第6話:謎の戦士?セイントソード!

「おにぎりの具と言ったら梅でしょ!?」

「いーや!鮭だね!」

夏休みの、とある午後、一緒に宿題をしていた割下わりした佐々木ささきは、珍しく熱く口論を繰り広げていた。割下は梅と、佐々木は鮭を、お互いに最高のおにぎりの具として譲らない。


「いいか?おにぎりは米だぞ。米のおかずって言ったら肉か魚だろ?そしたら鮭に決まってるじゃんか!」

佐々木の熱弁!

「おにぎりは、もともと持ち運びするものなんだよ。梅干しが入っていると腐りにくいし、酸っぱいのがが美味しいんじゃないか!」

割下も負けじと熱弁!


「うぬぬぬぬぬ……」

「ぐぬぬぬぬぬ……」

「「ふんッ!!」」

ついにはそっぽを向いてしまった。


「僕、もう帰る!」

「おう!帰れ帰れ!」

割下は荷物をまとめると、佐々木の部屋を出て、そのまま家へと向かっていった。


――――――――――


「まったくもう……」

割下はプンスコしながら商店街を歩いていた。

「あれ?割下くん、どうしたの?」

そんな割下に声をかけたのは、折部おりべだ。


「あ……。お、折部さん。どうしたの?」

「新しい竹刀を買いに来たんだ」

折部は割下と同じクラスの女子だ。小学生から剣道を続けていて、中学になった今でもずっと続けている。


「竹刀って買い換えるの?」

「うん。夏休み明けに大会があるからさ」

中学生になると、小学生と違って竹刀のサイズが決められる。これまで部活の竹刀を借りていた折部も、本格的に自分の竹刀を手にする時が来たのだ。


「割下くんは?」

「えーと……なんとなくブラブラしてるだけ」

「それじゃあさ、ちょっと付き合ってよ」

「え?僕が?ええと……」


((ここだけの話、割下くんは折部さんのことが好きなんだ。だけど、その気持ちをずっと伝えられていないんだよ))


「暇なんでしょ?」

折部が、割下の顔を上から覗き込むように笑う。折部は、割下よりもちょっとだけ背が大きい。

「あ、ああ、うん。いい、よ」

どうにか返事をする割下。


「よし!それじゃ行こう!」

「う、うわあ!」

折部は割下と手をつなぎ……というか、手を掴んで引っ張り、武道具店へを向かった(剣道の竹刀や防具を売っている店を、武道具店というんだ)。


――――――――――


折部は、武道具店でいろいろな竹刀を見ていた。

「うーん、どれにしようかな」

「え?でもサイズは決まってるんでしょ?」

「そうなんだけど、さ……」

折部は種類の違う竹刀を2本、割下に渡した。


「これ、それぞれ軽く振ってみて」

「えっと、こう?……あ!」

左右の手で竹刀を振った割下は気がついた。左右で感覚がぜんぜん違う。


「これ、本当に同じサイズなの?」

「そう。同じサイズでも、いろいろ違うの」

同じサイズの竹刀でも、いろいろな種類がある。形が違ったり、重心が違ったり、使いやすさは人それぞれだ。


「そうなんだ……」

「そう、だから迷っちゃうんだよねー」

そう言いながらも、折部は何本もの竹刀を手にとっては、軽く振ってみたりして、具合を確かめている。迷うというよりは、吟味するといった真剣な表情だ。

(真剣な顔の折部さんも、可愛いな……)


