第7話:海で対決!浜焼きモンスター!

「わーい!海だー!」

りんがはしゃいで砂浜を走り出す。

「おじさん、おばさん、ありがとうございます」

「いいのよ。このまえ右膳うぜんを泊めてくれたでしょ。お互い様よ」

夏休みの中頃、佐々木兄妹の左助さすけと凛は、割下家の4人と一緒に海に来ていた。


「お姉ちゃーん!はやくー!」

「はいはい」

凛のわくわくした声に、美羽みうが答える。凛は左助の妹で、小学五年生。美羽は右膳の姉で、高校一年生。五つも年が離れているが、小さい頃から一緒に遊んでいたこともあり、年の離れた姉妹のようだ。


「おっし、俺たちも行こうぜ」

「うん、浮き輪膨らませてからね」

割下は浮き輪に息を吹き込みながら答えた。


「はっはっは。左助くん、準備体操はしっかりするんだぞ」

「はい、おじさん!」

佐々木は元気よく返事をすると、体操を始めた。


----------


「あのテトラポッドまで行ってみようぜ」

「うん」

佐々木と割下は、防波テトラポッドに向かって泳ぎ始めた。距離はだいたい50メートルくらいだろうか。運動が得意な佐々木にとっては、どうってことない距離だ。一方の割下はというと……。


「ま、待ってよ~」

浮き輪を使ってバシャバシャとバタ足で追いかける。

「あ、わりい。ゆっくり行くよ」

佐々木は立ち泳ぎで答えると、割下のペースに合わせてゆっくりと泳いだ。


しばらく泳いでテトラポッドまで到着すると、佐々木が見知った顔の女の子を見つけた。

「おい、あれ折部おりべさんじゃないか?」

「え?」

テトラポッドの上に、遠くの水平線を眺める折部がいた。


((折部さんは、割下くんの同級生だよ。ここだけの話、割下くんは折部さんのことが好きなんだ。でも、その気持ちをずっと隠しているんだよ))


