第2話:恐怖のピザモンスター!

右膳うぜん美羽みう!ピザが来たわよ!」

今夜は、月に一度のデリバリーの日だ。この日ばかりは家族4人そろって晩御飯というのが、割下わりした家のお決まりなのだ。


「ピザ来たって。行くよ」

「うん!」

姉の美羽に続いて右膳もドタバタと食卓に付く。

「それじゃあ、いただきます」

「「「いただきます」」」

四角い箱が開き、熱々のピザが姿を表した。


「右膳、箸使うでしょ。はい」

「うん」

美羽から渡された割り箸を手に取り、割ろうとして、ハッと気がついた!

(割り箸を追ってオイラを開放したキミは、割り箸を割ることで魔法少女になれるプリ)


「あ!い、いや、いいよ」

「ん?そう?」

美羽は手づかみでピザを食べる。びよーんと伸びるチーズをくるくると指で巻取り器用に食べるのだ。


(あ、危なかった……。割り箸には気をつけないと)

割り箸に封印されていたプリケッツを助けてた右膳は、割り箸を割るとケツ割り箸魔法少女装少年セイントヒップに変身してしまうのだ。


「今日は手で食べたい雰囲気だからさ」

右膳はピザを手づかみする前に、サラミに乗った輪切りのオリーブをどかす。

「右膳って、いっつもそれ食べないよね?怖いって言って」

「だって、なんか目玉みたいで怖いじゃん」


「怖いってフフフ」

美羽が小馬鹿にしたように笑う。

「笑わないでよ!睨まれてるみたいで怖いもんは怖いじゃん!」

右膳はちょっとプリプリした。


「ま、そのうち慣れるさ。男ってのはな、怖いものを乗り越えて大きくなるんだ」

お父さんはそう言うと、右膳がどかしたオリーブをヒョイと摘んで食べた。

「食べてみるとうまいもんだぞ?なんでも挑戦してみるもんだ」


「うーん、また今度にするよ」

右膳もピザを食べる。手づかみに慣れておらず、こぼしたりしてちょっと大変な事になったけど、楽しい夕食の時間は無事に終わった。


――――――――――


翌日の土曜日!右膳は佐々木と一緒にゲームセンターに遊びに来ていた。佐々木が好きなのはガンシューティングゲームだ。

「割下!そっち任せたぞ!」

「うん!」


元気のいい返事の割下だったが、実のところあまり腕は良くない。迫りくるゾンビをどうにか撃ち抜いていくが、じわじわと追い詰められる。大きなボスゾンビも現れた!

「あ、あ、あ……」

割下絶体絶命!だが!その時だ!


「これでも喰らえ!」

佐々木のサポートが入る!次々とザコゾンビを撃ち抜く攻撃は百発百中だ!

「ありがとう!」

「困ったときはお互い様ってな!」

二人はそのままボスゾンビも倒してゲームクリア!


「佐々木くんはなんであんなに上手いの?」

「オマエは雑に狙い過ぎなんだよ。頭を狙えば一発で倒せるってのに、あっちこっち撃ってるから時間がかかって追い詰められちゃうのさ」

佐々木は得意気に語る。


「それに、最後のボスだって、弱点を狙えば動きが止まるんだから狙っていかないとな。どんなやつにも弱点はあるんだ」

「なるほどねえ」

「なあ、腹も減ったし、なんか食ってかねえ?」

「うん、そうだね」


二人はゲームセンターを出て、ブラブラと歩く。

「何食べっかな……ピザは?」

「ピザは昨日食べたばっかりだよ」

「そうか。それじゃあ……」


「キャーッ!オバケーッ!」

遠くから突然の悲鳴!

「オイ!オバケだってよ!見に行こうぜ!」

佐々木はこういうのに目がない。


(プリプリ!悪霊の気配を感じるプリ!)

割下の脳内に直接話しかけてくるのはプリケッツだ!

(う、で、でも……)

(早く行くプリ!セイントヒップに変身だプリ!)


「おい、早く行こうぜ!」

佐々木も急かす!

「あ、あの……。僕、ゲーセンに忘れ物取りに行ってくる!先に行ってて!」

「おう!待ってるぞ!」

佐々木と割下は反対方向に走り出す!


(どうして逃げるプリ!?)

(逃げてるわけじゃないよ。ただ、割り箸を持ってないんだ)

割下は割り箸を割らないと変身できない!だが、いつも手元に割り箸があるとは限らないのだ!


ゲームセンター近くのコンビニに入り、カップラーメンを購入!

「割り箸は……」

「ください!!」

支払いを済ませてコンビニの裏手に移動!人がいないことを確認し、割り箸を割る!