割下がぼんやり見ているうちに、店員さんがやってきた。割下と折部は、いろいろと店員さんに話を聞いて、最終的には店員さんのおすすめを選んだのだった。


――――――――――


帰り道。二人は商店街を歩いていた。

「結局、僕なんにもしてあげられなかったね」

「そんなことないよ。割下くんが店員さんに質問してくれたから助かったよ」

「え?そう?」

割下はあまり意識していなかったが、折部が店員さんと話している時に、竹刀の違いについて事細かに質問していたのだ。


「うん。割下くん、すごくたくさん店員さんに話してたよ」

「あー……そういえば、そうかも」

割下は、気になったことを調べたり聞いたりセずにはいられない好奇心の持ち主なのだ。


「あ!折部さん!」

「え、なに?」

割下は、佐々木と喧嘩していたことを思い出した。おにぎりの具についてだ。


「えっと、折部さんはおにぎりの具は何が好き?」

「どうしたのいきなり」

「いや、それがさあ……」


……割下は、佐々木との喧嘩のことを話した。

「……というわけなんだけど」

「えー、そんなことで喧嘩したの?」

折部はクスクスと笑う。

「そ、そんなことって!……いや、そんなことかもしれないけど」

確かに、ちょっとムキになってしまったかもしれない。割下はそう思った。


「私はどっちも好きだけどなあ」

「じゃあ、折部さんが一番好きなおにぎりって何?」

「えっとね、唐揚げ!」


「唐揚げ……?」

「うん!大会のときとか、お母さんが作ってくれるんだ!こんなおっきいの!」

折部は、両手で丸を作る。割下が知っているおにぎりの二倍はあろうかという大きさだ。


「へ、へえ……」

「なあに?割下くんは唐揚げ嫌い?」

折部が割下の顔を見つめる。


「あ!え、いや、そういうわけじゃなくって……その、たくさん食べるんだなって」

「ふふふ。肉食系ですから」

折部はふざけて笑った。


「はー、おなかすいちゃったな。もう遅いし、早く帰らなきゃ」

気づけば町は夕暮れだ。

「そうだね。それじゃまた」


「またね。佐々木くんと仲直りするんだぞ!」

そう言うと、折部さんは家に向かって走っていった。


「どっちも好き、かあ……」

折部の言葉を思い出しながら家に向かって歩き出そうとした割下。だが、その時だ。

(プリプリ!悪霊の気配を感じるプリ!)

マスコットのプリケッツが悪霊の気配を感知!割下の心に直接話しかけてくる!


(こんな時に!?)

割下も心の中で答える。

(とにかくセイントヒップに変身するプリ!)

(うん!)

割下は人気のない路地裏へ移動!路地裏からピンクの光が漏れ出し、開けて飛び出してきたのはセイントヒップだ!

「よし、行くぞ!」


割下は割り箸を割ることで、ケツ割り箸魔法少女装少年セイントヒップとなり、邪悪な割箸を折る魔法のパワーを得るのだ!


――――――――――


同時刻、佐々木家では!イエローの箸入れがカタカタと震え、ダイヤモンドカットのクリスタルが光を発する!悪霊に反応したのだ!

「あー……」

いつもなら即座に割り箸を割ってセイントリングに変身する佐々木だ。しかし、今は割下と喧嘩中だ。……平たく言うと気まずい。


佐々木が迷っている間も、箸入れはカタカタと震える。

「うーん……」


佐々木が迷っている間も、クリスタルは光を発する。

「ええい!ちくしょう!」

佐々木は、割り箸を取り出して割った!佐々木の部屋からイエローの光が漏れ出し、窓を開けて飛び出してきたのはセイントリングだ!


佐々木は割り箸を割ることで、サイバーカウガール魔法少女装少年セイントリングとなり、聖なる金輪を撃ち出す魔法のパワーを得るのだ!

「行ってやる!」

そのまま二階の部屋を飛び出した!


――――――――――


「ニギニギーッ!」

帰宅時間で賑わう駅前は大混乱!それもそのはず。悪霊に取りつかれた、巨大な丸いおにぎりモンスターが現れたのだ!


「オーッホッホッホ!」

そして、ダークセクシーエプロン魔女服のレディ・パンも!


「海苔がー!」

「動けないよー!」

おにぎりモンスターの周囲には、海苔で巻かれて動けなくなった人たちが!


「おにぎり……」

セイントヒップが駆けつける。

「ああ、おにぎりだな……」

セイントリングも駆けつけた。


「梅かな」

「鮭だろ」

「「……ふん」」

二人は顔を見合わせるが、同時にプイッとそっぽを向く。


「あ~ら?今日はどうしちゃったのかしら?喧嘩でもしちゃったの?」

「う、うるさいなあ!」

ちょびっと動揺するヒップ。

「とっとと片付けようぜ」

リングは、ヒップに目線を合わせずに言った。


「ふーん……。ま、いいけど。二人仲良くおにぎりにしてあげちゃうわ!お行きなさい!」

「ニギーッ!」

レディ・パンの司令でおにぎりモンスターが突撃!