「おーい!折部さーん!」

佐々木が手を降って呼びかける。

「あれ?佐々木くん、割下くん!」

折部が振り返って手を振る。学校の授業とは違った、可愛い水着を着ている。


佐々木と割下もテトラポッドに登り、歩み寄る。

「水着、可愛いね……」

「ふふふ、そーでしょー。新しいの買ってもらったんだ。似合う?」

「うん……」

割下は、半ばぼんやりとして答えた。


「今日は二人揃ってどうしたの?デート?」

「ち、ちげーよ!」

「そ、そうだよ!ちがうよ!」

「あはは、冗談だよ」

佐々木と割下はちょっと動揺するけど、折部はカラリと笑った。


「あ、そうそう、あそこの洞窟って行ったことある?」

折部が指差したのは、海岸沿いの小さな洞窟だ。

「いや、行ったこと無いけど」


「もうすぐお昼だからさ、その後で行ってみない?」

「うーん。危なくないかな」

「大丈夫だと思うぞ。ほら、俺たち以外にも行ってる人いるし」

不安そうな割下を説得するように、佐々木が洞窟を指差す。確かに、多くはないけど、人がいる。


「佐々木くんがそう言うなら、行ってみようかな」

「よし!それじゃあまた後でね!」

折部はそう言うと、また海岸に向かって泳ぎ始めた。


――――――――――


その頃、浅瀬では、凛と美羽たちが砂のお城を作っていて、ちょうどいい感じに完成したところだった。

「おねーちゃん、写真取ろう!」

「うん。私のスマホある?」

美羽が、ビーチパラソルの下で休んでいたお父さんとお母さんの方を見る。


「車の中においてきたんじゃなかった?」

「あー、そうだった……お父さん、鍵貸して」

「おう。ほれ」

お父さんが投げた車の鍵をキャッチして、美羽は車へ向かった。


「あ!凛も一緒に行く!」

海を見ていた凛が振り返って走ろうとした、その時だ。

「キャッ!」

誰かにぶつかって転ぶ凛。


「あらあら?大丈夫ですか」

凛がぶつかったサングラスの女性は、子どもにも丁寧な物腰で話しかけ、手を差し伸べた。

「うん、大丈夫。だけど砂のお城が……」


凛がころんだ時、砂のお城が崩れてしまったのだ。

「うちの子がすみません」

美羽のお父さんとお母さんが出てきて謝る。


「いえ。怪我もしてないですし、大丈夫ですよ」

サングラスの女性は、にこやかに挨拶する。それから、落ち込む凛の前にしゃがみ込み、目線を合わせて言った。

「崩れちゃったのは残念だけど、あなたなら、また良いお城が作れるわ。もしかしたら、もっとおっきなお城だって作れちゃうかもしれないわよ?」


「ああ。今度はおじさんとおばさんも手伝ってあげるからな」

「そうね。久しぶりにやってみようかしら」

美羽のお父さんとお母さんも、凛を元気付ける。

「……わかった!やってみるね!」

凛の目に、再びやる気が戻ってきた。


「あれ、もしかしてあなた……あの、渡鍋わたなべ先生ですか?」

美羽のお母さんが、サングラス女性の顔を見て言った。渡鍋先生とは、若くして人気の料理研究家で、テレビ番組にも出演している有名人だ。


「ええ。今日はオフなんです。ですから、ね?」

サングラス女性、渡鍋は、人差し指を立てて口の前に当てた。このことは秘密に、というサインだ。

「はい。それはもちろん。いつも番組は楽しく見せてもらっています。これからもがんばってくださいね」


「ありがとうございます。それでは」

渡鍋は軽くお辞儀をすると、海の家の方に向かって歩き出した。


――――――――――


「ふふふ、海といえば、やっぱり浜焼きよね」

「オレ様も早く食べたいワル」

ウキウキする渡鍋に話しかけるのは、カバンの中に隠れているワルノワール。目付きの鋭い、黒いヌイグルミのようなマスコットだ。


「こら!静かにして!ちゃんと買ってあげるから」

鞄の中のワルノワールをツンツンと突っつく。触感はムニムニとしている。

「わ、分かったでワル……」


渡鍋がお目当ての網焼きコーナーにたどり着くと、元気にイカや貝を焼く青年がいた。

「いらっしゃいませ!なににします?」

「えーっと、そうね……あら?」

渡鍋が何かに気がついた。


「お兄さん、もしかして今日が初めて?貝の焼き方が、慣れていない感じ?」

「あ、はい。今日1日だけこっちの方やってくれって言われてて……」

「よければ、教えてあげましょうか?これでも私、料理は得意なのですよ」

「あ、はい!お願いします!」


渡鍋の料理研究家としての魂に火がついた。

「いい?サザエのつぼ焼きは、最初に醤油を入れちゃって。貝殻を鍋にして煮るイメージね。でも、入れるのは少しだけ。海水で塩味がついてるから、ちょっと少なめってくらいで大丈夫よ」

「はい!」

渡鍋の言うとおり、青年はサザエを調理する。


「次はハマグリね。殻が開く時、身は上の方にくっついちゃうの。だから、開いたら、すぐにトングで挟んでぴったり閉じて、出汁をこぼさないように素早くひっくり返すの」

「こう、ですかね?」

青年は、今まさに開いたばかりのハマグリを、トングで挟んでひっくり返した。


「ええ、そうそう!醤油も少なめにね。出汁がこぼれてないから、海水の塩分が効いてて丁度いい味になってるわ。だから、醤油は香り付け程度にちょっぴりでいいの」

言われたとおりに、醤油をほんのちょっぴり垂らす。


「さあ、これで出来上がりよ。そのつぼ焼きを2つと、ハマグリを3つ、もらえるかしら」

「はい。まいどあり!」

渡鍋は焼き貝を5つ受け取ると、その中から、ハマグリを1つとり、青年に差し出した。


「え?」

「自分で作ったものだもの、自分でもしっかり味見をしてみて」

「あ、はい。いただきます……」

青年は、渡鍋に教えてもらった焼き方で焼いたハマグリを食べた。


「うまい!身もだけど、出汁もうまい。こんな旨い出汁をこぼしていたなんて!」

「どう?調理法がシンプルだから、素材の味がそのまま出るのよ」

「いやあ、ありがとうございます」


「いいのよ、お礼なんて。それじゃあ、がんばってね」

「はい!がんばります!」

渡鍋は笑顔で手を振り、自分のビーチパラソルの元へと帰っていった。


――――――――――


ランチタイムが終わって少し後、割下と佐々木は洞窟にいた。怪我をしないように、サンダルを履いてTシャツを着ている。お昼休みでのんびりしている人が多いのか、二人の他には誰もいなかった。


