受け取り、割った!
パキン。
『パパラパ~チャララパパラパ~♪パッパラ~パパラパッパッパラ~♪』
変身BGMが鳴り響く!割下と佐々木の体が宙に浮いて体が光に包まれ、変身バンクだ!
割下の全身が光のシルエットになり、水着がはじけ飛ぶ!そして代わりに黒いスパッツが装着される!
佐々木も全身が光のシルエットになり、サンダルががはじけ飛ぶ!そして代わりに装着されるのはカウボーイブーツ!
割下の上半身のTシャツがはじけ飛び、フリフリの淡いピンク色ドレスみたいな服が装着される!レースの手袋にニーソックス。ちょっとだけヒールが高い靴。髪の毛はリボンで結ばれる。メガネも魔法で形が変わる。
佐々木の水着とTシャツがはじけ飛び、ショートパンツ、胸下で縛られたへそ出しTシャツ、そして茶色いカウガールジャケットが装着される!腰には二丁のガンベルト。手にはレザーのグローブ。首元にはスカーフ。頭にはテンガロンハット。
そして最後に、割下には黒いスパッツの上から白いフンドシが、佐々木には蛍光イエローのバイザーサングラスが装着される!
『パパラパ~パパパッ♪パッパン♪』
BGM終了!割下はセイントヒップに、佐々木はセイントリングに、それぞれ変身完了!
「よし!行くぞ!」
――――――――――
「ツボツボーッ!!」
ヒップとリングを待ち構えていたのは、ドリルのように砂浜に突き刺さっている、巨大なサザエのつぼ焼きモンスター!
「あ!セイントヒップとセイントリングだ!」
「がんばれー!やっつけろー!」
みんなの声援を受けて、二人はそれぞれ武器を構える。ヒップは割り箸型魔法少女ステッキ(プリケッツが姿を変えたものだよ)を握り、そしてリングは二丁のゴム鉄砲(服の魔力を輪ゴムに変えて撃ち出すよ)を両手で構える!
「ヒップ、弱点は?」
「あそこだ。貝のフタのところに割り箸が刺さってる」
リングのサイバーゴーグル越しに、WEAKの文字が見える。クッキングモンスターに刺さった邪悪な割り箸は、悪霊が宿った本体だ。それをヒップがケツ割り箸することで、成仏させてやっつけることができる。
「よし!行くぞ!たあ!」
ヒップ砂を蹴って飛び出す!しかし、それを迎撃するものあり!
「「「ハマーッ!」」」
つぼ焼きモンスターの足元から、3つの焼ハマグリモンスターが飛び出してきてた!
だが、そんなことで怯むヒップではない!
「えい!」
1つめを前方宙返りで飛び越える!
「やあ!」
2つめをステッキで弾き飛ばす!
「えーい!」
3つめを踏み台にして、つぼ焼きモンスターのテッペンに登った!そのまま割り箸をつかむ!
「このまま割り箸を引っこ抜いて……あれ?」
割り箸が抜けない!サザエの強力なパワーでフタはガッチリと閉じられ、割り箸が抜けないのだ!
「ふににににに……!」
力を込めるヒップ。だが、割り箸はびくともしない!
「ツボーッ!」
つぼ焼きモンスターは高速回転!ネジを逆向きに回したように、砂浜から飛び出した!
「う、うわーっ!」
ヒップは遠心力で海にふっとばされる!
「ヒップ!」
うろたえるリング!
「オーッホッホッホ!自分は心配はしなくてよろしいのですの?」
海の家の屋根の上から笑い声!
「その声は!」
声のする方を睨むリング!そこに立っているのはダークセクシーエプロン魔女服のレディ・パン!
「さあ、やっておしまい!」
「「ハマーッ!」」
レディ・パンの号令に合わせて、2つのハマグリモンスターがリングに飛びかかる!
「そんなもん、撃ち落としてやるぜ!」
リングが二丁拳銃で輪ゴムを発射!リングの撃ち出す輪ゴムは金の輪、すなわち天使の輪のパワーを持つ!小さなモンスターなら、当てるだけ成仏だ!
だが、ハマグリモンスターは輪ゴム命中直前に口を閉じた。
「「ハマッ!」」
輪ゴムは流線型の貝殻をツルリと滑り、明後日の方向に飛んでいった。
「マジかよ!?」
驚きのあまり、手が止まるリング。その隙を突いて、ハマグリモンスターがヒップの両手に噛み付いた!
「「ハマッ!」」
「イテテテテ!チクショウ!離せ!」
リングは両手をブンブンと振るが、噛み付いたハマグリモンスターはびくともしない!これではまるで貝殻のボクシンググローブだ。輪ゴム鉄砲が使えない!
「くそ!どうすりゃいいんだ!」
「うわーん!怖いよー!」
リングの背後から女の子の泣き叫ぶ声!そこには、ハマグリモンスターに襲われそうな凛が!
「させるか!」
リングが走る!凛に飛びかかったハマグリモンスターを、ハマグリモンスターグローブで叩き落とす!