「たあ!」

ヒップは大きくジャンプ!電灯を鉄棒のように使い、くるくると回転して更に跳び、時計塔の上に着地!


「やあ!」

一方リングはスライディングでおにぎりモンスターの足元をすり抜ける!すり抜け際におにぎりモンスター弱点を発見!サイバーゴーグル越しに見るおにぎりモンスター中心部に、WEAKの文字が表示される!


「そこだな!」

リングが二丁のゴム鉄砲を構え、弱点部位に向かって射撃!だが!


「ニギーッ!」

中心部を的確に狙った輪ゴムは、海苔の防壁によって弾かれる!

「この海苔は湿っても破れにくい頑丈な海苔よ。いくらあなたの聖なる金の輪でも、この海苔は貫けないわ!オーッホッホッホ!」


「ちくしょう!それじゃあ、コレでも……」

リングは輪ゴムを限界まで引き絞り、魔力を高める!半袖がじりじりと短くなり、ノースリーブに!ヒップは魔法少女服の魔力を輪ゴムに変えて打ち出している。魔力を込めれば込めるほど、布面積が減っていくのだ!


一方、ヒップは!

「えーい!」

おにぎりモンスターとレディ・パンがリングに気を取られているうちに、おにぎりモンスターの頭頂部に向かってジャンプ!割り箸型魔法少女ステッキを振りかぶって突撃!


その時、リングが同じタイミングで巨大輪ゴムを射出!

「……くらえ!」

輪ゴムはおにぎりモンスターの海苔に直撃!だが!

「ニニニニギーッ!」

おにぎりモンスターが耐え、弾き返す!


「きゃあ!」

弾かれた輪ゴムがヒップを直撃!そのままバランスを崩し、輪ゴムが絡まりながら墜落。落下地点にはスキだらけのリングが!

「うわあ!」

落下の勢いで生じた煙が二人を包む!


煙が晴れる……と、そこには、輪ゴムに絡まって身動きが取れないヒップとリングが!

「むーっ!絡まっちゃったよーっ!」

「ちくしょーっ!動けねーっ!」

二人がジタバタと動けば動くほど、輪ゴムはきつく締まり、身動きが取れなくなっていく。ヒップとリングの身体は複雑に絡み合い、もはや協力なしには脱出できない状態だ。


「ホホホッ!無様ね!しばらくそこで大人しくしていると良いわ」

「ニギーッ!」

レディ・パンの嘲笑と同時に、おにぎりモンスターから巨大な海苔が放たれる!


「「うわーっ!」」

ヒップとリングは身動きがとれないまま、首から下を巨大な海苔にピッチリと巻かれてしまった!二人の頭はくっつきそうなほどに近く、嫌でも見つめ合う形になる。


「リング!ちゃんと避けてよ!」

「ヒップこそ!落ちてくる場所考えろよな!」

「んもー!そんなこと言ったって無理だよぉ!」


「あらあら?今日の二人はオカシイわねえ?いったいどうしたのかしら?」

おにぎりモンスターの上から、レディ・パンが余裕綽々に二人を覗き込む。

「……あ、そうだ!おい!レディ・パン!」

リングがレディ・パンを睨む。


「なあに?」

「あのおにぎりの具はなんなんだ?」

「リング!?」

「いいじゃねえか。こうなったらアイツの具で決着を付けようぜ。梅と鮭、どっちが一番なのかさ!」


「……オーッホッホッホ!オーッホッホッホ!あなた達、そんなことで言い争っていたの?」

レディ・パンが思わず大笑い!

「な、何がオカシイんだよ!」

リングが必死の訴え!

「そ、そうだよ!」

ヒップもそれに便乗だ!


「だって、おにぎりの具が一種類だと決めつけてるんですもの」

「え?」

「なんだって?」

ヒップとリングの頭上にハテナマークが浮かぶ。


「私のおにぎりは、具だくさんの爆弾おにぎりよ!」

「ニギーッ!」


爆弾おにぎりとは!数種類の具材を包み込んだ巨大なおにぎりだ!中身は明太子、ツナマヨ、鮭、梅、白身魚のフライ、唐揚げ、昆布、高菜、その他いろいろ。それらを全部まとめて1つのおにぎりにしたものなのだ!