パキン。


『パパラパ~チャララパパラパ~♪パッパラ~パパラパッパッパラ~♪』

変身BGMが鳴り響く!割下の体が宙に浮いて体が光に包まれ、変身バンクだ!


全身が光のシルエットになり、半ズボンがはじけ飛ぶ!そして代わりに黒いスパッツが装着される!


次は上半身のTシャツがはじけ飛び、フリフリの淡いピンク色ドレスみたいな服が装着される!レースの手袋にニーソックス。ちょっとだけヒールが高い靴。髪の毛はリボンで結ばれる。メガネも魔法で形が変わる。


そして最後に、黒いスパッツの上から白いフンドシが装着される!

『パパラパ~パパパッ♪パッパン♪』

BGM終了!変身完了!

「よし!行くぞ!」


――――――――――


「ウワーッ!」「怪物だーっ!」

逃げ惑う人々!暴れているのは巨大なピザモンスターだ!中心角60度の扇形(6分の1サイズのことだよ!)に熱々のチーズがとろけている!


「ピピーッ!」

ピザモンスターから巨大なマッシュルームがピッチングマシンのように射出される!標的は逃げ遅れた子どもだ!

「う、うわーん!!」


その時だ!

「えーい!」

間一髪!間に合ったセイントピップが割り箸型魔法少女ステッキでマッシュルームをホームラン!

「大丈夫?さあ、早く逃げて!」

「ありがとう!おねえちゃん!」


無事に走っていく子どもを見送り、セイントヒップはステッキを構える。

「アイツも割り箸が何処かに刺さってるはずだプリ」

ステッキに姿を変えたプリケッツが再確認だ。悪霊を成仏させるためには、モンスターに刺さった割り箸を引っこ抜き、ケツで折らなければならない。


「うん、割り箸を探さないと……ってうわあ!」

突然怯えるセイントヒップ!

「どうしたプリ!?」

「あ、あれ……」

セイントヒップが指差す先にはピザモンスター。


「ピザがどうしたプリ?嫌いじゃないプリ?」

「そ、そうじゃなくて!あれ!真ん中の!」

「プリ?」

目をそらすセイントヒップの代わりにプリケッツがピザモンスターの真ん中を見る。

そこには大きなサラミが1枚、そして、輪切りにしたオリーブが!


「ピピィー……」

ピザモンスターがセイントヒップを睨む!セイントヒップにとって、もはやオリーブは巨大で邪悪な瞳だ!

「いやーっ!こわい!!」

思わず恐怖でへたり込むセイントヒップ。


「怖がってる場合じゃないプリ!」

「で、でもこっちを見てるよー!」

「こうなったら仕方がないプリ!オイラが指示を出すから、目をつぶって戦うプリ!」


「う、うん。わかったよ」

目を閉じて立ち上がると、改めてステッキを構える。

「さあ、どこからでもかかってこい!」


「ピザーッ!」

ピザモンスターのマッシュルーム射撃!

「ジャンプだプリ!」

「えい!」

プリケッツの声に合わせてジャンプ!そのままピザモンスターを飛び越え後ろに回る!


「ピザーッ!」

ピザモンスターはすかさず振り返って棒サラミでなぎ払い!

「左からくるプリ!」

セイントヒップはステッキでガード!ピザモンスターはさらに棒サラミで連続攻撃!

「上プリ!」

ガード!

「左プリ!」

ガード!

「右プリ!」

ガード!


すべての攻撃を耐えるセイントヒップ!このまま行けるか?そう思ったときだ!

「ピザーッ!」

熱々のチーズが飛び出した!

「正面だプリ!」

ガード!だが、チーズがくっついて離れない!


「ふぬぬぬぬ……」

ふんばるセイントピップ!

「がんばるプリ!負けるなプリ!」

プリケッツ必死の応援!だが!

「ぐぬぬぬぬ……あ!」

セイントヒップの手元を離れるステッキ!


「プ、プリィ~!」

ステッキはそのままチーズに飲み込まれる。ステッキは姿を変えたプリケッツそのものであり、もはや声は聞こえない。

「プリケッツ?プリケッツ!?」


うっすら目を開けるセイントヒップ。目の前には恐ろしく邪悪なオリーブの瞳が!

「う、うわあ!」

思わず大きく後ずさるセイントヒップの右足が、何かを踏む。

「え?」

セイントヒップの足元には、もう一切れのピザモンスター!


「あわわわわ」

慌てて逃げようとしてもすでに遅し。伸びるチーズの罠にハマり、逃げられない!

「ど、どうしよう……」

怯えるセイントヒップに更なる追い打ち!

「「「「ピピー!」」」」


現れたのは更に4切れのピザモンスター!一斉にチーズを伸ばし、セイントヒップの手足を縛る!