「うーん、さっきの焼きそば、美味しかったプリ」

割下の鞄の中に寝転がっているのはプリケッツ。ピンク色のヌイグルミのようなマスコットだ。

「んもー。こっそり食べさせるの大変だったんだからね」

プリケッツのことを知っているのは、二人だけだ。テーブルの下に隠れたプリケッツに、バレないように焼きそばを食べさせた割下の苦労は大きかった。


「それにしても、ちょっと早く来すぎたんじゃないか?」

「いやでも、折部さんを待たせるのは嫌だったし……」

「ま、待ってりゃそのうち来るだろ。……お、カニがいるぞ」

「あ、ホントだ」


割下と佐々木が洞窟で遊んでいた、その時だ。


「キャーッ!」

海の家の方から悲鳴!


「な、なんだ!?」

二人が悲鳴の方を見ると、巨大なサザエのつぼ焼きモンスターが!


「プリプリ!悪霊だプリ!」

プリケッツが激しく反応する。

「ええ!?そんなこと言っても、こんなところにまで割り箸持ってきてないよ!」

「俺もだ」


「大丈夫だプリ。こんなこともあろうかと、海の家から割り箸を持ってきてるプリ!」

プリケッツが鞄の中から割り箸を二膳取り出す!二人は割箸を折ることで、邪悪なクッキングモンスターと戦う魔法のパワーを得るのだ!


「よし、変身だ!」

「おう!」


二人はプリケッツから割り箸を受け取り、割った!


パキン。


『パパラパ~チャララパパラパ~♪パッパラ~パパラパッパッパラ~♪』

変身BGMが鳴り響く!割下と佐々木の体が宙に浮いて体が光に包まれ、変身バンクだ!


割下の全身が光のシルエットになり、水着がはじけ飛ぶ!そして代わりに黒いスパッツが装着される!


佐々木も全身が光のシルエットになり、サンダルががはじけ飛ぶ!そして代わりに装着されるのはカウボーイブーツ!


割下の上半身のTシャツがはじけ飛び、フリフリの淡いピンク色ドレスみたいな服が装着される!レースの手袋にニーソックス。ちょっとだけヒールが高い靴。髪の毛はリボンで結ばれる。メガネも魔法で形が変わる。


佐々木の水着とTシャツがはじけ飛び、ショートパンツ、胸下で縛られたへそ出しTシャツ、そして茶色いカウガールジャケットが装着される!腰には二丁のガンベルト。手にはレザーのグローブ。首元にはスカーフ。頭にはテンガロンハット。


そして最後に、割下には黒いスパッツの上から白いフンドシが、佐々木には蛍光イエローのバイザーサングラスが装着される!

『パパラパ~パパパッ♪パッパン♪』

BGM終了!割下はセイントヒップに、佐々木はセイントリングに、それぞれ変身完了!

「よし!行くぞ!」


――――――――――


「ツボツボーッ!!」

ヒップとリングを待ち構えていたのは、ドリルのように砂浜に突き刺さっている、巨大なサザエのつぼ焼きモンスター!

「あ!セイントヒップとセイントリングだ!」

「がんばれー!やっつけろー!」


みんなの声援を受けて、二人はそれぞれ武器を構える。ヒップは割り箸型魔法少女ステッキ(プリケッツが姿を変えたものだよ)を握り、そしてリングは二丁のゴム鉄砲(服の魔力を輪ゴムに変えて撃ち出すよ)を両手で構える!


「ヒップ、弱点は?」

「あそこだ。貝のフタのところに割り箸が刺さってる」

リングのサイバーゴーグル越しに、WEAKの文字が見える。クッキングモンスターに刺さった邪悪な割り箸は、悪霊が宿った本体だ。それをヒップがケツ割り箸することで、成仏させてやっつけることができる。


「よし!行くぞ!たあ!」

ヒップ砂を蹴って飛び出す!しかし、それを迎撃するものあり!