「1つの具材だけにこだわるなんて、栄養バランスが良くないもの。それに、いろいろな具の味が合わさって、美味しいのよ?」

「「そ、そんなのってありー!?」」

ヒップとリングは目玉が飛び出しそうなほどに驚いた!


「ま、あなたたちみたいなお子ちゃまには、まだ早かったかもしれないわね。フフフ……それじゃあ、そこでじっくりと私たちの活躍を眺めていると良いわ。オーッホッホッホ!」

レディ・パンが勝利を確信しておにぎりモンスターの上で高笑い!


「早く脱出するプリーッ!」

ステッキに姿を変えたプリケッツが叫ぶ。

「そんなこと言ったって」

「コレじゃ動けねーよ」

ヒップとリングの二人は海苔にぴっちりと包まれて動けない。万事休すか!?


だが、その時だ!


閃光一線!ヒップとリングを包む海苔を切り裂く者あり!

「え?」

「あ、あれ?」

突然の出来事に困惑する二人。


「どうした?君たちの実力はそんなのもではないだろう」

海苔を切り裂いたのは、刀と見まごう巨大な割り箸!そして、それを構える侍魔法少年服の戦士!


「ア、アナタはいったい……」

うろたえるレディ・パンに、侍魔法少年服の戦士は悠然と答える。

「セイントソード、とでも名乗っておこう」

その声は少年か、あるいは少女か、どちらにも聞こえる。目元は前髪で隠れて見えず、淡いブルーを基調とした侍魔法少年服の胸元は、サラシが巻かれている。


「ええい!今更一人増えたところでなにも変わらないわ!やっておしまい!」

「ニギーッ!」

レディ・パンの号令で、おにぎりモンスターから巨大な海苔が放たれる!


「せい!」

セイントソードは難なくそれを真っ二つ!

「なあ、セイントソード!この輪ゴムも切ってくれよ!」

リングが頼む。しかし。


「残念ながら、それは叶わぬ。私の箸は、あくまで食材を切るものだ。聖なる輪ゴムは切れぬ」

「そ、そんなあ……」

しょげるヒップ。

「私が時間を稼ぐ。その間に二人で協力して輪ゴムを外せ」


「「えー!」」

二人は顔を見合わせる。未だに喧嘩のことで、素直になれないのだ。

「フン。おにぎりの具が梅か鮭か。君たちもそんなことで喧嘩をしているのか?」


「な、なにーっ!」

「そんなことって……そんなことじゃないよ!もう!」

二人はソードにブーイングだ。


「君たちがするべきは強力だ。喧嘩ではない。敵を見ろ。数多の具材の調和で強力な美味さを引き出している。それぞれの味を知らなければ、難しいことだ。だが……」

ソードはヒップとリングを見つめる。

「……君たち二人は、お互いをよく知っているはずだ。一膳托生いちぜんたくしょう、二人で一膳の箸ならば、お互いを支え合うことができるはずだ」


「ええい!なにをごちゃごちゃと!こうなったらセイントソードから片付けてあげますわ!行くわよ!」

「ニニニニニ……」

おにぎりモンスターが力を貯める!


「時間を稼ぐとは言ったが、あまり長くは持たなそうだ。急げ!」

それだけを言い残し、ソードはおにぎりモンスターに向かって走り出した!


「ニギーッ!」

おにぎりモンスターの真ん中から、鮭の切り身モンスターが飛び出した!

「シャケーッ!」

一直線にソードに突撃!


一膳一閃いちぜんいっせん……ほぐしばし!」

ソードは大箸を振り抜き、鮭モンスターと交差する!


それは一瞬の出来事だった。

「シャ……?」

鮭モンスターは皮と骨を取り除かれ、鮭フレークとなったのだ!

「バ、バカな!」

「フッ。言ったであろう。私の箸は、食材を切るものだと」

ソードの瞳は上に隠れて見えないが、口はニヤリと笑っている。


「なら、これはどうかしら!」

「コーンブッ!」

おにぎりモンスターの中から次なる具が飛び出す!佃煮昆布が鞭のようにしなり、ソードの大箸に巻き付いた!