「おい!大丈夫か?」
「うわーん!」
凛は泣きやまない。なぜなら、他にもハマグリモンスターがたくさんいるからだ!
「リング!大丈夫!?」
海からヒップが戻ってきた。頭ひっついた蛸をひっぺがし、体に絡んだ海草を剥ぎ取る。
「こっちは任せろ!ヒップはあっちを頼む!」
ハマグリモンスターを殴り飛ばしながらリングが答える。
「それじゃあ、あなたの相手は私ね?」
ヒップの前に、レディ・パンが立ちふさがり、腰にぶら下がるトングを取り出す。すると、なんということか。そのトングは巨大化し、武器となったのだ!
両手で巨大トングを構え、ガチンガチンと威嚇するレディ・パン。
「プ、プリ~!あれで挟まれたらもう動けないプリ!」
プリケッツの言葉に怯み、踏み込めないヒップ。ジリジリと距離を測るように二人が動く。
先に動いたのはレディ・パン!
「そおれ!」
ヒップを左右からはさみにかかる!
「えーい!」
ヒップは大きくジャンプして回避!
「甘いわ!」
レディ・パンは、閉じたトングをそのまま振り回して追撃!
「とーう!」
ヒップは空中で迫るトングを鉄棒のようにつかみ、大きく回転して跳び出す。再び距離をとる。二人の勝負は互角だ。
だが、一方でリングのほうは!
「はぁ……、はぁ……」
殴り飛ばしても殴り飛ばしても、ハマグリモンスターは襲い掛かってくる。それに、どれだけ振り回しても、手に噛み付いたハマグリモンスターは外れそうにない。
「く、くそ……。もうダメかもしれねえ……」
「うわーん!!お姉ちゃん、負けないでー!!」
凛の鳴き声と応援が、リングを後押しする。だが、それでも限界が近い。
「ハマーッ!」
ハマグリモンスターが凛に襲いかかる!
「こ、このやろ……」
殴り飛ばそうとしたリングが転ぶ!このまま凛もハマグリモンスターに噛みつかれてしまうのか!
その時!
閃光一線!噛み付こうとしたハマグリモンスターに、巨大な二膳の割り箸を突き刺す者あり!
「
「ハマーッ!」
二膳の巨大な箸に力を込めると、テコの原理でハマグリモンスターが開き、貝殻が完全に外れた!無力化!
「しっかりしろ。キミは自分の力を忘れたのか?」
現れたのは侍魔法少年服の戦士、セイントソード!その声は少年か、あるいは少女か、どちらにも聞こえる。目元は前髪で隠れて見えず、淡いブルーを基調とした侍魔法少年服の胸元は、サラシが巻かれている。
「セイントソード!」
「キミの輪ゴムは、打ち出さなくても浄化の効果はある。今、キミの腕はハマグリモンスターの中だ。わかるな?」
「……そういうことか!」
リングは腕に力を込める!
「えいやあ!」
「「ハ、ハマーッ!」」
リングの両手に噛み付いたハマグリモンスターが浄化される!貝殻に守られた柔らかい身に、直接輪ゴムを当てたのだ!
「さあ、これでもまだ噛み付いてくるか?」
「ハ、ハマ……」
ハマグリモンスターたちは後ずさりして、レディ・パンの方に逃げ去った。
「ヒップ!今行くぞ!」
リングも追う!
残されたソードは、しゃがみこんで、怯えていた凛に声をかける。
「お嬢ちゃん、立てるかい?さあ、早く逃げるんだ」
「う、うん。ありがとう!セイントソードのお兄さん!」
凛は人々が避難している海の家に逃げていった。
一方ヒップは!
「たあ!」
「なんの!」
レディ・パンとの勝負は互角!だが、そこに襲いかかるのはハマグリモンスター!このままでは一方的に数で不利だ!
「うおおお!させるかあ!」
すかさずリングが追いつく!ハマグリモンスターの口に手を突っ込み、直接輪ゴムを食らわせる!
「ハマーッ!」
成仏!
「これで2対1だ!」
「オホホ……それはどうかしら?」
「なんだと?」
「リング!上だ!」
ヒップとリングの上から襲いかかる巨大な影!
「ツボーッ!」
つぼ焼きモンスターが回転しながら、上空から落ちてくる!
「うおわ!」
「えい!」
ヒップとリングは横っ飛びで回避!
「さあ、これで2対2よ?立派なサイズのつぼ焼きモンスター、あなた達にどうにかできるのかしら?」
余裕の笑みを見せるレディ・パン。だが、笑っているのは彼女だけではなかった!
「へっ!お前も、自分のトングを見てみな!」
リングはニヤリと笑ってレディ・パンを睨む。
「私の武器がどうか……こ、これは!」
レディ・パンの武器、巨大トングには無数の輪ゴムが縛り付けられている!このままではトングを開けない!
「ええい……小癪な真似を……」
レディ・パンは開かなくなったトングをそのまま大ぶりに叩きつける!