「「「ハマーッ!」」」

つぼ焼きモンスターの足元から、3つの焼ハマグリモンスターが飛び出してきてた!


だが、そんなことで怯むヒップではない!

「えい!」

1つめを前方宙返りで飛び越える!

「やあ!」

2つめをステッキで弾き飛ばす!

「えーい!」

3つめを踏み台にして、つぼ焼きモンスターのテッペンに登った!そのまま割り箸をつかむ!


「このまま割り箸を引っこ抜いて……あれ?」

割り箸が抜けない!サザエの強力なパワーでフタはガッチリと閉じられ、割り箸が抜けないのだ!

「ふににににに……!」

力を込めるヒップ。だが、割り箸はびくともしない!


「ツボーッ!」

つぼ焼きモンスターは高速回転!ネジを逆向きに回したように、砂浜から飛び出した!

「う、うわーっ!」

ヒップは遠心力で海にふっとばされる!


「ヒップ!」

うろたえるリング!

「オーッホッホッホ!自分は心配はしなくてよろしいのですの?」

海の家の屋根の上から笑い声!


「その声は!」

声のする方を睨むリング!そこに立っているのはダークセクシーエプロン魔女服のレディ・パン!

「さあ、やっておしまい!」

「「ハマーッ!」」


レディ・パンの号令に合わせて、2つのハマグリモンスターがリングに飛びかかる!

「そんなもん、撃ち落としてやるぜ!」

リングが二丁拳銃で輪ゴムを発射!リングの撃ち出す輪ゴムは金の輪、すなわち天使の輪のパワーを持つ!小さなモンスターなら、当てるだけ成仏だ!


だが、ハマグリモンスターは輪ゴム命中直前に口を閉じた。

「「ハマッ!」」

輪ゴムは流線型の貝殻をツルリと滑り、明後日の方向に飛んでいった。


「マジかよ!?」

驚きのあまり、手が止まるリング。その隙を突いて、ハマグリモンスターがヒップの両手に噛み付いた!

「「ハマッ!」」


「イテテテテ!チクショウ!離せ!」

リングは両手をブンブンと振るが、噛み付いたハマグリモンスターはびくともしない!これではまるで貝殻のボクシンググローブだ。輪ゴム鉄砲が使えない!

「くそ!どうすりゃいいんだ!」


「うわーん!怖いよー!」

リングの背後から女の子の泣き叫ぶ声!そこには、ハマグリモンスターに襲われそうな凛が!

「させるか!」

リングが走る!凛に飛びかかったハマグリモンスターを、ハマグリモンスターグローブで叩き落とす!


「おい!大丈夫か?」

「うわーん!」

凛は泣きやまない。なぜなら、他にもハマグリモンスターがたくさんいるからだ!


「リング!大丈夫!?」

海からヒップが戻ってきた。頭ひっついた蛸をひっぺがし、体に絡んだ海草を剥ぎ取る。

「こっちは任せろ!ヒップはあっちを頼む!」

ハマグリモンスターを殴り飛ばしながらリングが答える。


「それじゃあ、あなたの相手は私ね?」

ヒップの前に、レディ・パンが立ちふさがり、腰にぶら下がるトングを取り出す。すると、なんということか。そのトングは巨大化し、武器となったのだ!


両手で巨大トングを構え、ガチンガチンと威嚇するレディ・パン。

「プ、プリ~!あれで挟まれたらもう動けないプリ!」

プリケッツの言葉に怯み、踏み込めないヒップ。ジリジリと距離を測るように二人が動く。


先に動いたのはレディ・パン!

「そおれ!」

ヒップを左右からはさみにかかる!

「えーい!」

ヒップは大きくジャンプして回避!


「甘いわ!」

レディ・パンは、閉じたトングをそのまま振り回して追撃!

「とーう!」

ヒップは空中で迫るトングを鉄棒のようにつかみ、大きく回転して跳び出す。再び距離をとる。二人の勝負は互角だ。


だが、一方でリングのほうは!

