第3話
「浩太郎、早く学校行かないと遅刻するよ?」
黒髪を後ろで束ねた女がキノヤを叱りつけるように言う。
自分より格上の者などいないと考えているキノヤとしては、叱られるなどプライドが傷つくことだった。それも、
「誰だお前」
見知りもしない誰かに、である。
すると女は
「お?浩太郎も遂に反抗期かぁ!いいわよ、戦う準備はいつでも出来ているのさ!」
などとほざいてる。
キノヤは堪忍袋の緒が脆いのだ。
「お前が誰かは知らないが、死ね。」
警告も何も無しにいきなり殺しにかかるのだ。
その気性と、持っている膨大な魔力故にキノヤは恐れられ、部下を従えてこれたのだ。
「ゴル・ブア」
右手を突き出し、風魔法であるブアの最上級、世界でも使える人はほんの数人というチート魔法をキノヤはいきなりぶっぱなす。
──はずだった。
「なにそれ、あんた一晩で厨二病に目覚めたの?」
女は死ぬどころか、キノヤを見てクスクスと笑っている。
それもそのはず、詠唱したキノヤの右手からはなにもでてこなかったのだ。
「へ?」
思わず素っ頓狂な声がでる。
「ブア、ブアブアブアブアブアブアブアブアブアァァァァ!!!!!」
連呼してみたが、突き出された右手はそのまま、女の目が嘲笑から驚愕、心配へと変わっていくだけである。
「とりあえず……さ、今日休んでいいから病院行こうか」
崩れ落ちるキノヤに女が……
「いやお前誰だよ」
「何言ってんの?あんたの母親は私しかいないでしょ?」
女改め母が言った。
キノヤは病院を知らない。
二面性男子の鏡 山本慎之介 @yamamotochan2
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