「くっ……!」

強靭な弾力で引きちぎれない!

「オホホホホ!いくら切れ味が良くても所詮は箸。巻きつかれたら切れないでしょう?さあ、トドメよ!」

「ニーッ!」

おにぎりモンスターが大きくジャンプ!このままソードは押しつぶされてしまうのか!?


「ギーッ!」

おにぎりモンスターがズドンと着地!

「さあて、これで邪魔者はぺしゃんこに……あら?」

レディ・パンは首を傾げる。立ち上がったおにぎりモンスターの足元には、ソードがいない。それどころか、佃煮昆布鞭が切られているのだ!


「どこを見ている?」

レディ・パンの後ろから声!

「なんですって!?」

「ニギーッ!?」

レディ・パンとおにぎりモンスターが振り返る。そこには、大小二膳の箸を構えたソードの姿が!


「二本目の箸ですって!?」

二膳一流にぜんいちりゅう、とでも名付けておこう」

ソードの左右の手には、大箸と小箸がそれぞれ握られている。二刀流ならぬ二膳流!おにぎりモンスターがジャンプした時、とっさに小箸を抜き、佃煮昆布鞭を切り払い、脱出していたのだ!


「いいわ。こうなったら、私が直接相手をしてあげますわ」

レディ・パンは腰にぶら下がる包丁を取り出す。すると、なんということか。その包丁は巨大化し、大剣と見まごう武器となったのだ!

「いきますわよ!」

「来い!」

二人の激しい打ち合いが始まった!


一方その頃ヒップたちは!

「なあ、その、俺が悪かったよ。ちょっとムキになりすぎたってゆーか」

「ううん。僕の方こそ、ごめん……」

ソードの言葉により、二人はお互いの気持を声に出し、どうにか手を動かして握手を交わした。


「よし!レディ・パンに俺たちのチームワークを見せてやろうぜ!」

「うん!まずは輪ゴムをどうにかしないと……」

ヒップがもぞもぞと動く。


「お、おい!どこ触ってんだよ!」

リングがビクッとしてもがく。

「ご、ごめん。……きゃあ!リングこそ、くすぐったいよ!」

「ええい、少しは我慢してくれ!」

ヒップの脇に挟まった腕を、リングが強引に引き抜く!

「我慢っていってもキャハハハハ!」

「あ、暴れるなよ!」

二人がゴロゴロと転がり、土煙が!


……土煙が晴れると、ヒップとリングが立っている!どうにか輪ゴムを脱出したのだ!

「「はぁ……、はぁ……」」

落ち着いて、乱れた服と呼吸を整える二人。

「よし!……で、どうしよう?」

「俺の輪ゴムじゃあの海苔を貫けない。でも……」

「うん。僕のステッキじゃあ、避けられちゃう」


二人が悩んでいる間にも、レディ・パンとソードの激しい打ち合いは止まらない!

「そおれ!」

レディ・パンの大振りな一撃!

「せいっ!」

ソードはこれを大箸で受け流し、小箸でレディ・パンの腹を狙う!

「おっと!」

レディ・パンはバックステップで回避!二人の勝負はほぼ互角に見えた。しかし……。


「ハァ……ハァ……」

ソードの息が荒い。

「あらあら。小さい体でよく頑張ったわね。でも、そろそろキツくなってきたんじゃないかしら?」

「ハァ……まだだ!」

急げ!ヒップ&リング!


「そうだプリ!二人の力を合わせるプリ!」

ステッキに姿を変えたプリケッツが閃いた!

「いいプリか?ヒップの割り箸ステッキには突き刺す力が、リングの輪ゴムには束ねる力が、それぞれあるプリ。二人のパワーを、ひとつにするプリ!」


「僕達のパワーを……!」

「ひとつに……!」

「「それだ!」」

ヒップとリングは顔を見合わせて頷く!


「俺に合わせてくれ!」

リングが二丁の輪ゴム銃を合体させる!それは変形し、巨大なボウガンになった!

「うん!」

ヒップはステッキを巨大ボウガンにセット!それは変形し、巨大な矢となった!