「はぁ……、はぁ……」

殴り飛ばしても殴り飛ばしても、ハマグリモンスターは襲い掛かってくる。それに、どれだけ振り回しても、手に噛み付いたハマグリモンスターは外れそうにない。


「く、くそ……。もうダメかもしれねえ……」

「うわーん!!お姉ちゃん、負けないでー!!」

凛の鳴き声と応援が、リングを後押しする。だが、それでも限界が近い。


「ハマーッ!」

ハマグリモンスターが凛に襲いかかる!

「こ、このやろ……」

殴り飛ばそうとしたリングが転ぶ!このまま凛もハマグリモンスターに噛みつかれてしまうのか!


その時!


閃光一線!噛み付こうとしたハマグリモンスターに、巨大な二膳の割り箸を突き刺す者あり!

二膳双操にぜんそうそう……ひらばし!」

「ハマーッ!」

二膳の巨大な箸に力を込めると、テコの原理でハマグリモンスターが開き、貝殻が完全に外れた!無力化!


「しっかりしろ。キミは自分の力を忘れたのか?」

現れたのは侍魔法少年服の戦士、セイントソード!その声は少年か、あるいは少女か、どちらにも聞こえる。目元は前髪で隠れて見えず、淡いブルーを基調とした侍魔法少年服の胸元は、サラシが巻かれている。


「セイントソード!」

「キミの輪ゴムは、打ち出さなくても浄化の効果はある。今、キミの腕はハマグリモンスターの中だ。わかるな?」

「……そういうことか!」


リングは腕に力を込める!

「えいやあ!」

「「ハ、ハマーッ!」」

リングの両手に噛み付いたハマグリモンスターが浄化される!貝殻に守られた柔らかい身に、直接輪ゴムを当てたのだ!

「さあ、これでもまだ噛み付いてくるか?」


「ハ、ハマ……」

ハマグリモンスターたちは後ずさりして、レディ・パンの方に逃げ去った。

「ヒップ!今行くぞ!」

リングも追う!


残されたソードは、しゃがみこんで、怯えていた凛に声をかける。

「お嬢ちゃん、立てるかい?さあ、早く逃げるんだ」

「う、うん。ありがとう!セイントソードのお兄さん!」

凛は人々が避難している海の家に逃げていった。


一方ヒップは!

「たあ!」

「なんの!」

レディ・パンとの勝負は互角!だが、そこに襲いかかるのはハマグリモンスター!このままでは一方的に数で不利だ!


「うおおお!させるかあ!」

すかさずリングが追いつく!ハマグリモンスターの口に手を突っ込み、直接輪ゴムを食らわせる!

「ハマーッ!」

成仏!


「これで2対1だ!」

「オホホ……それはどうかしら?」

「なんだと?」

「リング!上だ!」

ヒップとリングの上から襲いかかる巨大な影!


「ツボーッ!」

つぼ焼きモンスターが回転しながら、上空から落ちてくる!

「うおわ!」

「えい!」

ヒップとリングは横っ飛びで回避!


「さあ、これで2対2よ?立派なサイズのつぼ焼きモンスター、あなた達にどうにかできるのかしら?」

余裕の笑みを見せるレディ・パン。だが、笑っているのは彼女だけではなかった!


「へっ!お前も、自分のトングを見てみな!」

リングはニヤリと笑ってレディ・パンを睨む。

「私の武器がどうか……こ、これは!」


レディ・パンの武器、巨大トングには無数の輪ゴムが縛り付けられている!このままではトングを開けない!

「ええい……小癪な真似を……」

レディ・パンは開かなくなったトングをそのまま大ぶりに叩きつける!


だが、我々は忘れていないだろうか。もう一人の戦士の存在を!

「私が引き受けよう」

セイントソードだ!二膳の巨大箸でトングを受け止める!

「せいっ!」

そのままトングを弾き飛ばす!


「ヒップ!リング!つぼ焼きモンスターは目を回している。今のうちに箸を取るんだ!」

「わかった!」

リングが二丁の輪ゴム銃を合体させる!それは変形し、巨大なボウガンになった!

「よし!」

ヒップはステッキを巨大ボウガンにセット!それは変形し、巨大な矢となった!


二人は一緒に巨大ボウガンを構え、狙いを定める。

「そうはさせませんわ!」

巨大トングを拾ったレディ・パンが二人に襲いかかろうとする。だが、ソードが立ちふさがり鍔迫り合い!