「「「「「「ピッピッピ……」」」」」」

6切れ1セットのピザモンスターが不気味に笑う。

「あ、あ、あ……」

セイントヒップ絶体絶命!だが!その時だ!


「これでも喰らえ!」

ピザモンスターのオリーブに輪ゴムが直撃!

「ピィーッ!!」

「佐々木くん!?」


セイントヒップが振り返ると、そこには指輪ゴム鉄砲を構えた佐々木がいた!

「俺だって、キミを助けたいんだ!」

佐々木は更に輪ゴムを発射!

「喰らえ!」


ピザモンスターのオリーブを撃ち抜く輪ゴムは百発百中だ!そして、ついにオリーブがこぼれ落ちた!

「ピィーッ!!」

足元に這いつくばってオリーブを手探りで探すピザモンスター。


「佐々木くん、割り箸を探して!」

「割り箸……あ!セイントヒップ、足元だ!」

「足元?」

セイントヒップが足元を見る。最初に足を取られたピザモンスターに、割り箸が刺さっていたのだ!


「やった!それを折れば……ふん!」

体を捻ってピザチーズを引きちぎろうとするが、程よい弾力で引きちぎれない。かといって、このまま足元の割り箸を拾うことができるかと言えば、それも不可能だ。

「佐々木くん、お願い!その割り箸を、僕のケツとフンドシの間に入れて!」


「え、ええ!?そ、そんな恥ずかしいこと……」

「アイツがオリーブを探しているうちに、早く入れて!僕だって恥ずかしいだから!!」


「わ、わかったよ!」

佐々木はピザモンスターから割り箸を引っこ抜き、セイントヒップのケツに手を伸ばす近づく。

「し……、失礼します!!」

フンドシをちょっと引っ張る。

「ヒャッ!」

「ご、ごめんなさい!」

セイントヒップの声に、思わず佐々木の手が止まる。


「だ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから!」

「お、おう」

フンドシとケツの間に割り箸をはさみ、フンドシを戻す。パンッ!と軽快な音がなり、ケツ割り箸準備完了!……そして!


「えいっ!」


バキィ!


割り箸が割れた!

「ピピピピピピ……」

ピザモンスターが中から光りだす!そして!

「ピザーーーーーーーーッ!!!!!!」

ピザモンスターは爆発!キラキラした光の粒子となって空へと登っていった。


ばらまかれた具材や散らかった町並みも、キラキラした光の粒子で元通りになった。もちろん、セイントヒップのチーズ拘束も解除され、自由の身だ。

「プ、プリ~……」

「プリケッツ!無事だったんだね」


マスコット姿に戻ったプリケッツがセイントヒップと合流だ。

「もうだめかと思ったプリ」

「僕もそう思ったけど、佐々木くんが助けてくれたんだ」


セイントヒップは佐々木の方を振り返る。

「助けてくれて、ありがとう!」

「い、いやあ、それほどでも。ハハハ……」

照れ隠しで笑う佐々木。


「ところで、なんで俺の名前を?」

「あ!」

セイントヒップの目が泳ぐ。

「えーっと、ここに来る途中で、男の子に会ったんだよ。その子が、友達の佐々木を助けてくれって言ってて……」


「そうだったのか。割下のやつ……あれ?そう言えば、どこいったんだ?」

「えーっと、それは分からないんだけど……」

(そろそろ変身が解けるプリよ?)

(えっ!?あわわわわわ!)

変身が解ければ佐々木に正体がバレてしまう。そうなったら大変だ!


「もう行かなきゃ!助けてくれてありがとうね!」

セイントヒップは大ジャンプして建物の上へ!そのままさらに遠くへと跳んでいく。


――――――――――


数分後、佐々木はゲームセンターに戻ってきていた。

「あ、割下!」

「あ、佐々木くん」


「忘れ物は見つかったか?ってかそのカップラーメンは?」

「あー、忘れ物は見つかったんだけど、これは景品で……あ!そっちのオバケはどうだったの?」


「ああ、それがさ!またセイントヒップが来たんだよ!それで……」

と言いかけたところで、セイントヒップのケツ割り箸アシストを思い出し、佐々木の顔が急に赤くなった。

「それで?」

「あー、いや、まあ、その、なんだ。とにかく可愛かったんだよ。今回もさ。ハハハ!」

「ふーん……」


「お、そうだ。せっかくだしコンビニでお湯貰ってカップラーメン食おうぜ。俺も買ってくるからさ」

「うん、そうだね」

「ついでに割り箸も二人分もらってくるけど」

「あー!いや!僕の分はフォークにして!」



――――――――――


ケツ割り箸はこれからも続く!頑張れセイントヒップ!負けるなセイントヒップ!



ケツ割り箸魔法少女装少年セイントヒップ

第2話:恐怖のピザモンスター!

おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る