「狙いはリングに任せるよ!」

「ああ!発射タイミングはヒップが決めてくれ!」

二人は一緒に巨大ボウガンを構え、タイミングを図る。


「……!せいっ!」

二人に気づいたソードが、小箸を投げる!だが、それはレディ・パンの横をあっさりと通過!

「どこを狙って……しまった!」

レディ・パンが気づいた時にはもう遅い。放たれた小箸はおにぎりモンスターの足を切り払う!バランスを崩したおにぎりモンスターは転倒!

「今だ、セイントヒップ!」

「はい!」


「ロックオン!」

リングが照準を固定!

「シュート!」

ヒップが発射トリガーを引く!

「「セイントアロー!!」」

二人の息のあった声で、聖なる矢が打ち出される!イエローの光を纏ったピンクの矢は、おにぎりモンスターのど真ん中に命中!貫く!


「ニ、ニギーッ!?」

おにぎりモンスターの背中から飛び出したピンクの矢は、プリケッツに変身。プリケッツの手には邪悪な割り箸が!


この邪悪な割り箸こそ、悪霊が宿ったモンスターの心臓部であり、これをヒップが聖ケツで折ることにより、モンスターを倒せるのだ!


「セイントヒップ!折るプリーッ!」

そのまま邪悪な割り箸をヒップに投げる!


割り箸をキャッチしたヒップは、ふんどしに割り箸を挟む。スパッツの上に、白いふんどしと割り箸が、聖なる十字を表した!……そして!


「えいっ!」


バキィ!


割り箸が割れた!

「ニ、ニ、ニ……」

おにぎりモンスターが中から光りだす!そして!

「ニギーーーーーーーーー!!!!」

おにぎりモンスターは爆発!キラキラした光の粒子となって空へと登っていった。


海苔に包まれていた人々も自由の身だ。

「今回はここまでにしてあげますわ!それではごきげんよう!」

レディ・パンが突然白い煙に包まれる!小麦粉だ!


「今回も逃げられちゃったね」

「いいじゃねえか!モンスターはやっつけられたんだしな」

「それもそうだね」

ヒップとリングはハイタッチ!


「あ!セイントソードは?」

ヒップが周囲を見渡すと、すでにその姿は無かった。

「なあ、プリケッツ。あいつもお前のパワーを使ってるのか?」


「違うプリ。オイラのパワーは、ヒップとリングの二人だけでもう一杯いっぱいだプリ」

「それじゃあ、プリケッツの他にも、誰かこっちに来てるの?」

「もしかしたら、応援が来たのかもしれないプリ。早くお話したいプリ」


「おい、変身が解ける前に逃げようぜ!」

「うん。そうだね!」

ヒップとリングは大きく助走をつけてジャンプ!家々の屋根を跳び、人気のない場所へと消えていった。


――――――――――


翌日。割下と佐々木は、再び一緒に宿題をやっていた。時刻は正午、丁度お昼の時間だ。

「佐々木くん、そろそろお昼にしない?」

「おう、母ちゃんがおにぎり作っておいてくれたから、食おうぜ」


「おにぎり……」

「あ、心配すんなよ。今日のは特別だぜ?ほら」

佐々木はおにぎりを割下に手渡す。

「大丈夫だよ。俺を信じろ」


「……それじゃあ、いただきます。……ん!」

割下が一口かじって驚いた!

「これ……」

「ああ、梅干しと鮭のおにぎりだよ。母ちゃんに頼んで作ってもらったんだ」


割下はおにぎりを噛みしめる。刻んだ梅干しの酸味と鮭フレークの旨みが合わさり、噛めば噛むほど味わいが混ざり合う。

「美味しいね」

「うんうん、息があった二人みたいだプリ」

いつのまにか、プリケッツもおにぎりを食べていた。


「あ!こら!勝手に食うなよ!」

「いいじゃないかプリ。いっぱいあるんだプリ」

「そうだよ、佐々木くん。それに、みんなで食べたほうが美味しいしね」

怒る佐々木を割下がなだめる。

「まあ、そりゃそうだな。俺も食うぞ!いただきます!」



――――――――――


喧嘩しても二人は仲良しヒップ&リング!セイントアローでモンスターをやっつけろ!ソードの動きも気になるぞ!



ケツ割り箸魔法少女装少年セイントヒップ

第6話:謎の戦士?セイントソード!

おわり

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