だが、我々は忘れていないだろうか。もう一人の戦士の存在を!
「私が引き受けよう」
セイントソードだ!二膳の巨大箸でトングを受け止める!
「せいっ!」
そのままトングを弾き飛ばす!
「ヒップ!リング!つぼ焼きモンスターは目を回している。今のうちに箸を取るんだ!」
「わかった!」
リングが二丁の輪ゴム銃を合体させる!それは変形し、巨大なボウガンになった!
「よし!」
ヒップはステッキを巨大ボウガンにセット!それは変形し、巨大な矢となった!
二人は一緒に巨大ボウガンを構え、狙いを定める。
「そうはさせませんわ!」
巨大トングを拾ったレディ・パンが二人に襲いかかろうとする。だが、ソードが立ちふさがり鍔迫り合い!
「今だ、セイントヒップ!」
「はい!」
「ロックオン!」
リングが照準を固定!
「シュート!」
ヒップが発射トリガーを引く!
「「セイントアロー!!」」
二人の息のあった声で、聖なる矢が打ち出される!イエローの光を纏ったピンクの矢は、つぼ焼きモンスターのフタと貝殻の間に突き刺さる!
突き刺さったピンクの矢は、テコの原理でフタをこじ開ける!ガッチリと閉じられたフタがこじ開けられ、邪悪な割り箸が落ちてきた!
「セイントヒップ!折るプリーッ!」
ヒップは拾った割り箸をふんどしを挟む。スパッツの上に、白いふんどしと割り箸が、聖なる十字を表した!……そして!
「えいっ!」
バキィ!
割り箸が割れた!
「ツ、ツ、ツ……」
つぼ焼きモンスターが中から光りだす!そして!
「ツボーーーーーーーーー!!!!」
つぼ焼きモンスターは爆発!キラキラした光の粒子となって空へと登っていった。
周りに残っていたハマグリモンスターも、一緒に消えていく。
「ええい……今回はここまでにしてあげますわ!それではごきげんよう!」
レディ・パンが突然白い煙に包まれる!小麦粉だ!
「「ゲホッゲホッ……」」
ヒップとリングの二人が咳き込んでいる間に、レディ・パンは姿を消していた。そして、ソードもすでにいない。
「ねえ、プリケッツ。セイントソードは、僕達の味方なんだよね?」
「そうだと思うプリ」
「思うって……」
ヒップとリングの力は、プリケッツが与えたものだ。でも、ソードの力は違う。プリケッツは、自分の仲間がやってきたと思っているが、それが本当に仲間なのかはよくわかっていない。
「まあまあ、変身が解ける前に、早くどっか行くプリ」
「うわわわわわ!そうだ!」
二人は大きくジャンプして海の家を飛び越え、人気のない岩陰に姿を隠した。
――――――――――
夕方。割下のお父さんが運転する車の中で、凛は嬉しそうに話していた。
「それでねー!かっこいいお兄さんが、凛のこと助けてくれたの!」
「へー、そうなのか」
佐々木は、知らないふりをし話を聞く。ヒップとリングが戦っている間、二人は洞窟に隠れていたということで、話を合わせてある。
「セイントソードっていう名前でね、とっても強いの!」
「で、でも、セイントリングも助けてくれたんだろ?」
佐々木は負けず嫌いなのだ。
「えー。凛はセイントソードの方がかっこいいと思うな」
「いや、セイントリングもかっこいいだろ?二丁拳銃だぞ?」
「……もしかしてお兄ちゃん、セイントリングのこと好きなの?」
「ブッ!!」
笑いをこらえていた割下が思わず吹き出した。
「ちげーよ!そうじゃなくってだな!かっこいいかどうかって話をだな……何笑ってんだよ割下!」
「アハハ!ごめんごめん。セイントリングはかっこいいし、かわいいと思うよ」
「か、かわいいってお前……」
急におとなしくなる佐々木。
「……あ!そうだ!凛、砂のお城の写真、撮ったんだろ?見せてくれよ」
あの戦いの後、みんなで協力して、大きな砂のお城を作ったのだ。
「うん、いいよ。お姉ちゃん、写真見せて!」
「ちょっとまってね……はい」
美羽はスマートフォンの画像を見せる。画面には、立派な砂のお城を囲む、6人の集合写真が写っている。ほかにも、今日1日の思い出が、何枚も写真に収められていた。もちろん、割下と佐々木の写真もある。
「なんだかんだで楽しかったな」
「あ、でも……結局あの後、折部さん来なかったね」
「そう言えばそうだな。まあ、あの騒ぎがあったんだし、これなかっただけかもしれねえしな」
「うん、そうだね」
思い出を振り返りながら楽しく話すみんなを乗せた車は、町へと帰っていった。
――――――――――
楽しかった思い出を胸に、明日も頑張れヒップ&リング!もちろんソードの活躍も見逃せないぞ!
ケツ割り箸魔法少女装少年セイントヒップ
第7話:海で対決!浜焼きモンスター!
おわり
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