「今だ、セイントヒップ!」

「はい!」


「ロックオン!」

リングが照準を固定!

「シュート!」

ヒップが発射トリガーを引く!

「「セイントアロー!!」」

二人の息のあった声で、聖なる矢が打ち出される!イエローの光を纏ったピンクの矢は、つぼ焼きモンスターのフタと貝殻の間に突き刺さる!


突き刺さったピンクの矢は、テコの原理でフタをこじ開ける!ガッチリと閉じられたフタがこじ開けられ、邪悪な割り箸が落ちてきた!

「セイントヒップ!折るプリーッ!」


ヒップは拾った割り箸をふんどしを挟む。スパッツの上に、白いふんどしと割り箸が、聖なる十字を表した!……そして!


「えいっ!」


バキィ!


割り箸が割れた!

「ツ、ツ、ツ……」

つぼ焼きモンスターが中から光りだす!そして!

「ツボーーーーーーーーー!!!!」

つぼ焼きモンスターは爆発!キラキラした光の粒子となって空へと登っていった。


周りに残っていたハマグリモンスターも、一緒に消えていく。

「ええい……今回はここまでにしてあげますわ!それではごきげんよう!」

レディ・パンが突然白い煙に包まれる!小麦粉だ!


「「ゲホッゲホッ……」」

ヒップとリングの二人が咳き込んでいる間に、レディ・パンは姿を消していた。そして、ソードもすでにいない。


「ねえ、プリケッツ。セイントソードは、僕達の味方なんだよね?」

「そうだと思うプリ」

「思うって……」


ヒップとリングの力は、プリケッツが与えたものだ。でも、ソードの力は違う。プリケッツは、自分の仲間がやってきたと思っているが、それが本当に仲間なのかはよくわかっていない。


「まあまあ、変身が解ける前に、早くどっか行くプリ」

「うわわわわわ!そうだ!」

二人は大きくジャンプして海の家を飛び越え、人気のない岩陰に姿を隠した。


――――――――――


夕方。割下のお父さんが運転する車の中で、凛は嬉しそうに話していた。

「それでねー!かっこいいお兄さんが、凛のこと助けてくれたの!」

「へー、そうなのか」

佐々木は、知らないふりをし話を聞く。ヒップとリングが戦っている間、二人は洞窟に隠れていたということで、話を合わせてある。


「セイントソードっていう名前でね、とっても強いの!」

「で、でも、セイントリングも助けてくれたんだろ?」

佐々木は負けず嫌いなのだ。


「えー。凛はセイントソードの方がかっこいいと思うな」

「いや、セイントリングもかっこいいだろ?二丁拳銃だぞ?」

「……もしかしてお兄ちゃん、セイントリングのこと好きなの?」


「ブッ!!」

笑いをこらえていた割下が思わず吹き出した。

「ちげーよ!そうじゃなくってだな!かっこいいかどうかって話をだな……何笑ってんだよ割下!」


「アハハ!ごめんごめん。セイントリングはかっこいいし、かわいいと思うよ」

「か、かわいいってお前……」

急におとなしくなる佐々木。


「……あ!そうだ!凛、砂のお城の写真、撮ったんだろ?見せてくれよ」

あの戦いの後、みんなで協力して、大きな砂のお城を作ったのだ。

「うん、いいよ。お姉ちゃん、写真見せて!」

「ちょっとまってね……はい」


美羽はスマートフォンの画像を見せる。画面には、立派な砂のお城を囲む、6人の集合写真が写っている。ほかにも、今日1日の思い出が、何枚も写真に収められていた。もちろん、割下と佐々木の写真もある。


「なんだかんだで楽しかったな」

「あ、でも……結局あの後、折部さん来なかったね」

「そう言えばそうだな。まあ、あの騒ぎがあったんだし、これなかっただけかもしれねえしな」

「うん、そうだね」

思い出を振り返りながら楽しく話すみんなを乗せた車は、町へと帰っていった。



――――――――――


楽しかった思い出を胸に、明日も頑張れヒップ&リング!もちろんソードの活躍も見逃せないぞ!



ケツ割り箸魔法少女装少年セイントヒップ

第7話:海で対決!浜焼きモンスター!

おわり

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